LOGINジゴロのイオリは、出会い系ゲイバー「DISTANCE」で、次の〝パトロン〟を物色する日々。 金の切れ目が縁の切れ目──かつてのパトロン・ケイタとの喧嘩で入院し、借金を背負ったイオリは、街で悪名高い「トライアルローン」から金を借り、返済に追われていた。 そんなある日、「DISTANCE」に現れたのは、上質なブランドに身を包んだ男・雪村真澄。 カモとして口説いたはずが、いつしか本気で恋に落ちていくイオリ。 ジゴロが恋をした先に待つのは、甘い夢か、それとも──? ※ この物語は、平成頃の設定です。
View More俺はいつものように、2丁目の〝DISTANCE〟で網を張っていた。
ここは靖国通り沿いの狭い一角にある、典型的な小さなバーだ。
雑居ビルの中に、地味なプレートがひっそりと掲げられている。 看板の小ささが、かえって意味深な雰囲気を漂わせていた。 敢えて目立たぬ店構えなのは、一部の趣味人が集う事を目的にしているからだ。 揶揄やネタでなく、本気でソッチ系の情報誌に載るような店って言えば、わかるだろうか客の大半は常連で、フリーなりカップルなりで店を訪れては、酒を飲みつつ平素被っている表の顔を脱ぎ、顔見知りと雑談に興じたり、恋人と睦言を囁き合っている。
店のマスターは、自称〝寡黙なバーテンダー〟。 だが、口を開けば結構お喋りな、背ばかり高い気さくな男だったりする。シックな雰囲気を意識しているが、意識しすぎてミーハーな所が逆に気楽で、店全体の居心地も悪くない。
特に、俺のような商売人が客を物色するには、最適のロケーションだ。俺の商売──。
サビシイ夜にはロマンスと慰めを提供し、初心者には人生の愉しみ方をレクチャーする。 そのお礼に、心ばかりの代金を頂戴しているお仕事。 いわば一種のサービス業とでも言えばいいか。昔はバーテンやらホストなんかを転々としてたが、毎日決まった時間に出勤するのが億劫で、2年ほど前からこの自営業をやっている。
マスターからは「ホストの方がマシ」と諭されているし、俺と顔見知りの常連達からは愛情を込めて〝社会のダニ〟と呼ばれているが、今のところそれらの苦言を拝聴する気は毛頭ナイ。
そして今夜もこの店で、カモ……じゃなくて、お客様を物色しているのだ。
実を言うと俺は現在、諸事情により経済的にかなり行き詰まっている。
ここらで次なる大口を見つけないと、顔役の借金取りにナマスに刻まれかねない。 店内には、俺に向けて秋波を送ってくる輩もチラホラいるが──。 でもその程度じゃ役不足だよ……、なんて思いながら俺はカウンター席で、チビチビとグラスの水割りを舐めていた。 そんなところへ彼が現れたのだ。折角の上玉だと言うのに、やっぱりこっちから全く連絡を取る手段を講じなかったのは、本当に失敗だった……と痛感したのは、真澄サンと別れてから三日目の朝だった。 一夜の情事の記憶なんて、すぐに薄れて消えちまう。 そうなる前に連絡を取って、ダメ押しで甘く口説くのが、俺の常套手段なのに。 三日経っても、真澄サンからは何の連絡は無かった。 今更留守電を残したところで、一夜の遊びを楽しんだジゴロのことなど、覚えていないに決まってる。 逃した魚の大きさを思うと悔やんでも悔やみきれず──。 俺としたことが大ドジこいたと、歯噛みしながらDISTANCEでクダを巻いていた。 その時、目の前にいきなり冷水の入ったグラスが登場した。「なにコレ?」 俺の前にグラスを置いたのは、いつのまにか隣に座っていたカガミンだった。 カガミンはこの店の常連の一人である。 だが、彼は異性愛者で、職業も真っ当(?)なホストだ。 なんでそんな経歴の男がこの店にいるのか? と言うと、理由は単純、カガミンはマスターの〝元・同僚〟なのだ。 