「お前、一体、これ……」 こんなものを見たうえで、それでもなお声をかけてくるのは澤村の優しさだろう。しかし今の和彦は、答えられなかった。答えたくなかった。自分が、ヤクザに拉致された挙げ句に辱められ、そのときの様子をビデオカメラで撮影されたなど。 この場で頭を抱えてうずくまりたいところをなんとか踏みとどまる。これ以上の醜態を晒せるわけがなかった。 「――……悪い、今日のぼくの手術は、全部キャンセルにしてくれ……。いや、この先の手術も、全部……」 「おいっ、佐伯、大丈夫かっ?」 澤村の制止を振りきった和彦は、ふらつく足取りで医局を出る。そのままエレベーターに乗り込むと、一階に降りた。あの写真を見た人間と、同じ場所にいたくなかった。 いやむしろ、見た人間のほうが、和彦にいてほしくないと思っているだろう。 もう終わりだと、そんな言葉が頭の中を駆け巡っていた。あんな写真を見られては、もうこのクリニックで働き続けることはできない。仮に和彦が鋼のような神経を持っていたとしても、クリニックのほうが和彦を切るはずだ。 なぜ、こんなことに――。 呆然としながらロビーを通ってビルを出た和彦の目に飛び込んできたのは、正面に停められた高級車だった。その車の前に直立不動で立っているのは三田村だ。まるで、和彦がビルから飛び出してくるとわかっていたようなタイミングだが、もちろん偶然ではないだろう。 和彦が睨みつけると、三田村は相変わらず、憎たらしくなるほど眉一つ動かさず、スモークフィルムの貼られた後部座席のドアを開けた。悠然とシートに腰掛けているのは、賢吾だ。 「あんたがっ……」 ぐっと拳を握り締めると、賢吾は薄い笑みを口元に湛えながら、指先で和彦を呼んだ。乱暴に息を吐き出した和彦は大股で車に歩み寄り、乗り込む。すぐにドアは閉められ、三田村が助手席に乗り込むのを待ってから、静かに車は走り出した。 「――〈あれ〉は見たようだな」 口を開いたのは賢吾が先だった。和彦はキッと賢吾を睨みつける。 「本当はもっときれいに印刷できるんだが、臨場感が出たほうがいいだろうと思って、少し画質を粗くしておいた」 「……約束したはずだ。
Last Updated : 2025-10-19 Read more