両親に手術台へ縛りつけられ、弟に腎臓を提供させられた のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 9

9 チャプター

第1話

弟の腎臓がんが末期になると、両親は僕に腎臓を提供しろと言った。僕は言った、「僕にはもう腎臓が一つしかない。移植したら死ぬ」と。しかし、両親は信じず、僕をそのまま手術台に縛りつけた。「たかが腎臓一つじゃないか。どうしてそんなに意地悪なんだ?」彼らは知らなかった。僕は嘘なんてついていなかった。あの時、父さんが交通事故に遭ったとき、僕はすでに片方の腎臓を差し出していたのだ。僕は死んだ。実の両親の手によって。……目を開けたとき、僕はすでに手術室の外にいた。父と母は落ち着かずに行ったり来たりし、「手術中」と灯る赤いランプを何度も見上げていた。病室の扉が開いた瞬間、二人は勢いよく駆け寄った。「先生、うちの息子はどうなりましたか!」「ご安心ください。手術は無事に終わりました。腎臓の拒絶反応も見られません。容体は安定しています」見知らぬ医師の顔を見たとき、僕はようやく悟った。両親が待っていたのは僕ではなかったのだ。苦笑がこぼれる。そうだ……物心ついたときから、彼らが僕を気にかけたことなんて一度もなかった。僕はいつだって、いらないほうの子だった。病室の奥から、弟の佐々木強(ささき つよし)がゆっくりとベッドに乗せられて出てきた。両親は涙を流しながら彼のそばに駆け寄った。「強、気分はどうだ?どこか痛くないか?」強は弱々しく首を振りながら言った。「父さん母さん、だいぶ楽になったよ。でも兄さんは……兄さんは大丈夫?僕のせいで怒ってないかな……」その言葉を聞いた瞬間、両親の嬉しそうだった表情が一瞬で曇り、不満そうに言った。「その話はもうやめて!たかが腎臓一つじゃない。あの子は自分の弟に一つ分けてあげることすら嫌がって!」「お前が死にかけてるっていうのに、言い訳ばかりして嘘までついて拒むとは!」「どうしてあんな冷たい子が生まれてきたんだか!もうあんな奴、うちの子じゃない!」彼らの罵声を聞きながら、僕の止まった心臓が再び裂けるように痛んだ。長年、僕がこの家に何を尽くそうと、彼らにとっては当然のことだった。そうでなければ「親不孝者」の烙印を押される。僕の体は震え、唇がわなないた。けれど、言葉は何ひとつ出てこなかった。強はこれらの言葉を聞くと、やはりにっこりと笑い、すぐにまた心配そ
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第2話

「痛い……」病室のベッドで、弟の強が苦しそうに身をよじった。そのわずかな動きに、椅子に座っていた両親はすぐさま立ち上がった。「どうした?どこか痛むのか?」強は首を振り、顔色の悪いまま言った。「大丈夫だよ、父さん母さん。僕のことはいいから、兄さんの様子を見てあげて。兄さん、いつも父さん母さんが自分を気にかけてくれないって言ってたから……」病み上がりでこの口だ。僕のことを言い出すたびに、両親の顔はますます険しくなる。父さんは立ち上がってコップに水を注ぎながら言った。「強、お前は本当に出来た子だ。だからあいつはつけ上がるばかりで、お前ばかり損をしてるんだ」母もすかさず同調した。「そうよ。私たちがまだ生きてるうちはいいけど、もしどちらかがいなくなったら、あなたはどうするの?」そう言い終えると、母は胸を詰まらせるようにして、ぽろぽろと涙をこぼした。強は、もともと両親の僕への不満を煽るためにそう言ったのだ。目的を果たした彼は、内心ほくそ笑みながらも、それを悟られぬよう弱々しく言葉を続けた。「父さん母さん、兄さんを責めないで。全部、僕の体が弱いせいなんだ。だから兄さんも嫌になっちゃったんだよ……」その芝居がかった態度に、天井から見下ろす僕は吐き気を覚えた。生きていた頃、何度も僕を挑発してきたくせに、死んだ後まで僕の名を汚すなんて。いつ僕が弟を嫌った?あんなにも陰で僕を悪く言われ続けても、僕は「いい兄」でいようと努めてきた。だけど、僕がどんなに説明しても、両親が僕を信じることは一度もなかった。時が経ち、僕も口を閉ざすことを覚えた。弟がまた自分を責め始めると、両親は慌てて慰め出した。「強、そんなこと言うもんじゃないよ。あなたが体弱いんだから、私たちが心配するのは当然だろ?あいつは心がねじ曲がってるんだよ。もし私たちが準備してなかったら、絶対にあなたに腎臓なんて渡さなかったわ。実の弟にもこんな仕打ちをするなんて、あの子に親孝行を期待するほうが間違いよ」その言葉を聞きながら、僕の胸の奥は冷たく沈んでいった。生活における大小さまざまな事柄を、全て僕が一手で切り盛りしてきた。恩に着せる気はなくても、それなりに苦労はしてきたつもりだった。それでも彼らの目には、僕は不孝者にしか映らないらしい。なん
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第3話

