All Chapters of ポンコツ悪役令嬢の観察記録 ~腹黒執事は、最高のショーを所望する~: Chapter 61 - Chapter 70

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第61話 腹ペコはドレスコードに勝る

「わたくしの獲物に、手を出すなんていい度胸じゃありませんの!」「まだ誰のものでもないでしょうが! あたしは、正当な取引をしようとしているだけよ!」「まあ、正当ですって? 権力を笠に、品物を奪おうとすることが、いつから“正当な取引”になったのかしら? さすがはシューベルト家ね。新しい商習慣でも、お作りになるおつもり?」「なんですってぇっ!? うぎぎぎ……!!」 さてさてさて、なぜ、わたくしがこんな淑女にあるまじき言い争いをしてるかと言えば。 王都の大通りから一本、路地へと入った、ひっそりとした佇まい。 蔦絡まる鉄門には、看板も出さず。常連の紹介がなければ、入ることすらできない、王都随一と噂される仕立て屋。 ――メゾン・ニクシー。 そこに、まさかまさかの先客がいたからよ! 宰相閣下の愛娘、ツェツィーリア・ファン・シューベルト!「ごきげんよう、ツェツィーリア様。あなたも、夜会のドレスを仕立てにいらして? 奇遇ですわね」「フン。あなたのような無粋な女も、同じ店を使っているかと思うと、虫唾が走るわね」  相変わらずの、棘だらけのご挨拶ね。 でも、今日のわたくしは応戦するつもりは、毛頭ないわ。 なぜなら――トルソーにかけられた一枚布。夕焼け空を織り上げたかのような、鮮烈なる緋色。 東方からようやく届いた、“緋玉の天蚕糸”とも称される『火蚕綿』があるんだからっ! それどころじゃないっ!「待ちなさい! その布は、このあたしが先に目をつけていたものよ!」「むむっ! でも、わたくし、ニクシー夫人から、入荷のご連絡をいただいておりましたけれど?」「嘘よ! あたしだって、半年前から『火蚕綿』が入ったら、誰より一番に見せるように、頼んであったんだから!」 にわかに、火花が散る。 すると奥から、カツ、カツ、と気品あるヒールの音が響いた。「おやめなさいな、お二人とも。ここは、淑女のための夢の城。野蛮な言い争いは、似合いません
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第62話 ここは乙女の同胞団(シスターフッド)

 ただね。この内心がどうであれ、ツェツィーリア様と“お友だち”になれるかと問われれば、話は全く別なのよ。 だって、わたくしたちの間には、まだ深くて暗い、バージル殿下という名の大河が、激しく流れているのだから。「そんな川、いっそ干上がってしまえばいいのに」 結局、お出かけ先で、良さげな殿方が声をかけて来ることもなく。何も解決しないまま、鬱々した気分でアカデミーに登園したの。 そこで、わたくしは一つの“異変”に、気づいた。「ごきげんよう、ベアトリーチェお姉様!」「きゃっ、お姉様ったら、今日も素敵でいらっしゃるわ!」 お姉、様……? 今、わたくしのことを、そう呼びましたの?(どうしてっ!? きゅ、急に気持ちが悪いですわ?!) 未だに、わたくしを“シャーデフロイの魔女”と恐れる人もたくさんいる。 でも、廊下ですれ違う令嬢たち……特に下級生の子らは、扇で口元を隠し、きゃっきゃ、と囁き合う! 今まで避けてきた、宰相派の令嬢たちでさえ、頬を上気させ、熱っぽくこちらを窺う始末。(一体、何がどうなっているのかしら……?) そう思っていた昼休み。中庭で、ついに原因が判明したの!「あ、あの! ベアトリーチェ様!」「えっと……みなさん。ごきげんよう?」 気が付けば、わたくしを囲う数人の令嬢。 なんなのよ、この感じ!? 絶対逃がさないぞ、と言うフォーメーションとかなのっ!?「ベアトリーチェ様、お聞きしました! 私たち、心から応援してます!」「そうなのです!バージル殿下とご婚約が決まって以来、皆様から一方的になじられるのはおかしいと、ずっと思っていたんです!」「なのにバージル殿下ったら! 平民上がりのギャニミード嬢と公然と仲良くなさって! まずは、ベアトリーチェ様を立てるべきですのにっ!」 状況が飲み
last updateLast Updated : 2025-11-25
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第63話 世にも奇妙な殿方カタログ(前半)

