Todos los capítulos de 夜のデパート七不思議を視る君を見た: Capítulo 1 - Capítulo 10

23 Capítulos

プロローグ 呼吸するデパート

夜のデパートは、人の気配が消えた途端、「静寂」を取り戻す。だがその静けさは、空っぽではなかった。——むしろ、薄闇の奥でゆっくりと息づく、名前のない“気配”完のようだった。その呼吸のような静けさを引き裂くように、美咲は必死に走っていた。床に叩きつけられるブーツの足音だけが、やけに大きく響く。背後では、気配がずるりと形を変えながら迫ってくる。別の通路では鏡の奥がくすりと笑い、天井からは軋むような、終わりの見えない溜息の音が落ちてきた。美咲は喉の奥が震えるのを必死で押し込めた。「……神様。 あたし、ただ—— マッチングアプリで“彼と再会して”、 一緒に買い物してただけなんですけど……?」本当に、ただそれだけ。何年ぶりかに連絡を取り合って、少し浮かれて、久しぶりに“デートみたいな時間”を過ごしていただけなのに——。まさかその数時間後に、“生きているデパート”の中を命がけで走る羽目になるなんて。美咲は、1ミリも思っていなかった。それでも、背後から伸びてくる気配は止まらない。デパートは確かに静まり返っているはずなのに、ここでは“何か”が確実に目を覚まし、美咲の存在を意識し始めていた。逃げなければならない理由は、もう説明できる段階を越えている。ただ本能だけが、ここにいてはいけないと叫んでいた。
last updateÚltima actualización : 2025-12-26
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第一章 再会は偶然か、必然か

電車が揺れた瞬間、手の中のスマホが震えた。『あなたと相性度90%の相手をご紹介します』と通知が表示された。仕事帰りの疲れきった体を、ガタンゴトンと小刻みに揺らされ、車内の暖房によって体を温められた美咲は、必死に眠気と戦っていた。眠気交じりにスマホ画面に目をやった美咲は、何も期待する事なく『表示する』をタップする。(ああ、いつもの“ピックアップ表示”ね…)今までも何度か表示されたが、「いいね」を押したくなる男性が出てきた事はない。しかし、今回は違った。美咲はスマホに表示された写真を見た瞬間、固まった。YU.S──29歳。「……え?」車内で自分だけなのに、思わず声が漏れてしまい、誤魔化すように咳払いをした。美咲はもう一度、スマホ画面に目をやった。プロフィール詳細をタップして、更なる情報を確認する。登録写真には夕日を写した風景写真もあった。それは美咲の地元で有名な、夕日スポットだった。名前はイニシャルだけだが、分かった。この横顔、この笑い方。彼とは小学校も中学校も、数回同じクラスだった。“残念イケメン”という称号を持つ、元同級生。——篠原 悠。見た目は昔から整っていたけれど、時々見せる残念な言動が絶妙で、教室をふわっと明るくするタイプだった。アプリの中の悠は、当時のあどけなさを残しつつ、きちんと“大人の顔”になっていた。(悠もこのアプリ使ってたんだ……)懐かしさと気恥ずかしさが入り混じり、美咲は無意識に唇を噛んだ。写真の悠は、笑っているのにどこか影があって、「昔と同じなのに、昔よりかっこいい」そんな矛盾した感情が胸をくすぐる。美咲はスマホを閉じ、窓に映る自分の顔をちらりと見た。マスク越しでも、少し疲れているのが分かる。(……大人になるって、こういう“余裕ない感じ”なんだなぁ)営業職になって六年。仕事は嫌いじゃないけれど、残業の日が続き、帰れば倒れるように眠るだけ。少し早く帰れた日だけが小さなご褒美で、コンビニの缶チューハイとお菓子が、密かな癒やしになった。休日は山に登ったり、神社に行くようになった。自然の空気や鳥居をくぐる瞬間が、胸のざわつきをそっと静めてくれる。(そろそろご朱印帳買いたいんだよな……)そんな日々を過ごすうちに、気づけばもうすぐ三十歳。「結婚しなきゃ」と焦っているわけじゃな
last updateÚltima actualización : 2025-12-26
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第二章 地元での再会と、胸に灯る違和感