両親が寝食を忘れて世話を焼いたおかげで、手術が成功した強はすぐに退院した。退院の日、両親は口が開きっぱなしになるほど嬉しそうに忙しく動き回り、帽子を被せ、服を整え、些細なことでも手を抜かない。家に連れて帰られた後、僕はふと意識が遠くなるのを感じた。昔、両親は「兄なんだから弟を助けてやれ」と言って、強がまだ高校を出ていない頃に、僕の全財産をはたいてこの家を買い、彼に贈るよう強要した。リフォーム代も、後のローンも全部僕持ちだった。僕は馬鹿みたいに承知してしまい、家は僕が買ったのに、住む機会は指で数えるほどしかなかった。鍵ひとつだって渡されなかった。死ぬ直前まで、僕は安いアパートに住んでいて、だから陽奈との結婚も進まなかったのだ。僕自分の金で買ったソファに、両親と弟は涼しい顔で座っている。支払いをしたのが誰なのか、誰も思い出さない。テーブルの上のサクランボは、僕が果物屋の前を通っても手が出せなかった代物だ。彼らはそれを当たり前のようにおいしそうに頬張っている。一瞬にして現実が歪む。これが、貧乏だと泣いて、毎月給料の半分以上を家に送れと頼んでいた両親なのか。外で節約しろと小言を言いながら、僕の金で自分たちの望む生活をしている。胸の内が冷たくなり、言葉が出ない。強は母が差し出す果物を口に放り込みながら、心配そうに言った。「父さん、兄さんが退院したら、家に来て騒ぎを起こしたりしないかな。近所に見られたら格好悪いよ」服を片付けていた父はこれを聞き、ポケットの中の物を乱暴に取り出してテーブルに投げつけた。眉をひそめて言った。「あいつに何の面目があって騒ぐっていうんだ。お前が手術台でどれだけ待たされたと思ってる。責任を追及しないで済んだだけでも十分だ。怒る権利ぐらいあるだろう。強、安心しろ。一盛が帰ってきたら跪かせて謝らせてやる」「いつも病気を装って同情を買ってるだけだ。そんなの聞き飽きたよ」彼らの僕への批判を聞きながら、滑稽でさえある気分になった。僕が病を装うって?家族のために少しでも多く給料を稼ぐために、定時で帰ったことなんてほとんどなかった。毎日残業し、首も腰も壊れるほど働いたのは全部、彼らのためだ。結局、良いことなど一つもなく、非難ばかりを浴びせられた。腹が立って、かえって笑いが込み
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第4話

陽奈はいったん絶句したが、すぐに抑えきれない怒りが噴き出した。「いい加減にしてよ!言ったでしょ、一盛は死んだの!死んだって言ってるのが分からないの!?」その声を聞いた両親は、怒りに燃えていた顔を一瞬にして凍りつかせた。陽奈の声音には、冗談めかしたところなど一つもない。それに、僕の電話がずっと繋がらないというのも、どう考えてもおかしい話だった。二人は顔を見合わせ、互いの目の奥にわずかな狼狽を見つけたが、それでも強がるように言い返した。「何を言ってるの、あんた!ちょっと喧嘩したくらいで、死んだなんて冗談が過ぎるわよ!どこにいるの、早く帰らせなさい!」「腎臓のことで怒ってるだけなんだろう?一盛に言ってくれ、ちゃんとお金を持って戻ってきたら、この件は水に流してやるってな!」両親の言葉がどんどん厚かましくなっていくのを聞き、陽奈は思わず冷たい笑いを漏らした。僕は傍らでその様子を見ながら、胸の奥が締めつけられるようだった。どんなに歪んでいても、僕はまだこの二人が僕を愛してくれていると、どこかで信じていた。だが今ようやく悟った。彼らが愛していたのは、僕という人間ではなく、僕の稼ぐ金と、僕がもたらす安心だったのだ。涙が込み上げ、言葉も出なかった。電話口で陽奈の声を聞いた強は、すぐに気弱そうな顔を作って言った。「陽奈さん、全部僕が悪いんです。こんな病気になって、兄さんに迷惑かけて……。両親を責めないでください……」陽奈は怒りに震える声で吐き捨てた。「あんたたち一家って、本当に笑わせるわね。生きてるときはあの人の価値を絞り取るだけ絞って、死んだ後までまだ吸い取ろうとするなんて……まるで吸血鬼じゃない!」思いもよらぬその罵声に、両親は顔を真っ赤にして怒鳴り返した。「これはうちの家の問題よ!あんたみたいな外の人間に口を出される筋合いはない!早く電話代わって!今すぐ!」「逃げたって無駄だ!親子の縁は切れないんだから、あの子は一生私たちから逃げられないんだぞ!」その時、陽奈はふっと黙り込んだ。異様な沈黙に、部屋の空気が重くなる。さっきまで怒号を浴びせていたのに、なぜ突然口を閉ざしたのか?だが僕には分かった。陽奈は僕のとんでもない家族に対し、もう呆れて言葉を失ったのだ。深くため息をつき、僕の死で疲れ果て、
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第5話