 ああ、もう! 分からないことだらけで、頭が爆発しそうだわ!「でも、今はそれどころではありませんわね。……一刻も早く、夜会のパートナーを見つけないと」 そう、とんだ計算違いなのですわ。 あれだけ盛大な啖呵を切ってしまった手前、今さら「やっぱり殿下とご一緒しますわ」なんて、口が裂けても言えない。 その上、生半可な家柄や、器量の人物では、それこそシャーデフロイ家の“格”を、貶めることにもなりかねない。「つまり! 王太子殿下に見劣りせず、かつ、そんな政治的リスクを冒してでも、わたくしの隣に立つ勇気のある殿方なんて、このアカデミー広しといえど――」 思わず、狩人めいた眼で、サロンにいる令息たちを物色。 が、目が合った途端、みんな、サッと顔を逸らす、逸らすっ!「やべっ、また怒られるぞっ! 眼を逸らせっ!」「しかも、今度、目が合えば、バージル殿下と対決させられかねないっ!」「うう、でも、俺はあの時の……エイデンの森での『殻付きチキン!』という、罵倒が、忘れられない! はあはあ……」 一部、どうしようもなく頭がおかしい方の声が、聞こえた気がするけれど。 そんな、命知らずで、酔狂な殿方は。「皆無、ですわよねえええええええっ!」 ああっ。どうして、あんな大見得、切ってしまったのかしら! わたくしのお馬鹿さん!「どうしましょう、ルチア! 夜会の日が迫ってきておりますのに! 肝心のエスコート役が見つかりませんのよ!」「えー、そうなんですか? ビーチェ様、とってもおモテになるのに、意外です!」「……あなた。さりげなく、あだ名で呼んだわね。今?」 放課後、すっかり定位置になったテラス席。テーブルに突っ伏しながら、今や唯一の話し相手となったルチアに愚痴をこぼした。「あのね。わたくしはバージル殿下の、正真正銘の婚約者ですのよ!? しかも、その殿下に、公然と反旗を翻した、お騒がせ令嬢! そん
last updateLast Updated : 2025-11-26
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第64話 世にも奇妙な殿方カタログ(後半)

 期待に胸を膨らませるわたくし。 でも、ルチアは、なぜか困ったような顔をして続けた。「えーとですね。まず、一番上の兄は、とっても物静かで、博識なのですけど」「まあっ、素敵じゃない!」「……不信心で、家業のお酒を造る気も、神事を手伝う気も、これっぽっちもない。一日中、部屋に籠って、難しい本ばかり読んでいる、ちょっとひねくれた|厭世家《えんせいか》の……ジャンジャックお兄ちゃん」「……ん?」「二番目の兄は、とっても明るくて、すごく人気者なのですけど」「うんうん! まさに、そういう方を求めてたわ!」「……働くのが大嫌いで、街の酒場で昼から晩まで、リュートを弾いて歌ってばかりいる、吟遊詩人みたいな……エミールお兄ちゃん、ですね」 わたくしは、あまりのことに絶句してから――。「…………どっちも、ぶっちゃけ嫌ですわ」 なんとか、そう絞り出した。 揃いも揃って、神職家門のご子息として、致命的すぎやしませんこと!?「二人とも根は、すっごく優しいんですよ? わたしがお願いしたら、きっと、ビーチェ様のために、一肌も二肌も脱いでくれるはずですし!」「あのね、脱がなくていいのよ。人は一肌二肌、着たままの方が素敵だと思うわ」 しかも、たぶんシスコンだわ。今のところ、候補者に変人しかいなくない?「でも、エミールお兄ちゃんなら、ビーチェ様もどこかですれ違っているかもしれませんね」「なんでよ」「だって、『化けウサギ事件』について、一番最初に歌い出したのも、うちのお兄ちゃんなんですから。すごいですよね、だから最近忙しそう」「――なんですって?」 聞き捨てならない言葉が、飛び込んできた。「今、なんておっしゃったの? あの、わたくしを題材にした、あの、とんでもなく恥ずかしいバラッドを、最初に歌った?」「はい!
last updateLast Updated : 2025-12-01
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第65話 都合の良い男

