志帆には、美穂の魂胆などお見通しだった。「誰か、目星でもついてるの?聞いてあげるわ」美穂の頬が、ぽっと赤らむ。「それがね、サカザキ・モータースの、坂崎譲さん……」「お目が高いじゃない」志帆は感心したように褒めてみせる。「わかったわ。今度セッティングしてあげる」少なくとも、あの遊び人の太一に目をつけたわけじゃないだけマシね。「ありがと、お姉ちゃん! お姉ちゃんも柊也さんと、末永くお幸せにね!」志帆は鏡に映る完璧な自分に満足げな視線を送り、自信に満ちた声で呟いた。「ええ、もちろんよ」……詩織の姿を見た密は、ぎょっとして声を上げた。「し、詩織さん、その格好で……?」「え、何か変?」詩織は自分の服装を見下ろす。いつもと同じ、シンプルなビジネススタイルだ。「だっていくらなんでも今日は『ココロ』の発表会ですよ?てっきり、詩織さんもドレスアップしてくるんだと……」「今日の主役は、智也さんたち開発チームよ。彼らこそが、『ココロ』を生んだ技術者なんだから。私はただの出資者。主役の邪魔をしちゃだめでしょ」その言葉に、理不尽なところは一つもなかった。密は、ぱっと目の前が開けるような感覚に襲われる。――やっぱり詩織さんについてきてよかった!この人の下なら、本物の仕事が学べる!発表会は午前九時からだったが、詩織がホテルに着いたのは七時半。これは、完璧主義者の柊也に長年鍛え上げられた彼女の習慣だった。すべての段取りを事前に確認し、問題が起きないように万全を期す。万が一問題が起きても、すぐに対応できるよう代替案も用意しておく。すべてのチェックを終え、詩織は智也と最終確認を行う。準備は、万端だった。……だが、来ない。記者が、一人も。智也は目に見えて焦っていた。しきりに額の汗を拭っている。密も同じだった。何度も会場の外に出ては、様子を窺ってくる。人は大勢来ている。けれど、その誰もが『飛鳥』の祝賀パーティー会場へと吸い込まれていく。こちらの発表会に足を運ぶ者は、一人もいなかった。かたや『ココロ』の会場は、閑古鳥が鳴いている。かたや『飛鳥』の会場は、人が溢れかえり、ごった返している。その対照的な光景は、あまりにも残酷だった。重苦しい空気が、発表会前の会場に漂う。誰もが黙々と自分の作
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