二人は睦まじく会話を交わしながら車へと乗り込んでいった。志帆は柊也との会話に夢中で、悠人に手を振ることさえ忘れてしまっていた。悠人はその場に立ち尽くし、二人を乗せた高級車が走り去るのを見つめていた。耳に残る甘い会話、目の前で見せつけられた親密な空気。二人の絆は、想像していたよりも遥かに強固だった。取り残された彼の瞳には、暗く澱んだ影が落ちていた。……夜、密から電話があった。「明日の朝食、何がいいですか?」そう聞かれたものの、詩織の頭の中は大学院入試の資料で埋め尽くされており、すぐには答えが浮かばなかった。「……やっぱり、私がメニューリストを作っておきますね。詩織さんは当日、その中から選ぶだけにしましょう」「いいわね。業務効率化、心得てるじゃない」他愛もない雑談を二、三交わしてから通話を切る。それからまたしばらく参考書に目を落とし、ふと時計に目をやると、針はすでに十一時を回っていた。明日も重要な会議がいくつも控えている。そろそろ休まなければ。詩織は机の上の資料を片付け、寝室へ向かおうとした時、バルコニーの窓が開いているのに気づいた。閉めようとして窓辺に立ったその時――階下から微かに着信音のような響きが耳に届いた。ほんの一瞬、それも曖昧な音だったが、詩織の聴覚はそれを確かに捉えていた。窓を閉める手が止まる。詩織はバルコニーから身を乗り出し、眼下を覗き込んだ。そこにあるのは、街灯の光と並木道の樹冠だけ。あたりは静寂に包まれている。まるで幻聴だったかのように。詩織は迷いながらも部屋に戻り、ベッドに身体を沈めた。しかし、寝返りを打っても胸のざわめきは収まらず、結局すぐに起き上がり、上着を羽織って階下へと向かった。夜の通りはひっそりと静まり返り、風ひとつない。暖色系の街灯が、誰もいない道路を空しく照らし出しているだけだ。車もなければ、人影もない。やはり、ただの気のせいだったようだ。きびすを返して戻ろうとしたその時、コンビニで煙草と水を買って戻ってきた湊と鉢合わせた。湊は詩織の姿を認め、驚いたような顔を見せる。「社長、まだ起きていらしたんですか?」「……もう寝るところよ」詩織は彼が手に提げている眠気覚ましの強壮ドリンクに視線を落とし、少し間を置いてから言葉を継いだ。「家の中にい
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