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冷酷夫、離婚宣言で愛を暴走 のすべてのチャプター: チャプター 241 - チャプター 250

286 チャプター

第241話

「紗奈!」私は恥ずかしさと怒りがこみ上げてきて、紗奈をにらんだ。「これ以上デタラメ言ったら、本気で怒るからね!」紗奈はようやく大人しくなり、私の腕に絡みつきながら言った。「ごめんごめん、もういいでしょ?ちょっとスッキリする展開を妄想しただけじゃん!嫌なら次から言わないってば!」そのあと、私たちは店を変えた。昼食を終えると、それぞれ家に帰った。家に着くなり、私はパソコンを開いて、小説の更新に取りかかった。編集からは、作品を上下二部構成にしたらどうかと提案されていて、プロデューサーのほうはまず上巻だけを映像化する予定らしい。上巻の反応がよければ、続けて下巻も準備するとのことだ。ただし、上巻は年内に完結させる必要があり、そうしないと撮影スケジュールに支障が出てしまう。つまり、時間にはかなり余裕がない。少しでも進めるため、私は深夜までパソコンの前に座り続け、その日だけで二万字を書き上げた。物語の多くが自分の実体験をベースにしているせいか、ネタに行き詰まることもほとんどなく、筆は自然と進んだ。編集者も驚いていて、新人とは思えない、とても何冊も書いてきた作家のようだと評されたほどだった。【夜永さん、最近お時間ありますか?この作品は大きな企画なので、撮影前にスポンサー側、プロデューサー、監督と顔合わせをするのが通例なんです】届いたメッセージを見て、断りたい気持ちはあったけれど、私も世間知らずというわけではない。普通の付き合いなら、むやみに断るつもりはない。ただ、以前に投資元が神崎グループ傘下のメディア会社だと聞いていたのを思い出した。そこで私は尋ねた。【スポンサー側として出席されるのは、神崎グループの方ですか?】この小説は、自分の身に起きたことを多少脚色したもので、完全な自伝というわけではない。それでも、知り合いに知られるのは正直気まずい。もし神崎グループ側の出席者が高司だったら……考えただけで、気まずさが倍増する。だから、先に確認しておきたかった。編集者が返信してきた。【少し待ってください、確認します】すぐに、編集者から連絡があり、スポンサー側のトップが直接出席されるとの返事が来た。原作者である私も、できれば参加したほうがいい。大物に会える機会なんて、そうそうないからだという。
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第242話

さらに気まずいことに、私の小説にも弁護士が出てくる。しかし私が書いたあの弁護士は、親友と恋人同士にする予定のキャラで、高司をモデルにしたわけじゃ絶対にない!あれこれ考えすぎて落ち着かないまま、ようやく明後日を迎えた。……この食事会を大事にしているのを示すため、薄くメイクをして、落ち着いた雰囲気のキャメル色のカシミヤコートを選び、きちんと身支度を整えた。桜宮グランドホテルは家からそれなりに距離があり、渋滞を考えると車で一時間以上かかる。五時ごろ、そろそろ家を出ようとしたその時、スマホが突然鳴った。電話に出ると、耳に飛び込んできたのは理沙の声で、正直かなり意外だ。以前、同じ職場にいた頃、共通の敵がいて一時的に同じ側に立ったことはあったけれど、そこまで親しい間柄ではない。今はお互いに退職しているし、まさか彼女から連絡が来るとは思っていなかった。「昭乃、最近どう?このところ、あなたの記事を見かけないけど」私は外に向かいながら答えた。「あなたが辞めてすぐ、私も色々あってクビになったの」理沙は少し間を置き、納得したような口調になる。「また優子絡み?あなたとあなたのお母さんがネットで叩かれてた件、私も見たわ。もう解決した?」思い出すのもつらい過去だったから、話題をずらした。「もう終わったことよ。それで、急に電話してきたのは何かあったの?」「さっき入った情報なんだけど、星野幼稚園で園児の集団食中毒が起きたの」仕事モード全開の理沙は切迫した声だった。「かなり大きなニュースになる。でも、転職したばかりの会社が忙しすぎて、しかも今、臓器売買の事件を追ってて手が回らないの。あなた……代わりに追ってもらえない?」「星野幼稚園」そのワードを聞いた瞬間、私は足を止めた。少し前、時生が心菜の幼稚園を転園させたけれど、確かそこだったはず。この幼稚園は、潮見市で桜井家が運営する名門幼稚園と肩を並べる唯一の存在でもある。私は迷わず答えた。「いいよ。資料送って。今から向かう」……移動中、理沙から星野幼稚園の食中毒に関する資料が送られてきて、私はざっと目を通した。幼稚園に到着すると、門の前には説明を求める保護者と、点滅する無数のメディアのカメラであふれ返っていた。私は元記者だった頃の身分証を見せ、先生や保護者たちの混
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第243話

