海外の投資銀行でがっつり稼いだ私――早瀬朱音(はやせ あかね)は、こっそり帰国し、婚約者の片桐慎也(かたぎり しんや)にサプライズを仕掛けるつもりだった。深夜に家へ着くと、玄関のスマートロックがいつの間にか別のものに替わっていた。仕方なく何度もインターホンを押したが、返事はない。途方に暮れて慎也に連絡しようとした瞬間、いきなり誰かにスマホを奪われた。「ちょっと!人の家の前でコソコソ何してるの?中が留守だから仲間を呼んで盗みに入る気なの?」私は呆然とした。この家は、確かに私が慎也に貸していたはずなのに、いつから彼女のものになったの?理不尽な疑いをかけられ、胸の奥が一気に煮え立つ。「よく見て。ここは私の婚約者、片桐慎也の家よ」すると、相手の女――工藤沙織(くどう さおり)の目がみるみる赤くなり、私を指差して怒鳴り返す。「やっぱりあなたね!うちの男をたぶらかしてる愛人!」彼女の言葉に、私はその場で固まった。頭が真っ白になる。「ふざけないで!」私は思わず一歩さがる。「慎也は私の婚約者だよ。私たち、もう五年付き合ってるの」ところが沙織がいきなり飛びかかってきて、勢いよく私の頬を張った。「恥知らずな女!愛人のくせに家まで乗り込んでくるなんて!」彼女はヒステリックに叫び、伸びた爪が私の頬をかすめて血が滲む。「私と慎也は、もう三年も一緒なの!」頬は焼けるように痛い。耳の奥がジンジン鳴っている。三年?ありえない。私が海外に出たのは二年前。慎也とは毎日ビデオ通話していたし、先週だって結婚式の打ち合わせをしたばかりだ。沙織はなおも食い下がる。私はその手首をつかみ、ぐいと押し返した。「スマホを返して!」私は手を伸ばして、彼女が高く掲げているスマホを取ろうとする。ところが、次の瞬間、沙織が耳をつんざく悲鳴を上げ、肘を思いきり私の脇腹に叩き込んできた。痛みで思わず手が緩んだ瞬間、彼女は大きく振りかぶって、スマホを階段の吹き抜けへと投げ捨てた。「正気なの?」私は全身が怒りで震える。拳を握り込んで踏み出そうとすると、女は尻もちをついて座り込み、喉が裂けるほどの声で泣き叫ぶ。「だれか助けて!愛人に殴られた、正妻が殴られたのよ!」沙織は泣き叫びながら自分の襟をつかんで引き裂き、肩を半
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