「わたくしの獲物に、手を出すなんていい度胸じゃありませんの!」「まだ誰のものでもないでしょうが! あたしは、正当な取引をしようとしているだけよ!」「まあ、正当ですって? 権力を笠に、品物を奪おうとすることが、いつから“正当な取引”になったのかしら? さすがはシューベルト家ね。新しい商習慣でも、お作りになるおつもり?」「なんですってぇっ!? うぎぎぎ……!!」 さてさてさて、なぜ、わたくしがこんな淑女にあるまじき言い争いをしてるかと言えば。 王都の大通りから一本、路地へと入った、ひっそりとした佇まい。 蔦絡まる鉄門には、看板も出さず。常連の紹介がなければ、入ることすらできない、王都随一と噂される仕立て屋。 ――メゾン・ニクシー。 そこに、まさかまさかの先客がいたからよ! 宰相閣下の愛娘、ツェツィーリア・ファン・シューベルト!「ごきげんよう、ツェツィーリア様。あなたも、夜会のドレスを仕立てにいらして? 奇遇ですわね」「フン。あなたのような無粋な女も、同じ店を使っているかと思うと、虫唾が走るわね」 相変わらずの、棘だらけのご挨拶ね。 でも、今日のわたくしは応戦するつもりは、毛頭ないわ。 なぜなら――トルソーにかけられた一枚布。夕焼け空を織り上げたかのような、鮮烈なる緋色。 東方からようやく届いた、“緋玉の天蚕糸”とも称される『火蚕綿』があるんだからっ! それどころじゃないっ!「待ちなさい! その布は、このあたしが先に目をつけていたものよ!」「むむっ! でも、わたくし、ニクシー夫人から、入荷のご連絡をいただいておりましたけれど?」「嘘よ! あたしだって、半年前から『火蚕綿』が入ったら、誰より一番に見せるように、頼んであったんだから!」 にわかに、火花が散る。 すると奥から、カツ、カツ、と気品あるヒールの音が響いた。「おやめなさいな、お二人とも。ここは、淑女のための夢の城。野蛮な言い争いは、似合いません
Last Updated : 2025-11-24 Read more