私は幼なじみの石持英樹(いしもち ひでき)と一緒に交通事故に遭い、次に目を覚ましたとき――長年愛し合ってきた英樹が記憶を失ってしまった。そして私はかすり傷ひとつないのに、体の中には何年も前に亡くなった祖母・花田歩美(はなだ あゆみ)の魂が入り込んだ。「このガキ……また記憶を失ったって言い訳で、うちの可愛い菫を騙そうとして!私がこの世にいれば、あいつの足の骨の一本や二本、叩き折ってやるわ!」私はぽかんと目を見開いた。歩美の声は、なおも頭の中で怒鳴り続けている。「前世で、うちの菫は英樹にさんざん苦しめられたんよ。何年もろくでもない日々を過ごし、心臓病で死にかけてたのに、あいつは小雲安奈(おぐも あんな)と誕生日祝いでキャッキャして……腹立つわ!菫よ。今回、おじいちゃんが縁談を選んでくれるとき、英樹だけは絶対にダメよ。川連涼太(かわつれ りょうた)を選びなさい。あの子は信頼できるわ!」次の瞬間、本当に祖父の花田光夫(はなだ みつお)と数人の年長者たちが病室に入ってきて、四大名家の跡継ぎの写真を私の前にずらりと並べ、「夫にする相手を一人選べ」と言った。私は迷うことなく、宿敵である涼太を選んだ。――私はおばあちゃんが大好きだから。彼女が「英樹はあなたのことを愛してないわ」と言うなら、私はもう英樹なんて必要ない。光夫はためらいながら私を見つめた。「菫、お前とあの悪ガキは一番仲が悪かったんじゃないのか?本当にあいつを夫にするつもりか?よく考えなさい。一度婚約を結んだら、もう後戻りはできないんだぞ」光夫は考古学界の大御所だ。彼は以前から、四大名家の跡継ぎのうち誰が私と結婚するかによって、花田家との提携先を決めると宣言している。英樹の母もすっかり青ざめ、慌てて私に諭した。「菫、英樹は記憶を失ってあなたのことを忘れてしまったけれど……あなたが一番彼のことを好きだったじゃないの。少し待ってあげたら?結婚でもしたら、思い出すかもしれないわ」その言葉に、頭の中の歩美が大声で舌打ちをした。「何を言ってるの!前世で安奈という子が、うちの可愛い菫のアクセサリーを壊してしまったのに、菫は何も言わなかったよ。それなのに英樹は菫を家から追い出したんだわ。可哀想に、菫はパジャマのまま雨の中で長い間濡れてて、危うく凍え死にそ
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