「ラストホープ! ――見事な解決だ!」 鬼瓦教官の宣言が、まだ熱の残る美術室の天井に反響した。緊張の糸が一気に解け、空気はざわめきと吐息でふくらむ。 序列最下位の寄せ集めが、誰も先に辿り着けなかった『天井』という答えに最初に手を伸ばし、像を実際に抱えて降りてきた――それ自体が、学園という小さな世界の秩序に小さなひびを入れる出来事だった。 驚嘆は拍手に、拍手は一部の賞賛に変わり、やがてそのどれもが混ざり合って波のように揺れた。 猛は埃まみれの頬に笑みを貼りつけ、汗の塩味を舌の奥でかみしめる。自分の腕で現場に届いた手応えは、単純な歓喜よりも長く体内に残る種類の熱だった。 白河は、歓声に肩をすくめながらも、瞳の奥に「仮説が現物に接続された」という安心を灯し、ほんの少しだけ顎を上げる。 青野は、場の熱を測るように一度ゆっくりと呼吸し、目の端で三人の立ち位置が一本の線に結ばれたことを確かめた。 パン、と鋭く手を打ち鳴らし、鬼瓦が場の音を収める。厳しい視線が、ラストホープの三人へと真っすぐ刺さった。 「さて――今回の演習結果について、評価を発表する」 赤星の喉が無意識に鳴る。鬼瓦は手元の板に視線を落とし、淡々と、しかし一語ずつ重みをのせて告げる。 「まず、タイム評価。解決最速はラストホープ。像の所在と仕掛けの特定を最初になしえた点を高く評価する」 前列で神楽坂が薄く目を伏せ、隣の西園寺が扇子の骨を小さく鳴らす。轟は腕を組み直し、赤星を短く一瞥した。 「次に、正確性。像の所在、移動経路、使用器材を滑車とテグスに特定、現物を提示。十分間での実行可能性も、天井器具の痕跡から論証した。構成として破綻はない。――ただし」 鬼瓦は言葉に硬度を足した。 「現場保存が論外だ。赤星、貴様の初動で採取可能だった足跡・繊維・粉末の一部が失われた。探偵が自ら『証拠
Last Updated : 2025-11-11 Read more