Home / その他 / ママを辞める時 / Chapter 11 - Chapter 20

All Chapters of ママを辞める時: Chapter 11 - Chapter 20

34 Chapters

11話

「マサ、こっちに向かってるって」 「そうですか……。すんません、充電器借りていいっすか? 充電切れてて」 「取りに行くのめんどいし、モバイルバッテリーでいい?」 法明はポケットからモバイルバッテリーを出し、敏貴の前に置いた。 「あざっす」 モバイルバッテリーを差し込み、テーブルの隅に置く。 「そう言えば、なんであいつについて、あんなに詳しいんすか? もしかして、法明さんも、施設育ちとか?」 「いや、俺は一般仮定で何不自由なく暮らしたよ。この店も、父親から譲り受けたものだしな。マサとは腐れ縁ってもあるけど、あいつ、嘘も隠し事も出来ないんだよ。良く言えば真っ直ぐ。悪く言えば猪突猛進。ことあるごとに、俺に相談しに来てたから、知ってるってだけ」 「確かに……。あ、けど……」 「けど?」 「いえ……」 毎週火曜日に出かけていることについて聞こうとしたが、雅紀本人に聞こうと思い、口を噤んだ。小さな沈黙と気まずさが訪れる。 「そーだ、写真見る? マサが若い頃の」 「え? あぁ、見たい!」 「ちょい待ち」 法明は席を外す。きっとアルバムを取りに、自宅スペースである2階に行ったのだろう。 「充電器はめんどくて、アルバムはめんどくないのか……」 ふと思い出し、スマホを見る。充電3%。モバイルバッテリー自体、あまり残ってなかったようで、空になっていた。 「お待たせ。ついでに充電器も取ってきた。モバイルバッテリー、あんまないっしょ」 法明は充電器を手渡し、アルバムを開いて見せてくれた。まだ学生と思われる法明と雅紀が、桜の下で話をしている。 「髪、短い……」「マサが髪を伸ばしたのは、お前が来てからだからな」「なんでまた……」「お前が……」「敏貴!」 ドアが開き、息を切らせ、汗だくの雅紀が店内に駆け込む。険しい顔は敏貴を見た途端、安堵に変わった。「敏貴……! ごめん、ごめんね……」 雅紀は痛いくらいに敏貴を抱きしめる。いつもなら嫌悪で突き飛ばすが、汗の匂いも、強過ぎる包容も心地良い。「いや、俺こそ……」 「とりあえず、座れよ」 法明に言われ、雅紀は敏貴の隣に座る。「じゃ、あとはふたりで。帰る時に声かけてくれよ」法明はテーブルに雅紀の分のスワンシューとグラスを置くと、2階に行った。
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

