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All Chapters of 血と束縛と: Chapter 31 - Chapter 40

242 Chapters

第1話(31)

「お前、一体、これ……」  こんなものを見たうえで、それでもなお声をかけてくるのは澤村の優しさだろう。しかし今の和彦は、答えられなかった。答えたくなかった。自分が、ヤクザに拉致された挙げ句に辱められ、そのときの様子をビデオカメラで撮影されたなど。  この場で頭を抱えてうずくまりたいところをなんとか踏みとどまる。これ以上の醜態を晒せるわけがなかった。 「――……悪い、今日のぼくの手術は、全部キャンセルにしてくれ……。いや、この先の手術も、全部……」 「おいっ、佐伯、大丈夫かっ?」  澤村の制止を振りきった和彦は、ふらつく足取りで医局を出る。そのままエレベーターに乗り込むと、一階に降りた。あの写真を見た人間と、同じ場所にいたくなかった。  いやむしろ、見た人間のほうが、和彦にいてほしくないと思っているだろう。  もう終わりだと、そんな言葉が頭の中を駆け巡っていた。あんな写真を見られては、もうこのクリニックで働き続けることはできない。仮に和彦が鋼のような神経を持っていたとしても、クリニックのほうが和彦を切るはずだ。  なぜ、こんなことに――。  呆然としながらロビーを通ってビルを出た和彦の目に飛び込んできたのは、正面に停められた高級車だった。その車の前に直立不動で立っているのは三田村だ。まるで、和彦がビルから飛び出してくるとわかっていたようなタイミングだが、もちろん偶然ではないだろう。  和彦が睨みつけると、三田村は相変わらず、憎たらしくなるほど眉一つ動かさず、スモークフィルムの貼られた後部座席のドアを開けた。悠然とシートに腰掛けているのは、賢吾だ。 「あんたがっ……」  ぐっと拳を握り締めると、賢吾は薄い笑みを口元に湛えながら、指先で和彦を呼んだ。乱暴に息を吐き出した和彦は大股で車に歩み寄り、乗り込む。すぐにドアは閉められ、三田村が助手席に乗り込むのを待ってから、静かに車は走り出した。 「――〈あれ〉は見たようだな」  口を開いたのは賢吾が先だった。和彦はキッと賢吾を睨みつける。 「本当はもっときれいに印刷できるんだが、臨場感が出たほうがいいだろうと思って、少し画質を粗くしておいた」 「……約束したはずだ。
last updateLast Updated : 2025-10-19
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第1話(32)

 あまりの怒りで満足に呼吸もできなくなる。何度も肩を上下させ、なんとか空気を体内に取り込もうとする和彦の頬を、賢吾の指がくすぐるように撫でてきた。手を振り払いたいが、できなかった。強い憎悪の一方で、奇妙な諦観の感情も込み上げてくるのだ。 「――……何が、目的だ……。たかが美容外科医にこんなことをするぐらいだ。理由はあるんだろう」  聞いてしまえば、従わざるをえないだろう。わかっていながら聞いてしまうのは、多分、理由が欲しいからだ。こうして賢吾と会う理由が。  賢吾は、和彦が欲しがっている理由を与えてくれた。 「お前は、うちの組専属の医者になれ」 「専属……」 「美容外科医というのは、願ったり叶ったりだ。女だけじゃなく、顔を弄る必要がある男は、いくらでもいる。特にうちのような仕事をしている場合はな。組同士の繋がりで、まず患者に不自由することはないぞ。指の皮膚を弄って指紋の偽造ができるようになれば、あっという間に売れっ子だ」  和彦は視線を逸らし、賢吾に言われた言葉を頭の中で反芻する。混乱した頭でも、これだけははっきりしていた。 「……あんたの組に飼われるということか」 「まあ、そうだな。いい場所を見つけて、お前にクリニックを持たせてやる。そこで嫌というほど経験を積め。細かなトラブルに煩わされることもないぞ。長嶺組どころか、総和会が後ろ盾についているんだからな。自分の名前を表に出したくないというなら、どこかで死にかけている医者の名義でも買えばいい。俺や組に協力する限り、お前は守ってやる。俺の〈身内〉としてな」  見えない檻の中に追い込まれている気がして、和彦は小刻みに体を震わせる。そんな和彦に対して、賢吾が意味ありげな笑みを向けた。 「いや、どちらかというと、俺の〈オンナ〉だな」  気がついたときには和彦は、賢吾の頬を平手で打っていた。しかし、車中にいる和彦以外の男たちは誰も動じない。賢吾は打たれた頬を軽く指先で撫でて、相変わらず笑っていた。 「お前に俺を殴らせるのは、これが最初で最後だ。次はないぞ。俺を殴るってことは、組の面子を汚すのと同じだからな」  和彦は間近から賢吾の目を見据える。掴み所のない、迂闊に探れば容赦なく食ら
last updateLast Updated : 2025-10-20
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第2話(1)

