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All Chapters of ママを辞める時: Chapter 1 - Chapter 10

14 Chapters

2話

「おはよー。なんか機嫌悪くね?」 敏貴が席に座り、教科書やノートを机に片付けていると、友人の涼真が来る。 「……はよ。今日もあのカマ野郎がウザくてさー」 敏貴がため息まじりに言うと、前の席のふたりが振り返る。 「えー、とっくんのお母さんキレイじゃん」 「そうだよ、料理も上手いし、優しいし」 「いけませんな、母親を大事にしないのは。しかも、男の娘……。デュフ……!」 前のふたりこと、夢香と光里。そして隣の席にいるオタクの和登《かずと》が口出しする。 「お前らもうぜーな。男のくせに髪伸ばして、ママとか言ってるだけでキモいのに、サイズの合わない、ピンクのエプロンなんか着やがってよ」 「えー……、でもあのエプロン、とっくんがプレゼントしたんでしょ?」 夢香が不思議そうに小首を傾げる。 「なんで知ってんだよ」 「この前おつかいに行った時、偶然あって、エプロン褒めたら言ってたよ。とっくんが小学生の頃に買ってくれた宝物だって」 「えー、いいママじゃん!」 「何が気に入らねーんだよ」 「いけませんぞ、母親を貶しては」 愚痴るつもりが、注意されてしまい、敏貴のイライラが募って行く。「あーあーあー! うぜーうぜーうぜー!なんでお前らもあんなカマ野郎の味方すんだよ!」「まぁ、父親がママ名乗ってるのはアレだけど、事情あるんじゃね?」「あーね。オネエとか?」(このまま悪口に進め) 敏貴は心の中でそうつぶやいた。ストレス発散には悪口が手っ取り早い。「そういや、アンタの母親、どうしてんの?」 光里が質問をすると、夢香が軽く叩きながら注意する。そのタイミングでホームルーム開始を知らせる予鈴が鳴り、涼真は席に戻り、まわりの席にいる3人は前を向く。担任の教師が連絡事項を伝えているが、敏貴はそれどころではない。 光里に聞かれるまで、どういうわけか母親がいないことについて、気にしたことなどなかった。雅紀は自称ママだが、れっきとした男だ。 雅紀が長髪で体も細く、声変わりしてないような、女性的な声だったため、しばらく女性だと思いこんでいた時期はあるが。(俺の母親って、誰なんだ……?) その問が、頭の中でぐるぐる回る。
last updateLast Updated : 2025-11-25
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3話

「……ってことがあってね。もう嫌になっちゃう」 「マサは大変だなぁ」 ここはパティスリーブーシェの2階にある喫煙スペース。パティスリーブーシェは、雅紀の悪友である法明《のりあき》が経営している洋菓子店だ。火曜日が定休日なので、雅紀は火曜日に押しかけ、煙草を吸いながら愚痴を吐き出している。 「反抗期なんだろうけど、毎日毎日、カマ野郎ってさー……。普通に男だっての」 敏貴の前では絶対にしない、荒々しい口調で、ため息をつく。 「あはは、ピンクのエプロンなんかつけてたら、そう思われても仕方ないかもなー」 「大事なプレゼントなの、お前も知ってんだろ?」 「まーな。だからこそ、ボロいとか言われるの嫌だよな」 「ホントそう」 ため息をつきながら、何本目か分からない煙草に火をつけ。煙を肺にまで入れる。 「まったく、あーしの苦労も知らないでさぁ……。いや、こんな苦労は知ってほしくないんだけど……」 「敏貴くん、今何歳?」 「17。反抗期・思春期真っ盛り」 「あちゃー、難しい年頃ってわけね。てか、15年も経つのか。お前は本当に、よくやってるよ」 法明は雅紀の肩に手を置き、しみじみ言う。 「あんがと。お前にそう言われるだけで、ちょっと気持ちが楽になる」 「はは、そうかい」 「はぁ……ここ最近、あーし愚痴ばっかだね。なんかごめんよ」 「いいってことよ。このあと、また買ってってくれんだろ?」 「まーね」 雅紀は帰りにいつも焼き菓子を購入してから帰るのだ。いくら友人とはいえ、毎週愚痴に付き合うのはうんざりするだろう。だから、せめてもの罪滅ぼしに、焼き菓子を買っていく。それに、雅紀も敏貴も、パティスリーブーシェの焼き菓子が好きで、昔からよく食べている。 「にしてもさ、投げ出したくなんねーの? 敏貴くんだって、お前の……」 「やめな」 ドスの効いた雅紀の声に、法明は息を呑む。雅紀は滅多に怒らないからこそ、本気で怒った時の恐ろしさを知っている。 「ごめん、軽率過ぎた」 「……ううん、あーしこそ、ごめん。聞いてもらってるのに。けど、敏貴のこと言われるのは、ちょっとさ……」 「今のは完全に俺が悪い。どれ、そろそろカラオケにでも行きますか」 「その前に、焼き菓子買わせて」 雅紀は煙草の火を消すと、自分に消臭スプレーをかけ、ガムを口に
last updateLast Updated : 2025-11-25
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4話