12話

「んーと、どこから話そう……。というか、法明からどこまで聞いた?」 「あんたが、施設育ちってことと、俺はその施設の女の子ってこと。あと、父親があんたじゃないかもって」 「そっか……。あーしね、敏貴があーしの子じゃなくてもいいって思って引き取ったの」 「なんで? 自分の子じゃなきゃ、嫌だと思うけど」 「普通はそう思うのかもね。けど、ひとりで寂しかったし、何より、頼られて嬉しかった」 「頼られて……?」 「あ、アルバムあるじゃん」 雅紀はアルバムをめくり、1枚の写真を指差した。そこには若い清楚系の女性と雅紀が写っている。 「この人が、敏貴のお母さん。女々しいって言われるかもだけど、遊びって分かってても、施設を出て会わなくなっても、弥子ちゃんが……敏貴のお母さんのことが、忘れらんなかった」 愛おしそうな眼差しで、写真の女性を指先で撫でる。 「母親の代わりに引き取ったってことか?」 「違う違う。家族ってものに憧れあってさ、それが1番の理由。それと、弥子ちゃんが頼ってくれたのが嬉しかったんだよ。きっと、利用してたんだろうけど」 雅紀は苦笑する。敏貴にはその顔が寂しそうに見えて、胸が締め付けられた。 「戸籍のこと、ホントごめん。本当はすぐにDNA鑑定して、はっきりさせればよかったんだけど、バカだから思いつかなくて。後から法明に言われてはいたんだけど、慣れない仕事と子育てで、それどころじゃなくて……」「法明さんから聞いたけど、ハタチの頃にいきなり俺を押し付けられたんじゃ、仕方ないって、今は思う……」「ありがとう、そう言ってもらえると、少し救われる……」 雅紀は安堵したように微笑み、ルイボスティーを半分飲み干し、息を吐く。「それはいいんだけどさ、なんでママなわけ? パパとか父さんじゃなく」「え? あぁ……。泣かれちゃったから……」 雅紀は再びアルバムをめくる。開かれたページの写真に写る雅紀は、ピアスがたくさんついていて、V系バンドのようにセットした髪は金髪で、どことなく厳つさがある。「当時、ホストやっててさ、こんな見た目だったから、怖かったんだろうね。で、法明があーしに、罰ゲームの女装用のウィッグを被せたら泣きやんで……。 それに、マサって呼ばせようとしてるのに、ママ、ママっていうから、もうママでいいかなって」「いや、そこは粘れよ
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

13話

「別に、トランスジェンダーとかじゃないんだけどさ、嬉しかったんだよ。ママって呼ばれるの」 「なんで?」 「ほら、あーし女顔だし、華奢だし、自分の容姿がコンプレックスだった。だから、無理やり男らしく振る舞ってたけど、疲れててさ。ママって呼ばれた時、無理に男らしくしなくていいやって思えたの」 返す言葉が見つからず、敏貴は黙って耳を傾ける。まだ話していいと悟った雅紀は、口を開く。 「小学生の頃、ピンクのエプロンくれたじゃない? それに、『世界一可愛いママが大好き』って言われて、舞い上がっちゃってたのかもねぇ。高校生のあんたからしちゃ、男のママなんて嫌よね」 「うん、まぁ……」 「あはは、ストレートなアンサーありがとう。ママ辞めて、父親になっても、いい?」 「もちろん。ていうか、俺のせいで、なんかごめん……?」 覚えていないとはいえ、自分で雅紀をママにしておいて、散々罵っていた罪悪感と、脳が処理しきれていないせいで、疑問符つきの謝罪になってしまった。 「いいんだよ、気にすんな。俺も楽しかったし」 いつもより低い声と、1人称の変化に目を見開く。女顔は相変わらずだが、一気に男性らしくなった雅紀に、少し戸惑う。 「それ、地声?」 「うん、地声。あーけど、無理してあの声出してたわけじゃないから、謝んなよ?」 「お、おう……。そうだ、ひとつ、聞きたいんだけどさ……」 「ん?」 「火曜日さ……。何してんの?」 敏貴の問に、雅紀は数秒ぽかんとしたあと、大声で笑い転げた。「な、何がおかしいんだよ!」「あはは、ごめん。そういえばあんた、香水くせーって言ってたもんな。あはは! 香水って!」「わ、笑ってないで、何してんのか言えよ! 女がいたって、俺は……別に……」 言い淀むと、雅紀の指先が敏貴の額をつついた。「ばぁか、女なんていないよ」「え、嘘!?」「ここ、火曜日が定休日でしょ? だから、法明にストレス解消に付き合ってもらってたんだよ。煙草バカスカ吸いながら愚痴って、カラオケ行って、ってのがいつもの流れ。敏貴が香水って思ってたのは、匂い消しのスプレーの匂いだよ」「匂い消し……」「そ。子供に煙草の匂い嗅がせたくないからさ」「はは……なんだ……」 力が抜け、笑いがこみ上げてくる。笑っているのに、安堵の涙が零れて、情緒
last updateLast Updated : 2025-11-27
Read more

