All Chapters of ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています: Chapter 61 - Chapter 70

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61

 胸の奥をくすぐるような幸福感が、ゆっくりと広がっていった。立派な人間になりたいというような思いを抱えていると、一成が美桜の頬に触れた。「また考えごと?」「えっ……わかるの?」「わかるよ。君の表情は、全部読める」 美桜の頬がまた熱くなる。一成はくすっと笑って、美桜をそっとソファへ座らせた。海外から仕入れた高級品だ。調度品なども含め、富裕層向きにも浅野商会は商売を行っている。 そんなソファーに妻を座らせ、自分も隣に腰かけ、肩を寄せた。「でもね、美桜」 一成が指先で髪を耳にかけてくる。その仕草がとても優しくて、胸が甘くしびれていく。「立派な淑女にならないと愛されないなんて思わないでほしい」「……」 彼はどうして胸の内をすぐに読み当ててしまうのだろうか。「僕はもう、とっくに美桜を好きになってるから。君に助けてもらった、あの、幼いころからずっとだよ」「……っ」 シンプルなのに、逃げ場のない言葉だった。美桜が俯くと、一成がそっと顎を持ち上げる。「こっち向いて」 言われるがままに顔を向けると、一成が微笑んだ。「君は十分すぎるほど魅力的。自分の魅力をまるでわかっていないんだ。写真館でどんな噂になっていると思っているの? あんな結婚式がしたい、ドレスが着たいって、町中の女性が君のとりこになっている。写真館もひっきりなしに問い合わせがあるし、式場も君の着たドレスが飛ぶように売れているんだ。そんな君が母親になって、少し弱くて不安で……でも必死で頑張ってる。その全部が、僕にとっては愛しい」「もう……泣いちゃう……」「泣いていいよ。僕の前なら、いくらでも」 ぽたり、と涙がこぼれる前に、一成がそっと唇を重ねた。さっきよりも長く、深く。 優しいキスだった。 触れ合うだけじゃなく、心まで寄り添うようなあたたかいキス。「……一成くん」「ん?」「ありがとう。でも、あなたが立派だから……ちゃんと、あなたの支えになりたいの。胸を張ってあなたの隣にいたい」「じゃあ、今みたいに甘えてくれたら十分。もっと僕を頼って」 ほっと緩んだ美桜の身体を、一成がそっと抱き寄せた。 肩に額が触れ、静かな夜気に二人の呼吸だけが混ざる。 やがて、奥の部屋からふにゃ、と咲真が小さく寝返りした声が聞こえてくる。「あ、起きちゃったかな?」「大丈夫。僕たちの邪魔をする野暮な
last updateLast Updated : 2025-11-26
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「子どもが……っ……咲良と咲真が……いないの……っ……!! お願い洋子さん……助けて……! 探して……!!」 泣き叫ぶ美桜の姿を見た瞬間、洋子の顔色がさっと青ざめた。「そ、そんな……まさか……!」 美桜は毛布を握りしめたまま、息が乱れてうまく言葉にならない。  喉が裂けるほど叫んだせいで、声は掠れ、涙で頬は濡れ続けている。「美桜様、どうか……落ち着いてくださいませ! すぐ皆を集めます!」 洋子はそう叫ぶや否や、部屋を飛び出していった。  次の瞬間、屋敷中に緊迫した声が響き渡る。「誰か来てください! 赤子がいません! 急いで探して!!」 使用人たちの慌ただしい足音が廊下を駆け抜け、門番のいる玄関へと殺到する。  だが――美桜の耳には何も入らなかった。  ただ、揺り籠の空白だけが残像のように脳裏を焼き続けていた。(私のせい……私が……眠ってしまったから……あの人たちを家に入れた私が……浅はかだった。子供たちを守れなかった……) 体が冷え、手足の震えが止まらない。だが、嘆き悲しんでいる場合ではない。  なんとしても子供たちを取り返さなければ!! どうすればいいかを考えようとしたところ、別の使用人が駆け込んでくる。「奥様! 門番に聞きましたが……先ほど、馬車が一台、急いで出て行ったとのことです! 恐らく、先ほどの外商の方のものでしょう」「出て行ったのですね。どちらの方角へ行ったか、わかりますか?」 美桜の顔がゆっくりと上がる。「は、はい……北の方へ向かったとの証言です」「そう。すぐ追いかけましょう」 「はいっ! ただちに!」 洋子は走り去る。  美桜はまだふらつく体に鞭打って歩いた。(ふたりとも、怖かったよね。お母さんがついていなきゃいけなかったのに……!!) 悔しさに震え、胸が張り裂けそうになる。そこへ、別の使用人が慌てて戻ってきた。「奥様ぁ! 旦那様へ至急の連絡を入れました! すぐに戻られると……!」「一成くんが戻ってくれるの……?」「はい! 馬車の特徴などをすぐに伝達し、帝都を封鎖したようです。すぐに動いて下さいました!」 帝都を封鎖――なるほど。それなら犯人は外に出ることはできない。  さすが一成だ。機転が利く。  財力があるからこそ、できる荒業。彼に任せていれば恐らく、草の根一本でもかき分け、子供
