交際三年目、私・黒川美羽(くろかわ みう)は彼氏の白石紘也(しらいし ひろや)の浮気に気づいた。電話口から、甘えたようであどけなさも残る女の声が聞こえた瞬間、分かってしまった。今回の結婚式も、また駄目になるのだと。紘也がまた私に、申し訳なさそうな目を向けてきたのを見て、見慣れた展開が再び始まったのだと悟った。彼は困ったように、それでも揺るぎない口調で、あの言葉を口にした。「ごめん、美羽。杏奈が訓練中に手首をひねった。すぐに見に行かないと」客席にいる、事情を知らない大勢の招待客を見ながら、私は唇の端に苦い笑みを浮かべた。「式はもうすぐ始まるのよ。それでも今、どうしても彼女のところへ行かなきゃいけないの?」けれど私が言い終えるやいなや、紘也は不満そうに眉をひそめた。「手首をひねったって、パイロットには結構まずいんだよ。俺は杏奈の教官なんだから、放っておけないだろ。それに、式なんてまた別の日にできる。こんな時くらい、分かってくれないか?」氷のように冷たくなった紘也の表情を見て、胸の奥が思わず震えた。紘也はもともと口数の少ない人だった。けれど有村杏奈(ありむら あんな)のこととなると、彼は別人のようによく喋った。最初のうち、私はただ教官と訓練生の関係だから、彼女を少し特別に気にかけているだけだと思っていた。でも後になって分かった。それは気遣いではなく、特別扱いだったのだ。今にもこぼれ落ちそうな涙を必死にこらえ、私はほとんど懇願するような小さな声で言った。「でも、これでもう18回目なの。紘也、私、もうこれ以上待てない。本当にお願いだから、式を終わらせてから行ってくれない?」客席の招待客たちは、すでにひそひそと囁き合い始めていた。めでたいはずの日に、どうして花嫁がこんなにも悲しげな顔をしているのか、誰にも分からないのだ。そのざわめきを耳にした紘也の声には、苛立ちがにじんだ。「式なら、また日を改めればいいだろ?これまでだって何度も仕切り直してきたんだ。今回少し延びたくらいで、君の人生が終わるわけじゃないだろ。でも杏奈の手に後遺症でも残ったら、もう飛べなくなるかもしれない。君にその責任が取れるのか?」彼は苛立ちを隠そうともせず、胸元のブートニアを外して足元に落とした。司会者も式場スタッフも言葉を失っていたが
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