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第十八章 七不思議救済ツアー【前編】

美咲と悠は、人混みの中を進んでいく。「美咲、どこに行くんだ?」「そうだねぇ〜……まずは、“這いずり女”が出た一階のトイレから行こう!」美咲が悠の腕を引っ張りながら、明るい声を出した。悠は困惑しつつも、どこか嬉しそうな顔をしながら尋ねる。「本当にやるのか、七不思議救済ツアー。……てか、何やるんだ?」「あの夜、あの場所で起きたことを、そのまま無かったことには出来ないもん。だから、“今”の場所を見ておきたい」少し悲しみを含ませた、しんみりした表情。けれど美咲は、すぐに顔を上げて表情を変える。「それにね――」ニタリと笑って、悠を見る。「もしかしたら、まだ誰か残ってるかもしれないよ?」無邪気に言う美咲の横顔は、あの夜見た“戦う顔”とは違う。どこか楽しそうで、その変化に悠の胸が、自然と温かくなった。「なるほど。それは確かに確認しないとだな!」「でしょ?」2人は献花台を後にし、一階のトイレフロアへ向かった。七不思議その1、『這いずり女』がいた場所へ。⸻人の往来が絶えない明るい廊下。母親に手を引かれる子ども、待ち合わせをするカップル、ベビーカーを押す夫婦——。一階トイレ前は、あの夜と同じ場所とは思えないほど、「当たり前の日常」の空気が流れていた。美咲は悠の手を軽く引き、人の邪魔にならない壁際へ移動する。「ここね……。あたし、ここで“這いずり女”に追いかけられたんだ」声は落としているのに、指先はしっかりとその方向を示していた。美咲には、あの瞬間が鮮明に思い出せる。あの夜の恐怖体験は、そんな簡単に忘れられるものじゃない。「あの時は、本気で怖かったよ……。血だらけで速くて……怖すぎて、息が止まるかと思った……」誰もいないはずの薄暗いトイレ。近づいてくる、体を引きずる音。目に飛び込んできた血まみれの女性——。五感すべてが震え上がった。次の瞬間にはすごい勢いで追いかけられ、全身がパニックでいっぱいだった。走っても走っても逃げ場がなくて、足がもつれた瞬間、「死ぬ」と思った。美咲があの夜を思い出して辛そうな顔をしているのを見て、悠は悔しそうに眉を寄せる。「俺、その時トイレにいたんだよな。美咲の声、全然聞こえなかった……今思うと、柳瀬が邪魔してたのかもな」「うん、たぶん……。まぁ、悠がいても“這いずり女”
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第十八章後編 七不思議救済ツアー— 光の階段で

2人は1階を後にし、東側階段を上って2階の通路へと進んだ。階段を上がった瞬間、空気がふわりと変わったように感じた。催事場やフードコートで子供たちの声が響く1階とは違い、2階はどこか「落ち着いた賑わい」をまとっている。買い物を楽しむ大人たちの笑い声、香水や布地の柔らかい匂い——あの夜は閉店して照明も薄暗かったため気付かなかったが、若い女性向けのファッションショップやインテリア雑貨の店が並び、今では中高生や若い女性たちで賑わっていた。その光景は、まるで“本当にあのデパートだったのだろうか?”と錯覚してしまうほどだった。美咲は驚いて思わず口に出す。「え…雰囲気、違いすぎて別世界なんだけど。」「本当だな…。あ、あそこ折り畳み傘売ってそう!」「あ、待ってよ。あたしも行く!」美咲は先に歩き出した悠を追いかけて、軽く体当たりをした。笑い合いながら、2人はインテリア雑貨のお店に入る。2人の笑い声は明るくデパートの空気に吸い込まれていった。悠と美咲は折り畳み傘が陳列されている棚の前に立ち、色んな傘を手に取って機能や色を見ていた。ふと、美咲は顔を上げて、通路を挟んで向かいにあるペットショップに目を向けた。子犬や子猫の、追いかけっこやじゃれ合いや昼寝をする可愛い姿に釘付けになっているお客さんで溢れていた。その隣からは熱帯魚ブースが広がっており、小動物ブースと比べると、比較的落ち着いた雰囲気だった。青い照明に照らされる水槽の中を、尾鰭をヒラヒラとさせながら、色とりどりの綺麗な魚達が気持ち良さそうに泳いでる。癒しを求めているお客さんが、魚達が泳ぐ姿をキラキラした目で覗き込んでいた。そんな癒しオーラで満たされているペットショップを眺めながら、美咲はふいに口を開いた。「……ねぇ悠。」「ん?どうした?」悠は折り畳み傘から目を離し、美咲を見た。美咲は商品棚越しに水槽コーナーを見つめている。「あそこの水槽が割れたの、信じられないね…」悠はハッと思い出し、顔を水槽の方に向けた。「この店の向かいにあったのか…。ここは、"溺死の生首"だったよな?」美咲はこくりと頷いた。「切り落とされて水槽に首が入るなんて、ツラ過ぎるね…」「あぁ…。」水槽の中に揺れる自分なんて、想像できない。想像もしたくない…。デパートに買い物に来て、そんな事にな
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エピローグ — 光のデパートと、ふたりの未来へ

冬の冷たさがすっかり遠のき、春の匂いがやわらかく鼻先をくすぐる季節。朝の空気はまだ少しひんやりしているのに、日差しは優しくて、どこか心まで温めてくれる。美咲と悠は、いつもの道を並んで歩いていた。定期的に訪れるようになったデパート——あの“夜”を乗り越えた場所だ。冬の光に包まれていた外観は、今日は春色にきらめいて見える。自然と繋がれた2人の手は、もう離れることのないもののように、当たり前に、優しく結ばれていた。今日は、デパートの皆へ特別な報告があった。美咲が少し照れ臭そうに繋いだ手をブンブン振った。「なんか、照れ臭いね。報告するの…」「美咲が行きたいって言ったんだろ?…きっと喜んでくれるよ!」「…うん。」悠は繋いでいる美咲の左手をそっと持ち上げた。薬指で柔らかく輝く、小さなダイヤのリング。それは、先週2人が両家に挨拶を済ませ、“婚約者”になった証だった。どちらの親にも『本当にうちの子でいいの?』という言葉を言われた為、『どういう意味?!』と、悠と美咲は各自親にツッコんだ。ターボーからは即レスで「最高!幸せになれよ!」と鬼のようなスタンプと祝福メッセージが来た。美咲の両親も、悠の家族も、友人も応援してくれている。気付けば、すべてが穏やかに繋がりはじめていた。2人はデパートの自動ドアをくぐった。ヴィーン……春の光が差し込む館内は、あの日よりさらにあたたかい。子どもたちの笑い声、お店の呼び込み、明るい照明。ここに満ちる空気は、もうどこにも“あの夜”の影を残していなかった。入り口から店内を進むと、あの日の女性従業員がレジに立っていた。女性従業員はすぐに悠と美咲に気付いて手を振ってくれた。もうすっかり顔馴染みだった。美咲はお客さんがレジに居ない事を確認すると、女性従業員にそっと左手を上げて見せた。薬指には、小さな光を宿した指輪。指輪を見た途端、女性従業員の目に一気に涙が溜まり、頬を押さえて震えた。口元を押さえながら、慌てて他の従業員をレジ前に引っ張り出して、すぐに駆け寄って来てくれた。「お二人とも、ご結婚、おめでとうございます!!」女性従業員の店内に響くような弾んだ声に、レジの仲間たちも気づき、手を止め、微笑んで、静かに拍手を送ってくれた。美咲と悠は、少し照れながら頭を下げた。拍手がゆっ
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