地元の駅に降り立つと、懐かしい空気がふっと肌を撫でた。「うわぁ、帰ってきたって感じする……」商店街の匂い、少し低めの建物。街全体が、昔のまま時間を止めているようだった。背後から肩を軽く叩かれる。「よっ」振り返ると──篠原 悠がいた。少し大人びた雰囲気、整った髪、優しい笑み。見た目だけなら少女漫画の“いい男”そのものだ。「久しぶり、美咲」(えっ……普通にカッコよ……)と思ったのも束の間。「今日腹の調子が朝から最悪でさ。ここ来る前も一回ヤバくて、遅刻するかと思って焦った〜!」カッコいい顔で言う内容じゃない。美咲は一瞬で現実に引き戻されるような、なんとも言えない表情になった。(……あぁ、そうだ。この感じ。“残念イケメン”って呼ばれてたなぁ。)久しぶりに会う同級生女子に二言目でトイレ話題を出すとは……その懐かしさに思わず吹き出してしまった。「? 何笑ってるんだよ、美咲!」「…何でもない! 久しぶり、悠。元気してた?」美咲が微笑むと、悠は一瞬言葉に詰まり、照れたように視線を逸らした。「…あぁ。美咲も元気そうで良かった。 じゃあ、行くか?」耳が赤くなるのを隠すように、髪を直すふりをして。「うん! 地元は夏以来だけど、あのデパートはもっと久しぶりだから…楽しみにしてたんだよ。悠はよく行くの?」「いや、俺も久しぶりだよ。車持つようになってからはアウトレットとかモール行くからさ。」「車あると便利だよね〜。あたしも駐車場さえあれば買うのになぁ。」「美咲は電車で事足りるからいらないだろ。維持費とか大変だぞ。」「ガソリン代も高いもんねぇ。でも好きなとこにパッと行けるのは羨ましいよ〜!」自然と続いていく会話。久しぶりとは思えないほど心地よく、二人は胸を弾ませた。今日は楽しい時間が過ごせる気がする。── 「優しいって……じいちゃん達に言われるのとは違って、美咲に言われるのは……なんか照れるな!」その表情に、美咲もふっと視線を落とした。(こういうところ、昔のままだな……)優しくて、照れ屋で、笑うと無邪気なところ。小学生の頃の記憶が鮮やかに蘇る。やがて、目的地であるデパートが見えてきた。外壁の茶色いタイル、少し古い看板──全てがあの頃のまま、時間が止まっているように見える。「懐かしいなぁ。昔、ここの本屋で立ち読み
last updateÚltima actualización : 2025-12-26
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第三章 曰く付きデパートと七不思議のポスター

自動ドアを抜けた館内は、思ったより静かだった。かつては子ども連れであふれていた1階フロアも、今は買い物客がまばらに歩いているだけ。秋の終わりとはいえ、まだ日暮れ前。それなのにここまで人が少ないことに、美咲は少し驚いた。(……こんなに静かだったっけ?)小学生の頃の賑やかなデパートが鮮明によみがえる。毎週のように家族で来ては、必ず誰かに会う。誰に会ったかを月曜日に話題にしたり、古いプリクラ機の前に列を作ってワイワイしたり。大人にとってはただのショッピングモールでも、当時の美咲たちにとっては“社交の中心”だった。色の褪せた壁紙を見つめながら、美咲は思う。(……デパートも、私たちが大人になる間に、同じだけ歳を取ったんだな)フードコートへ向かおうと歩き出したとき。美咲の視線が、古い掲示板に吸い寄せられた。端には、色あせた一枚の張り紙。『199X年 館内にて通り魔事件発生 お客様にはご協力いただきありがとうございました』「……あ。そういえば、こんな事件あったな」声に出してみて、ようやく思い出す。あの頃、地元中がざわついた“あの事件”。数メートル先にいた悠が、足を止めた美咲に気付き振り返る。「おーい美咲! 早くフードコート行こうって! 俺トイレ二回済ませてきたから、お腹空きすぎて死にそう!」「もう! そんなの大声で言わなくていいから!!」美咲は呆れながら、小走りで悠に追いついた。美咲は気づいていなかった。この時点で、すでに“七不思議”は美咲を見つけていたことを。⸻フードコートでは、お互い好きなものを注文し、食事をしながら他愛ない会話を楽しんだ。「そういえば美咲って、休日は何して遊んでるの?」「最近は山登ったり、神社巡ったりかな。」「神社巡りかぁ。今流行ってるよな。」「なんかね……落ち着くの。 昔からちょっと“敏感”でさ。 だから神社に行くとスッとするっていうか……」「美咲って、そういう感覚あるよなぁ。 ターボーが言ってたもん。 『美咲って怒ると迫力すごいし、霊とか寄ってこなさそう』って。」「誰よターボー……あぁ、あの足速かった子?」「そうそう。今や俺の腹痛の相談相手。」「どんな友情?」「ターボー言ってたぞ。 『美咲って、委員長っぽい顔してる』って。」「なにそれ! どんな顔よ!?」悠は笑い
last updateÚltima actualización : 2025-12-26
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第四章 静かな館内に残る影