放課後、誰もいない教室で、敏貴はひとりで考え事をしていた。手には財布。財布の中には今朝もらった2000円が入ってる。 「あーね。オネエとか?」 今朝、夢香が言ってた言葉を思い出す。どことなくなよっとした喋り方ではあるが、雅紀の恋愛対象は女性のはずだ。というのも、彼の友人である法明が、口を滑らせ、元カノがどうとか、昔はモテてたとか言っていたから。 雅紀が法明を睨みつけたせいで、それ以上の情報はないが。 それに、授業参観の時に、他の母親や女子生徒から注目されていたため、未だにモテるのは分かる。 認めたくはないが、顔もととのっているし、若々しい。 「あれ、そういやアイツ、いくつだっけ?」 思えば、雅紀に年齢を聞いたことがない。親にも名前や誕生日があると認識する年頃にはもう、雅紀を避けていたから、聞こうと思わなかった。 雅紀のことを思い出そうとすればするほど、胸が苦しくなる。パティスリーブーシェのお菓子が好きなこと以外、父親についてよく知らないと気づいてしまう。ブーシェのお菓子以外の好物、好きな色、趣味……。他にも、雅紀について何も知らない。「って、なんであんなカマ野郎のことなんか考えてんだ、俺は。ばっかじゃねーの」 そう自分に言い聞かせ、立ち上がろうとして動きが止まる。 視界には財布。そして財布の中には今朝もらった2000円が入ってる。 雅紀は毎週火曜日、どこかに行き、帰りが遅くなる。在宅ワーカーの彼に、飲み会があるとは思えない。いつも、爽やかなラベンダーの香りを身にまとって帰ってくるのだ。「もしかして、女?」 声に出した途端、気持ち悪くなる。家で自分をママと呼んでる男が、女と会って、アレコレしてるのかと思うと、気持ち悪くて仕方ない。 男のくせに、なよっとして、困ったように笑うあの顔が、ますます気に食わない。「はぁ……クソ……!」 倒れない程度に机を蹴ると、カバンを持って教室を出た。
last updateLast Updated : 2025-11-25
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5話

夜7時。敏貴はひとりでファミレスに行き、後悔した。近くの席には家族連ればかり。ひとりでいる自分が浮いてる気がして落ち着かない。何より、幸せそうな家族を見るのが辛かった。 特に、隣の席にいる、他校の男子高校生と父親が、楽しそうに車の話をしているのが辛い。 (アイツが普通に父親してたら、俺もあーやって、話せたりしたのかな……) 虚しくなり、ため息が出る。敏貴の食事が運ばれてくる前に、親子が店から出たのは、不幸中の幸いだった。 今の敏貴にとって、仲のいい父親と男子高校生の組み合わせは、毒でしかない。 敏貴は運ばれてきたステーキセットを押し込むように食べると、帰りにコンビニで非常食のおにぎりを買い、帰宅した。 いつものように風呂を沸かし、沸くまで適当にスマホをいじる。いつもならゲームや動画に夢中になり、入浴が遅くなってしまうのだが、今日はゲームも動画も、身に入らない。 風呂が沸いた合図の音声を待つ時間が、異様に長い。 「なんで俺が、カマ野郎のことなんかで、こんなに考え事しなきゃなんねーんだよ」 悪態をついたところで、答えなど返ってこない。 風呂が沸くと、着替えを取りに行くついでに、窓を開けてエアコンをつける。 都会の夏は暑い。こもった暑い空気を逃しながらでないと、涼しくならないのだ。 カバンと買ってきたおにぎりを、ベッドの上に乱雑に投げ、風呂に入る。 風呂から上がると、ちょうど帰宅した雅紀と鉢合わせた。汗とラベンダーの香りが混じったにおいが鼻につく。 「あ、敏貴帰ってたの。ただいま。今日はクッキーとリーフパイなんだけど……」 「香水くせーんだよ」 「……へ?」 少し遅れた間抜けな返事に、イライラする。 「あーうぜー!」 雅紀を押しのけ、階段を駆け上る。 「あ、ちょっと……!」 雅紀の静止も聞かず、大きな音を立ててドアを閉めた。 「香水って……。あの子、何を言って……」 小首を傾げていたが、何かに気づき、雅紀は肩を震わせた。
last updateLast Updated : 2025-11-25
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6話

