── 拍手が、会場いっぱいに広がっていた。 ステージの中央に立つ沙耶は、眩しい照明に包まれながら深く息を吐いた。 スライドに映し出されているのは、彼女が率いた新素材研究の最終成果。 その発表は大成功を収め、出席していた国内外の研究者たちが一斉に立ち上がって拍手を送っていた。 胸の奥が熱くなる。 “ようやくここまで来たんだ”――そんな思いが、静かにこみ上げてくる。 壇上の少し後ろ、聴衆の列の中で、蓮が穏やかに微笑んでいた。 スーツ姿のその瞳には、どこまでも優しい光が宿っている。 沙耶の唇がかすかに動いた。 (……ありがとう、蓮) --- 会場の片隅。 橘グループの重鎮たちの中に、ひときわ堂々とした姿があった。 蓮の父――橘厳。 鋭さの中に品格を纏った男だ。 彼は静かに腕を組み、壇上の沙耶を見つめていた。 かつて息子が彼女を選んだと聞いたとき、厳は何も言わなかった。 だが今――その瞳には、はっきりとした誇りが宿っていた。 拍手の中、厳が小さく呟く。 「……見事だ。あの子を選んで、間違いはなかったな」 隣で控える秘書が驚いたように目を見張るが、 厳はただゆっくりと微笑んだ。 --- 発表が終わり、記者たちが引き上げたあと。 夕暮れの光が窓から差し込み、会場には穏やかな静けさが戻っていた。 蓮が壇上に上がり、資料をまとめている沙耶に歩み寄る。 「本当に……お疲れさま」 その声に振り向くと、蓮がいつものように柔らかく微笑んでいた。 沙耶の胸に、温かい波が広がる。 「ありがとう。 ここまで来られたのは、あなたが信じてくれたから」 蓮は小さく首を振った。 「違う。君が信じ続けたからだ。 自分を、そして未来を」 沙耶はそっと笑った。 その笑顔には、もう迷いがなかった。 --- その時、会場の扉が静かに開き、厳が入ってきた。 スタッフたちが慌てて姿勢を正す中、蓮は父の方へ向き直る。 「父さん……」 厳は重々しく頷き、ゆっくりと壇上へ上がった。 そして沙耶の前に立ち、まっすぐに目を合わせた。 「沙耶さん」 「はい」 「今日の発表、見事だった。 私の長い経営人生の中で、ここまで胸を打たれた研究発表は初めてだ
Last Updated : 2025-10-21 Read more