時生の表情はさらに険しくなり、声も氷みたいに冷たかった。「ほかの人を取材して」その態度に、胸の奥が一気に底まで落ちる。思わず食い下がった。「心菜はどうなの?あの子……症状は?重いの?」時生の薄情な視線には、かけらほどの温度もなく、低く言い放つ。「お前には関係ない」「本当に、私に関係ないの?」胸の内で怒りが渦巻き、思わず口をついて出た。「心菜は、だって私の……」言い終わる前に、健介が割って入った。「奥様、あの……一旦他の方への取材をなさってはいかがですか?時生さん、今かなり機嫌が悪くて、これ以上刺激しないほうが……」そのとき、優子がサングラスとマスク姿で慌ただしく駆け込んできた。私の存在に気づいて一瞬立ち止まったものの、すぐに私を押しのけ、時生の前に出る。「時生、心菜は大丈夫なの?どうしてこんなことに……」そう言った瞬間、声はもう泣きそうで、そのまま時生の胸にすがりついた。時生は彼女を軽く抱き寄せ、やさしく言う。「医者がまだ救急処置している」私の胸も、ぎゅっと締めつけられた。救急処置って……そんな言い方をするということは、やっぱり心菜の中毒は、かなり深刻なの?手のひらを強く握りしめ、悔しさをぶつけた。「時生、あなたが心菜を星野幼稚園に転園させたりしなければ、こんなことにはならなかった!」彼は勢いよく目を上げ、漆黒の目で睨みつけてきた。「よく言えるな。お前と紗奈が、心菜にどんな思惑を抱いてたかなんて、誰にもわからないだろう?」優子は今にも崩れ落ちそうな様子で叫ぶ。「昭乃さん、お願いだから、もう私の心菜を放っておいてください!あの子はもう十分つらい思いをしてるんです。ここに来たのは、まさか不幸を見に来ただけじゃないでしょうね?」その言葉で、時生の私を見る目はいっそう冷え切った。「ボディーガードに追い出されたいのか?」もし本当に追い出されたら、心菜の情報はもう何も得られない。だから私はこれ以上言い争うのをやめ、記者として医者に話を聞くことにした。せめて心菜が無事かどうか、それだけでも知りたかった。取材でわかったのは、子どもたちの中毒の原因が、幼稚園の園長が多額のギャンブルの借金を抱え、公金に手を出したことだった。そのせいであらゆるところで経費が削られ、子どもたちの食事にまで、質の悪い期限
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第244話