「どうして……どうしてそんなことに?ただの、取るに足らない手術じゃなかったの?」母は狂ったように父の胸倉を掴み、激しく揺さぶった。涙と鼻水がぐちゃぐちゃに混じり、顔中を覆っている。だが僕の心には、もはや一滴の波紋も生まれなかった。母が泣いているのは僕のためじゃない。彼女は、これから長く続くはずだった「定期的な収入源」を失ったことを嘆いているのだ。安定した生活を保証してくれる存在がいなくなったことを悲しんでいるだけだ。ここ数日、彼らと過ごすうちに、その本性はもう嫌というほど分かっていた。父もまた顔面蒼白で、電話の向こうに小さく「すみません」と呟いてから切った。そのまま椅子に腰を落とし、虚ろな目で呟いた。「死んだ……?どうして死んだんだ……?」電話越しの医師の言葉を、弟の強もはっきりと聞いていた。頭がくらくらし、しばらく呼吸すら忘れる。――兄が死んだら、もう誰が金を出してくれる?年末には車を買い替える予定だったのに……「父さん、母さん、どうしよう……これからどうすればいいの?兄さんが死んじゃったら、この家のローンは誰が払うの?」その言葉で、泣き崩れていた母がぴたりと泣き止んだ。まるで夢から覚めたかのように顔を上げ、叫んだ。「そうよ!家のこと!病院で死んだなんて、あんな元気だったのにおかしいじゃない! 絶対に病院のミスよ!」その瞬間、二人の目が怪しく光った。まるで溺れかけていた人間が、目の前に流れてきた木の破片にすがりつくように。強はあわてて立ち上がり、眉を寄せて言った。「父さん、母さん、早く病院に行って抗議しよう!兄さんがあそこで死んだのは絶対に病院の責任だよ!兄さんだって、きっと天国から僕たちに『真実を追求しろ』って言ってるはずだ!どう考えても病院側が、僕たちに賠償金を払うべきだよ!しかも、多額のね!」結局、彼が熱く語ったすべての言葉は、最後の「賠償金」のためだった。僕はもう死んでいるのに、それでもまだ金を生む道具として利用され続けるのか。思わず苦笑が漏れた……どうしてこんなにも愚かだったのだろう。どうして何度も、彼らを信じてしまったのだろう。金という言葉が出た途端、父の濁った瞳に再び光が戻った。顎に手を当てながらうなずき、力強く言い放った。「そうだ、病院は一盛を殺した
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第6話

