離婚が決まったその日、私は結婚したときに着ていた服だけを身につけたまま、家を出た。住むところも、車も、貯金も、子どもたちも。全部、高遠慎也(たかとお しんや)に任せて。慎也は意外そうに私を見て、鼻で小さく笑った。「本気か?三人とも、お前が育ててきた娘だろ。それも置いていくって?本当に何もいらないなら、養育費も請求しない。それでいいんだな」私は迷うことなく離婚協議書に署名し、静かに答えた。「ええ。それで構わないわ」慎也はしばらく黙ったまま書類を見つめていたが、やがてゆっくりと名前を書いた。「……もし後悔したら、もど――」私は軽く手を振って、その先を言わせなかった。そして振り返ることなく、逃げるように家を飛び出した。すると珍しく、慎也が後を追ってきた。「そんなに急いでどうする。外は冷えるだろ。その格好じゃ、厚手のコートも着てないじゃないか」そう言って、彼は手にしていた毛皮のコートを差し出してきた。けれど私は、首を横に振る。「あなたのお金で買ったものだから。受け取らない」慎也は数秒、言葉を失ったように立ち尽くし、その目に苛立ちと、ほんのわずかな痛みを浮かべた。いつもなら、もうとっくに不機嫌になって怒鳴っている。でも今回は、珍しく声を落とした。「さっきの話、まだ終わってない……もし後悔したら、戻って来い」そう言うと彼は、私の手にひんやりとした平たい金属を押し込んできた。「お前の願いコインだ」わざと私の手のひらをつまみ、すべてがまだ自分の掌の上にあるとでも言いたげな態度だった。私は、何年も目にすることのなかった願いコインを強く握りしめ、胸の奥に複雑な感情が渦巻くのを感じた。結婚したばかりの頃、慎也は特注の願いコインを百枚作り、私への「ご褒美」だと言っていた。あの頃はまだ愛情も深く、私は毎月一枚ずつコインを受け取り、そのたびに一つ願いを叶えてもらっていた。けれど、いつからか――どれほど甘えても、機嫌を取っても、二度とコインをくれなくなった。ここ二年、私は以前と変わらないつもりで彼に尽くしてきた。それでも、願いコインは一枚も手に入らなかった。私は何度も頼み込んだ。願いコインで、たとえ一度だけでも、彼と触れ合いたかったから。慎也はもう長い間、私を近づけようとしなかった。私たち
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