All Chapters of Memorable ~思い出と嘘の間で始まる愛~: Chapter 21 - Chapter 25

25 Chapters

第二十一話 Side 秋久

Side 秋久目の前で、丁寧な所作でディナーを口に運ぶ古都を見ながら、俺は小さくため息をついた。 シンデレラのようにエスコートされ、ドレスを着て出かけること――それは、きっと古都の憧れだったはずだ。 小さい頃から、おとぎ話が好きで、目を輝かせながら絵本を読んでいたあの古都。けれど今、俺の前に座る彼女は、完璧な距離を保ち表情を崩さない。 古都は俺との立場を誰よりも理解していて、この結婚も、仕事の延長にすぎない――そう考えているのだろう。それも当然だ。 古都の父親は、大友家に仕えることを“生涯の使命”としてきた人間だ。 娘を利用することすら、ためらわないだろう。 俺の両親が持ちかけた政略的な話に、迷いなく頷いたのも、きっと「家のため」だ。古都にしても、本当は父の仕事を手伝いたいわけでもないことも、他のことをしたいこともあるだろう。それでも、父に従ってきたのだ。この結婚も断れなかったはず。この結婚が、俺のビジネスにおいて大きな意味を持っていることは事実だ。 今、俺はヨーロッパを中心に事業を展開しているが、あの国々では“家庭を持たない男”は信用されない。 「家族を守れない人間に、大きな取引は任せられない」 それが、彼らの常識だ。両親からも「そろそろ身を固めろ」と言われ、見合い話も絶えなかった。そんな折、五十代半ばの取引相手――ジョセフ・リードが、ワイングラスを傾けながら言った。「家庭を持たない人間は信用できない」その一言に、俺はつい口を滑らせてしまった。「結婚をするんです」と。隣にいた通訳も秘書も、ぽかんとした顔をしていた。 もちろん、その時点では誰か特定の相手などいない。その時まで、女性との付き合いもビジネスに有利になるからという理由で決めてきた。ゴシップ誌に取り上げられることもあった。 「本当か? 最近雑誌に出ていた、少し派手な彼女か?」最近雑誌に取り上げられたのはリサという女性だ。彼女は典型的なステイタスがいい男性に近づく女性で、俺とも何度か接触をしてきた。しかし、特別な関係ではないし、リサは他の男性たちとも雑誌に出ている。 もちろん、この話をしたら、よろこんで結婚をしてくれそうだが……。 しかし、ジョセフの言葉には、そんなリサと結婚する俺は信用に足りないと聞こえた。 その時、ふと頭に浮
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第二十二話 Side 秋久

そう決めたはずだった。 それなのに、バーに向かうつもりで乗り込んだエレベーターの中で、俺はまた、古都にキスをしてしまっていた。「ごめん」その言葉が、ひどく空虚に響く。 古都が泣いていることに気づいた瞬間、胸の奥がずしりと重くなり、自分がどれほど身勝手で、最低なことをしているのかを、ようやく思い知らされた気がした。そっと指先で古都の涙を拭いながら、ふと、彼女を解放してやるべきなのではないか、そんな考えが頭をよぎる。 古都を苦しめてまで手に入れなければならない仕事に、果たしてどんな意味があるのだろうか。 そこまでして守る価値のあるものなのか――自分でも、答えが出せないまま。そう思った、はずなのに。近づいてくる古都の顔が、なぜかスローモーションのように見えた。 唇が触れても、俺は目を閉じることすらできず、ただその一瞬を受け止めるしかなかった。「……なにをされてるんですか?」低く、冷たい声が背後に響いた。 はっとして扉の外へ視線を向けると、そこにはスーツをきっちり着こなし、書類の入ったタブレットを手にした裕也が立っている。「裕也……ここでなにを?」問いかけると、裕也は淡々とした表情のまま、タブレットを軽く掲げてみせた。「明日の打ち合わせ資料に、少し変更がありまして。確認していただこうと思い、こちらまで来ましたが……」俺の行動をすべて把握していることが、時にはこれほど厄介に感じられるのかと、内心で舌打ちする。 その一方で、さっきまで起きていたことをうまく理解できていなかった俺にとっては、ある意味、救いのタイミングだったのかもしれない。そう思った瞬間、古都がすっと距離を取ったのが、はっきりとわかった。「すみません、私はこれで失礼します」静かにそう告げて、古都は、まだ扉の開いていたエレベーターへと再び乗り込む。「古都、待て。帰るなら――」呼び止めようとした俺の言葉を遮るように、彼女は振り返った。俺は、大友の次期総裁になるために、父の命令に従い、ひたすら仕事だけをしてきた。 けれど、たまに日本へ戻るたび、なぜか気になって、影から様子を見ていた女の子がいる。 それが古都だった。時折目にする彼女は、窮屈な大友家という檻に閉じ込められているように見えて、俺の中には、同情にも似た感情が芽生えていたのだと思う。俺と結婚すれば、そんな古都
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第二十三話