数日後、修学旅行こ班を決めることになった。というのも、敏貴が通う高校の修学旅行は9月上旬で、7月中に班や自由時間の行動を決めておかないと、間に合わないのだ。 「修学旅行はハワイなので、夏休み中にパスポート取得したり、最低限の英語を覚えたりしといてくださいね」 生徒たちは英語を覚えるというところで、「えー」と嫌そうな声を出す。 「パスポート持ってない人は、忘れないうちに市役所で住民票もらってきてね。あ、今はコンビニでも出来るんだっけ? 先生コンビニでのやり方知らないけど、市役所窓口だと300円かかるから、お財布持って市役所行ってね」 再び生徒たちのブーイングが教室内に溢れる。 「はいはい、社会人になる第一歩なんだから、文句言わない。親御さんにもらってきてもらえるけど、先生としては、自分で行ってきてほしいな。 さ、班を決めちゃいましょう。ホテルで同じ部屋になるし、自由時間も一緒に行動するからね。ひと班4人から5人で」 生徒たちは席を立ち、友達同士で集まる。いつものグループが少人数ならすんなり行くが、7、8人ほどの大きなグループは、どう分かれるかで揉めている。 敏貴は涼真、和登、英介の4人で班を作るときめていたので、すぐに先生に報告しに行った。 放課後、財布の中に300円以上あることを確認し、市役所に行った。クラスメイトがふたりと、別のクラスの生徒が数名いる。敏貴のように、忘れる前にと思ったのだろう。 必要な書類を書き、窓口に提出する。呼ばれるまでパスポート取得方法を調べ、時間を潰す。 「白川さん。白川敏貴さん」 受付に呼ばれ、お金を払い、住民票を受け取る。受付の好意で、住民票は大きな紙袋に入っていた。 さっきまで座っていた椅子に座り、初めての住民票をじっくり見る。「なんだよ、これ……。どういうことだよ……」 世帯主の続柄を見て、息を呑む。手の震えが止まらない。「続柄、その他って……なんだよ……!」
last updateLast Updated : 2025-11-25
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7話

