「軽口叩いてくれるぐらいなら、安心だ。でも、聞けばあの加害者はただの通り魔じゃなくて、イオリに怨恨があるらしいじゃないか? ちゃんと向こうに謝って、もう二度と路上で刺されるようなことが無いように気をつけるんだぞ」 慌てて言い繕おうとした時、扉にノックの音がした。 真澄サンは体を起こして、返事をしながら扉を開ける。 そしてしばらくそこで話をしてから、扉を閉じて戻ってきた。「看護師さんが、俺はそろそろ帰ってくれってさ」「ええっ、真澄サン、帰っちゃうの?」「バカ、そんな心細そうな顔をするな。いい大人のクセに。おとなしくしていれば、一週間ぐらいで退院になるから、ちゃんと治療に専念するんだぞ。俺も、仕事帰りにできるだけ寄るようにするから」「はぁい」 身支度を調えた後、真澄サンは俺の頭に手を乗せて、ぽんぽんと軽く叩いてから部屋を出て行った。 モノスゴイ偶然のなせる技で、俺は奇跡的に真澄サンとの再会(?)を果たし、しばらくはその浮かれ気分を満喫していたが。 麻酔から覚めたばかりでは、さほど眠くもならず、どうやら真澄サンが手配してくれたらしい病室はありがたい個室で、人の気配を感じることもない。 オマケに自力で起き上がることもできない……とあっては、後はただ天井を眺めているほかはなかった。 真澄サンが俺の元に戻ってくれたのは、確かにモノスゴク嬉しかったし、それはもう諸手を挙げて大喜びするような一大ニュース……だったけれど。 だけどその反面で、俺は考えてしまったのだ。 あんなふうに、一方的に俺が悪い状況でさえ、真澄サンは自分の非を認めて、俺に謝罪をしてくれた。 真澄サンを失った時に、俺は生まれて初めて酷い喪失感と挫折感、それに絶望感を味わった。 真澄サンに出逢う前、俺がケイタに別れを切り出した時に、ケイタに殴られて入院した。 あの時は、こことは比べものにならない大部屋で──。 似たような病院の天井を眺めて、ずうっとケイタの無礼に対して腹を立てていた。 でも、今は──
最終更新日 : 2026-01-12 続きを読む