華に振られ、自室で呆然としていた侑斗は、居間からの母の夕食の呼びかけに、やっと意識がはっきりした。 階段を降りダイニングに向かうと、上機嫌の母が俺のお土産の明太子を父に見せていた。「これ美味しいわ。 お父さんにも勧めていたところよ。」「…ああ、なら良かった。」「どうしたの? 華ちゃんと何かあった? さっきすごい勢いで帰って行ったわよ。」「別に、何でもない。」 振られたばかりの傷口に触れるようなことを、今はとても二人に言えなかった。「そう、だったらいいんだけれど、華ちゃんに変なことしなかったでしょうね。」「するわけないだろ。」 それどころか、振られてしまったんだ。 彼女ともう話すことも、会うことすらできないかもしれない。 華を失ったことで、これまで抱いていた人生設計が一気に崩れ落ちる。 彼女を失った今、何を支えに生きれば良いんだ? 俺の人生の目標は、彼女を守り、一緒に歩んでいくことだったのに。 項垂れる俺に、何も知らない母は続ける。「そうなら良いけれど。 実はね、侑斗に弁護士婦人会の皆さんから、お見合いの写真が届いているのよ。」「は?」「だってあなたは、お父さんの事務所の後継者よ。 当然、奥さんになる人は婦人会にも入ることになるんだから。」「別に婦人会を否定するつもりはない。 だけど、俺の結婚する人が婦人会に入るかどうかは、本人が決めることだ。」「わかっているわ。 だけど、逆に言えば、婦人会の方でもいいのよね? 一度だけでいいの。 私の顔を立てると思って、紹介したい女性に会ってみてほしいのよ。 それとも付き合っている彼女でもいるの?」「いや、いないけれど。」 今の俺に一番言っちゃいけないことを、母は知らずに平然と言う。「だったら、会うぐらいいいじゃない。」「悪いけど、今はその気になれない。」「何を言ってるの? あなたのその気なんて、いつなるかわからないじゃない。」「本当に無理なんだ。 この話は終わりにしてくれ。 それに会うだけと言ったって、実際にセッティングまでして断ったら迷惑だろ?」「わかっているわ。 でもね、会ってみたら、意外と気があったってこともあるの。」「いや、悪いけど、その人を好きになることはないんだ。」「だとしても、婦人会での私の立場もあるのよ。 ねぇ、あなたをここま
Last Updated : 2025-09-23 Read more