All Chapters of 運命の輪~愛してる~: Chapter 11 - Chapter 20

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初恋 11

「か……」 帰りたくない、一人でいたくない、声があまり出ないおかげで彼に伝えられずに済んだ。 私は彼のワイシャツを掴んだままだ。 何をやっているんだろう。 彼は後ろを振り返り、わざと床に膝をついて私より目線を低くした。「美桜ちゃんが嫌じゃなかったら、今日は一緒にいませんか?」 本当は言って欲しかった言葉に心を打たれる。 コクっと頷いた。「良かった。俺も一人にしておけないと思っていたんですけど、逆に嫌なんじゃないかと思って。自信がなくて、引き止められませんでした。本当は一人にさせたくなかった」「必要なものとかありますか?買い物、一緒に行きましょうか?近くにディスカウントストアがあるので、最低限のものであれば買うことができると思います」 洋服は黒崎さんのを借りている。お泊りってなれば、そうだ。歯ブラシとか、メイク落としとか、下着とか着替えたい。だけど、もうこんな時間だ。私は一日くらい学校を休むことができるけど、黒崎さんは仕事だから。付き合ってもらっちゃ迷惑になるよね。 心の中で悩んでいると「行きましょうか。女の子だから、必要なものとかありますよね」 私の心を読んでいるのかな。  こんなにスマートに女の子って言ってくれるんだ。「ありがとうございます」 私はお礼を伝え、黒崎さんと買い物に出かけ、必要なものをパッと選んだ。 そう言えば、黒崎さんって夕ご飯とか食べていないんじゃないかな。 私は帰宅する時に、アルバイト先でまかないを食べさせてもらったから、お腹は空いていない。食べる気分にもなれないけれど。「黒崎さん、夕ご飯食べましたか?」「まだです。美桜ちゃんは?」「私はアルバイト先で」 そうだ、私で良かったら……。「夕ご飯、作らせてください。せめて何かお礼をさせてください」 提案をすると、黒崎さんの瞳が大きくなり「負担じゃなければ。美桜ちゃんの作ったもの、食べたいです」 そう言ってくれた。 コクっとうなずき、黒崎さんに調味料があるのか聞きながら、私の物と夕食の材料を購入し、彼のマンションへ帰った。 一緒に材料を分けてくれたあと「俺、シャワー浴びてきますね。冷蔵庫に飲み物とか入っているんで、好きに飲んだりしてくれて構いませんから。調味料とか、何か使える材料とかあったら遠慮せず使ってくださいね」 黒崎さんはバスルームへ
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初恋 12

 彼に連れられて、寝室に入る。 寝室もシンプル、大きなベッドがあり、隣に本棚があるくらいだった。 ベッドの上に私が座ったのを確認した彼は「俺、リビングにいるので何かあったら呼んでくださいね。何も考えず、ゆっくり休んでください」 私の頭に手をおき、髪の毛を撫でてくれた。「おやすみなさい」 彼が離れようとしたとき「ありが……とう。黒崎さん」 自然と言葉が出てきた。まだかすれている。  彼はフッと笑い、優しい顔をし、部屋から出て行った。 黒崎さんの香水の匂いが微かに残るベッドで眠りにつく。 何も考えるな。そう自分に言い聞かせた結果、思った以上に早く眠りについてしまった。 目を開けると、カーテンから微かに日の光が漏れている。 「ここは……」 一瞬、大きなベッドで寝ている自分が今どこにいるのかわからなかった。 そうか、黒崎さんの家に泊まったんだ。 昨日のことを思い出す。 私、昨日川口さんに襲われて、それで……。「はぁ」 深呼吸をした。昨日のこと、思い出したらまだ涙が出そう。 だけど昨日よりも落ち着いていられる。 ゆっくり眠れたから?時間が経ったから? きっと、黒崎さんが近くにいるって思っているからだ。 ベッドの上に置いてあったスマホで現在の時間を確認する。「えっ!もう十時!?」 慌てて起きる。 黒崎さんはどうしているのだろう。 リュックの中に入っていた鏡を見て、自分の髪型を直し、リビングに向かった。「おはようございます」 黒崎さんが机の上でパソコンを開いていた。「おはようございます。あの、寝すぎてしまって。すみません」 なんて言っていいのかわからない。 「ゆっくり眠れたようで良かったです。遅めの朝食を食べましょうか?久しぶりに作ってみたんですが」 そういって彼は机の上に、サラダ、スクランブルエッグ、ソーセージ、スープを並べてくれた。「今、パンを焼きますね」  きちんとした朝食を食べるのは久しぶりだ。 一人の時はトーストを一枚食べ、大学へ向かう。そんな毎日だから。「何か手伝うことありますか?」 声もかすれず、出るようになった。 普通に話せている。「大丈夫です。ゆっくりしていてください」 そういえば今日は金曜日、平日だ。こんな時間なのに、黒崎さんが家にいる理由って。私が彼の家に泊まっちゃっ
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初恋 13

