All Chapters of 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した: Chapter 491 - Chapter 492

492 Chapters

第491話

二人は睦まじく会話を交わしながら車へと乗り込んでいった。志帆は柊也との会話に夢中で、悠人に手を振ることさえ忘れてしまっていた。悠人はその場に立ち尽くし、二人を乗せた高級車が走り去るのを見つめていた。耳に残る甘い会話、目の前で見せつけられた親密な空気。二人の絆は、想像していたよりも遥かに強固だった。取り残された彼の瞳には、暗く澱んだ影が落ちていた。……夜、密から電話があった。「明日の朝食、何がいいですか?」そう聞かれたものの、詩織の頭の中は大学院入試の資料で埋め尽くされており、すぐには答えが浮かばなかった。「……やっぱり、私がメニューリストを作っておきますね。詩織さんは当日、その中から選ぶだけにしましょう」「いいわね。業務効率化、心得てるじゃない」他愛もない雑談を二、三交わしてから通話を切る。それからまたしばらく参考書に目を落とし、ふと時計に目をやると、針はすでに十一時を回っていた。明日も重要な会議がいくつも控えている。そろそろ休まなければ。詩織は机の上の資料を片付け、寝室へ向かおうとした時、バルコニーの窓が開いているのに気づいた。閉めようとして窓辺に立ったその時――階下から微かに着信音のような響きが耳に届いた。ほんの一瞬、それも曖昧な音だったが、詩織の聴覚はそれを確かに捉えていた。窓を閉める手が止まる。詩織はバルコニーから身を乗り出し、眼下を覗き込んだ。そこにあるのは、街灯の光と並木道の樹冠だけ。あたりは静寂に包まれている。まるで幻聴だったかのように。詩織は迷いながらも部屋に戻り、ベッドに身体を沈めた。しかし、寝返りを打っても胸のざわめきは収まらず、結局すぐに起き上がり、上着を羽織って階下へと向かった。夜の通りはひっそりと静まり返り、風ひとつない。暖色系の街灯が、誰もいない道路を空しく照らし出しているだけだ。車もなければ、人影もない。やはり、ただの気のせいだったようだ。きびすを返して戻ろうとしたその時、コンビニで煙草と水を買って戻ってきた湊と鉢合わせた。湊は詩織の姿を認め、驚いたような顔を見せる。「社長、まだ起きていらしたんですか?」「……もう寝るところよ」詩織は彼が手に提げている眠気覚ましの強壮ドリンクに視線を落とし、少し間を置いてから言葉を継いだ。「家の中にい
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第492話

「ああ。新素材のチェックに来てね」柊也の声はどこか掠れており、隠しきれない倦怠感が滲んでいた。すると赤坂が、愛想よく笑いながら解説を始めた。「いやあ、賀来社長の柏木さんへの溺愛ぶりには頭が下がりますよ。ここまでは長旅になりますからね、彼女に負担をかけたくないと、こうして代わりにお見えになったんです。実にお熱いことで」詩織は愛想笑いを浮かべ、軽く受け流した。二人の仲を見せつけるような茶番劇になど、興味のかけらもない。「江崎社長、移動でお疲れでしょう。まずは私のオフィスで一服されますか?」赤坂社長が気遣わしげに提案するが、詩織は首を横に振った。「お気遣いなく。時間は有限ですから、さっそく現場を拝見させてください」「承知しました!ではこちらへ」赤坂社長が先頭に立って歩き出す。そして振り返り、柊也とその秘書である春菜にも声をかけた。「賀来社長たちも、どうぞ」赤坂の工場が製造しているのは、チップ製造において最も核心的であり、かつ高価な部材――シリコンウェハーである。詩織も事前に知識を詰め込んではいたが、あくまで机上の空論に過ぎない。本来なら源治が来るはずだったが、あいにく体調を崩して入院してしまったため、急遽彼女が代理で視察に来ることになったのだ。「初期段階の視察なら、工場が規範通りに稼働しているかを確認するだけで十分だ」と源治は言っていた。具体的な技術面の協議については、後日彼が専門の開発チームを率いて行う手はずになっている。工場内は詩織の予想以上に清潔で、管理が行き届いていた。彼女が率直に称賛の言葉を口にすると、赤坂は苦笑いを浮かべた。「これも全て、賀来社長に鍛え上げられたおかげですよ。当時、なんとしてもエイジアとの契約を取り付けたくて、必死に改善を重ねましたから。ご存じの通り、賀来社長の要求水準はとてつもなく高い。あの頃はプレッシャーで胃に穴が開くかと思いましたよ……まあ、なんとか合格点をいただけて今があるわけですが」その点については、詩織も同意せざるを得ない。柊也の厳格さは、他者だけでなく自分自身にも向けられている。――もっとも、志帆だけが例外だが。自らが歩んできた道の険しさを知っているからこそ、彼女には同じ苦労をさせたくないと思っているのかもしれない。プロダクトマネージャーが新素材のサンプル
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