時生は二秒ほど私を見つめた。底の見えない視線で、何かを探るような目だった。そしてようやく、淡々と口を開く。「違う」張り詰めていた神経が一気にほどけ、力が抜けてその場に崩れ落ちそうになる。「もう危険な状態は脱している」時生は冷たい声で言い、私を見た。「黒澤グループ社長の娘が食中毒。お前たち、スクープ狙いの記者にとっては、かなりおいしいネタだろ?」まさか、私の行動が彼の目には、話題のためなら何でもする記者と同じに映っていたなんて。しかし、もう説明する気力も残っていない。心菜が無事だと確認した瞬間、急に目の奥が熱くなる。私はうつむき、くぐもった声で言った。「……無事でよかった」そのとき、優子が戻ってきた。「時生、転院の件、手配できたわ。公立病院はどうしても騒がしいし、環境もよくないからね。心菜は、うちの私立病院のほうがいいと思う。静かに休めるし」「わかった」時生は特に反対もせず、あっさり頷いた。転院という言葉を聞いた瞬間、私は黙っていられなくなった。「時生、市立第一病院は潮見市でも小児科トップクラスよ。医者の腕だって最高なんだから。あなた、心菜を転園させて一度は危険な目に遭わせたでしょ?それなのに、また同じことを繰り返すつもり?」時生は一瞬、言葉に詰まったように見え、その目にわずかな迷いがよぎった。すると、優子が口を挟んだ。「昭乃さん。私と時生さんは心菜の親です。彼女に関することを決める権利は、私たちにあります」そう言い終えると、時生はもう私を見ようともせず、優子を連れてそのまま立ち去った。遠ざかっていく二人の背中を見つめながら、私は指先をぎゅっと握りしめる。――私こそが、心菜の母親なのに。時生は、最後まで真実を隠し通すつもりなんだ。私と心菜を完全に離そうとして、代わりに優子みたいな女を心菜の人生に入れ込もうとしてる。こうなったら、早く親子鑑定を取って、心菜の親権を取り戻すしかない。しかし、その全てを手助けしてくれる人物といえば、私の頭に浮かぶのは『高司』だけだ。その名前が脳裏をよぎった瞬間、今夜の会食のことを思い出す。慌ててスマホを取り出すと、もう夜九時を過ぎていた。画面には、何件も未着信が残っている。以前、オーディションのときに連絡先を交換した助監督からだった。心菜
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第245話

翌日、目の下にくまを浮かべながら、私はベッドから起き上がった。スマホはまっさらで、高司からの返信はなかった。……怒ってる?仕方なく、こちらから丁寧にメッセージを送った。【おじさん、本当にすみません。昨日、心菜が幼稚園で食中毒を起こして、あまりに急なことで、心菜のことで頭がいっぱいになり、お約束していた席のことを失念していました。改めて、必ず直接お詫びさせてください】二十分待っても、その謝罪は相変わらず既読にもならない。他のことを考える余裕もなく、私はもう一度、市立第一病院へ向かった。案の定、心菜はすでに転院していた。記者という肩書きがあっても、どこの病院に移ったのかまでは聞き出せない。焦って、黒澤家の別荘へ時生を探しに行こうとした、そのとき、当の本人から電話がかかってきた。「今、時間ある?」低く沈んだ声で、どこか無理をしている感じがする。「何か用?」「心菜が食欲なくてさ。お前の作るケーキが食べたいって言ってる。もし都合がつくなら、作って持ってきてほしい。現金で払う」最後の一言が、胸に小さな棘みたいに刺さった。「お金なんていらない。心菜のために作るわ。住所を送って。できたら私が持って行く」時生は言った。「健介に取りに行かせる」「必要ない。私が届ける」きっぱり言い切る。ケーキは作らせるくせに、心菜には会わせないつもり。よく考えたものだ。結局、心菜に早く食べさせたい一心で、彼は折れた。お昼ごはんに間に合わなくなるのが怖くて、急いで材料を買い、家で手を動かした。午前中のうちに、心菜の好きなうさぎの形のケーキを焼き上げた。ただし今回は小さめに。大病のあとで、甘いものは控えたほうがいい。それに、子ども用の栄養食も一緒に用意した。全部を丁寧に包み、車で時生から送られてきた住所へ向かう。黒澤グループ傘下の小児病院は、確かに公立病院よりずっと静かで、環境も申し分ない。時生は、心菜のために、丸ごと一フロアを空けていたほどだ。私が着いたとき、優子と時生が廊下で何か話していた。私の足音に気づくと、二人は口をつぐむ。優子が前に出て、作り笑いを浮かべた。「昭乃さん、わざわざありがとうございます」そう言って、私の手にある食事とケーキを受け取ろうとする。私はさっと身をかわし、無表情で言った。「心
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第246話

