それから六ヶ月が経った。 リョウとカイトは、バンコクの郊外に小さなアパートを借りて暮らしていた。 二人とも、偽名を使って生活していた。カイトは英語教師として、リョウは翻訳の仕事をしていた。 収入は多くなかった。しかし、二人には十分だった。 朝は一緒に起き、朝食を作り、仕事に出かける。 夜は一緒に夕食を食べ、映画を見たり本を読んだり、ただ抱き合っていたりする。 普通の、平凡な生活。 しかしリョウにとって、それは何よりも幸せな日々だった。「リョウ、買い物に行くぞ」 ある日曜日の朝、カイトが声をかけた。「はい、今行きます」 リョウは部屋を出て、カイトと手を繋いだ。 アパートの外に出ると、熱帯の太陽が照りつけていた。しかし、もう慣れた。 二人は市場に向かった。 色とりどりの果物、新鮮な魚、香辛料の匂い。タイの市場は、いつも活気に満ちていた。「今日は何を作る?」 カイトが尋ねた。「トムヤムクンにしましょう」 リョウは答えた。「あなたの好物ですから」「ありがとう」 カイトは微笑んだ。 二人は材料を買い、アパートに戻った。 そして、一緒に料理をした。 カイトが野菜を切り、リョウがスープを作る。 途中、カイトがリョウの腰を抱いた。「カイト、料理中ですよ」「分かってる」 カイトはリョウの首筋にキスをした。「でも、我慢できない」 リョウは笑った。 こんな日常が、こんなにも愛おしいとは。 かつては想像もできなかった。 夕食の後、二人はベランダに出た。 夕焼けが、空を染めていた。 リョウはカイトの肩に頭を預けた。「カイト」「何だ?」「幸せです」 リョウは呟
Last Updated : 2025-12-19 Read more