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第6話
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あなたと私、ここで決別しよう 第7話
結婚式場と陸斗が予約した会場は、一本の道を挟んだだけの距離だった。けれど、そこは私が一番好きなガーデンウェディングの会場だった。全てのメディアは門前で止められ、参列者は私の家族と友人だけ。父は私の手を握り、涙を流しながら言った。「やはり、俺の娘は一番の男に相応しい！田畑家の奴は見る目がなく、俺の可愛い娘をどれだけ苦しめたことか！お前のことを思わなければ、田畑家を破産させていたところだぞ！」母は早くに亡くなり、父は私を慰めるために、ほとんど全ての愛情を注いでくれた。もしあの時、私が陸斗に嫁ぐと頑なに言い張らなければ、おそらく淺川グループが田畑家と提携することもなかっただろう。今、颯は式場の中央に立ち、その瞳は私でいっぱいだった。私はブーケを抱え、バラが敷き詰められたレッドカーペットを歩き出そうとしたその時、突然手首を掴まれた。「悠里、頼む、あいつと結婚しないでくれ」振り返ると、卑屈に懇願する瞳と目が合った。「あいつだった！上杉颯が陽菜を俺の元に送り込んだんだ。俺たちを仲違いさせるために！どうしてそんな悪意に満ちた男と結婚できるんだ？！」だが、私はひどく冷静だった。「とっくに知っていたわ」陸斗の表情が、少しずつ凍りついていく。「小野さんが現れたばかりの頃、私は彼女のことを調べたわ。その経歴は簡単に調べられた。ただ、あなたが小野さんの容姿に溺れて、人を遣って少し調べることすら惜しんだだけよ」陸斗は歯を食いしばり、颯を見るその目には憎悪が満ちていた。「悠里、俺は君を娶ると誓ったんだ。十八歳の誓いを忘れたのか？まさか、俺たちの二十年間の愛情が、突然現れた部外者にも劣るというのか？」私は静かに、彼の一本一本の指を剥がしていった。「陸斗」「認めてちょうだい。あなたは、実は私をそれほど愛していなかったってことを」彼はその場にへたり込んだ。しばらくして、私がレッドカーペットを歩き出そうと振り返ると、彼が突然口を開いた。「悠里、幼馴染として長年、俺は君の兄のようなものだったじゃない？せめて、エスコート役させてくれ」それが、陸斗の最後の懇願だった。私は陸斗の隣で、母が亡くなった年、葬儀で誰も見ていない隙に母の棺の前に駆け寄ったことをぼんやりと思い出した。棺は大きくて高く、もう一度母
あなたと私、ここで決別しよう 第6話
「悠里はどこだ？また怒らせて追い出したのか？！」陸斗は魂が抜けたように、うなだれて呟いた。「悠里は、もう俺とは結婚しない」陽菜は恐る恐る彼のそばに歩み寄り、無理に笑顔を作った。「大丈夫よ、陸斗さん。淺川グループが出資してくれなくても、きっと他の誰かがしてくれるはずだわ。この結婚式だって、きっと他の誰かが喜んであなたに嫁いでくれるはずよ......」彼女の目に宿る期待を陸斗の父は全て見抜き、彼女の髪を掴んで怒鳴りつけた。「この泥棒猫！お前が悠里を怒らせて追い出したんだな！あの時、もっと早くお前を追い出すべきだった――淺川グループですら出資をためらうような話に、A市全体で一体誰が泥沼に入るというのか！」普段は陽菜が傷つくのを嫌がり、彼女の涙を見ると放っておけなかった陸斗が、今回は微動だにせず、ただ呆然と目の前の光景を見つめていた。この瞬間まで、彼は本当に気づいていなかったのだ。彼が悠里を失ってしまったことに。陽菜は甲高い声で泣き叫んだ。「田畑社長！陸さん、痛い！」陸斗はたちまちその場で硬直した。以前、情熱が深まる時、陽菜はこの悠里に少し似た顔で、若い頃の悠里を真似て彼を「陸さん」と呼んだ。すると彼は抑えきれずに完全に溺れていったものだ。彼は猛然と駆け寄り、陽菜の頬を思い切り叩いた。「誰がそんな風に呼んでいいと言った！」彼女が反応する間もなく、彼の視線は陽菜の手首の腕輪に落ちた。そして、彼女の泣き叫びも構わず、力ずくで腕輪を外した。陽菜は目を真っ赤にして泣き、信じられないという顔で彼を見た。「あなたは一生私を守ると言ったじゃない！」だが今、どんなに泣き叫んでも、陸斗は無関心だった。その瞬間、陸斗は何かを悟ったかのように、陽菜の顎を掴みながら、歯を食いしばって言った。「お前はずっと海外で暮らしていて、金持ちに囲われていたんだろう。俺がお前の素性を知らないとでも思うな！なぜ、よりにもよって俺と悠里が結婚する前に帰国したんだ？悠里以外に、俺を『陸さん』と呼ぶ奴はいない。お前はどこでそれを聞いたんだ？」陽菜の顔色はたちまち青ざめた。口ごもりながら答えた。「それは......上杉社長......」彼女は動画で悠里の隣にいる颯を見た時、これが全て颯の策略だと悟ったのだ。彼がわざ