「――なっ!?」 ローラント殿は、雷に打たれたかのように、びくりと肩を跳ねさせる。 それを見て、ルチアが「わあ、ローラント様のお顔が、みるみるうちに真っ赤に!」と弾んだ声を上げた。「な、な、な、何を、仰いますか! そのような、大役! こんな、しがない騎士が……」 必死に、ぶんぶんと首を振るローラント殿。「えっ、まさか、わたくしのエスコート役は嫌なの?」「そんな! 滅相もございません! 俺は……じゃなかった。私は、殿下の騎士です! 主君の婚約者である貴女様の隣に、立てようはずがっ!?」「やっぱり、わたくしに魅力がないのね。……結局誰も相手が見つからないし」「何故、そのようなっ?! もし、この身がただの男であったなら、貴女様のような素晴らしい貴婦人のパートナーを務めるのは、身に余る光栄で……無論、夢のようなお話ですがっ?! しかし、忠義が! この騎士道が、それを許しません!」 必死過ぎて、しどろもどろになるローラント殿。瞳が確実に揺らめいている。 え、ときめていてくれてる? わあ、自信が戻って来たわ!「なら、いいじゃないのよ。ねっ、一回だけ! お願い!」「そんなことをすれば、このローラントの名は、殿下とベアトリーチェ様の仲を引き裂いた不忠者として、世に知れ渡ってしまいますっ!」「うーん。どうしても無理? わたくし、本気で困ってるのだけれど」「無理ですっ!」「もし、パートナーを務めてくれたら、夜会の後、バージル殿下と頑張ってお話してみる……とか言っても?」「えっ!? ……うう、それでも、ダメ、です」 すっごく迷ったわね。悔しそうに、唇を噛みしめてるし。 でも、そっかー。わたくし、魅力が不足してるわけではないみたいね。なら。おっけー♪「ダメならいいわ。じゃ、もう行っていいわよ」「……へ?」「わたく
last updateLast Updated : 2025-12-02
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第66話 殴ってください、殿下!

 バージルは羽ペンを、ぽとり、とデスクに落とした。 無理もない。連れ添っている側近が、いきなり「殴れ」と言い出したのだから。「どうしたというのだ、急に。ああ、さては熱でもあるのだな?」「いいえ! 正気です! だからこそ、殴っていただきたいのです!」「いや、だから、理由を言え! 理由を!」「私は騎士として、主君に許されざる“二心”を抱いてしまったのです!」 困惑するバージル。ローラントは苦しげに顔を歪め、血が滲むほど強く拳を握りしめた。「私……私は、先ほど……ベアトリーチェ様に、お会いしてまいりました」「なっ!? なんだと!?」 バージルの顔色が、さっと変わる。 あの女に会いに行っただと? 一体、何のために?「はいっ! 許可もなく、無断でお会いしました! そして、あろうことか、あの方に夜会のエスコート役を、申し込まれたのです!」「なんだとっ!? 貴様、まさか、それを受けたのか!?」 ガタッと椅子を蹴倒し、バージルは立ち上がる。インク瓶が倒れ、書きかけの書類を汚していくのも構わずに。 自分でもわからぬが、なぜか焦ってしまった。「いいえ! お断りしました! 私は殿下の騎士ですから!」「……そうか。なら、いいではないか」 安堵の息を漏らすバージル。しかし、ローラントは、首を激しく横に振った。「いいえ、いけません! 私は……お断りはしましたが、その時、一瞬、ほんの一瞬だけ! 『ああ、もし騎士でなければ、どんなに幸せだったろうか』と、そう思ってしまったのです!!」 悲痛な叫び。 それは、忠義と恋心で引き裂かれた、若き騎士の、魂の告白だった。「主君の婚約者に、あろうことか、恋心を抱き、その手を取りたいと願ってしまった。この不忠! この軟弱な心! どうか、殿下の拳で叩き直してくださいっ!」 目を閉じ、歯を食いしばり、裁きを待つローラント
last updateLast Updated : 2025-12-03
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第67話 あだ名は大渋滞、エスコートは通行止めよ