先ほどまでは閉館作業で慌ただしかった館内だったが、気づけば、人影がじわじわと少なくなっていくのを美咲はスマホを片手に眺めていた。客はもう、ほとんど帰ってしまったらしい。従業員は各フロアを巡回し、確認し終えた店舗から順に盗難防止用のカーテンが、シャッ……と降りてゆく。美咲は、ひとりだけ取り残されたような感覚になり、胸の奥に不安がゆっくりと広がっていくのを感じた。その時——パチン。館内の照明が、わずかに一段暗くなった。「わっ……ビックリした。」突然の変化に、美咲は思わず声を漏らす。館内BGMがふっと途切れ、最後の音の残響だけが耳の奥でゆらりと揺れた。その静けさの中で、美咲は小さく呟く。「悠……まだ……?」トイレの入り口からは何の気配もない。美咲は不安になってソワソワし出した。(ほんとにあのトイレにまだいるのかな? あたしがスマホ見てる間に出てきて、もう外に行ってるかも……)トイレの前まで行って声を掛けてみよう。そう思い、一歩踏み出した瞬間——ガシャン、ガシャン。シャッターの降りる音が、店の奥から響いた。従業員たちが帰り支度を始めている。「あ、ちょっと! まだいます!」美咲は焦って声を上げるが、その声はシャッターの金属音にかき消された。バタン。最後の扉が閉まる。美咲は、静まり返った館内にひとり取り残された。(え〜……いくら田舎とはいえ、客を残して帰るとか許されるの?)信じられない、と憤慨していると、そのすぐ背後で、“何か”が動いた気がして振り返る。……誰もいない。デパートの館内は、秋の終わりとは思えないほど冷え込んでいた。「……寒っ。外じゃないのに?」空気の奥からじんわり滲んでくるような、“底冷えの冷たさ”が肌を刺す。(閉館したから暖房消したのかな…… それとも、これ、なんか別の要因の……)美咲はぶるっと身震いをし、無意識に両腕をさすっていた。(さっきの従業員さん……何か言いかけてたよね……?)美咲は一度だけ深呼吸をし、暗く静まり返った男性トイレへ、ゆっくりと足を向けた。⸻悠が入っているであろう“唯一閉まっている個室”の前に立ち、美咲は扉に向かって呼びかけた。「悠ー? まだー? デパート閉館しちゃったよー?」返事がない。目の前で声を掛けているのに……。(ドアが閉まっ
last updateÚltima actualización : 2025-12-28
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第五章 鏡迷路に映る“もう一人”