マスターも元はホスト出身。 カガミンにとってDISTANCEは、友人のやってる気の置けない店ってわけだ。「イオリさぁ、こんな所で油売ってていいの?」 「なんでよ?」 「グッチーのトコの返済期日、迫ってるんじゃないの?」 「え? なんで俺がグチ金から借りてるの、知ってるの?」 グチ金というのは貸金業者の名前で、正式名称は確か、トライアルローンとか、そんな名前だった。 経営者が江口というので、エグチ金融、通称・グチ金と呼んでいた。「昨日、このぐらいの時間にグッチーが顔出してさ。イオリに会ったら、返済期日忘れないように伝えてくれってさ」 「カガミン、あんなヤクザと付き合ってると、評判落ちるよ? なぁ、マスターもなんか言ってやってよ」 「別に、グッチーはヤクザなんかじゃないよ」 加勢を頼んだのに、マスターはきっぱりグチ金の肩を持った。 もっともそれは当たり前で、江
シャワーを浴びて戻ってくると、先にシャワーを済ませていた真澄サンは黙々と服を着ている途中だった。「すごく楽しかった」 俺は真澄サンの傍に寄ると、瞳を覗き込んでキスをする。「なら、良かった」「……真澄サンは、楽しめなかった?」「……別に」 返事と態度からは、とてもじゃないが楽しんだようには見受けられない。「ねぇ、また逢えるかな? ケータイの番号とか、聞いても平気?」 俺の問いに、真澄サンは結びかけのネクタイから手を離して、上着のポケットを探る。「これを……」 差し出されたのは、〝雪村真澄〟と書かれた、いかにもビジネス然とした名刺だ。「へぇ〜、真澄サンってこう書くの? 名前の字面もオシャレだけど、苗字もずいぶんロマンチックだねぇ? ホントに、本名?」「ああ」 なんというか、態度はとりつく島もないほどそっけないが、しかし連絡先を教えるって事は先程までのアレを楽しんだ……と判断しても良いのだろう。「この番号、会社のケータイ?」「そうだが……」「会社のケータイ、私用に使って怒られないの?」「あまり頻繁に使ったら、いい顔はされないだろうな」「頻繁って、どれくらい?」「週に一度ぐらいが限界じゃないのか?」「あのさぁ、もーちょっと融通の利く個人ケータイの番号を教えて貰えると、スッゲー嬉しいんですけど?」 俺は、さほど不満そうな声を出したつもりもなかったが、こちらに振り返った真澄サンの顔はずいぶんビックリしたような顔だった。「個人の携帯?」「そう。だって俺、真澄サンとプライベートなお付き合いがしたいんだモン。こ〜んな、ビジネスチックな会社のケータイ番号教わっても、ちょっと不満。つーか、週に一度だけの電話なんて、サビシーじゃん」「……しかし、俺は携帯なんてそれしか持ってない」「ええ〜? 個人ケータイ持ってないの?」「そんな物を二つも三つも持っていたら邪魔なだけじゃないか」「あのさぁ、……仕事以外の相手と、どーやって連絡取ってるの?」「仕事以外に、連絡を取る相手なんて居ない」「はあ……?」 そりゃあ確かに、俺も「知人」は多いが「友人」のいない生活をしているが、これはもうそんなレベルの話じゃなさそうだ。「じゃあもしかして、俺から連絡するのって不可能なワケ?」「別に、電話を掛けてくるのは構わないが、さっきも言った通りあまり頻