敏貴は無我夢中で走った。息が切れ、横腹が痛みで悲鳴を上げても、走らずにはいられなかった。 「何なんだよ、クソ、クソ……!」 家につくと、乱暴に玄関を開けて入る。靴を脱ぐ余裕などない。 「おかえり。……って、靴脱いで……」 「どういうことだよ!」 雅紀の言葉は敏貴の怒りにかき消された。 「え? 何が?」 「何がじゃねーよ、このクソ野郎!」 敏貴は封筒ごと丸めた住民票を雅紀に投げつけ、出ていく。 「ちょっと……!」 彼の制止など聞かず、家を飛び出していった。そして目的地もなく、ひたすら歩いた。立ち止まったら、全てが崩れる気がして怖かった。 「あれ、敏貴くん?」 「え?」 聞き覚えのある声に顔を上げると、コック服姿の法明がいた。 「法明さん……。なんでここに……」 「なんでって、うちの前だからね」 法明の言葉に辺りを見回すと、パティスリーブーシェの前だった。 「あ……ホントだ……」 店を見上げながら言う敏貴に、法明は吹き出す。 「無意識にここまで来たんだ? 君んち、そこそこ遠いのに」 「えぇ……まぁ……」 「マサと喧嘩でもした?」 「喧嘩っていうか……」 住民票に書かれていた”その他”という言葉が胸を締め付ける。 「話聞いてやるから泣くなって」 法明に言われ、初めて自分が泣いていたことに気づいた。 「さ、入んな」 「店は……」 「ちょうど閉店だよ。だから、敏貴くんの貸し切り」 貸し切りならと、敏貴はおずおずと店に入る。数年ぶりに入ったパティスリーブーシェは、あの頃と同じく、甘く優しい香りで満たされている。 「適当なとこ座んな。何飲む?」 「アイスティーで……」 「OK」 パティスリーブーシェには、小さなカフェスペースがある。敏貴は窓際の席に座る。無意識に選んで座った彼は気づかない。昔、よくこの席に座り、雅紀とお茶をしていたことに。 「はい、どーぞ。売れ残りだから、お代はいらないよ」 目の前に置かれたのは、アイスティーと白鳥の形をしたスワンシュー。幼い頃、よく食べていたものだ。 「ありがとうございます」 ストローを抜き、アイスティーを一気に飲み干す。飲み慣れたルイボスティーだった。 「いい飲みっぷりだこと」 法明は苦笑し、キッチンに戻る。どこの家庭にも
last updateLast Updated : 2025-11-26
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8話

嵐のように去っていった敏貴に、雅紀はしばらく呆然として動けなかった。 「いったいなんだってんだ……」 ため息をつき、ぐしゃぐしゃになっていた紙を広げる。途中、市役所の封筒だと気づき、眉間にシワを寄せる。 高校生の彼が、市役所に何を取りに行ったのだろう? 「これは……!」 住民票を見て目を丸くする。世帯主には自分の名前。そして……。「続柄、その他……? あ……」 雅紀は15年前の自分の失態に気づき、頭を抱えた。「どうしよう……。なんて言えばいいんだろ……。てか、あーし、なんでこんなこと忘れてんの……」 住民票を再び見て、盛大なため息をつく。「はぁ……話しても、聞いてくれんのかな……。いや、ちゃんと向き合わなきゃ!」 ポケットからスマホを出して敏貴に電話をかけるが、出ない。どうやら電源を切っているようだ。「はぁ……どこ行ったんだか……」 雅紀はひとり、途方に暮れた。 その頃、パティスリーブーシェでは、敏貴と法明が向かい合って座っていた。「で、何があったわけ?」「修学旅行で、ハワイ行くんすけど……、パスポート取得に、住民票が必要だって、先生に言われて、取りに行ったんです。住民票なんて見たことないから、どんなもんかなって見たら、アイツとの関係が、その他って……。つまり、アイツは俺の父親じゃないってことですよね? 法明さんならなんか知ってんでしょ。教えてください……!」 話しているうちに涙が溢れ、視界がぼやける。だが、今の敏貴には、そんなことを気にしてる余裕なんてなかった。「あー、そっか……。そういや、そうだったわ……」 法明は何か思い出したような素振りで、ひとりで納得する。「なんなんすか……!」「ごめんごめん。昔のこと思い出してて。敏貴くん。君はマサに感謝しないといけないよ」「……他人の子を育てたから感謝しろって? どーせ他人に育てられるんなら、俺は法明さんのが良かったっす」「あははははっ! それは無理! だって俺、ガキ嫌いだもん」「え……?」 法明の軽い言い方と笑い声に、心が凍てつく。尊敬している法明にまで、拒絶された気分だ。「今の敏貴くんはさ、ある程度分別ついてるからいいけど、チビから育てるなんて、俺には無理。……って、話逸れちった】 法明は座り直し、敏貴を見る。
last updateLast Updated : 2025-11-26
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9話