 ガキだ、と和彦は心の中で呟く。  わかってはいるつもりだったが、予想を超えて千尋はガキだ。しかも、厄介な癇癪を抱えた、二十歳のガキ。  和彦は露骨に大きなため息をついて、ゆっくりと足を組み替える。ガキの機嫌を取るほど、実は和彦にも心の余裕はなかった。 「――……何が気に食わないんだ、お前は」  そう問いかけると、正面のソファにあぐらをかいて座った千尋がふいっと顔を背け、ぼそっと答えた。 「何もかも」 「ああ、そうか。ぼくの存在そのものも気に食わないんだな。だったら、こうして向き合っていても時間の無駄だ。帰るぞ」  ぞんざいな口調で応じた和彦が立ち上がろうとすると、千尋が慌てた様子でテーブルに身を乗り出してくる。 「待ってよっ……。誰もそこまで言ってないだろ」 「話があると言って人を呼び出したのはお前だぞ。用件を早く言え。ぼくは忙しいんだ」 「……組の仕事があるから?」  子供のようにふてくされていた千尋が、今度は急に頼りない口調となる。  やっぱりガキだと、また心の中で呟いてから、和彦は足を組み直す。そこに、タイミングがいいのか悪いのか、トレーを手に三田村がリビングに入ってきて、二人の前に新たなコーヒーを出した。  長嶺組の組長直属で動いているような男に、こんな仕事をさせていいのだろうかとも思ったが、組員たちの詰め所で和彦がキッチンに立つのは許されない。賢吾がどんな説明をしたのか知らないが、長嶺組における和彦の扱いは、かなり破格のものだった。行動をともにしている三田村の存在が名刺代わりになっているらしく、組員たちの態度がいちいち恭しい。  そんな組員たちの和彦に対する対応を見て、ますます千尋の機嫌が悪くなる。  一礼した三田村がテーブルから離れようとしたので、和彦は今度こそはと呼び止める。最初のコーヒーを出されたときは、組長に連絡を取らないといけないと言われ、逃げられたのだ。 「――三田村さん、あんたもこの場に残ってくれ」  すかさず千尋がじろりと三田村を見たが、当の三田村は、相変わらずごっそりと感情をどこかに置き忘れたかのように眉一つ動かさない。きちんとスーツを着込んだ姿は、多少強面ながら
last updateLast Updated : 2025-10-20
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第2話(2)

