「マサ、こっちに向かってるって」 「そうですか……。すんません、充電器借りていいっすか? 充電切れてて」 「取りに行くのめんどいし、モバイルバッテリーでいい?」 法明はポケットからモバイルバッテリーを出し、敏貴の前に置いた。 「あざっす」 モバイルバッテリーを差し込み、テーブルの隅に置く。 「そう言えば、なんであいつについて、あんなに詳しいんすか? もしかして、法明さんも、施設育ちとか?」 「いや、俺は一般仮定で何不自由なく暮らしたよ。この店も、父親から譲り受けたものだしな。マサとは腐れ縁ってもあるけど、あいつ、嘘も隠し事も出来ないんだよ。良く言えば真っ直ぐ。悪く言えば猪突猛進。ことあるごとに、俺に相談しに来てたから、知ってるってだけ」 「確かに……。あ、けど……」 「けど?」 「いえ……」 毎週火曜日に出かけていることについて聞こうとしたが、雅紀本人に聞こうと思い、口を噤んだ。小さな沈黙と気まずさが訪れる。 「そーだ、写真見る? マサが若い頃の」 「え? あぁ、見たい!」 「ちょい待ち」 法明は席を外す。きっとアルバムを取りに、自宅スペースである2階に行ったのだろう。 「充電器はめんどくて、アルバムはめんどくないのか……」 ふと思い出し、スマホを見る。充電3%。モバイルバッテリー自体、あまり残ってなかったようで、空になっていた。 「お待たせ。ついでに充電器も取ってきた。モバイルバッテリー、あんまないっしょ」 法明は充電器を手渡し、アルバムを開いて見せてくれた。まだ学生と思われる法明と雅紀が、桜の下で話をしている。 「髪、短い……」「マサが髪を伸ばしたのは、お前が来てからだからな」「なんでまた……」「お前が……」「敏貴!」 ドアが開き、息を切らせ、汗だくの雅紀が店内に駆け込む。険しい顔は敏貴を見た途端、安堵に変わった。「敏貴……! ごめん、ごめんね……」 雅紀は痛いくらいに敏貴を抱きしめる。いつもなら嫌悪で突き飛ばすが、汗の匂いも、強過ぎる包容も心地良い。「いや、俺こそ……」 「とりあえず、座れよ」 法明に言われ、雅紀は敏貴の隣に座る。「じゃ、あとはふたりで。帰る時に声かけてくれよ」法明はテーブルに雅紀の分のスワンシューとグラスを置くと、2階に行った。
Huling Na-update : 2025-11-27 Magbasa pa