「私、この後、昨日のことを警察に相談に行きます。黒崎さんと約束しました。逃げないできちんと話をします。もしかしたら他にも嫌な思いをしている人がいるかもしれないから」 川口さん《あの人》を許せない。 もしかしたら、私と同じような目に合っている人もいるかもしれない。 昨日のことを鮮明に思い出して伝えるのは、恐い。フラッシュバックして、泣いてしまうかもしれない。でも、黒崎さんに支えてもらって、このままじゃいけないよね。「わかりました」 私の気持ちを考えてくれたのか、黒崎さんは何も言わなかった。肯定も否定もしない。  ただ「俺が送って行きますね。美桜ちゃんが警察で話が終わるまで、近くで待たせてください」 そう言ってくれた。 甘えるわけにはいかないよ。 せっかくの休みをそんなことに使ってほしくない。「ダメです。黒崎さんはせっかくのお休みなので、休んでください。私は一人で大丈夫です」 頑なな態度の私を見て「俺、美桜ちゃんと行きたいところがあるんです。さっきお礼をしてくれるって言ってくれたので。その約束を果たしてほしいから。警察で話が終わるまで待ってます」「えっ?」  それって気を遣って言ってくれているんだよね。きっと。「一緒に行きたいところですか?」 どこだろう。全然予想ができない。「はい。だから話が終わるまで近くで待ってます。それに、もしかしたら現場を見ていた俺に情報を求められるかもしれないので。必要であれば、同行しますよ。念のため、スマホで昨日のことは録音してあるので。余裕がなくてカメラを向けることができていなくて残念ですが」 そっか。川口さんにも証拠はあるって黒崎さんは言っていた。 あの時、録音してくれていたんだ。 咄嗟に判断できるなんてすごいな。 「わかりました。よろしくお願いします。お礼は、私でできることならなんでもします」「はい。お願いします」  黒崎さんの優しさに惹かれていく。好きになっちゃいけない人なのに。 私だけじゃなくて、彼はきっと平等に優しいんだ。 黒崎さんに惹かれたのは、困っている時に助けてくれた優しさと彼の容姿。 一番最初は、一目惚れに近い好きだった。 これ以上、彼と一緒にいると黒崎さんの内面の深いところまで好きになっちゃう。 私の気持ちなんて、届くわけがないのに。 「黒崎さんって好き
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初恋 14

 黒崎さんの手、大きい。男性の手ってこんなに大きいんだ。ごつごつしてて、逞しい。好きな人と手を繋いだの、はじめてかもしれない。 近くの駐車場に駐めてあった車に乗る。なぜか後部座席に案内をされた。 黒崎さんも後部座席に一緒に座る。「もう泣いても大丈夫です。よく我慢できましたね」  頭を撫でられ、ギュッと手を握ってくれた。 どうして彼にはわかっちゃうんだろう。 こらえていた涙が抑えられなくなる。 彼がおいでというように手を広げてくれる。 甘えてしまっていいの?だけど、彼には好きな人がいるんじゃ。 私、こんなことされたら、黒崎さんのこともっと好きになっちゃう。  私が躊躇していると「嫌ですか?」 彼が私に問いかけた。 嫌なわけがない。 首を横に振った。「嫌だったら離れてください」 そう彼は呟くと、私を優しく抱きしめた。  あぁ、やっぱり落ち着く。黒崎さんの胸の中、広くて、大きくて。良い匂いがして。 気がつくと私も彼のことを抱きしめ返していた。 もう私の気持ちは戻れそうにない。黒崎さんのことがやっぱり好きだ。 たとえ届かない想いだとしても、自分の気持ちには素直になろう。「少しは落ち着きましたか?」 耳元で囁かれる低い声。「はい。ありがとうございます」 本当はもっとこうしていたい。 好きな人を抱きしめるなんて、はじめてだった。 もう離れなきゃいけないよね。 私は黒崎さんを抱きしめることを止めた。「もっとこうしていたいですけれど……」 思わぬ黒崎さんの言葉に動揺してしまう。 黒崎さんも同じ気持ちだったの? ううん、優しいから。私に対しての特別な気持ちなんてないよね。「美桜ちゃん、気分転換をしましょうか?ドライブは好きですか?」「ドライブ、あまり経験したことがないんですが、景色を見たりするのは好きです」「そうなんですね。さっき言っていた美桜ちゃんを連れて行きたいところがあるんです。一緒に行ってくれますか?」 黒崎さんは、マンションを出る前、私と一緒に行きたいところがあるって言ってた。そのことかな。 黒崎さんが連れて行ってくれたところは、車で一時間もしないところで一般にも無料で公開をしている展望テラスのようなところだった。 気づけばもうすぐ夕暮れ。 平日ともありテラスは混んではいなかったが、首都が一
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初恋 15

