All Chapters of この夜が明ける頃、永遠になる: Chapter 21 - Chapter 22

22 Chapters

永遠

── 拍手が、会場いっぱいに広がっていた。 ステージの中央に立つ沙耶は、眩しい照明に包まれながら深く息を吐いた。 スライドに映し出されているのは、彼女が率いた新素材研究の最終成果。 その発表は大成功を収め、出席していた国内外の研究者たちが一斉に立ち上がって拍手を送っていた。 胸の奥が熱くなる。 “ようやくここまで来たんだ”――そんな思いが、静かにこみ上げてくる。 壇上の少し後ろ、聴衆の列の中で、蓮が穏やかに微笑んでいた。 スーツ姿のその瞳には、どこまでも優しい光が宿っている。 沙耶の唇がかすかに動いた。 (……ありがとう、蓮) --- 会場の片隅。 橘グループの重鎮たちの中に、ひときわ堂々とした姿があった。 蓮の父――橘厳。 鋭さの中に品格を纏った男だ。 彼は静かに腕を組み、壇上の沙耶を見つめていた。 かつて息子が彼女を選んだと聞いたとき、厳は何も言わなかった。 だが今――その瞳には、はっきりとした誇りが宿っていた。 拍手の中、厳が小さく呟く。 「……見事だ。あの子を選んで、間違いはなかったな」 隣で控える秘書が驚いたように目を見張るが、 厳はただゆっくりと微笑んだ。 --- 発表が終わり、記者たちが引き上げたあと。 夕暮れの光が窓から差し込み、会場には穏やかな静けさが戻っていた。 蓮が壇上に上がり、資料をまとめている沙耶に歩み寄る。 「本当に……お疲れさま」 その声に振り向くと、蓮がいつものように柔らかく微笑んでいた。 沙耶の胸に、温かい波が広がる。 「ありがとう。 ここまで来られたのは、あなたが信じてくれたから」 蓮は小さく首を振った。 「違う。君が信じ続けたからだ。 自分を、そして未来を」 沙耶はそっと笑った。 その笑顔には、もう迷いがなかった。 --- その時、会場の扉が静かに開き、厳が入ってきた。 スタッフたちが慌てて姿勢を正す中、蓮は父の方へ向き直る。 「父さん……」 厳は重々しく頷き、ゆっくりと壇上へ上がった。 そして沙耶の前に立ち、まっすぐに目を合わせた。 「沙耶さん」 「はい」 「今日の発表、見事だった。 私の長い経営人生の中で、ここまで胸を打たれた研究発表は初めてだ
last updateLast Updated : 2025-10-21
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誓い

夏の匂いが少しずつ濃くなり始めた頃── 白い光が、チャペルのステンドグラスを通して柔らかく降り注いでいた。 花々の香りが空気に溶け、静かなオルガンの音が響く。 沙耶は純白のドレスに身を包み、胸の奥で小さく息を整えた。 鏡の中の自分を見つめながら、ほんの少しだけ微笑む。 ――もう、泣かない。 この日を迎えるまでに流した涙は、すべて未来へつながる雫だった。 控室の扉がノックされる。 「沙耶、準備はできた?」 扉を開けると、そこにはママと亜美が立っていた。 ママは相変わらず気品に満ちていて、深紅のドレスを着こなしている。 亜美は笑顔で涙ぐみながら、花束を抱えていた。 「ほんとに綺麗……! 沙耶さん、まるでお姫様みたいです!」 「やめてよ、泣いちゃうじゃない……」 沙耶は笑いながら、亜美をそっと抱きしめた。 ママが静かに微笑む。 「思い出すわね。ルクレールで初めて会った日のこと。 あの時のあなた、目が死んでたわ」 「……そうでしたね」 沙耶は懐かしむように目を細める。 「でも今のあなたは、すごく綺麗。 強くて、愛されてる女の顔をしてる」 その言葉に、胸の奥が熱くなる。 ママの指先が、そっと沙耶のヴェールを整えた。 「幸せになりなさい。もう、夜の世界には戻らなくていいの」 「ママ……本当にありがとうございました」 「感謝なんていらないわ。 あんたが自分でここまで歩いたんだから」 ママの瞳に、ほんの一瞬、涙が光った。 それを見た沙耶も、堪えきれずに微笑む。 --- チャペルの扉が開く。 バージンロードの先、白い光の中に蓮が立っていた。 タキシード姿の彼は、まっすぐに沙耶を見つめている。 その瞳に映るのは、どんな時も自分を信じてくれた人―― そして、人生を共に歩む“永遠”の相手。 足元に広がる花びらを踏みしめながら、一歩ずつ進む。 拍手の音が遠のき、心臓の鼓動だけがはっきりと聞こえる。 蓮の前に立った瞬間、すべての景色がやさしく滲んだ。 神父が誓いの言葉を告げる。 「健やかなる時も、病める時も―― 互いを支え、愛し合うことを誓いますか?」 沙耶は蓮を見上げ、穏やかに微笑んだ。 「誓います」 蓮の声が、
last updateLast Updated : 2025-10-21
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