last updateLast Updated : 2025-11-29
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 脳裏に浮かぶ顔は、ひとりしかいなかった。 浅野薫子。(北には……桐島京の屋敷がある……美麗な女性で海外の人間と交流があって動かせる人物は、薫子さんしかいない!!) 背中がざわりと震えた。 そのときだった。  玄関が騒がしくなり、美桜のいる部屋の扉が勢いよく開かれた。 「美桜!!」  一成が息を切らし、旅装のまま飛び込んできた。顔は怒りで蒼白になっていて、今にも壁を殴りつけそうなほどだった。「大丈夫か!? 怪我はないか」「一成くんごめんなさい……! 私が不甲斐ないばかりに……子供たちが連れ去られてしまったの! 咲良も咲真も………!」 一成は力強く美桜を抱きしめた。美桜は簡潔に一部始終を彼に説明した。「すぐ探す。必ずだ。帝都はすでに封鎖した。港も馬車道も、全て止めてある。犯人が見つかるのは時間の問題だ。逃げられない」 その声は怒りで震えていた。  だが美桜は首を振り、夫の手を強く握った。「一成くん……わたし、わかったの。犯人が……」 一成の目がすっと細まる。「誰だ?」 美桜は唇を噛みしめ、強い声で言った。「――薫子さんよ」 一成の空気が、凍りつく。「姉さんが……? まさか」「まさかじゃないと思う」「根拠は?」「馬車が向かった方角は北。その先にあるのは、桐島京の屋敷よ。薫子さんなら、あんな手の込んだことを躊躇わないわ。海外の業者にも通じているだろうし、なにせよ妻だっていう女性が顔を覆って見えなくしていたの」 言い切る彼女の瞳には、燃えるような強さが宿っていた。  その表情を見て、一成はぎゅっと美桜の肩を掴む。「美桜……君、本当に強くなったね」「強くならなきゃ……! 私は母親よ。咲良も咲真も……絶対に取り返す! こんなことをした犯人が薫子さんだというなら、絶対にゆるさない」 一成はその姿を見て、一瞬だけ息を飲んだ。(まるで、真の淑女のようだ。母になって美桜は強くなった)「わかった。すぐに向かう。だが、美桜……君はここで待って……」「いいえ。わたしが行くわ」 一成は目を見開く。「危険だ」「それでも行くの! あの子たちが待っているのよ。私のせいであの子たちは怖い目に遭っているわ。この手で抱いて、この手で守るって決めたの! 絶対に取り返す!!」 一成はしばし黙ったが、美桜の瞳の強さに降参した。 ふっと息
last updateLast Updated : 2025-11-30
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 北へ向かう街道はいつもより暗く見えた。  馬車は砂利を跳ね飛ばしながら疾走し、美桜は揺れる座席で何度も手を握りしめた。「早瀬、急げ。馬車が壊れても構わない。行けるところまで飛ばせ!」「承知しました、旦那様!」 御者台の早瀬が全力で鞭を鳴らす。 美桜の胸は張り裂けそうで、ただひとつの祈りだけが頭の中を占めていた。(どうか……どうか間に合って、無事でいて! 咲良、咲真……!)「美桜」 一成がそっと、彼女の震える手を包む。美桜は一成の手を握り返した。「ごめんなさい……本当に……私が……もっとしっかりしていれば……あの子たちが連れていかれることはなかったのに!!」「違う」 一成の声は低く、強かった。「悪いのは犯人だ。美桜じゃない。子供を奪うなんて……許されることじゃないし、美桜は僕のために客人の対応をきちんとしてくれただけだ。責めてはいけない。あの子たちは必ず……絶対に取り返す!!」「ええ!」 力強く頷いた。  もしこれで薫子の下に子供たちがいたらどうするだろうか。  また、子供たちにもしものことがあったら……? その時は、この命尽きても子供たちの仇をとる!! 馬車は桐島邸目指して一直線に駆けていった。  一方、桐島邸の奥、薄暗い女客間では、美桜の予想通り奪って連れ帰った子供たちが簡易の木箱に敷き詰めた敷布の上に眠らされていた。まだ寝ているので泣いてはいない。「……ふふ……可愛い子たちね」 浅野薫子が、赤ん坊を覗き込みながら微笑んでいた。  その顔は狂気と愛情が混ざり合い、異様なまでに歪んでいる。「京様……これでやっと……私たちに悪い夢を見せた存在は消えるんですわ……!」 薫子は狂おしいほど嬉しそうに京を見上げる。 だが京は、蒼白になって震えていた。「お、おい薫子……これ……本当にやばいぞ……! 浅野家から子を攫うなんて……殺されるぞ、俺たち……!」「黙って!!」 薫子が扇子で机を叩く。「京様はわたくしだけを見ていればいいの! この子は一成の子でもないのよ。あの女が無理やり京様と契り、できた子なのだとしたら、こちらにもこの子を奪う権利がありますわ!」「だが……!」「大丈夫。海外商人に扮した手下が助けてくれますわ。今から密かに馬車を移動させ、帝都の外へ売ってしまうこともできるのです。京様が不要というのであれば、そ
last updateLast Updated : 2025-12-01
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