美咲と悠はトイレエリアから離れるために歩き出した。また先ほどの霊に出くわすのだけは避けたかった。デパート館内は薄暗く、ところどころ非常灯の光がぽつぽつと床を照らしている。美咲は、這いずり女のビジュが頭にこびりついていて、振り払おうと何度も小さく首を振った。(もう、忘れる! 忘れたい! 忘れて!!)自分で自分に言い聞かせながら、美咲は必死に“楽しいこと”を考えようとする。そういえば……と、横を歩く悠に話しかけた。「ねぇ悠、前に“休みの日何してるの?”って聞かれたじゃん? 悠はいつも、お休みの日なにしてるの?」「俺はね〜、料理にハマってる! 動画見て美味しそうなやつ作ってみたり、外国の料理作ってみたり!」悠が楽しそうに話す。美咲は予想外の回答に目を丸くした。「料理?!! 意外なんだけど…! すごいね! 最近は何作ったの?」「マッケンチーズ!」「……んん?! 何て?!」「マカロニ&チーズってやつで、アメリカでよく食べられる料理だよ。 色んな人が作ってる動画が上がっててさ。作り方も様々で面白いし、とにかく美味い!」「マッケンチーズって初めて聞いた! マカロニ側だけ名前崩しすぎじゃない? でも、確かに美味しそうだね!」「実際美味しいんだよ! 結構有名だけどな〜、マッケンチーズ!」「“マッケンチーズ”って言いたいだけに聞こえるけど……」美咲がクスリと笑った。「確かに」と悠も笑う。「でもほんとマッケンチーズおすすめ! あと料理以外だと、休みが合ったらターボーとバドミントンやってる!」「ターボーと仲良いなぁ! てかバドミントンて! 高校でやったのが最後だよ……」「久しぶりにやると楽しいんだよ。今度美咲もやろう!」悠が笑顔で明るく話すと、不思議と薄暗いデパートの雰囲気も少しだけあたたかくなったように感じた。美咲も、さっきまで引きずっていた恐怖を一旦忘れて、心から楽しんで笑えるようになっていた。ふっと上を見上げると、頭上の看板が照明に照らされていた。『キッズわくわく鏡迷路』その看板を見た瞬間、悠の目が輝いた。「この鏡迷路まだあったんだ! 懐かし〜! 小学生の時、ターボーと毎回来て、入って出てを繰り返してたんだよ!!」「……何その遊び方、狂気を感じるのよ……」「俺のがいつもゴール早かったんだよ。 ちょっと
last updateÚltima actualización : 2025-12-30
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第六章 内臓男と“事件の影”

鏡迷路から逃げて、悠がトイレへ走り去ったあと、デパート内は静寂に包まれていた…美咲は一人きりも嫌だったが、トイレの側で待つのはもっと嫌だった。最初の恐怖がフラッシュバックするからだ。扉から垂れてきた足…這いずる女…美咲はブルッと身震いし、首を横に振った。考えちゃダメだ……と無理やり意識をそらす。一人になると、一気に疲れが込みあげてきた。(どこか……座りたい……)見渡すと、先ほど悠と軽食を食べたフードコートがある。美咲は周囲を警戒しながらゆっくり歩き、鏡迷路に背を向けて、椅子にストンと腰を下ろした。ふぅ〜……っと長い息が漏れ、身体が沈んでいく。鏡迷路を出たあとも、胸の奥のざわつきは消えなかった。あの白い手、鏡に貼りつく血の跡──そして、自分だけが“視えていた”という事実。最後に背中に刺さった、あの視線。思い返すだけで、身体の芯がまだ震えていた。(……なんで、私だけ……?)無意識に両腕をさすりながら、美咲はふと気づく。デパートに入ったときに目に入った、あの“通り魔事件”の張り紙。胸の奥が暗く沈んだ、あの嫌な気配。(まさか……本当に関係してる……?)認めたくなくて、ずっと考えないようにしていた。でも、這いずり女も鏡迷路の出来事も──無関係と言い切れなかった。(……調べなきゃ)美咲は深く息を吸い、震える指先でスマホを開く。デパートに入る前から続いていた違和感。事件の張り紙を見たとき胸に落ちた黒い重さ。それが今の怪異と一本の線で繋がるようで──(噂のままで終わらせたら……ダメだ)美咲は画面をスクロールした。“あの事件の本当のことを知らないままじゃ、前に進めない気がした。”検索結果に、見覚えのあるタイトルが表示される。『199X年●●デパート通り魔事件』「……これだ。」美咲はゴクリと息を呑んだ。地元で起きた最大級の事件。幼いころ、断片的に耳にした断片だけが記憶に残っている。『人が亡くなったらしい』『犯人が逃げたらしい』そんな噂話だけが、自分の周りを飛び交っていた。両親も詳細は話さなかった。知らなかったからなのか、子供に話せない内容だったのか──今となっては分からない。美咲は記事をタップした。「……っ」喉が固まり、息が止まる。画面には、無表情の男が写っていた。ジトっとしたこの目…さ
last updateÚltima actualización : 2026-01-01
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第七章 消えたポスターと四つ目の気配

