かつて私だけが、都で唯一、皇太子を恐れぬ女だと言われていた。そして、あの日、公の場で彼は宣言した。「必ずや汝を皇太子妃として迎へ、この世にては唯だ汝ひとりを妻とする」と。しかし、江南へ巡視に出た折、彼は脳の病気を患った花魁に出会った。彼女が「この方以外には嫁がない」と言い張った結果、彼は進んでその花魁の身請け金を出し、哀れな女の夢を叶えてやった。そして自ら皇帝陛下に奏上し、私との離縁を願い出て、こう言い放った。「汝には、永遠にこの家の主となる資格はない」だから私は、離縁状に一瞬の迷いもなく指印を押し、静かに差し出した。「もう、ご署名は済んでおります」これで、私たちは解き放たれ、二度と振り返らずに歩み去るだけなのだ。……離縁状を書き終えた夜、私は一晩中、ぼうっと座り続けていた。今日を境に、私はもう宋懐景(そう かいけい)の妻ではない。そして彼はようやく、柳如煙(りゅう じょえん)の夢を叶え、花魁を皇太子妃として迎え入れる。……両方にとって喜ぶことだ。きいっ、と戸が音を立てて開く。宋懐景が部屋へ入ってきて、気まずそうに口を開いた。「すまなかった、歳晩(さいばん)。昨日の言葉は……気にしないでくれ」私は答えず、ただ静かに視線をそらした。気にしていないわけがない。あの冷酷な言葉は、とっくに私の心を木端微塵に砕いていたのだ。返事のない私に、彼はさして気にも留めない様子で、袖から錦の小箱を取り出し、机に置いた。中には、蘭の花をかたどった玉佩。――昔なら、私が落ち込むたび、彼はこんな風に贈り物を持ってきてくれた。けれど今、私の胸には微塵の喜びも湧いてこない。拒もうとしたその時、宋懐景が一方的に言葉を継いだ。「しばらくは……少し我慢してくれ。如煙は良い娘だ。落ち着いた頃には、必ず汝も労わるから」思わず、嗤うような息が漏れた。私の胸の奥底は冷え切っている。――そうね。柳如煙は良い娘だ。だからこそ、都に戻って数日も経たぬうちに、私を皇太子妃の座から引きずり落とそうとする。これ以上聞くに堪えず、私はそっと目を伏せた。「……疲れました。どうかお引き取りを」宋懐景が眉をひそめ、何か言いかけようとしたその時――甘ったるくて息が詰まるような香りと共に、もう一人が部屋へ入
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