田畑家が破産したあの日、田畑陸斗(たはた りくと)は遺書を残し、一人雪山へと姿を消した。自死を選んだのだ。私は必死に、陸斗を追って雪の中を十時間も探し回った。心が折れそうになったその時、陸斗の秘書がSNSで陸斗のプロポーズを生配信しているのを目にしたのだ。彼の友人たちがコメント欄でからかっていた。【もうすぐ花婿になるんだろ?花嫁さんが怒るんじゃないか?】彼の返信は、凍てつくほど冷たかった。【彼女には田畑夫人の座を約束しただけだ。それ以上は、夢にも思わないでくれ】【200億もの資金を投じて嫁いできたのに、こんな仕打ちに甘んじるのか?】スマホの向こうで、嘲笑う陸斗が文字を打ち込む姿が目に浮かんだようだ。【200億の資金で田畑夫人の座を手に入れるなら、彼女も損はないだろう】【彼女がいなければ、陽菜を海外に追いやることもなかった。この数日は、陽菜への償いだ】私の指先は画面を滑り、拡大された小野陽菜(おの ひなた)が身につける、ダイヤが散りばめられたウェディングドレスが目に飛び込んできた。見慣れたデザインとスタイルは、陸斗が数えきれない夜、書斎でデザインに没頭していた頃の彼の背中を思い出させた。十八歳の陸斗は、固く誓っていた。「必ず、愛する人に俺がデザインしたウェディングドレスを着せる!」と。私と陸斗は二十年以上の幼馴染だ。子供の頃のおままごとでは、いつも私の手を引いて言ったものだ。「悠里、君は僕のたった一人の妻だ。世界で一番美味しいもの、楽しいもの、綺麗なものを全部君にあげる。誰が君をいじめたら、僕が追い払ってやるよ!」本来なら花嫁姿の人は私のはずなのに。それなのに、彼がデザインしたウェディングドレスを、別の女性が雪山で、愛おしそうに着てウェディングフォトを撮っている。疲れ果てて家に帰ると、陸斗の腕の中で陽菜が泣いているのが見えた。「田畑家のために彼女と結婚するって分かってる。だから、結婚したら私、自分から出ていくから!」陸斗は陽菜の目尻の涙を拭った。「誰も君を追い出したりしない。彼女がどんなに苦労して嫁いできても、名ばかりの田畑夫人にしかなれないんだ」陽菜は甘えるように陸斗の腰に腕を回した。「この前、陸斗さんが自殺を装って、すぐに200億の資金援助を引き出したって聞いたわ。しかも、彼女は七
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