14話

「はぁ……。気づかないうちに、気負ってたのかもなぁ……。敏貴、しばらく俺のこと女って思い込んでたし」 「仕方ないだろ、髪長いし……。声だって、女みたいな声だし」 「変声期来なかったからなー……。この声も、酒で潰しまくってこうなったけど、正直、ちょっと高めの声出す方が楽」 雅紀は喉をさすり、苦笑する。 「なんだよ、それ……」 「はは、なんだろうねぇ……。俺にも分かんね」 「そうかよ」 投げやりな返答をしながらも、敏貴は安堵していた。心の中にあったドス黒い泥水を出し切ったような気持ちだ。 「話したいことは他にも色々あるけど、ずっとここにいるわけにもいかないし、帰るか。法明に声かけてくるから、待ってて」 「あ、じゃあこれ返しといて」 雅紀に借りていた充電器を手渡す。 「電話に出なかったのは、そういうことか……」 雅紀は安堵の笑みを浮かべると、2階にいる法明の元へ行った。 帰宅後、雅紀はルイボスティーを出す。 「ありがと」 ルイボスティーをひと口飲み、法明から聞いた話を思い出す。自分のためにルイボスティーを用意してくれていると。 「あの、さ……」 「ん?」 「ルイボスティー、俺のためって、本当?」 雅紀は一瞬キョトンとし、恥ずかしそうに笑った。 「おしゃべりだな、法明は。そうだよ。女の子に色々聞いてさ」 「女の子?」 「ホストやってたって言ったろ。その時に色々聞いたってだけ」「あぁ……」「色々聞きたいことはあるんだろうけど、明日にしよう。ちょうど土曜だし、バイトも休みだろ?」「分かった」「今日は外食でいい? なんか、作る元気ないや」「うん……」「少しゆっくりしたら、行こっか」 その日、ふたりは夕飯も風呂も、外で済ませた。隠し続けていた過去と向き合ったふたりには、それが精一杯だった。 翌朝、ふたりは朝食を終えると、いつも通りルイボスティーを淹れ、パティスリーブーシェの焼き菓子を出して、話を始めた。「何から話そう……とりあえず、全部でいい?」「適当だなー……。ま、いいけど。昨日聞いた話、全部理解できたってわけじゃないし」「あはは、だよな。んじゃ、話しますか。そうだなぁ……。あれは俺が16の頃だった……」
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more

15話

時は遡り、雅紀が高校2年生になりたての春。施設に新しい職員が来た。名前は風間弥子。24歳の可愛らしい女性だ。 「君が雅紀くん? 聞いたよ。女の子みたいって言われて、そのたびに断ってるから、ずっとここにいるって」 初対面の第一声は、最悪だった。 「普通に男らしいのにね」 第二声で、弥子の印象はマイナスから一気に100%になった。ある程度経験を積めば、おべっかだと気づくだろう。 だが雅紀は高校2年生。ずっと言われたかった言葉を与えられ、有頂天になっていた。 弥子は他にも、雅紀が欲しい言葉をたくさんくれた。重いものを持てば「力持ちでカッコいい」と言い、道路側を歩けば「気遣いが出来て素敵」と言う。 極めつけは「いいお父さんになりそう」だ。家族というものに憧れを抱き、女性に耐性のない雅紀は、脈アリだと思い違いをした。 ボディタッチも多く、いつも頼ってくる小動物系の女性を嫌う男など、そうはいない。 雅紀はコロッと恋に落ち、弥子の言うがまま、体の関係まで行った。大人の女性との関係は、男子高生にとって最高のステータスでもあったから、弥子が他にも男がいると知っても、強く出れなかった。 何より、弥子に嫌われるのが怖かった。 「なぁ、法明……。俺、どうすればいい?」 「ヤリマンビッチなんか捨てちまえ。以上」 ふたりは何度もこの会話を繰り返した。 法明の言ってることは最もだと頭では分かっているが、好きになると理屈でものを考えることが出来なくなる。なるほど、確かに恋をすると、人は盲目になるらしい。「どうせお前より体の相性がいいか、金がある男見つけたら、捨てられるぞ」「んなわけ……」 ”ない”とは否定出来なかった。というのも、学校から帰る途中、弥子が知らない男と楽しそうに歩いているのを見かけたからだ。 法明の言うことは見事に的中し、弥子はどこかの若社長と結婚し、施設を辞めた。最も、彼女が結婚したのは、雅紀がケジメのために施設を出たあと、弥子の連絡先を消してからの話ではあるが。
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more