「――現状は、どう考えても最悪ですわ」 草木も眠る、漆黒の夜。 夜更かしモードで、開かれた緊急作戦会議(という名の、私室での愚痴談議)は、荒れに荒れていた。 そう、壁に貼られた巨大人物相関図に、いくつものメモが追加されてたの。よりによって、わたくしの愛らしい似顔絵の下にね!「見なさい、この、ひどい通り名の数々を!」「おや。むしろ、お嬢様の才覚に相応しい、栄誉ある二つ名ばかりかと存じますが」 傍らに立つ影――イヅルは、優雅に紅茶を淹れながら、どこまでも他人事のように嘯く。「どこがですの! もうどんな殿方も、慄いて遠巻きにするようになりましたのよ! エスコート役なんてもう見つからないわ。寄って来るのは、ミーハーな女の子ばかり!」 わたくしはクッションを抱きしめ、ジタバタと転げ回った。もう髪の毛もわっしゃわしゃよ!! そりゃ前は『シャーデフロイの魔女』やら『触れてはならぬあの人』などと、物騒なだけの二つ名だった。それはそれで気に入らなかったわ。 でも、最近は『未来の大女伯』、『我らが|女丈夫《ヴィラゴ》』と、どんどんエスカレートしていき――。「極めつけは、これよ!」 わたくしは、震える指で、一番新しいメモを指差した。「『|燃える薔薇《フォイヤローゼ》』……ですって!?」 歩く氷点下、笑わずのバージル殿下すら御しきれぬ、一輪の深紅の薔薇。その鋭き棘は、手折らんとする無礼者を串刺しに――するとか、しないとか!?「串刺しなんてしないわよっ! 誰よ! そんな大仰で、血なまぐさいフレーズ考えたの!」「フフフ、誰なのでしょうね。大方、詩学に長けた、想像力豊かな学生でしょうが。……これで魔女などと無粋に呼ばれることもありますまい」「どう己に言い聞かせようとしても、無理ったら無理っ! 羞恥心がぞわぞわと、背筋を這い上がってくるの! もう、あだ名が大渋滞しているのよ、わたくし!」 顔から火が出そうだわ! 穴があったら入りたい、いいえ、なんなら掘ってでも入りたい!
last updateLast Updated : 2025-12-04
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第68話 泥船発進っ、ニセ恋禁断ロマンティカ

 まあ、つまるところ。  誰かの心を操ろうなんて、「お天気雨を止ませて、風向きを変えよう!」なんてくらい、無謀でままならないのだわ。  作戦を為したからと、考えた通りの反応が返って来るかなんて、誰にもわからないのね。「人の心って、本当にままならないものねえ……」 「おや。今夜のお嬢様は、随分と哲学的な響きをお持ちで」 「悩みは、女をより豊かに。そして、時に哲学者にするのよ。……ええ、実にアンニュイだわ」 それっぽく窓の外の月を見上げ、儚げにため息をついてみた。憂いのポーズ。  すると、イヅルはうんうんと頷く。「左様ですね。啓蒙主義者は、理屈の泥船を作って、嬉々として溺れたがるものですが。ロマン主義者もまた、ふわふわと好き好んでメランコリックになりたがる生き物。実に、見ていて飽きません」 「ねえ。やっぱり、わたくしを遠巻きにバカにしてるでしょ?」 小難しい言い回しをしても、無駄よ。人間はバカにされてるかは肌でわかるのよ?「バカになどしておりませんよ。つまるところ、“可愛い”とは、理屈を超え、その方が何をしていても見ていたくなる。そんな感情を指すのだと思います」 「え、う……。そう? わたくし、可愛い?」 「はい、とても。矛盾だらけで、支離滅裂に騒ぎ立てるところが」 「結局、褒めてないわよね?!」 でも、憎まれ口にしか聞こえないのに、イヅルが妙に機嫌良さそうに目を細めるものだから、毒気が抜かれてしまう。  なんなの、この執事っ! 調子が狂うわ!  うう、怯んでる場合じゃない。わたくしは最後のクッキーを口に放り込み、気持ちを無理やり切り替える。バンッとテーブルを叩いた。「だからね。今までの、相手の反応を期待する作戦は、不確定要素が多すぎたのよ! こうなったら、わたくし自身が能動的に身を汚すっ! これが一番確実なのっ!」 「はあ、身を汚す? まったく穏やかではありませんね、どのようなお考えで?」 「ふふん、プライベートな醜聞を狙います。今まで、淑女教育が身に染みてたのが仇になったわ。でも、これからは爛れ乱れる不良娘としての座を狙い
last updateLast Updated : 2025-12-05
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第69話 浮気は一人じゃできないものね(前半)

