けれど、いつまでも悲しんでいては、他人に気を遣わせるばかりで、いいことはなにひとつない。悲しんでいれば、慰めてくれる優しい人はいても、現実はなにも変わらず、やがてはそばにいる人まで悲しい顔をする。だから、僕はいつしか平気なフリをするようになった。もう何年も前のことなので、大丈夫です――と、笑顔を見せるようになった。そうすればたいていの場合、相手はホッとした顔をしてくれるはずなのだ。だが、ライルさんの反応は意外なものだった。「へえ。オレも父親がいないんだけど、父親の気持ちを知りたいなんて思ったことは一度もないな」 「え――?」 「うちは母子家庭でさ。父親がいない家庭で育ったから、父さんってどんなもんか、よくわからないんだ」 「お父さん……。亡くなった……んですか?」 「いや、別れたんだって。オレがお腹にいるときだったらしいけど。たぶん、オレができたのが面倒で逃げたんだよ。母は今もそうは言わないけどね」 そう答えると、ライルさんは笑みを浮かべてから、瓶を口につけて、ぐい、と大きく傾けた。ごく、ごく、と喉を鳴らして飲む姿は、最初からいなかった父親のことなど、なんとも思っちゃいないさ――とでも言うようだった。 しかし、父親がいない生活を当然のように過ごしてきても、それが普通ではないことなど、どんな子どもにだってすぐにわかるはずだ。寂しくないはずはなかっただろうに――と彼の幼少期を想像すれば、その先は聞けなくなる。代わりに、僕は自分のことを話すことにした。「僕は――……父と、あまりうまくいってなかったんです」 「ふうん。そうなんだ」 ライルさんは、特に興味がなさそうな口ぶりで相槌を打つ。そのせいか、僕はこれまでになく父のことを話しやすく感じていた。「はい。父はとても厳しい人で、いつも怒っていました。僕には特に厳しくて、あの日も――」 「あの日?」 「ええ、火事になった日です」 あの日――。火事が起こり、なにもかも失った日。忘れもしない、七月一日。その日は僕の十二才の誕生日だった。あの頃、父は仕事が忙しく、夜遅くまで地下の工房に籠るせいで「おやすみ」を言えない夜も珍しくなかった。誕生日の夜も例外ではなく、家族みんなで、夜の七時にリビングに集まって夕食をとると約束していたのに、父は
Terakhir Diperbarui : 2025-09-01 Baca selengkapnya