16歳の誕生日。私は自分へのご褒美に、一番おいしいケーキを買ったんだ。でもその日、ケーキに手をつける前に、喧嘩ばかりしていた両親は私の目の前で離婚届に判を押した。だから結婚した日、私は夫の松田宏樹(まつだ ひろき)に、「もし離婚したくなったら、誕生日ケーキを贈ってくれればわかるからね」と言った。宏樹は私を抱きしめて、「安心して。もう、うちで『誕生日』なんて言葉は二度と出てこないから」と言ってくれた。7年後、宏樹の誕生日に、若い新入社員が内緒で誕生パーティーを企画した。しかし、宏樹は、彼女の顔をひっぱたいて、会社から追い出してしまった。あの日、私はこの人を選んで本当に良かったって、心の底から思ったんだ。そして3ヶ月後、私の誕生日に、追い出されたはずの若い新入社員が、いつの間にか夫の秘書になっているのを、私はその時初めて気づいた。彼女は、私のところにわざわざ特別な誕生日ケーキを届けてきた。私が電話で宏樹に問いただすと、彼はただ冷たくこう言った。「遥も良かれと思ってやったことなんだ。水を差すようなことはするなよ」私は一瞬、言葉を失って、そのまま電話を切った。やっぱり、両親は間違っていなかったんだ。誕生日ケーキっていうのは、離婚届と一緒に味わうものなんだって、私はやっとわかった。……遥は誕生日ケーキと妊娠検査の結果をテーブルに置くと、勝ち誇ったように帰っていった。検査結果に書かれた妊娠週数を見て、私は黙り込んでしまった。3ヶ月前、夫の宏樹は会社の新薬開発のため、私に仕事を優先して中絶してくれと頼んだ。私は、その言葉に従った。まさか3ヶ月前、彼はすでに別の女との間に子供を作っていた。妊娠12週。私が新薬開発のために会社で夜遅くまで働いている間、宏樹は遥を家に連れ込んでいたんだ。ソファ、トイレ、ベランダ……そして、私たちの結婚式の写真の前でさえ、二人は体を重ねていた。かつては温かい場所だったはずのこの家が、今は吐き気がするほどおぞましく感じられた。ちょうどその時、玄関の電気がついて、お酒の匂いをまとった宏樹がドアを開けて入ってきた。ダイニングテーブルの上のケーキを見ると、彼は少し眉をひそめた。でもすぐに、私の後ろから抱きしめてきた。彼はネックレスを取り出して、私の目の前に差し出した。声は
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