フードコートでの惨劇から離れ、二人はしばらく、何も言わずに歩いていた。非常口へ続く、薄暗い廊下。最後の照明すら時折点滅し、足音だけが、硬い床に、淡々と響く。美咲はため息をつく。「……ねぇ、悠。本気で何も見えてないの?」「うん……見えないけど、美咲の反応で“ヤバい状況”なのは分かる。」「え〜……何で悠には見えないんだろう…。」美咲は腕を摩りながら息を整える。「……さっきさ、フードコートで、ちょっと調べたの。このデパートの、昔の事件。」悠が顔を上げる。「え?事件?」美咲は静かに頷いて、調べて分かった事を悠に伝える。「うん……。“通り魔事件”。五人亡くなって、犯人が……トイレで自殺したって。」2人の歩く足が自然とゆっくりになる。「犯人、“柳瀬 透”って人。写真もあった。……私、初めて顔見た。」「柳瀬……?…何か名前は昔聞いたことある気がするけど……俺も顔は俺も見たことないなぁ……」「うちら小学生だったしね。“変な事件があった”くらいしか、分かってなかった。」2人は並んで歩きながら、薄暗い天井を見上げる。悠がふと、疑問に思う。「……でも、なんでさ、美咲にだけ怖いやつがくるんだろ……」「分かんない…なんか、集中攻撃されてるよね……?」「うん……明らかにされてる。俺なんか一個も見てないし……トイレ行くタイミングが神ってるのかなぁ……?」「何言ってるの…もうホント、何も来ないでほしい……」少しの沈黙のあと、美咲がふと思い出す。「……そういえばさ、トイレの前に貼ってあったよね、“七不思議”のポスター。」「ポスター?あぁ、閉館前に見かけたやつ?俺すぐにトイレ入ったから全部読んでないや。」「そう、それ。色褪せた紙で、『七不思議 その一:這いずり女』『その二:鏡迷路の影』って書いてあった。」美咲が顎に手を当てて、書いてあった内容を思い出す。あまり聞かないラインナップだったからか、印象に残っていた。悠は驚いて美咲の方を向いた。「え……それって、さっき美咲が……?」「うん、あたしだけが見えてる怖いやつ…確か…その三は…内臓はみ出し男だった気がする…!」「じゃぁ、ポスターに書いてあった七不思議が、実際に起きてて、美咲にだけ見えてるって事…?」美咲は、ふと足を止めた。「……ポス
last updateÚltima actualización : 2026-01-03
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第八章 七不思議・その四『厚塗り女』

