All Chapters of ある日突然にどーる: Chapter 1

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第一話 亜人の靴

……ゆるゆると目を開ければ、辺りは昏くて白い。 夜空に綺麗な満月が浮かんでいる。 頭上で重なり合う枝葉をサワサワと風が鳴らし、隙間から月光が零れ落ちてくる。 あたしはその大きな樹の根元に仰向けに寝転がっていた。草の匂いがする。 (草原…?) その叢は横たわるあたしの体をスッポリ隠す程に深く、葉の一枚一枚も何だか大きい。一体ここはどこだろう?あたしの生活圏内にこんなザ・自然な場所、あったっけ?どこか山奥にでも来たのだったか…… 「…って、え?てか、今までどこにいたんだっけ…? 何してたんだっけ……あ?え…? ……あたし、誰?」 全身から力が抜ける。ゾワゾワと嫌なモノが背中から這い上がってきて、寒気と吐き気で体が震え出す。 (分からない…記憶喪失っ…?) ガチガチと鳴り出した歯を止めようと、あたしは頬に両手を当てた。 ペコン。 予想していなかった音がして、頬に手を当てたまま固まる。爪が頬骨に当たったのか…?いや、そこまで硬い感触ではない。しかし覚えている皮膚の弾力とはまるで違う。あたしは両手を頬から離して目の前に掲げた。 月明かりに白く光る細い指も掌も透き通る様に綺麗…けれど、明らかに不自然だった。ツルンとしてシワが全く無いのだ。指紋すら無い。指の関節はあるが、まるで切れ込みが入ったかの様にくっきりしている。そして手首の関節は── あたしは悲鳴を上げた。………………………………………よく晴れて、日差しの眩しい朝である。 僕─間嶋久作は眠い目を擦りながら、ヨロヨロと急坂の歩道を上がっていた。 ブロオオォ…… すぐ脇の車道をバスが追い抜いていく。車内には僕と同年代の男女が多く乗っていた。見送って溜息をつく。 東京都南西部・世田谷区の麗青。この辺りは地域全体が丘になっており、駅前を過ぎるとすぐに上り坂になる。庭付きの高級住宅ばかりが並んでいて、土地が物理的にも価格的にも高い。都心から離れて落ち着いた世田谷区内でも、特に有名なセレブの街である。 僕は日差しを避けて豪邸の塀沿い、庭の樹々が枝を張り出している木陰をトボトボと歩く。垂れ下がった葉っぱが不意に頭を掠めて、ビクッと首を竦めるのが我ながら情けない。 季節は本
last updateLast Updated : 2025-12-05
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