「おはよー。なんか機嫌悪くね?」 敏貴が席に座り、教科書やノートを机に片付けていると、友人の涼真が来る。 「……はよ。今日もあのカマ野郎がウザくてさー」 敏貴がため息まじりに言うと、前の席のふたりが振り返る。 「えー、とっくんのお母さんキレイじゃん」 「そうだよ、料理も上手いし、優しいし」 「いけませんな、母親を大事にしないのは。しかも、男の娘……。デュフ……!」 前のふたりこと、夢香と光里。そして隣の席にいるオタクの和登《かずと》が口出しする。 「お前らもうぜーな。男のくせに髪伸ばして、ママとか言ってるだけでキモいのに、サイズの合わない、ピンクのエプロンなんか着やがってよ」 「えー……、でもあのエプロン、とっくんがプレゼントしたんでしょ?」 夢香が不思議そうに小首を傾げる。 「なんで知ってんだよ」 「この前おつかいに行った時、偶然あって、エプロン褒めたら言ってたよ。とっくんが小学生の頃に買ってくれた宝物だって」 「えー、いいママじゃん!」 「何が気に入らねーんだよ」 「いけませんぞ、母親を貶しては」 愚痴るつもりが、注意されてしまい、敏貴のイライラが募って行く。「あーあーあー! うぜーうぜーうぜー!なんでお前らもあんなカマ野郎の味方すんだよ!」「まぁ、父親がママ名乗ってるのはアレだけど、事情あるんじゃね?」「あーね。オネエとか?」(このまま悪口に進め) 敏貴は心の中でそうつぶやいた。ストレス発散には悪口が手っ取り早い。「そういや、アンタの母親、どうしてんの?」 光里が質問をすると、夢香が軽く叩きながら注意する。そのタイミングでホームルーム開始を知らせる予鈴が鳴り、涼真は席に戻り、まわりの席にいる3人は前を向く。担任の教師が連絡事項を伝えているが、敏貴はそれどころではない。 光里に聞かれるまで、どういうわけか母親がいないことについて、気にしたことなどなかった。雅紀は自称ママだが、れっきとした男だ。 雅紀が長髪で体も細く、声変わりしてないような、女性的な声だったため、しばらく女性だと思いこんでいた時期はあるが。(俺の母親って、誰なんだ……?) その問が、頭の中でぐるぐる回る。
Last Updated : 2025-11-25 Read more