心菜が私の手にあるケーキを見て、目を輝かせた。「わあ、きれい!でも、なんで前より小さいの?」私は心菜の青ざめた顔を見つめ、胸がキュッと痛んだ。そっと心菜のふわふわの髪を撫でながら言った。「心菜、病気が治ったら、大きいのを作ってあげるね。でも今は、このケーキを食べたいなら、まずここにあるご飯を食べないとだめだよ」そう言って、彼女のために作った子ども用の食事を開けた。心菜はケーキに釘付けで、口を尖らせて言う。「でも、ケーキ以外は何も食べたくない」「じゃあ、ちょっとだけ食べてみようか?」私は箸でレンコンの角切りをつまみ、話し続けた。「もし嫌いだったら食べなくていいよ。ちょっとだけ試してみよう」心菜は小さな口を開け、レンコンを口に入れた。レンコンは私の大好きな野菜だ。母娘の心が通じていれば、心菜も気に入ってくれるはずだと思った。私は期待を込めて彼女を見つめた。そして、彼女はその一口を食べたあと、急に食欲が湧いたかのように言った。「ごはん、もう一口ちょうだい」私は思わず口元が緩み、ベッドのそばに座って、ご飯とおかずを交互に口に運んだ。時折、横にいる時生の複雑で深い目がけに視線が向くのが見えた。その時、優子が笑顔で入ってきて言った。「心菜、ママが食べさせてあげるね。いい?おばさん忙しいから、おばさんを帰してあげようね」私の手は一瞬止まり、思わず箸を握りしめた。しかし、心菜は優子の言うことにほとんど従順で、素直に頷いた。「うん、ママが食べさせて。そのほうが美味しいから」胸が無数の針で刺されたように、ずきずき痛む。それでも時生の疑いを招かないように、毎日心菜に会うたび、私は箸を優子に譲った。母娘だという証拠を掴むチャンスさえあれば、このくらいの我慢はなんでもない。優子が心菜に食事をさせていると、時生も心菜のそばに来た。二人が左右から心菜に付き添う中、私だけが完全に部外者のようだった。時生の冷酷さは想像以上で、私を娘の世界から無理やり引き剥がした。もし怪しい点に気づかなければ、一生、自分の子があの冷たい墓の中にいると思い続けていたかもしれない。頭の中でその光景がぐるぐる回り、私はぼんやりしたまま外に出た。その時、背後から心菜の声が聞こえた。「昭乃おばさん、明日も来る?」振り返ると、時生
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第247話

私の話を聞いて、理沙は言った。「このニュースは絶対にあなたに渡すわ。あなたがやったことだし、私が功績を横取りするつもりはないから」彼女はそういう人だ。細かいところにはうるさいけれど、公私のけじめはきちんとしている。私は笑って言った。「わかった、じゃあお任せするよ」「昭乃、あなた……また専業主婦に戻ろうとしてるの?」理沙は心配そうな口調で聞いた。「外の仕事の世界はうまくいかなかったの?だから……諦めて、戻ることにしたの?」私は思わず笑った。「もしそうだとしたら、どう思う?」理沙は少し黙ってから言った。「もしそうなら、私は本当にあなたにがっかりだよ!同じ世界で戦う覚悟があると思ってたのに。まさか、ちょっと外に出ただけで、もう戻るなんてね!」その言葉に私は胸がじんわり温かくなり、説明した。「安心して。私もあなたと同じよ。クズ男のことは見切ったから、二度と戻らない。ただ今は、別の目標に向かって頑張っているところで、結構忙しいの。それで、仕事は一時的に置いてるだけ」「別の目標?」彼女は好奇心いっぱいに聞いた。「ニュース関係?大学時代の成績もすごく良かったのに、ニュースをやらないなんてもったいないよ」私は答えた。「ニュースとは関係ないの。落ち着いたら、また詳しく話すね」理沙はさりげなく提案した。「それなら、私の今の会社に来ない?ちょっと大変だけど、人間関係は前の会社ほど複雑じゃないし。私も戦友として一緒に働きたいなって思ってるの」正直、ニュースの仕事には未練があった。けれど、年内に小説の上巻を書き終えなければならないことを思い出し、私は言った。「それは来年にしよう。でも、もし手伝いが必要なときがあれば、今回みたいに、たまには一緒に戦友になるくらいならいいよ」「昭乃、その言葉を聞いて安心した。きっとこれからも、私たちは共に戦えると信じてる!」理沙の声は闘志に満ちていた。退職してから久しぶりに、私の名前が新たなニュースのトピックに載った。コメント欄の大半は幼稚園の悪質さを批判している中、私に触れているコメントもいくつかあった。【これって、前にいろんなスクープを掘り当ててた記者じゃない?】【そうそう、あの人!前に明彦の論文不正を暴いて、優子と優子の母親に陥れられた人!】【大物を敵に回して干されたんだと思ってたけど、また取
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第248話

