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花の匂い 1

「スキよ…なおちゃん…なおちゃん…ン…」  坂名と直はいつものようにベッドでもつれ合っている。 「気持ち イイの…?」直が顔を上げいたずらに囁く。 「うん、うん、もっと舐めて!」  万華鏡のように互いにポーズを替え、夜の海に次々と堕ちてくる星々のような感動がふたりを襲う。 「ああ! 愛してるよ、坂名!!」  そんな風にいつもいっしょに湖の深い処の石になる。その石は何億年も前からそこに在り、淘汰されながらも輝くものだけを吸収してきた宝石だ。 「コーヒー…淹れるね」  恥じらう表情で髪をかき上げつつ、坂名はベビードールにショールは羽織りキッチンへ向かった。 「うん」  情熱的に坂名を愛する直は普段もの静かな男だ。 たばこのいい匂いがする…坂名は直の副流煙に酔いしれている… 「だ~め! せっかくやめたんでしょタバコ」「キャハ♪」煙にではない、直を味わっているのだ。 二人は約2年交際している。  3カ月後には結婚を控えているのだ。今は互いの家を行ったり来たりしデートを重ねている。坂名はドライブを好むので、直はよく緑の多い森や、キラキラとした海に坂名を連れ出してやる。 これからず~っとなおちゃんが帰って来てくれるだなんて夢みたい!! あたし一生分のラッキーを使い果たしちゃった感が否めないわ…ってなに言ってんのあたし! ここからがスタートじゃんね~Happyのっ。 なおちゃんが帰ってゆく時はいつもたまらなく淋しい。ヤダヤダってだだっ子してしまう。 「坂名ぁ? ...猛烈に今の企画立て込んでるからさ…今度のデートの時は泊まれると思うよ」 まっすぐな坂名の黒髪を愛おしそうになでる直…。 「はい」坂名はなおちゃんの愛情深さには敵わない。  編集社で中堅どころの36才の直、働き盛りだ。  一方の坂名31才はベテランのラウンジレディとして生計を立てている。  実は、直は直の上司と連れ立った先の、坂名の勤めるラウンジ「叶ゑ」で坂名と出逢った。  互いに一目惚れだった。  ちなみにすでに寿退店は決まっている。ママも非常に喜んでくれている。 初めて直のテーブルに着いた際、坂名はある事が気になった。 「あ…あのぅ、宮野さん」宮野は直の苗字だ。 「ン? なんですか実玲さん…」実玲は坂名
last updateLast Updated : 2025-10-30
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花の匂い 2

 それにしてもなんだかな~...猫の好物「さかな」が「最愛の女の名前」だなんて。  で、オレ、今は猫。笑えねーよ。「お仕事にいってくるね、スーちゃん!」  …ちょっぴり淋しいスーちゃん猫なおちゃん。 「みゃぅーん」それこそ猫なで声でしっぽをぴんと立て、玄関に立っている坂名の足元にまとわりつく。「早く帰ってくるよ、スーちゃん」坂名はスーちゃん抱き上げほおずり。 (ぅぅう~たまらん! 坂名! 今すぐベッドで愛し合いたいよぉ)  オス猫の切ない嘆きだ。そっと坂名はスーちゃんを玄関マットの上に下ろした。 「いってきまーす」  笑顔の残像が猫なおにいつまでも漂う。 (坂名、がんばり屋だから無理してないかな。だいじょうぶかな… それと...お・と・こ! 新しい彼氏なんかできちゃった日にゃあオラぁは泣くぜ?!! ライオンみたくな!) 猫なおの一日は、坂名が用意してくれているネコ用ベッドやソファの上でだいたい眠っているが、気が向けば時には部屋の中をうろつき、うっかりものの坂名が美味しいものを仕舞い忘れていないか探してみたり、坂名のベッドへ行き枕の匂いを嗅ぎうっとりする。オレは変態か! と自身にツッコミを入れつつも辞められない癖だ。  あとは爪とぎ器で爪を研いだり、う~んと思いきり伸びをしたり、なおちゃんはネコちゃんとしてそれなりに日常を満喫している。なんといったって坂名とずっと一緒だしな。  ただ…オレ、また坂名を置いて逝ってしまうのか…順番で言えばそうだろ。 可哀想だな、オレの坂名...なんとかしてやりたい。「ただいまー、スーちゃん!」坂名が帰ってまっ先にすることは、ドアを開けるや否や玄関に走り寄ってくるスーちゃんを抱きしめて、鼻先にちゅっとキスすることだ。  赤面するスーちゃん、でも三毛の毛に覆われているので坂名には見て取れないだろう。  坂名ぁ、オレこんなに悦んでるぜ! わかってんのー!? 猫なおはのどをゴロゴロと鳴らす。  そうして坂名が手洗いうがいをしようと、スーちゃんをおろそうとしても、爪を洋服にひっかけてまでスーちゃんは離れようとしない。 「にゃぁ!」拒否の声だ。 「あらあら、スーちゃん? うちへやって来てからずいぶんおしゃべりになったよねっ。かわいいスーちゃん」  ニコニコ顔にほだされて、しかたなく猫なおは爪を引っ込める。ス
last updateLast Updated : 2025-10-30
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