 子供のように癇癪を爆発させ、ときには拗ねたりする千尋と電話で話していても埒が明かないため、結局外で会うことになった。ただ、なんとか二人きりで会う状況に持ち込もうとする千尋を警戒して、三田村に相談してから、長嶺組に関係するこの場所を指定した。組に関することはすべて三田村に聞けと言われているためだ。  総和会を構成する組の一つである長嶺組の傘下には、さらにいくつもの形態や呼称の異なる組織が存在し、組事務所だけでも何か所もあるのだという。さらに、組員たちが休憩を取ったり、宿泊するための場所もいくつも確保しているのだそうだ。  和彦たちが今いる古い雑居ビルの一室も、そういう場所らしい。表向きは小さな会社のオフィスとなっているため、出入りする人間も、見た目からは本業をうかがわせない。和彦たちがリビングを借りている間、他の人間たちは営業活動と称して、外出してくれていた。 「……先生が、うちの組に協力してくれることになった、と電話で言われただけだ」 「それだけか」 「それだけだよ。だから、わけがわからないんだ。オヤジは昔から、俺にわかりやすく説明するってことを一度もしたことがない。だから先生に直接聞こうと思った」  和彦は、千尋に対しては同情を、賢吾に対しては呆れていた。他人の父子関係をどうこう言う気はないが、コミュニケーションに少しばかり問題があるのではないかと思ってしまう。  もっとも、和彦と賢吾の関係をすべて知られてしまっては、それはそれで面倒なのだが。賢吾はその辺りの説明が億劫で、こちらに丸投げしたのではないかと邪推もできる。  和彦は乱雑に前髪を掻き上げてから、苦々しく告げた。 「端的に言うなら、お前の父親の説明で間違ってはいない」 「奥歯にものが挟まったような言い方だな。――で、どうして心変わりしたんだ。先生、あからさまに組を怖がってただろ。関わるのも嫌って感じだった」  今もその気持ちは変わってない。ヤクザと関わるなど心底嫌で仕方ないし、できることならさっさと縁を切ってしまいたい。  落ち着きなくまた足を組み替えた和彦は、ちらりと三田村を一瞥する。三田村が、こうして千尋と交わす会話を逐次賢吾に報告するのかと思ったら、迂闊なことが言えたもので
last updateLast Updated : 2025-10-20
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第2話(3)

 抽象的な和彦の表現に、千尋はきょとんとした顔をする。千尋のその表情に、ここのところずっと荒んでいた気持ちが少し和らぐ。和彦はちらりと笑みを浮かべると、あえてサバサバとした口調で言った。 「とにかくぼくは、長嶺組の世話になることになった。この間の、お前としばらく会わないという言葉は撤回するが、ぼくはクリニックを辞めて、しばらくは開業の準備で忙しいから、あまり遊んでやる時間はないぞ」 「だったら、その準備を俺も手伝う」 「――却下」 「どうしてっ?」 「ぼくの独立開業と、お前は関わりがない。それに、お前にはバイトがあるだろう」  千尋を冷たく突き放すのには理由がある。千尋が跡目だというのはどうしようもないことだが、できることなら、和彦がどうして賢吾と深く関わることになったのか、その理由を千尋には知らないままでいてほしかった。  自分が原因だと知ったときの千尋のショックを慮ってというよりも、事実を知った千尋の暴走を恐れているのだ。  只でさえ厄介な状況が、千尋が絡むとさらに面倒なことになる――という予感。いや、確信めいたものが和彦にはある。なんといっても、あの男の息子だ。  賢吾にしても三田村にしても、千尋に余計な情報を与えていないということは、つまりはそういう方針なのだ。長嶺組の〈身内〉となってしまった和彦としても、従うほうが楽だった。 「――話し中、すみませんが、そろそろ時間が……」  恨みがましげな千尋の眼差しを向けられながら、ここで千尋の機嫌を取るべきなのだろうかと考えていると、ふいに三田村の声が割って入る。和彦は反射的に室内を見回し、壁にかけられた時計に目を止めた。 「ああ……、もうこんな時間か」  千尋には悪いが、助かったと思いながら和彦は立ち上がる。 「先生、どこか行くのっ?」 「さっき言っただろう。ぼくは忙しいんだ。これから人と会う約束がある」 「俺も行く」  勢いよく立ち上がった千尋を、和彦はじろりと睨んで首を横に振る。 「人と会うと言っただろう。なんで、お前を連れて行かないといけないんだ」 「会っている間、車で待ってる」  二人きりでいるときは、和
last updateLast Updated : 2025-10-20
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第2話(4)