「確定ではないけど、十中八九、お前はマサの子だよ」 「確定ではないって……?」 「その感じだと、マサは自分のこと、なんも話してないんだろーな……。あいつ、自分語り好きじゃないし」 「えぇ、まぁ……」 「マサはさ、施設育ちなんだよ。親の顔なんか知らないって言ってた」 「え……?」 「産まれてすぐ、施設に置いてかれたんだよ。で、大抵の子は里親に引き取られるんだけど、あいつ女みたいな顔だし、華奢じゃん? それをすっげー気にしててさ。引き取ろうとした奴ら、皆その地雷踏むから、結局18まで、施設にいたんだ」 「それは初耳ですけど、俺らの親子関係とどう関係が?」 「焦んなって。マサがいた施設は、規模の割には職員が少なくて、中学生あたりから、チビ共の世話をすることが増えた。 忙しさと寂しさで、ストレスすごかったろうなぁ……」 法明はテーブルに煙草を置いたあと、はっとしてしまい、スワンシューの首を折ってかじった。 「アイツが高3になって、高校卒業と共に、施設出ていくって決まった頃、若い女の職員がマサに言い寄ったんだ。愛情不足とストレスで、正常な判断が出来なかったマサは、女の『危険日じゃないから』って言葉を鵜呑みにして、中出しセックスしたってわけ」 「……それで出来たのが、俺ってことですか」 法明のストレートな物言いに、敏貴は顔をしかめながら聞く。 「多分な」 「多分?」 「後から知ったけど、あの女は相当なビッチでさ。いろんな男と寝てた。けど、年齢的にもマサの子の可能性もあったから、引き取ったってわけ」 「え、引き取った? 俺の母親は、その施設の職員、なんすよね……? 俺が産まれた時、あいつはどこで何してたんすか?」 「時系列順で説明するか。俺も話してて混乱してきたし。まず、高3の夏だったかな……。その頃から何回かヤッた。んで、翌年に卒業。ハタチの頃に、マサの家の前に、2歳のお前が置かれてた」「それって……」「あの女、面倒見るのに疲れて、マサに押し付けたんだよ。『あなたの子です、面倒見てください』って手紙握らせてな」 当時のことを思い出しているのか、法明は露骨に嫌そうな顔をしている。
last updateLast Updated : 2025-11-26
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10話

「じゃあ……アイツと、俺の血の繋がりは……」 「時期的に可能性はあるって程度。あのビッチが何人の男と寝てたのか知らねぇから、確率は知らん」 法明はスワンシューをかじると、自分と敏貴のグラスにルイボスティーを継ぎ足す。 「そういや、お前の家、よくルイボスティー出るだろ」 「え? あぁ、まぁ……。なんすか、いきなり……」 「マサなりの愛情だよ。ルイボスティーには、リラックス効果とか、アレルギー症状の緩和とかある。あと、美容系の効果もな。お前がよく眠れるようにって、ルイボスティーを出してるんだよ。他にも、慣れない料理に力入れて、栄養バランス考えたり、万年赤点だったくせに、テストの対策ノート作ったり……。パソコン苦手だったのに、在宅ワーカーになったり……。全部、お前のためなんだよ。なぁ、血の繋がりだけが親子の証明なのか?」 法明の言葉で、思い出が蘇る。眠れない夜、温かいルイボスティーを淹れて、敏貴が眠るまで寄り添ってくれた。 自分が夢中で食べていれば、「作ってよかった」と嬉しそうに微笑み、すべての学校行事にも来てくれた。 帰れば雅紀がいたから、寂しいと思ったことなどなかった。現に、クラスメイトに聞かれるまで、母親のことなど気にしていなかったのだ。 「どうしよう、俺……。色々ひどいことを……」 「とりあえずさ、一回マサと話し合いなよ。ここにいるって、マサに電話していい?」 「はい……」 敏貴が頷くと、法明は別室に行き、電話をする。 優しく温かい記憶のリフレインで、罪悪感がこみ上げる。 「俺からも、ラインしとくか……」 スマホを取り出し、敏貴は肩を落とした。 「こんな時に充電切れ……」 その頃、雅紀はスマホを充電しながら、敏貴からの連絡を待っていた。入れ違いになるのは避けたい。 本音を言えば今すぐ警察に電話したいが、家出して1時間程度じゃ、警察も相手にしてくれないだろう。 家事をするにも手につかないため、こうしてスマホの前で待ち構えている。 画面が光り、目を見開く。だが、法明の名前を見てため息をついた。 「んだよ、紛らわしい……。もしもし?」 「不機嫌だな」 からかうような法明の声にイライラする。 「あーし今余裕ないんだけど」 「敏貴くんならうちに来てる。迎えに来いよ」 「え……!?」 素っ
last updateLast Updated : 2025-11-27
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