あなたと私、ここで決別しよう 第5話
その知らせを聞いた瞬間、陸斗の表情は信じられないという怒りへと変わった。「悠里、本気なのか？」私は静かに頷いた。その場にいた誰もが、私と陸斗が二十年以上の幼馴染であり、両家のビジネスも深く結びついていることを知っていた。大手メディアはすでに豪華の結婚式の原稿を書き上げていたというのに、まさか私が土壇場で婚約破棄するとは。陸斗は人々の真ん中に立ち尽くし、その目に宿る後悔は隠しようもなかった。メディアが群がってくる。「淺川さん、婚約破棄を決断されたのは、どのような理由からでしょうか？」「田畑家の資産状況でしょうか、それとも第三者の介入があったのでしょうか？」「第三者とは、小野陽菜さんのことですか？」......外野の声はあまりにも騒がしかった。私は陸斗のますます青ざめる顔を見て、静かに彼に最後のプライドを残してやった。眩しいフラッシュライトの下、私はあの頃をぼんやりと思い出した。陸斗が陽菜を連れて私の代わりにクルーズ船のパーティーに出席した時、私は警備員に無情にも止められ、クルーズ船の外で冷たい風に吹かれるしかなかった。あの夜、クルーズ船の明かりは煌々と輝いていた。今と同じように。ようやくパーティーに入ることができた時、陸斗と友人たちの会話が聞こえてきた。「外で悠里さんを見かけた気がするんだけど、お前、そんな堂々とアシスタントを連れて出席して、悠里さんが悲しむんじゃないか？何しろ二十年以上の幼馴染なんだ。別れたいなら、彼女をこれ以上邪魔しない方がいいんじゃないか？」あの夜の風は優しかった。だが陸斗は言った。「淺川グループが資金援助を承諾しなければ、俺がこんな腹黒い女と結婚するはずがなかった。彼女のせいで、陽菜はすぐに海外に追いやられることになる。なぜ彼女が田畑夫人の座を独占するんだ？長年の付き合いに免じて、俺が彼女と結婚してやるだけでも、これ以上ないほど尽くしたことになる」今、私はフラッシュライトの中心に立つ陸斗を見ていた。あの夜、クルーズ船にいた私と同じくらい、魂が抜けたように打ちひしがれている。私はそっと笑った。でも陸斗、私はもう、あなたの元で待たない。突然、人々の間にざわめきが起こり、カメラが一斉に方向を変えた。上杉颯（うえすぎ はやて）が、ぴしっとしたスーツ姿で、
あなたと私、ここで決別しよう 第4話
あなたが父の前に土下座して、一生私を大切にすると誓ったからこそ、父は資金援助を承諾したはずなのに。私はため息をつき、立ち去った。「これを恩着せがましいと言うのなら、婚約破棄しましょう」扉が閉まった瞬間、部屋の中で激しい口論が勃発した。A市の高架道路はいつも通り渋滞していた。巨大スクリーンに映し出された私と陸斗のウェディングフォトを眺め、ひどく皮肉に感じた。スマホに三件のメッセージがポップアップした。【悠里、もうふざけるのはやめてくれ。ウェディングドレスはもうクリーニングに出して家に届けさせた。明日、君は俺が作ったドレスを綺麗に着て、俺に嫁いでくれ】【明日は大手メディアを全て呼んでいる。両家が結ばれる重要な瞬間を記録するために】【悠里、十八歳の約束、俺は破っていない】私は静かにSIMカードを抜き取り、窓から投げ捨てた。十八歳の思い出もろとも。明日、確かに私は出席する。けれど、彼と結婚するためではない。結婚式当日、陸斗は電話の向こうから聞こえる自動音声ガイダンスに、苛立ちながら煙草の火を揉み消した。いつもすぐに繋がった電話が、どうしても繋がらない。「悠里が電話に出てくれない」通話履歴を遡ると、見慣れた番号から99件もの不在着信があった。それは、彼が陽菜とウェディングフォトを撮った日だった。あの時、陽菜はすぐに海外に行くから、記念に写真を撮りたいと泣いて懇願した。彼が作ったウェディングドレスを着れば、彼と結婚したも同然だと。彼は悠里に七割方似たその顔を見て、十八歳の悠里に結婚を誓った、あの頃に戻ったかのような錯覚に囚われた。だが、なぜ最後に雪山で彼とウェディングフォトを撮ったのが、悠里ではなかったのだろう？陽菜はすぐに彼の感情を察し、慌てて送迎車の現場動画を送ってきた。「陸斗さん、見てください。悠里さん、もう送迎車に乗っているよ。もしかしたら、ただ携帯を忘れただけかもしれない」陸斗は動画の中の私を見た。純白のウェディングドレスを纏い、伏し目がちに微笑む私。その瞳には、彼が長い間見たことのない喜びが宿っていた。彼はなぜか安堵し、口元が自然と緩んだ。「そうかもしれないな」これまでに彼が何をしようと、今日を境に、彼は必ず悠里に償うと心に決めた。陽菜は顔を青ざめさせ、アシスタン