七不思議のポスター跡を離れ、二人は静かな通路を、非常口へ向かって歩いていた。2人の足音だけが広い館内に響く。悠がふと疑問を口にする。「てか……閉館してるのに、外出られるの?あれ?そもそも非常口のドアって開くの?」美咲は前を真っ直ぐ見つめて答えた。「……うん。ひとつだけね。」「ひとつだけ?」「さっき、閉館前に女性従業員さんが、“外からは開かないけど、中からだけ開く非常口がある”って教えてくれたの。」「あ、もしかして、俺ってその時……」「そう。悠はトイレで戦ってた。」「……いや言い方よ……でも、ごめんな?俺がトイレからすぐに出れてたら、こんな事にはならなかったんだよな…」「いいよ!別に責めてないから!朝まで出れない訳じゃなくて、出られる場所があるんだもん。そこに向かえばいいだけ!」美咲の、本当に責めていない気持ちが伝わって、申し訳ない気持ちと安堵感で、悠は小さく頷いた。二人は薄暗い館内を足元に気を付けながらゆっくり進む。時折周りを見渡してみる。非常灯のみの薄暗い廊下、閉館後で使えなくなったエレベーター、普段なら見る事のない景色だった。夜のデパート、しかも悠と2人で歩くなんて…謎の展開過ぎる状況に美咲は少し微笑んだ。(ありえない状況だけど、隣にいるのが悠で良かった…なんて、不謹慎かな。)「ん?何笑ってんの?美咲。」美咲はドキリとして、思わず早口で話す。「いや、だって、こんな体験、普通する事ないじゃん?おかしく思えてきてさ。」「確かに!俺の武勇伝が増えたよ。」悠は美咲の少しの動揺に気付かずに笑顔で答えた。(笑ってるのバレた…ビックリした…)まだ少しドキドキする胸に手をやり、美咲は息を吐いた。しかし、その直後、美咲は感じた事のない、暗い、重い空気が肌をかすめるのを感じた。(な、なに?!)背中がゾワゾワする、警告のような感覚…薄暗い廊下の曲がり角の向こうから、良くない空気が流れてきているのが分かった。「なんか…変…」「え?!何が?」悠は訳も分からず、周りを見渡すが何も感じない。ただ、美咲の怯える表情を見て、嘘を言ってない事は分かる。2人は息を潜め、恐る恐る進んだ。そして曲がり角の先に──薄暗い、化粧品エリアの影が見えてきた。鏡の向こうから、ぼんやりとした、白い顔がこちらを覗く。
last updateÚltima actualización : 2026-01-05
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第九章前編 溺死の気配

厚塗りオバケから全力で逃げた2人は、非常口があると信じて向かってきた、薄暗い通路で息を整えていた。美咲の呼吸はまだ荒く、胸の奥がドクドクと痛いほど脈打つ。美咲はブーツで走り回った為、足も少し痛かった。悠はトイレを指差し、美咲に声を掛ける。「俺、トイレ行ってくるけど、美咲大丈夫か?ここの椅子で座って休んでて!絶対すぐ戻る!」「…分かった。ちょっと、さすがに疲れたから、座って待ってるね。…早く戻って来てね!」「OK!」悠はダッシュで駆け込み、扉が閉まる音が響く。美咲はそばの自販機で水を買い、トイレ前の椅子に腰を下ろした。「……はぁ〜……」(こんなに、真剣に走ったの、学生時代の文化祭以来だ…)日頃から趣味で登山や神社仏閣を歩いていた美咲は、多少足腰には自信があったが、こんな形で助かる事になるとは思わなかった。少しでも体を休めようと、美咲は目を閉じた。足の裏が少しズキズキするのを感じる。(靴で来れば良かった…)そんな事を薄ぼんやりと考えながらも、脳裏に浮かぶのは、先程までの出来事だった。這いずり女、鏡迷路、内臓男、厚塗りの女…そして──あの“柳瀬の影”。今さっき、廊下の奥に柳瀬の影が見えた瞬間に感じた、全身を包むような、深い場所からの視線…美咲は思い出して、ブルっと身震いした。「……なんで私ばっかり……神様……私、なんかしました……?」冷たい水をひとくち飲み、ゆっくり目を開けた。──ガチャッ。悠がスッキリした顔で出てきた。「ふーー!!スッキリした!!あ、俺も水買う!久しぶりに全力疾走して喉乾いた!」悠は美咲と同じ水を買い、キャップを開けてそのまま一気飲み。「悠…冷たいの一気に飲んだら……またお腹痛くなるよ?」「…!確かに。喉カラカラだったから一気飲みしちゃったよ。….まぁ今全部出したからしばらくは平気っしょ!」「その自信どこから来てるのよ……」悠はペットボトルをぶらぶら揺らしながら聞いた。「で、美咲。非常口こっちで合ってるの?」「うん、西口って聞いたから……確かこの方向──」「いや、美咲。ここ東口だよ。」「……え?!うそ?!」「子供の頃、ターボーと館内の集合場所を西口→東口→西口→東口ってローテしてたから覚えてるんだよ。」「何そのルーティン!!…でもおかげで間違いに気付けたか
last updateÚltima actualización : 2026-01-07
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