「――ということだ。これで、ぼくの今の事情はだいたいわかったか?」 「堅気だった先生が、こちらの世界に片足突っ込んだ、ってことだよね」  的確な表現だが、非常に複雑な心境にさせられる。和彦が顔をしかめて見せると、今日会ってから初めて、千尋がニッと笑った。 「そんな顔しないでよ。せっかく〈身内〉になれたんだからさ」 「……お前は嬉しいのか?」 「先生を巻き込むのは嫌だったんだけど、こうなったんなら、正直歓迎する」 「現金なガキだ」  そう言って和彦は、千尋の髪をくしゃくしゃと掻き乱す。まるで犬を撫でるような行為だが、千尋はこうされると喜ぶのだ。現に、首をすくめて楽しそうに笑い声を上げている。  ただし千尋は、犬っころのように無邪気で無垢な存在ではない。  三人で玄関に向かい、和彦が靴を履こうとしたとき、ふいに千尋に肩を掴まれて引き寄せられた。  驚いた和彦が声を上げる前に、素早く千尋が耳元に唇を寄せてくる。 「――先生、オヤジと寝た?」  熱い息遣いとともに注ぎ込まれた言葉に、全身の血が凍りつきそうになった。和彦が不自然に動きを止めると、先に靴を履いた三田村が、何事かというように顔を覗き込んできた。 「先生?」 「……なんでもない」  和彦はぎこちなく答えてから、千尋を見る。改めて、千尋は恵まれた容姿を持っているだけの普通の青年ではないのだと思い知らされた。  簡単に和彦の将来を――現在も変えてしまった男の息子なのだ。そして、そんな男の跡を継ぐ存在でもある。  千尋は、もう笑ってはいなかった。少し怒ったような顔をして和彦を睨みつけてくると、首の後ろに手をかけてきた。 「千尋っ……」  ぐいっと引き寄せられ、千尋に唇を塞がれる。目を見開いた和彦は、咄嗟に千尋を押し退けようとしたが、それ以上の力で首の後ろを押さえつけられ、きつく唇を吸われる。 「んっ」  片腕が腰に回されて、露骨に千尋の下肢が密着してくる。強引に舌を捩じ込まれ、三田村の視線を感じながらも和彦は、口腔に受け入れた。まるで、子供のわがままを許容するように。  二人は性急に舌を絡め合い、唾
last updateLast Updated : 2025-10-20
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第2話(5)

「ぼくの生活も人生も、この何日かで全部変わってしまった。納得も釈然もしてないが、受け入れないと生きていけない。そんなぼくに対して、お前は何をしてくれる? ただ、甘えてくるだけか?」 「先生……」  ふっと千尋の腕の力が抜け、その間に和彦は体を離して靴を履く。 「お前は、平均的な二十歳に比べたら、甘え好きではあるけど、しっかりしているとは思う。……ぼくがお前より十歳も年上じゃなくて、お前の家庭の事情に関わってなかったら、もっと長く、楽しい関係を続けられたんだろうがな」  もう一度千尋の頭を撫でてから、和彦は三田村に伴われて玄関を出る。 「千尋さんの扱いに慣れてるんだな」  エレベーターを待ちながら三田村が口にした感想に、つい苦笑が洩れる。人を猛獣使いのように言うなと思ったのだ。つまり、千尋は猛獣ということになる。 「あの組長がどんな子育てをしたのか知らないが、千尋は可愛いな。ただ、ときどき純粋すぎて怖くなる」 「純粋さは、鋭い凶器になる」  さらりと三田村が言った言葉の真意を図りかね、和彦は首を傾げる。三田村は階表示を見上げたまま続けた。 「清らかって意味だけじゃないからな、純粋って言葉は」 「……混じり気がないのも、また純粋。そして、千尋が生まれ育った環境は――」  独り言のように呟いた和彦を、いつの間にか三田村が横目で見ていた。 「気をつけたほうがいい、先生。えらく千尋さんに気に入られているみたいだから」 「怖いこと言うなよ……」 「先生を気に入ってるのは、千尋さんだけじゃないしな」  和彦が思わず睨みつけると、スッと三田村の視線は逸らされた。些細な仕種に込められた意味を、和彦は嫌になるほど知っていた。どうせもうすぐ、体でも思い知らされるのだ――。**  はあっ、と息を吐き出した和彦は、屈辱と羞恥に身を熱くしながら唇を引き結ぶ。そうしないと、恥知らずな声を上げてしまいそうだった。 「あれだけいろんな条件を見せられると、どの物件にするか目移りするな」  和彦の状態を知っていながら、それでもあえて、さきほどまでいた不動産屋での話を持ち出す隣の男
last updateLast Updated : 2025-10-21
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第2話(6)