16話

施設を出た雅紀は、ホストになった。 理由はふたつ。容姿のコンプレックスを解消。そして、弥子を忘れること。先輩方にメイクやヘアセットなどを教わり、より男らしく見せ、浴びるほど酒を飲んで、数多の女性達と交流し、女を見る目を鍛えた。 結果、弥子への想いは1年で薄れてきた。 2年も経つと、思い出す回数は月に一度あるかないかで、ほとんど忘れていた。 そんな矢先の冬、アパートに帰ると、小さな子供が雅紀の部屋のドアノブにくくりつけられていた。子供はオーバーオールを着ていて、肩紐とドアノブを毛糸で繋がれていた。 「は? 子供!? しかもほぼ赤ちゃんじゃん!」 雅紀は慌ててドアを開けると、部屋の中にあるハサミで毛糸を切り、子供を保護した。手がかりがないかと子供が持っているポシェットを開けると、200万円と手紙が入っていた。 ”雅紀くん久しぶり。この子は敏貴。あなたの子です。あなたにあげます。養育費200万払ってあげるから、あとはよろしく♡” 「ざっけんな!」 怒りのあまり、手紙を握り、その拳をテーブルに叩きつける。 「びええええっ!!!」 雅紀の怒声に驚いた敏貴は、火がつくように泣き出した。 「わああぁ! ごめんごめん!」 抱き上げてあやすも、泣き止む様子はない。 「施設のチビ達は、これで泣きなんだのにな……」 どうしたものかと考えあぐねいていると、法明から電話がかかってきた。 「もしもし、マサ? え、なんかうるさっ!」 「子供が部屋の前に置き去りにされてたんだよ。俺の子らしい……」 「はぁ!? どういうことだ?」 「弥子だよ……。子供が持ってるポシェットに、手紙と養育費入ってたんだけど、泣きやまなくてさ……」 「マジか、あのビッチ……。やりやがったな……」 法明の声には、怒りが滲んでいる。不謹慎かもしれないが、自分のために怒ってくれる友人のありがたさを実感した。 「その子、何歳?」 「え、何歳だろ……」 忌々しいが、先程の手紙を開くと、もう1枚紙があった。そこには敏貴の名前、血液型、アレルギーがないこと、そして生年月日が書いてある。 「2歳」 「2歳かー……。なんかいる? 今からそっち行く予定だし」 「助かる! 幼児食とオムツ。あと、おしり拭き」「OK、とりあえず適当に買ってみるわ」 通話が終
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more