「い……っ! そ……な……無理……」「大丈夫。傷つけてないし、もう半分以上飲み込んでる。……ホントに初めて? スッゴイ柔らかくて、俺のを頬張ってるよ? 中も熱くてやーらしい」「ちが……」 わざと下品な言葉を選んで揶揄すると、羞恥のあまりに泣きそうな顔をする。 それがたまらなく可愛らしくて、俺はさらに言葉を続けた。「ココも、俺のコト誘ってる。スゲーやらしい体してるね」「や……動く……な……あぁ!」 ローションで滑らせたソレは、ひどく淫猥な音を立てて直ぐにも奥まで入り込んだ。 とはいえ、指からいきなり倍以上の質量が穿たれた衝撃は、かなり大きい。 俺は一息付いて、真澄サンが落ち着くのを待った。「動くよ?」「い……あっ!」 腰をしっかり抱いて、俺は緩やかにピストン運動を始める。 先程しっかりと確かめたポイントを突き上げると、真澄サンは悲鳴も上げずに体を仰け反らせた。 あまりに大きすぎる快感に、声も出ないらしい。 見開いた目からは、とうとう綺麗な涙がポロポロと落ちた。 俺は腰を抱いていた腕をずらして、背骨を辿って支える。 それからもう片方の手で真澄サンのソレを掴み、腰を動かしながら同時に煽り立てた。 零れる吐息が、甘く溶けていく。 背中を支えてやると、助けを求めるように真澄サンの腕が空を掻いた。「俺に掴まって……」 腕を引き寄せると、両腕が素直に俺の背中に回される。「動きを合わせて、腰振って……。ほら、楽になるでしょ?」 促してやると、真澄サンは泣きながら俺に縋り付き、酷く淫らな行為を言われるまま素直に受け入れた。 やがて熱は頂点に達し、きっと今まで誰にも見せたこともないであろう乱れた姿を俺に晒して、熱い飛沫で終幕を迎える。 ガクガクと震えた体は、まるで塞き止められていたみたいに白濁とした液を何度も弾けさせて。 最後にビクンッと仰け反った後は、ガックリと脱力して俺の腕の中に倒れ込んだ。
真澄サンの様子から察するに、つい最近までは自分が〝異性より同性に欲望を感じる〟なんて、全く自覚してなかった手合いに違いない。 そんな人間が、例えばマスターベーションする時に自分の乳首やアナルを刺激していた……なんて、有り得ないだろう。 つまり、この体は今日初めて、乳首を愛撫され体内に指を穿たれたのだ。 オマケに、この体は平均のそれに比べて遥かに感度が良い。 普通、そういう〝初めて〟の人間ってのは、むしろ酷く鈍感で。 乳首に触れられて愛撫されたら、笑いが止まらなくなるなんてのはありがちな話だ。 だけど、ごくたまに。 言葉を飾るなら〝愛される為〟に──。 ハッキリ言うなら〝弄ぶ〟のに面白い体をしている人間がいる。 まさしく、真澄サンの体はそれだ。 全くの未経験で未開発だというのに、まるで長年仕込まれたような感度の体のように敏感で。 それでいて精神はウブなシロウトそのまんまの、真っ新なのだ。 こんな上玉、そう滅多にお目に掛かれるモンじゃない。 きっちりしつけてオトコを覚えさせたら、こんなに楽しめるオモチャは無いだろう。 先日までのパトロンなんかとは大違いで、このベッピンさんはまさしくダイヤモンドの原石だ。 身につけていた服や、備品の数々から察するに、金もたっぷり持っているに違いない。 珠玉のベッピンを、この手に入れられる絶好のチャンスだ。 考えただけで、俺はゾクゾクし──。 体内のポイントを、もう一度ゆっくりと丁寧になぞり直した。「あ……あぁ……っ!」 しなやかな肢体が仰け反って、彼は悲鳴に近い嬌声をあげる。 そのままイッてしまうかと思ったが、そそり立ったソレはフルフルと震えただけで絶頂には届かない。 俺は手練手管で一番感じている部分を刺激してやったが、真澄サンは悶え狂うだけでイケなかった。 いくら感じやすいと言っても、さすがに初めてのバックだけでイクのは無理なようだ。 しかし、そうして何度も刺激されてるウチに、真澄サンの声は確実に鼻に掛かった甘い吐息に変わっている。 その声がまた、俺の下半身を直撃してくるような、切ない喘ぎなのだ。 最初は、体内を掻き回される快感でイク事を覚えさせたかったが、しどけなく乱れる姿と同時に耳に流れ込んでくる甘やかな声に、俺の方が我慢できないほど煽られてしまった。 指だけで彼