高司に直接謝りたくて、私は智樹の言葉に従い、岡本家へ向かうことにした。玄関で靴を履き替え、顔を上げると、リビングのソファに高司が座っているのが目に入った。片手を肘掛けに預け、くつろいだ様子で雑誌を読んでいる。黒いシャツの袖は肘までまくられ、引き締まった腕のラインがはっきり見えていた。私が近づくと、彼はメガネ越しの視線を淡々と私に向ける。温もりは微塵もない。この態度を見ていると、あの日、彼のほうから私に連絡してきて、食事に誘ってきたことが、まるで信じられないような気分になる。高司は話す気配もなく、私は向かいに立ったまま、この妙な沈黙に耐えきれず口を開いた。「おじいちゃんとおばあちゃんは……?」「キッチンにいる」それだけ。相変わらず言葉は少ない。また気まずい沈黙が落ちる。すると彼はソファの端へ少し体をずらし、座れと言わんばかりに合図した。意を決して隣に腰を下ろす。指先が無意識にバッグの持ち手をいじり、ようやく口を開いた。「おじさん、あの日の会食、わざとすっぽかしたわけじゃないんです。娘が幼稚園で食中毒を起こして、それで……」高司はじっと私を見て、低い声で言った。「人生で初めてだよ。約束を破られたのは」「……」頬が熱くなり、指先をきゅっと丸める。小さな声で続けた。「分かっています。おじさんはこのドラマのスポンサーでもあるのに、あんなことをして失礼でした。私……」「スポンサー?」その言葉をなぞるように繰り返し、眉をひそめる。そして体を少しこちらへ寄せ、膝が触れそうな距離まで近づいた。息が詰まり、私は思わず立ち上がる。私の警戒した視線に気づいたのか、高司は表情を変えずに言った。「深く考えなくていい。基本的に、うちの会社が抱えているメディア会社には興味はない。あの日、わざわざ会おうと思ったのは、祖母が君の小説を気に入っていて、続きが知りたかったからだ」半分分かったような、分からないような気持ちでうなずき、恐る恐る聞いた。「じゃあ……あの日のこと……もう怒っていませんか?」「君はどう思う?」高司は冷たく言った。「謝ったくらいで済むと思うか?」そのとき、キッチンにいる冬香から「ご飯よ」と呼ぶ声が聞こえた。彼は立ち上がり、淡々と言った。「ご飯が冷めると、美味しくないからな」彼がダイニングに
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第249話