「あっ、うぅっ……」  スラックスと下着をわずかに下ろされ外に引き出されたものを、賢吾のごつごつとした手に握られ、思わせぶりに上下に扱かれる。不動産屋を出て移動する車中で、和彦はずっとこうやって賢吾に弄ばれていた。 「実際にクリニックを切り盛りするのはお前だ。客層を考えたら、きれいな表通りで、とはいかないが、それでもいい場所を探してやる。クリニックそのものはこじんまりしているほうがいいな。だが、内装には金をかける。一応、普通の患者もやってくるんだからな」  リズミカルに動き続ける賢吾の手の中で、和彦のものはとっくに形を変え、先端には透明なしずくを滲ませていた。賢吾の指に拭い取られてから、そのまま先端を擦られ、爪の先を軽く立てられると、ビクビクと腰を震わせて感じてしまう。  後部座席でこんな戯れをしていても、運転を任されている三田村は背後を気にする素振りは一切見せない。  そんな三田村を一瞥して薄く笑った賢吾が、和彦の耳元に顔を寄せてきた。 「三田村は気に入ったか? お前につけるなら、こいつしかいないと思ったんだ。有能なだけじゃなく、感情を表に出さないから、お前も遠慮なく、恥ずかしい姿を見せられるだろ。こういう状況でもな」  ぐっと括れを指の輪で締め付けられ、呻き声を洩らした和彦は賢吾の腕にすがりつく。 「あっ、あっ……」 「教えてやったはずだ。俺にこうされているときは、俺も楽しませろと」  片手を取られ、賢吾の両足の間に押し当てさせられる。硬い感触を感じ、和彦は目を見開いた。  賢吾はわざと威圧するように凄みを帯びた表情を浮かべ、低い声でこう言った。 「組長の俺を連れ回しているんだ。駄賃としては、安いものだろ?」  連れ回しているのはそっちだろうと思ったが、もちろん和彦に反論が許されるはずもない。賢吾を睨みつけると、返事の代わりにスラックスのベルトを緩め始める。いい子だと言いたげに、賢吾が頭を撫でてきた。**  跨がされた賢吾の腿の上で、和彦は腰を揺らす。すると、内奥に挿入された指が蠢き、静かな車内でわざと響かせるように淫靡に湿った音を立てる。 「はっ……、あうぅ」 「い
last updateLast Updated : 2025-10-21
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第2話(7)

