Semua Bab 恋骨(こいぼね)――あわいの刻、愛を彫る: Bab 11 - Bab 13

13 Bab

第十一章 血の模倣者

 季節は巡り、また冬が来た。 清次の古道具屋「清(せい)」は、深川の路地裏でひっそりと、しかし確固たる地位を築いていた。看板もない店だが、目利きの客だけが訪れる。彼らは知っていた。この店の主が、伝説の職人「あわい屋お龍」の作品を鑑定できる唯一の人物であることを。 ある雪の降る夕暮れ、一人の男が店を訪れた。 まだ二十代半ばだろうか。痩身で、神経質そうな指をしている。目は爬虫類のように冷たく、まばたきが少ない。名は勇(いさみ)と名乗った。「清次殿とお見受けする」 勇の声には、若者特有の傲慢さと、それを隠そうとする礼儀正しさが同居していた。「あわい屋お龍の『真作』を作ったので、見ていただきたい」 清次は火鉢に手をかざしたまま、顔を上げた。「……言葉が矛盾しているな。『作った』のなら、それはお龍の作ではない。お前の作だ」「いいえ。私は彼女の技法を完全に再現しました。素材、手順、そして『魂の封入』に至るまで。物理的に同一であれば、それは真作と呼べるはずです」 勇は、桐の箱を差し出した。 箱が開かれると、そこには異様な気配を放つ張形が鎮座していた。 素材は黒檀。漆黒の肌に、血管のような赤い筋が走っている。その艶めかしさは、見る者の股間を直撃するほどの妖力を持っていた。 清次は眉をひそめた。 匂いがする。 お龍の作品から漂う、あの甘美な腐敗臭とは違う。もっと生臭く、暴力的な匂いだ。「……素材は何だ」 清次が問うと、勇は薄い唇を歪めて笑った。「気づかれましたか。……若い女の、大腿骨の粉末を混ぜています」 清次の背筋に氷柱(つらら)が走った。「どこで手に入れた」「吉原の投げ込み寺ですよ。身寄りのない遊女の骨など、金さえ積めばいくらでも手に入る」 勇は悪びれる様子もなく続けた。「お龍は自分の骨を使ったという伝説がある。ならば、他人の骨でも理
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-22
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第十二章 雨の終わる場所

 時は流れ、明治の世が近づいていた。 ちょんまげを落とす者が増え、町にはガス灯が灯り始めていた。 文明開化の足音が聞こえる中、古道具屋「清」の灯りは消えようとしていた。 夕霧が死んだ。 流行り病だった。あっけない最期だった。 彼女は死ぬ間際まで、あの黒柿の張形を握りしめていた。 皺だらけになった手で、それを頬に寄せ、「ああ、お龍さんが迎えに来たよ」と微笑んで息を引き取った。 彼女の顔は、苦界に生きた遊女のものとは思えないほど、少女のように安らかだった。 残されたのは、清次ひとり。 彼ももう七十を超え、足腰は弱り、目も霞んでいた。 広い土蔵に、ひとりぼっち。 そこには、三つの「遺骨」がある。 炭化したお龍の像。 夕霧が遺した張形。 そして、清次自身の腰にある張形。 三つが揃った。「……そろそろ、しまい時だな」 清次は誰に言うでもなく呟いた。 このまま自分が死ねば、これらの品は散逸するだろう。 博物館に飾られるか、好事家のコレクションになるか。 だが、それはお龍の本意ではない。 これらは「見る」ものではなく、「使う」もの、あるいは「想う」ものだ。見世物にされることは、魂の陵辱に等しい。 清次は、最後の仕事に取り掛かった。 彼は、かつて「あわい屋」があった根津の跡地へ向かった。 そこは今、小さな稲荷神社になっていた。火事の犠牲者を弔うために建てられたものだ。 夜陰に乗じて、清次は社の床下に入り込んだ。 かつて、夕霧がお龍を隠そうとしたように。 彼は土を掘った。 深く、深く。 そこは粘土質の層で、湿気を帯びていた。 この湿気が、漆を守る。 清次は、特注の陶器の甕(かめ)を用意していた。 その中に、炭化したお龍の像を安置する。 そして、その左右に、夕霧の張形と、自分の張形を添えた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-23
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最終章 愛の解剖学

 西暦二〇二五年、東京。 初夏の日差しが、文京区根津の路地に降り注いでいた。 古い木造家屋と、近代的なマンションが混在するこの地域で、大規模な再開発工事が行われていた。 かつて稲荷神社があった場所も、新しい道路を通すために掘り返されていた。「おい、何か出たぞ!」 重機を操作していた作業員が叫んだ。 地中深くから、巨大な陶器の壺のようなものが現れたのだ。 現場監督が駆け寄る。 壺は重機の爪でひび割れていたが、中身は無事のようだった。「なんだこれ……? 骨か?」 壺の中には、黒く変色した奇妙な塊と、二本の木製品が入っていた。 数日後。 東京大学医学部、法医学教室。 無機質な解剖台の上に、その「塊」は置かれていた。 部屋の空気は冷たく、空調の音だけが響いている。 准教授の雨宮(あめみや)は、CTスキャンのモニターを食い入るように見つめていた。 彼女は遺物の分析、特に歴史的な出土品の人類学的解析を専門としていた。「先生、これ……すごいです」 助手の学生が、震える声で言った。 モニターには、黒い塊の内部構造が、輪切りの断層画像として映し出されていた。「これ、人間ですよね?」「ええ。成人女性。骨盤の形状からして、出産経験はない。年齢は二十代後半から三十代前半」 雨宮は画像を操作し、3Dモデルを構築していく。 肋骨、脊椎、頭蓋骨。 その骨格は、非常に華奢で、美しいバランスをしていた。「でも、見て。ここの部分」 雨宮が指差したのは、胸部のあたりだ。 そこには、人間の骨とは違う、小さな骨格が融合していた。「猫……ですか?」「そう。猫を抱いている。……それだけじゃないわ」 雨宮はさらに解像度を上げた。 炭化した皮膚の表面、そして骨の周
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-24
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