体育館に歓声が響いている。業界団体主催のフットサル大会。俺もゼッケンを着けてコートに立っていた。運動はそこそこだが、フットサルは得意じゃない。必死に走り、足元に転がってきたボールを、ただ前へと蹴り出した。苦し紛れだ。その先に、彼女──美咲がいた。俊敏にボールをトラップし、身体をひねって相手をかわす。一瞬で加速、一直線にゴールへ。──シュート!ネットが震え、体育館全体に歓声が広がった。仲間に囲まれ、満面の笑みでハイタッチする美咲。汗に濡れたセミロングの髪が揺れ、光に照らされた頬は健康的に輝いていた。・・・すげぇ。声には出さない。俺はもう息が切れ、肺が熱を持っている。膝に手を置き、俺はただ胸の奥で呟いた。──才色兼備、文武両道。まさに高嶺の花と言われるだけはある。だが、俺は、女というより、人としてアイツを尊敬していた。住む世界が違う。見上げる高みに君臨するエリート。悔しさすらなく、自然とそう思った。同期として後ろから応援するだけ。それが相応しいし、それでよかった。歓声の輪の中で、美咲が一瞬だけこちらを見る。ふん・・・やるじゃない。そんなニュアンスを感じた。気のせいだろう。あのゴールは美咲のプレーだ。誰がやってもきっとゴールしていたはずだ。*【6月20日(金曜日)19:47】──ブルブル懐かしい夢から俺を引きずり出したのは夢に出てきた張本人。──メッセージ1件。19時47分。美咲:今からアンタんち行くから!都合を聞かないこのやり取りにも、もう慣れた。「了解」と返す。待ち受けには、スーツ姿で腕を組む美咲の写真。アイツと付き合い始めたころに「写真ないか?」と言ったら、秒で送ってきた。後輩の彩葉に撮らせたらしい。ノリノリでポーズを決める二人の光景が目に浮かぶ。「さてと……最低限片付けるか」呟きつつ、ベッドから腰を上げる。今日は金曜日。週末だからと油断して、スーツを脱ぎ、そのままベッドで寝ていたようだ。散らばったジャケットとズボンを拾い上げ、クローゼットに仕舞う。机の上に置きっぱなしのコンビニ袋とビールの空き缶をまとめてゴミ箱へ。今週溜めたゴミを排除するのに10分もかからなかった。なんせ、8畳一間のワンルームだ。仕上げに掃除機をかければやることもない。
Last Updated : 2025-10-30 Read more