エレベーターの扉が閉まると同時に、私は唇に触れる。あのキスはなんだったのだろう。ただの契約結婚。それなのに、どうしてこんなに心が乱れるのか分からない。秋久が近くにいると、胸がざわめく。優しくされるたびに、切なくなってしまう。それを知られるわけにはいかないのに、最近はその気持ちをうまく抑えられなくなってきている。いつのまにか一階に着いていて、開いたエレベーターのドアに気づき、私は急いでエレベーターから降り、エントランスへと差しかかった、そのときだった。前から歩いてくる人影に、ふと視線を上げる。――リサさん……!思わず足が止まりかける。雑誌で何度も見た顔。秋久の隣で、親しげに笑っていた女性。胸が、ざわりと波打つ。どうして、ここに――。そんなことを私が考えても分かるわけがない。私は知っていても、向こうは知るわけがない。視線を合わせないように、私はわずかに俯き、そのまま通り過ぎようとした。コツコツというヒールの音を立てて私の横を通り過ぎ、私は小さく息を吐いた。「ねえ?」しかし、背後から声をかけられて、心臓が跳ねる。私のことだろうか? そう思うが、見える範囲にいるのは私だけだ。ゆっくりと振り返ると、やはりリサさんは私の方を見据えていた。じっとこちらを見つめるその視線に、逃げ場がない。「あなた……古都さんよね?」まさか私の名前を知っていると思わず、驚いて目を見開いた。三メートルほど離れていた私たちだったが、リサさんはまたヒールの音を立てながら私の方へと歩いてくる。その音がだんだん大きくなる。私とは全く違う、長い手足に華やかな顔が近づいてくる。「あの、どうして私のことを?」それでもなんとかそう聞き返すと、リサさんは微笑を浮かべた。「知らないわけないでしょう? だって秋久は私のものよ?」え?私のもの……? 言われた意味が分からず、私は彼女の瞳から視線を外せなかった。コンタクトなのかは分からないが、ブルーと黒が混じったようなきれいな瞳。「今、秋久が絶対にまとめたい仕事の商談相手が、地味な家庭的な奥様をご所望なの。秋久をサポートして、ただただ秋久に尽くせる女性なら、秋久が仕事に集中できるだろうって」最後は笑みはなく、呆れたような彼女を見ながら、今の言葉を理解しようともう一度繰り返す。秋久のうまくいっていない仕事の相手が、そういう古風
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第二十四話