 胸の突起を愛撫されながら和彦は、賢吾の熱くなったものを片手で握り、扱く。 「腰を上げろ」  さんざん指で内奥を掻き回されてから、賢吾に命じられる。言われるまま和彦は腰を浮かせ、柔らかくなった内奥の入り口と、自分が育てた賢吾の逞しい欲望の位置を手探りで合わせる。その間賢吾は、恥辱に満ちた姿勢を取って、繋がる準備をしている和彦の顔をじっと見つめているだけだ。 「お前は、悔しくてたまらないって顔をしてるときが、一番いいな。この顔が、どんどん蕩けていく様は、見ていてゾクゾクする。ただ痛めつけるのとは違う趣がある」 「……ぼくになんと答えてほしいんだ」 「もっと恥ずかしいことをしてください、とでも言ってみるか?」  自分のバリトンの威力を知り尽くしているかのように、賢吾が低く囁く。今すぐにでもこの男の上から飛び退きたいのに、できない。 「あうっ」  慎重に腰を下ろしているつもりでも、逞しい部分で内奥を押し開かれる感覚はたまらない。苦痛が下から這い上がってきて、何度も腰を上げたくなるが、苦しむ和彦の様子を楽しむかのような賢吾の顔を見ていると、持っていても仕方のない意地が頭をもたげる。結局のところ、和彦が意地を張ったところで、賢吾を喜ばせるだけなのだが。  ようやく一番太い部分までを呑み込み、少し楽になる。賢吾の肩に両手をかけると、その賢吾の両手が尻にかかり、左右に割り開かれる。 「いいぞ。このまま腰を下ろして、お前のケツがひくつきながら、俺のを咥え込んでいくところを、全部三田村に見てもらえ」  賢吾の言葉にドキリとして、和彦は体を強張らせる。とてもではないが、振り返って運転席を確認することなどできなかった。  慣れることのない屈辱と羞恥、逞しいものを呑み込んでいく苦しさに喘ぎながらも、和彦はゆっくりと確実に腰を下ろしていく。その間賢吾は、反り返って震える和彦のものをハンカチで包んで扱きながら、胸の突起を執拗に愛撫していた。 「うっ、くぅっ……。あっ、あっ――」  和彦の内奥と賢吾の欲望が、ようやく深く繋がる。大きく息を吐き出した賢吾が、ニヤリと笑いかけてきた。 「ご褒美をやろうか?」  そう言って和彦は髪を撫でら
last updateLast Updated : 2025-10-21
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第2話(8)

 予想の範囲内だが、賢吾は怒り狂ったりはしなかった。それどころか、楽しげに目を細めた。 「俺としては、この状況でそんなことを言ったお前の感想が聞きたいな。……興奮するか?」  腰を掴まれて激しく前後に揺さぶられる。和彦は賢吾の肩にすがりつきながら、掠れた嬌声を上げる。動きが制限された車内での交わりは、もどかしい分、とにかく快感を貪ろうと必死になる。すでにもう和彦は、一度絶頂に達していた。 「あぁっ、あっ……、くうっ……ん」 「またイきそうな声だな。ハンカチがもうドロドロだぞ」  そう言う賢吾の欲望も、限界が近いことを和彦は感じていた。歯止めを失って声を上げる和彦を、上目遣いに見上げながら賢吾が胸の突起を舐める。それだけで、和彦は二度目の絶頂を迎えていた。 「……いい子だ、先生。さあ、舌を吸わせろ」  荒い呼吸を繰り返しながら和彦は、賢吾の唇を舐めてから口腔に舌を差し込む。すぐに痛いほど強く吸われた。  尻を鷲掴まれ、逞しいものが出し入れされる。絡めていた舌を解いて和彦が堪え切れない声を上げると、耳元で賢吾に言われた。 「キスなんて言わずに、今度はここに、千尋にたっぷり出してもらってこい。多分、興奮するぞ。俺以上に、お前が――」 「うあっ……」  乱暴に腰を突き上げられ、内奥で賢吾のものが力強く脈打つのがわかった。そして、熱い精を注ぎ込まれる感触も。  繋がったまま二人は、呼吸を整える。そうしながら和彦は心の中で、また賢吾と関係を持ったことへの後悔を味わっていた。逆らえないとはいえ、こうなるたびに自分が泥沼の深みにはまり込んでいくのがわかるのだ。 「――組長、迎えの車が来ました」  絶妙のタイミングで三田村が声をかけてくる。少しの間、三田村の存在を忘れていた和彦はようやく今の状況を思い出し、動揺する。そんな和彦を見て、賢吾が意味深な笑みをちらりと浮かべた。  下肢を剥き出しにした挙げ句、汚している和彦を置いて、自分だけさっさと身支度を整えた賢吾が車を降り、隣に並んだ車へと乗り換える。あっという間に走り去る車の音を聞いてから和彦は、まっさきに運転席と助手席のウィンドーを下ろしてもらい、車
last updateLast Updated : 2025-10-21
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