「なんですって!? ツェツィーリア様のお兄様!? ――しょ、正気ですの?」「危険はありますとも。だからこそ、面白い……ゴホン、効果的なのでは?」 イヅルは、わざとらしく咳払い。面白いって言ったわね?「敵対派閥の御曹司ですよ、禁断の恋です。実にドラマチックではありませんか」「むむむ。……確かに、それは一理あるような」「ヒュプシュ卿は、浮き名を流す美男子。野心家でもある。あえて隙を見せれば、食いついてくるでしょう」 わたくしの心は、ぐらぐら揺れる。 確かに、これ以上ないくらい許されざる相手。バージル殿下も、きっとブチ切れ確実。 ただ、ツェツィーリア様の御身内を、誘惑するなんて……さすがに嫌われるどころか、軽蔑されちゃわないかしら?「うー。でも、どっちにもしても、お友だちにはなれないわけだし……」「……ものは考えようですが」「ん?」「バージル殿下と婚約破棄が成立したほうが、ご友人関係も成立しやすいのでは?」「確かに! わたくしがダメになれば、次はツェツィーリア様にお話が行くかもだし! ……って、べ、別にツェツィーリア様と、お友だちになりたいなんて言ってないのだわ!」「はいはい、そういうことにしておきましょうね」 イヅルは、駄々をこねる子供をあやすように、軽く肩をすくめてみせた。 どこまでも余裕たっぷりの態度。レンズ越しに、瞳がすうっと細められる。むー! なによ、その態度!「いいわよ! 他に候補もいないんだし、やってやろうじゃないのよ!」 わたくし、思い切りがいいのが取り柄なのよ。臆して、手に入る明日なんてない!「ヒュプシュ卿を、わたくしの“運命の相手(偽)”に認定! 見事、バージル殿下に愛想を尽かされてやるわ!」 ツェツィーリア様のことは……怒られたら、美味しいお菓子を持って平謝
last updateLast Updated : 2025-12-06
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第70話 浮気は一人じゃできないものね(後半)

 でも、普通にお手紙を出したり、お誘いを掛けても、罠だと警戒されて終わり。 いえ、警戒されるのはまだいいけれど、一番ダメなのは――相手が乗ってこないこと。「だから、こうするのですわ!」 自信満々に差し出したのは、二種類の文書。 一つは何の変哲もない、役人に宛てた事務的な手紙と、シャーデフロイ家の紋章が入った封筒。 そして、もうひとつは――。『ああ、この許されざる恋。なんと麗しき――わが愛、ヒュプシュ卿』 乱暴に破り捨てられた、一枚の紙切れ。 震えた文字で綴られるのは、ありもしないニセ恋物語の断片。「いいですこと、イヅル。あなたはこれを、どこか宮廷の廊下辺りで“偶然”拾わせたらいいわ」 それくらいできるでしょ、と促せば、イヅルは「御意に」と頷く。「ですが、このもう片方。封筒と公文書はどうなさるので?」「だから、そのなかに忍ばせておくのよ。シャーデフロイ家の書簡に見せかけてね。でも、封は甘くしておいてね。……そしたら、きっと彼は見たくなるはずだから」 ヒュプシュ卿は、たまたま落ちてたライバルの書簡を発見し、盗み見る。 でも、中身は大した情報もない、つまらない公文書。 ――でも、そこから、ひらりと舞い落ちる、もう一枚の切れ端。「これは一見、乱暴に破り捨てられた……お嬢様の“日記の切れ端”に見えますね」「そうね。その破れ目……怒り狂った誰かが、力任せに引き裂いたように、見えないかしら?」 涙が滲んで、インクが滲んだ日記は、許されない恋に苦しむ悲恋の証拠。 震える筆跡は、息詰まる心の苦しみの表れ。 これを見れば、野心家のヒュプシュ卿の脳内で、勝手にこんなストーリーが出来上がるはずよ。「わたくしがバージル殿下と揉めた後……お父様に、日記の内容がバレて破り捨てられた、とかね。『シューベルト家の嫡男に恋だと!? シャーデフロイの
last updateLast Updated : 2025-12-07
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