17話

20分もすると、法明が大きな荷物を抱えて戻ってきた。その中には、明らかに子供向けではないガラクタもある。 その頃には敏貴も泣き疲れて眠っていた。 「ありがとな。で、その余計な荷物は?」 「来週の忘年会、お前も来るだろ? 会場の居酒屋、お前んちの近くだから、置かせてくれよ」 「ったくよ……。あ、オムツとかいくらした?」 「こっから計算してくれ」 法明はめんどくさそうにレシートを見せる。どうやらドラッグストアで買ってきたらしい。頼んでいたものは、ざっと5000円ほど。 「ほれ、お金」 ポシェットから1万円を出し、法明に手渡す。 「多くね?」 「細かいのないし、俺の金じゃないし」 「どういうことだよ?」 「養育費200万入ってた」 「にっ……!?」 その額に、法明は目を白黒させる。 「一気に200万出すのはすげーけど、養育費にしちゃ少ねーな。てか、お前の子って確信あんのか? 別の男の子かもしんねーだろ」 「まぁ……そうだけど……。でも、弥子は俺を頼ったんだ。それに、この子を施設に入れたくねぇ……」 産まれてすぐ施設に入れられた雅紀は、施設で暮らすことの大変さや寂しさを、誰よりも理解していた。あんな思いをする子は、本来ならひとりもいてはいけないのだ。 「利用されてるだけだろ」 「分かってる。けど、頼ってるのも事実だ。どうでもよかったら、俺のことなんて忘れてんだろ」 「はぁ……なんでもいいけど、DNA鑑定はしとけよ」 「そう、だな……」 敏貴は目を覚ますと、雅紀の顔を見るなり泣き出した。「びええぇ! 怖い! 怖い!」「えぇ……」「ぎゃはは、お前ピアスバチバチで厳ついし、チンピラみたいだもんなー。これでも被っとけ」「うお!?」 法明は紙袋からウィッグを出すと、雅紀に被せた。すると不思議なことに、敏貴はピタリと泣きやんだ。「マジか……」「良かったじゃん。にしても、マサは女顔だから、似合うなぁ」「うっせ」「マ、マ?」 たどたどしい敏貴の言葉に、ふたりは顔を見合わせる。法明は爆笑し、雅紀は困惑した。当然だ。雅紀はママではなくパパなのだから。
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more

18話

「ママじゃなくて、マサ。言ってみ?」 「ママ! ママ! かぁいい!」 「あはは、可愛いってよ。良かったじゃん」 「お前なぁ……」 法明を睨むと、敏貴がウィッグの髪を引っ張る。 「ん?」 「ママ、かぁいい」 敏貴の天使のような笑顔に、心があたたかくなる。 「ママでいっか。敏貴、ママですよー」 抱き上げてあやすと、敏貴はきゃっきゃとはしゃいだ。それが可愛くて仕方ない。 「いいのかよ」 「いいよ。可愛いし。それに、無理して男らしくしなくていいんだなって、少し安心した」 「お前がいいならいいか。頑張れよ、ママ」 法明は部屋の隅に忘年会用の荷物を置くと、帰っていった。 それからは怒涛の日々だった。大家さんと施設に事情を説明し、仕事中はどちらかに敏貴を預け、在宅ワーカーをしている客にパソコンを教わったり、子育てしている客からアドバイスをもらったりして、半年間ホストを続け、300万円貯金した。 すべては敏貴のために。 ホストを辞めてからは在宅ワーカーになり、家事や慣れない料理に苦戦した。 施設で料理の手伝いをしていたものの、野菜を切るくらいで、味付けはやったことがなく、最初は味が濃過ぎたり薄過ぎたりした。 言葉を覚えた敏貴に、毎日のように「ママ可愛い」「ママ大好き」と言われ続けたのもあり、敏貴が雅紀は男だと気づく頃にはすっかりママが板につき、ママを辞めるタイミングを掴めずにいた。
last updateLast Updated : 2025-11-28
Read more