「どちらまで行かれますか?」 タクシーの運転手に行き先を告げながら、私はふとため息をついた。あのキスはなんだったのだろうか、なんて悩んでいた自分を呪う。もしかして、そんな期待をしてしまった自分は、どれほど愚かなんだろう。今頃、秋久はリサさんと……そこまで思ったところで、胸が締め付けられそうになる。ただの仕事、そう思ってきていたのに、秋久と過ごす時間や触れる手のぬくもりを知ってしまい、自分の中でやはり彼は特別になってしまっていたのだ。だからこんな結婚はするべきじゃなかったのに。いくら父の命令だからと言って、こんなことを……。気付くと涙が零れ落ちていて、自分の愚かさと惨めさで心がすさんでいく気がした。これからどうやって秋久と一緒にいろというのだ。仕事のためだとは理解していたが、現実を突きつけられ、私は感情がぐちゃぐちゃだ。ミラー越しに運転手と目が合い、泣いている私を心配しているような瞳とぶつかった。スマホが震える音がして、画面を確認すると秋久からのメッセージだった。「ちゃんとタクシーに乗ったか? 電車で帰ってないか?」私の行動を気にかけるその言葉に、心が少しだけ温かくなると同時に、胸が締め付けられるように苦しくなる。 これ以上優しくしないでほしい。これ以上、私を惑わせないでほしい。「……大丈夫です。無事にタクシーに乗りました」 簡潔な返事を送った後、画面を閉じる。タクシーが自宅前に着くと、私は料金を支払い、軽く礼をして車を降りた。秋久はいつ帰ってくるのだろう。リサさんと会ったことなどもちろん話せないし、私は普通に振る舞えるのだろうか。そう思いながら、私はさっとお風呂に入り、眠る準備をしてベッドにもぐりこんだ。秋久は今日、帰ってくるのだろうか。出張を除き帰ってきていたが、今はあのホテルにリサさんと一緒にいる。考えたくない想像が頭をめぐり、眠ってしまおうと思ってもなかなか眠れない。諦めてスマホを手にしたとき、メッセージが来ていたことに気づいた。今日はこのホテルに泊まる――。どうして? 今日は帰ってきてほしかった。それが素直な気持ちだった。秋久と会うと、自信満々で美しいリサさんを思い出し、私はその日、朝まで眠れなかった。このまま、秋久と結婚生活を送っていけるのだろうか――。とりあえず、パーティーに出て、秋久の仕事が終わったら、
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第二十五話

「リサ……どうして?」俺の問いに答えたのはリサではなく、書類から視線も上げずに口を開いた山脇だった。「呼びました」「なぜ?!」今ここにリサが来る必要などないし、万が一こんなところをマスコミに撮られでもしたら、どうするつもりなのだ。「私も山脇も同じ気持ちなのよ。秋久にとって最適なことを、山脇はしたいだけでしょう?」クスっと笑うリサは、今日も完璧な服装とメイクで、慣れた手つきでサングラスを外す。「最適なことをしているつもりだ」そう返すと、リサは俺のすぐ横に腰を下ろし、わざとらしく小さくため息をこぼした。「あなたらしくないわね。今まで仕事のため、お父様を見返すためなら何だってしてきたのに」その言葉に、山脇も同意するようにゆっくりと頷く。「軽く見せて、適当にしているように見せて、周りに侮らせるやり方をしてきたのは知ってるけど……結婚までそうすることはないんじゃない?」リサはそう考えているのだろう。大企業の御曹司という立場は、嫌でも親の七光りだのコネだのと言われがちで、それならばそれでいいと割り切ってきたし、愚かな二代目と思われることさえ、相手を見極める材料にしてきた。その結果、ヨーロッパ進出を確実なものにし、相応の人脈と力も手に入れてきたが、その矢先での今回の結婚という選択だ。リサと山脇が言いたいことは、もちろん分かっている。その先は、キスをしていたことを指しているはずだ。山脇には契約だとはっきり言ってあったし、指輪だってあんなきちんとしたものを贈る理由などないと思っているはずだ。俺の心の奥を見透かしているのかもしれない。「冷静になってください。あなたはただの男とは違うんです」その丁寧な言葉遣いの中に、嫌でも自分の立場を思い知らされた気がした。「今度のパーティはあの子を連れて行ってもいい。でも、そのあとは関係は解消してもらうわ」リサは、まるでそれが決定事項だと言わんばかりにそう言った。「秋久、恋だの愛だのに振り回されるのはやめなさいよ」リサは俺の顎に触れると、今にも唇が触れそうな距離まで間を詰めてくる。「やめろ。お前と俺はそんな関係じゃないだろ? それに、愛や恋は必要ないんじゃないのか?」冷たく言うと、リサはキュッと唇を噛んだ。「愛なんかじゃないわ。欲求よ」そう言うと、リサはサングラスをかけて、扉の方へと歩き始めた。「
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