あなたと私、ここで決別しよう 第3話
十八歳のあの日から、私は陸斗に嫁ぐことを夢見ていた。たとえ婚約破棄を決意したとしても、この想いはそう簡単に割り切れるものではない。答えようとしたその時、玄関の扉が押し開かれ、陽菜が泣きながら飛び込んできた。「田畑社長、淺川様のウェディングドレス、運搬中にうっかり汚してしまって......明日が結婚式なのに、どうしたらいいんですか？」陸斗は陽菜の涙に一番弱く、痛ましげに彼女を抱きしめた。「汚れたなら、別のものに替えればいい。大丈夫、大したことじゃない」「ちょうど淺川様のために、備品を選んでおいたんです、地味だけど上品なドレスで気に入ってくれるといいですが」私は彼女が手に持つウェディングドレスを見た。劣悪な生地で、だらしなく垂れ下がっている。思わず皮肉を言った。「おや、ウェディングドレスにしては、随分と落ち着いた雰囲気だね。お祝いの席には、もう少し華やかなものが良いかと思っていたわ」陽菜は陸斗の腕に寄りかかり、顔から少しずつ血の気が引いていく。「ごめんなさい。勝手にウェディングドレスを替えるなんて、私が悪かったんです。ご安心ください。今夜、指が擦り切れても、ドレスを洗い上げますから」陸斗は冷たく一喝した。「もういい！」私の方に視線を向け、その目は氷のように冷たかった。「君に田畑夫人の座を約束した。それはもう果たしている。今さら、たった一枚のウェディングドレスで陽菜を困らせるつもりか？！」彼はまるでウェディングドレスを汚したのが私であるかのように、正義を振りかざす。先ほど心に灯った最後の希望の光も、彼によって容赦なく消し去られた。私は陸斗の両親に申し訳なさそうに微笑んだ。「おじさん、おばさん、今日の食事は、どうやら私には喉を通らないようです」陸斗の父は激怒し、前に進み出て陸斗の頬を思い切り叩いた。「お前がこれ以上、この女と関係を続けるなら、勘当だ！」陸斗は冷たく父を見つめた。「田畑家のためでなければ、俺が彼女と結婚をする必要があったとでも？」私の胸が締め付けられた。そうか、陸斗が本当に娶りたかった相手は、とっくに私ではなかったのだ。陽菜は泣きながら飛びつき、「全部私のせいです。私が出ていけばいいんです。私のことで喧嘩しないでください」と言った。彼女のこの言葉が、陸斗の保護欲
あなたと私、ここで決別しよう 第2話
「200億を投じたからって、俺の人生を買い取れると思うな！」私はスマホを強く握りしめ、涙が止めどなく溢れ落ちた。私が予約したホテルは会社のすぐ隣で、翌朝、階下へ降りると、まさか陸斗の声が聞こえてきたのだ。「ブーケは胡蝶蘭にしよう。妻が好きなんだ」少し鼻の奥がツンとした。十八歳のあの日、彼が屋敷いっぱいに胡蝶蘭を植えて私に告白してくれたことを思い出した。一瞬、これまでの全てを忘れてしまったかのように、私は彼の方向へ駆け寄った。だが、そこにいたのはお花屋さんの真ん中でブーケを抱えてくるくる回る陽菜だった。「胡蝶蘭なんて古臭いよ。アイリスの方がずっと綺麗なのに。もしアイリスのブーケを持ってあなたに嫁げたら、一生悔いはないわ！」陸斗は陽菜をじっと見つめ、優しく微笑んだ。「分かった、君の言う通りにしよう」私の足は、まるで地面に縫い付けられたかのように、もう一歩も前に進めなかった。胃の奥では、何かがひっくり返るような感覚がした。陽菜は、あまりにも十八歳の私に似すぎている。七年間愛し合った人が、別の女性の中に私の面影を探しているなんて、到底受け入れられなかった。陸斗は私の姿を捉えた。顔から優しさが一瞬で消え失せ、不機嫌そうに言った。「この数日、どこに行っていたんだ？ウェディングプランナーが君と連絡が取れないからって、全ての事務を陽菜に押し付けるなんて、君はそれが適切だと思うのか？君も見た通り、陽菜はとても有能だ。結婚後も彼女を海外に送るつもりはない。彼女をグループの副社長に昇進させるつもりだ」陽菜の目に、たちまち興奮の光が宿った。私は心の中で冷笑した。昨夜、会社に戻って徹夜で残業したのは、投資を撤回する手筈を整えていたのだ。陸斗は陽菜との甘いデートに夢中で、スマホのメッセージに全く気づいていなかった。私は彼を淡々と見つめ、「好きにすれば」と言い放った。陸斗の怒りに満ちた視線の中、私は踵を返し、一本の電話をかけた。「叔父様、田畑家への200億の資金援助、撤回してください。それから、以前お話しいただいた縁談の相手、一度お会いしたいです」結婚式の前日、田畑家のしきたりに従い、花嫁は本家に戻り先祖を祀ることになっていた。私はすでに婚約破棄を決めていたが、陸斗の両親は以前から私にとても優しく、陸斗の