19話

「……というわけ」 話し終える頃には、雅紀のグラスは空になっていた。 「なんつーか……。すげぇ壮絶な人生だったんだな……。えっと……」 「ん?」 「なんて呼ぼう……」 「なんでもいいよ。父さんでも親父でも」 「しっくり来ない」 「あはは、じゃあパパ?」 「却下」 敏貴の即答に、思わず吹き出す。 「それにさ、血縁関係あるか、分かんないし……。法明さんは、血縁関係が全てじゃないみたいなこと言ってたし、分からなくもないけど、俺の中では大事っていうか……」 「ん、じゃあマサでいいよ」 「分かった……」 うなずきはしたものの、敏貴は納得していない様子。雅紀はそれに気づいてはいたが、どうすればいいか分からず、思考と視線を巡らせる。 「そういえばさ、なんで住民票取りに行ったんだ?」 「9月にハワイ行くから、パスポート取得するのに必要だって、先生が」 「あ、そっか。そうだった。今の高校はすごいなぁ……。修学旅行で海外なんて。俺の時は国内だったよ」 「へぇ……」 「近々、DNA鑑定しに行こうか」 「え?」 「さっき、自分の中では血縁も大事って言ってたろ? うやむやのままっていうのも気持ち悪いし、調べよう」 即答は出来なかった。雅紀の言うとおり、血縁も大事と言ったのは自分だ。知りたいという気持ちももちろんある。だけど、自分と雅紀が他人だったらと考えると、怖くて仕方ない。 「どんな結果でも、俺が親であることに変わりないけどな」 雅紀の言葉に、少しだけ気持ちが軽くなる。 「うん……」 「昨日調べたんだけどさ、戸籍書き換えるためのDNA鑑定って、私的じゃダメっぽいんだよね」 「私的?」 「個人的に病院ですること。法的DNA鑑定する会社に申し込まないとだな……。戸籍書き換えるのに、1ヶ月から2ヶ月かかるみたいだから、パスポート取得先にしちゃおうか」 「もうちょい待ってほしい。その……出来れば、ちゃんとした戸籍の住民票で取りたい……。それにほら、丸めちったし……」 「敏貴……」 彼なりにこの複雑怪奇な親子関係に向き合ってくれてるのが嬉しくて、胸がいっぱいになる。雅紀は涙が出ないように息を吐く。 「分かった。けど、かなりギリギリになると思う。危なそうだったら、今の住民票で取得
last updateLast Updated : 2025-11-29
Read more

20話

「断髪式ねぇ……」 敏貴はハサミを持つと、雅紀の後ろに回る。ポニーテールを解こうとするが、うまく行かない。 「痛いって」 「あ、悪い」 「近い将来苦労するぞ」 雅紀は苦笑しながら自分でヘアゴムを外すが、敏貴にはその意味が理解できなかった。 さらりと落ちていく髪を、不思議な気持ちで眺める。この髪が、雅紀を母にした気がした。 「何ぼさっとしてんだよ。はやくしてくれ」 「あ、うん」 敏貴は無造作に髪を掴むと、首より少し下のところでカットしていく。髪を切るたびに、本来の雅紀に戻し、彼が自由になっていくような、妙な気分だ。 「できた」 「ありがとな」 「にしても、なんかもったいねーな……」 切り落とした髪を見つめる。このまま捨てるのは、寂しい気がした。 「確かに……。んー……。あ、そうだ」 雅紀は髪を受け取ると、ヘアゴムで上部分をまとめ、テーブルの上にまっすぐ置いた。 「どうすんだよ?」 「長さ測る」 「確かに、どんくらい長いかは気になるな」 「ヘアドネーションってのがあって、長い人毛をウィッグにするんだよ。確か、31cmが合格ラインだったはず」 雅紀は小物入れにしている引き出しから、メジャーを持ってきて長さを測る。 「34cmか」 「背中隠れるほど長かったもんな……」 「髪切るついでに寄付してくる」 雅紀は台所へ行き、ジッパー付き保存袋を持ってくると、その中に髪を入れて行きつけの美容室に向かった。 「あれ、どうしたんですか!?」 顔馴染みの美容師、鈴木は雅紀を見るなり、目を丸くする。 「気分転換だよ。これ、34cmあったから、ヘアドネーションに使って」 「あ、はい……」 鈴木は何度もチラチラと雅紀を見ながら、受け取った髪の毛をしまいに行く。「さて、どうすっかな……」 メンズのヘアカタログを見たが、ピンとくるものがなかったので、おまかせすることにした。
last updateLast Updated : 2025-11-29
Read more
PREV
1234
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status