病院は相変わらず慌ただしく、毎日入退院を繰り返す者が多すぎて、医師も看護師も誰が誰だか覚えていられない。そのため三人が病院に入ってきても、最初は誰の目にも止まらなかった。人混みを見下ろしながら、父はバッグから何かを取り出して固く握りしめ、母に合図を送った。母は合図を理解すると覚悟を決めるように地面に座り込み、床を叩きながら泣き始めた。「この悪徳病院め、うちの息子はただの小さな手術のはずだったのに、どうして死んだんだ!きっとあんたたちの医者の腕が未熟だから、うちの子は死んだんだ!賠償しろ、払わないならここで死んでやる!」そう言って、さらに大声で泣き叫び始めた。そのとき父は、さっき取り出していた物を見せた。三人が急いで作ってきた遺影写真である。父は写真を抱えてロビーに跪き、写真にしがみついて泣き喚いた。「わが息子が!ひどい最期だ!父は必ず真実を追求してやる!」その一連の演技が始まると、病院の医師や看護師はもちろん、急いで診察を受けようとしていた他の患者たちもいつのまにか足を止め、興味深そうに輪を作って三人を取り囲んだ。「あれは何をしてるんだ?」「聞いてないか、人が死んだんだと。家族が説明を求めに来たんだ」「写真を見ると、あの若者、本当に若い。惜しいことだ」「しかし、何もかも話し合って解決できないのか、なぜこんな見苦しい真似をする?」空中からそれを見下ろす僕は、顔から火が出るほど恥ずかしく、耳を塞ぎたくなる思いだった。特に、群衆が僕の写真を指差して噂するのを見て、思わず写真を奪い取って床に投げ捨てたくなるほど憤った。しかし三人は周囲の視線など気にも留めないかのように、叫び声をさらに大きくしていた。人だかりはますます大きくなり、看護師は収拾がつかなくなって上階へ助っ人を呼びに走った。現場の雰囲気は極度に混乱し、警備員が人混みをかき分けてようやく中に入ってきた。彼は必死に両手で地上の両親を一人ずつ引き起こしながら言った。「一体何をされてるんですか。話があるなら、落ち着いて話してください!」警備員が制すれば、父は手を払って怒鳴った。「出てこい!責任者を呼べ!どうして俺の息子が死ななきゃならなかったんだ!」そう言って、またその場に座り込み、地面でのたうち回った。警備員は途方に暮れ、助けを求める
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第7話

書類が机に乱暴に叩きつけられると、副院長は怒りを抑えつつ彼らを指差して言った。「これはあなた方の息子さんの詳細な診療記録です。これを見れば、どうして腎摘出の手術で命を落としたのか分かるはず……」父は軽蔑を浮かべながら書類を手に取り、めくりながら冷ややかに言った。「病院が最初から病歴に手を加えたに違いない。我々をバカにしているのか」細部をしげしげと眺め、ある一行を見つけた途端に父の顔に得意げな笑みが浮かんだ。そこにはこう書かれていた――【患者は腎臓が片方しか残っておらず、強行すれば生命の危険がある。】「やっぱり胡散臭いぞ!どうしてあいつに腎臓が一つしかないんだ!嘘をつくなら、もっと上手い嘘をつけ!」父はまるで決定的な証拠を掴んだかのようにほくそ笑み、隣に立つ母をちらりと見た。両親はまさに高額な賠償金が目の前に舞い込むのを見たかのようだった。だが、誰の目にも見えないところで、強の額に冷や汗が滲んだ。副院長は眉をひそめ、机を一度強く叩いて立ち上がり、父を指さして声を荒げた。「これは記録に残ってる事実です。血の通わないことを言ってはいけません!ここには明確に書かれています――昨年の交通事故で腎臓に損傷を受けた、あなたを救うために佐々木一盛様はご自身の腎臓を提供されたんです。だから彼は腎臓が一つしか残っていなかったんです!」その言葉が落ちると、父はその場で呆然とした。昨年の事故の夜、父は意識を失い重篤な状態で、医師は適合する腎が見つからなければ助からないと告げていた。最後の瞬間に、末の子である強が自分の腎を差し出したからこそ父は一命を取り留めた。その恩義を両親はずっと胸に抱えていたのだ。だが副院長が示した「別の経緯」を聞いたとき、父は急に振り向いて強を睨みつけた。「強、一体どういうつもりだ?お前が提供したんじゃなかったのか?」いきなり真っ向から問い詰められ、強は口ごもりながらようやく言った。「ぼ、僕が……僕が提供したんだ……」副院長は嘘の弁解に付き合うつもりはなく、憤りをぶつけた。「あなたが提供したというのですか?それならば、どうしてあなたの体には腎臓が二つともあるのでしょうか?あなたは兄さんが手術を受けることを知っていたはずです。書類にはあなたの署名もあります。しかもあなたはわざわざ彼に
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第8話