私は話題を変えて訊ねた。「おばあちゃん、今の体調はどうですか?少しは良くなりましたが?」冬香は胸元を押さえて、数回咳き込みながら言った。「相変わらずね」その様子を見て、高司が言う。「お母さん、部屋まで連れていくよ。少し休もう」「ええ」冬香の顔は青ざめていて、立ち去るときも忘れずに私に声をかけた。「昭乃、あなたたちはそのまま食べてて。私は上で少し横になるから」二人が並んで去っていく背中を見つめながら、智樹の顔には深い悲しみが浮かんでいた私は思わず慰めの言葉をかける。「おじいちゃん、今は医療も進んでますし、おばあちゃん、きっと大丈夫ですよ」「……はあ。見つかったときには、もう末期だったからな……」智樹が何度もため息をつきながら言った。「でも幸い、高司は普段冷たく見えても、心は温かい。この期間、ずっとおばあちゃんのそばにいてくれた。そうじゃなければ、一生の心残りになるだろう」そんな話をしていると、使用人が慌てた様子で入ってきた。「旦那様、時生様が来られました。それに……女性の方を連れていて、どうやら優子さんのようです。二人とも、怒ってるようで……」その言葉が終わる前に、時生が足早に中へ入ってきた。顔色は真っ青で、全身から荒々しい空気がにじみ出ている。その後ろには、化粧の整った優子が続いている。智樹が眉をひそめて言う。「時生、正気か?誰の許可でその人をここへ連れてきたんだ」けれど時生は智樹を一切見ようとせず、氷のように冷たい視線を私に突き刺したままだ。私は訳もわからず彼を見て、聞き返す。「何しに来たの?」次の瞬間、彼は歩み寄り、私の手首を強くつかんだ。骨が砕けそうなほどの力で、噛みしめるように言う。「お前、心菜に何を食べさせた?」胸がぎゅっと締めつけられ、私はすぐに答えた。「いつもと同じごはんだけど。何か問題でも?」時生の瞳には怒りが渦巻いている。「心菜は昼に、お前が届けた食事を食べた。午後からずっと下痢が止まらなくて、今も病院で点滴を受けてる!いったい何を入れた?そんなに心菜を邪魔に思うのか?」「違う!」驚きと焦りで声が震える。「料理は全部ちゃんとしてるし、使った食材も新鮮よ。問題があるわけないでしょ?」隣で優子が口を挟んだ。「昭乃さん、もう認めたほうがいいですよ。料理は検査に回してます。
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第250話

私は警察署に行って、はっきりと話した方がいいと思った。少なくとも、理不尽な濡れ衣を着せられずに済む。けれど智樹は目を吊り上げ、怒鳴りつけた「このろくでなし!警察に通報したのか?昭乃は君の妻だろうが!それなのに、通報だと?」時生が私に向ける視線は氷のように冷たかった。「そうだ。俺の娘を傷つけるやつは、誰であろうと同じ末路だ。昭乃は今すぐ俺と警察署へ行って、警察官の前で全部説明してもらう」そう言うなり、彼は私の腕をつかんで外へ引きずり出そうとした。誰が止めても、まったく聞く耳を持たない。手首が痛くなるほど強く握られ、どうしても振りほどけなかった。そのとき、背後から低く冷えた声が響いた。「待て」時生はぴたりと足を止め、信じられないという顔で振り返った。高司が階段を下り、落ち着いた足取りで私たちの前に立つ。時生は眉をひそめ、鋭く言い放った。「高司さん、今さら祖父の家に来て、訳のわからない『叔父』にでもなったからって、俺のことに口出しできると思うな。これは俺の家の問題だ。他人が首を突っ込む話じゃない」かなりきつい言い方だったので、智樹は高司が怒り出すのではないかと気が気でなく、必死に時生を叱りつけて黙らせようとした。けれど高司は微動だにせず、淡々と告げた。「時生社長。君の奥さんが娘さんを傷つけることはない。なぜなら一週間前、君の奥さんが俺のところに来て、あるお願いをしていたからだ」私は胸がざわつき、思わず顔を上げて高司を見た。――まさかあのことを、時生に話すつもりなの?私の反応を見て、時生がすぐに問い詰める。「はっきり言え。どういうことだ?」高司は口元に薄く笑みを浮かべ、ゆっくりと言葉を重ねた。「君の奥さんは、心菜の身元を調べてほしいと俺に頼んできた。心菜は自分の娘に間違いないと確信していたんだ。だから、親子鑑定をお願いしたわけだ。そこまで信じている人が、自分の子どもを傷つけるなんて、あり得ないだろう?」その一言一言が、時生の表情を少しずつ曇らせていくようだ。高司が話し終える頃には、時生は完全に言葉を失い、握っていた私の手の力もどんどん抜けていった。私はすぐに、その手を振りほどいた。時生はもう私を問い詰めてこなかったが、高司はまだ終わらせる気配がない。「ここまで話が出た以上、はっきり答えろ。心菜は本当に、
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