警察の姿を見た瞬間、強は反射的に扉へ駆け出そうとした。だが、彼のひょろりとした身体では訓練を受けた警察たちに敵うはずもなく、数秒と経たぬうちに取り押さえられた。強は赤く充血した目で陽奈を睨みつけ、怒鳴った。「このアマ!……何の権利があって僕を捕まえるんだ!離せ!」その言葉を聞くや否や、陽奈は一歩踏み出し、ためらいなく彼の頬を二度打った。乾いた音が室内に響き、強の視界が一瞬ぐらりと揺れた。言葉を失った彼を見下ろしながら、陽奈は吐き気を堪えるようにして、呆然と立ち尽くす両親へ向き直った。「強は最初から一盛が死ぬことを知ってたのよ。彼は臓器売買の連中と繋がっていて、葬儀場で待ち構えてた。もし私が駆けつけるのがもう少し遅かったら、一盛の遺体はもうバラバラになってたわ」父は愕然としたまま呟いた。「そんなはずはない……そんなことあるわけが……強がそんなことをするはずが……」自分の身体の一部が死んだ長男から移植されたものだと気づいた途端、父の顔が苦悶に歪む。自らの手でその息子を手術台へ送り、結果的に死に追いやった――その事実が胸を締めつけた。母もまた、雷に打たれたように首を振り続けた。「嘘よ!これは全部作り話!あなたたちグルになって私たちを騙してる!」陽奈は冷笑を浮かべ、なおも容赦なく言葉を突きつけた。「実際には、より適合する腎臓提供者が見つかっていたの。でも強はその提供を拒否して、どうしても一盛の腎臓を使うように要求したのよ」三人の表情がみるみる青ざめていくのを見て、陽奈の唇が冷たく歪んだ。「分かってる?それは故意殺人にあたるの」そして視線を両親へと向けた。「それから――あなたたちも、彼を縛って手術台に乗せた。その行為には法的責任が伴うのよ」陽奈は最後にかすかな笑みを浮かべた。その笑顔には怨嗟と悲哀が入り混じっていた。父が最初に我に返り、怒りのままに強の頬を打った。「このクソ野郎!お前の兄さんがどれほどお前を思っていたか分かってるのか!なぜそんなことを……」甘やかされて育った強は、一撃で顔を腫らし、怨嗟に満ちた目で睨み返した。「なぜって?全部お前らが無能だからだろ!僕にもっといい生活を与えられなかったくせに!隠してる金があるのも知ってる!全部一盛のために取ってあるんだろ!あの金は僕の
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第9話

その後、陽奈の徹底した証拠収集によって、強は殺人未遂および人体臓器売買の罪で併合刑となり、無期懲役を言い渡された。一方、両親は救急処置によって命は取り留めたものの、高齢で、受けた衝撃があまりに強すぎたせいで、結局脳梗塞を発症し植物状態となった。意識こそ微かに残っていたが、生ける屍と変わらなかった。親戚や友人たちは、彼らのしてきたおぞましい行いを知ると、誰一人として面倒を見ようとしなかった。入院費の滞納で病院から追い出されたあと、彼らは自宅に戻され、たまに近所の人が様子を見に来ては、命が続いていることを確認するためだけに少し食べ物を口に入れてやる程度だった。強の判決が下ったその日、陽奈は二人の様子を見に家を訪ねた。寝台に横たわる二人の体は、排泄物にまみれ、部屋中に鼻を突くような悪臭が漂っていた。身体中に褥瘡ができ、見るも無惨な姿だった。陽奈が判決書を見せると、二人の濁った目がわずかに動き、その後、ぽろりと一筋の涙がこぼれ落ちた。それを見て、陽奈は冷ややかに笑い声を漏らした。「もし一盛がまだ生きていたら、あなたたちはこんな最期を迎えずに済んだでしょうね。でもこれは、すべてあなたたち自身の報いよ」そう言い捨て、彼女は一切の情けを見せずに立ち去った。僕の名前が出た瞬間、二人の目が見開かれ、瞳孔が激しく収縮した。翌日、近所の人が様子を見に行ったときには、すでに二人とも息絶えていた。手には、僕達が幼い頃に家族全員で撮った一枚の写真を、強く握りしめていたという。おそらく、最期の瞬間になってようやく、自分たちの過ちを悔い、かつての温かな家庭を思い出したのだろう。だが、それもすべてあまりに遅すぎた。二人が息を引き取った瞬間、僕はようやくこの身の束縛から解き放たれた。これで、転生へと旅立つことができる。長年暮らしてきたこの家を見つめても、もはや何の未練もなかった。ただ願うのは、次の人生では――母は慈しみ深く、子は孝行で、兄弟が仲睦まじい、本当の意味での良い家庭に生まれ、平穏な一生を終えられますように。
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