「……」  黒崎さんは何も言わず、しっかりと目線を合わせ、私の言葉を聞いてくれている。「でも、付き合いたいとかそんなことは思いません。私は黒崎さんが幸せで笑って……」  あれ、どうしてだろう。どうして泣いているの。 最近泣いてばかりだ。私ってこんなに弱かったっけ? 振られてもいいのに。「私、はじめて恋愛をしました。恋愛ってこんなに自分を変えてくれるんだなって。教えてくれてありがとうございました。黒崎さんが想っている子と幸せになってくださいね」 ニコッと笑って見せる。泣いているから、作り笑顔だってばれちゃうよね。  その瞬間、黒崎さんが私を引き寄せ、今までで一番強く抱きしめてくれた。「あのっ……?黒崎さん?」「美桜ちゃんにそんなことまで言わせてすみません」 黒崎さんの胸の中で、目を閉じる。 彼に抱きしめてもらって嬉しい。すみませんという言葉を聞いても、ちょっとチクッとしたくらいだ。きちんと自分告白できて良かった。はじめての片思い、頑張ったよね。 明日から普通の生活に戻るだけだ。大学に行って優菜と話して、アルバイトに行って。黒崎さんという存在が私の中でいなくなるだけ。 「黒崎さん、離してください。私、ちゃんと黒崎さんのことを諦めるので。安心してくださいね」 私は黒崎さんから離れようとした。 あれ、でも、黒崎さんが離してくれない。「黒崎さん……?」「本当は、俺から伝えるつもりでした」  何をだろう?「俺は、美桜ちゃんのことが好きです」「えっ……?」 思わず、声に出してしまう。 彼には好きな人がいると言っていたはずなのに。「俺が好きな人っていうのは、美桜ちゃんのことですよ」「へっ……?」 思考が追いつかない。そんなはずない。「俺が美桜ちゃんと初めて会ったのは、あの日じゃないんです」 あの日じゃない?私が資料を落として助けてくれた日じゃないんだ。 私の記憶にはない。私はいつ彼と会ったんだろう? 彼は言葉を続けた。「最初に見かけたのは、バスの中でした。お年寄りに席を譲っているのを見かけました。俺には珍しい光景だったので、印象に残っているんです」 バスの中?お年寄りに席を譲る?雨の日はバスを使うこともある。 席を譲るなんて、よくやっていることだからいつのことか覚えていない。「それだけじゃない。駅の近く
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初デート 1

「二回目にあの場所で会った時、嬉しかったです。美桜ちゃんも俺のことを覚えていてくれたみたいで。目が合って、ドキッとしました。普段なら絶対聞かないはずの女の子の連絡先を自分から聞いていました。柄にもないですが、運命なんじゃないかって勝手に感じて。連絡先を交換してやり取りをする中で、変わらず美桜ちゃんは良い子だった。こんな子と付き合うことができたら、毎日が楽しいんだろうなって思いました」「そして、昨日あんなことが起こって。もう二度とあんな思いはさせたくないと思った。俺が守らなきゃって」  黒崎さんが前から私のことを知っていたなんて、思わなかった。 本当は私たち、前から会ってたんだ。 「少し時間が経ってから、告白するつもりでした。でも美桜ちゃんから言わせてしまった。俺も自信がなかったから嬉しかった。もう一度俺から言わせてください」 黒崎さんは一旦、私を離し、両肩に手を置き、私と視線を合わせた。「美桜ちゃんのことが好きです。付き合ってください」 時間が止まったような感覚だ。 こんな幸せなことなんてあってもいいのかな。  私の返事はもちろん「はい!」 そう言って彼の胸に飛び込んだ。  私たちの運命の輪は、ちょっと前から動きだしていたんだね。 「変じゃないかな?」 鏡を見ながら、服装、髪型、化粧の確認をする。 洋服は先日、優菜と買った水色のワンピース、髪の毛は少し巻いてみた。 今日は生まれて初めて「彼氏」とのデートである。 先日、黒崎さんに告白をした。 フラれると思っていた恋は、奇跡が起き、黒崎さんと付き合うことになった。 もともと今日は、付き合う前から食事の約束をしていた土曜日だ。 時間になったら、彼が私のアパートまで車で迎えに来てくれると言っていた。昨日も彼と一緒にいたはずなのに、緊張する。 その時、ピコンとスマホの通知が鳴った。<着きました> 黒崎さんだ。 アパートの鍵を閉め、彼が待っている車へ向かう。「お待たせしました」 そう言いながら、助手席のドアを開ける。 恥ずかしくて、彼の顔を見ることができないよ。 絶対、私の顔は今真っ赤だ。「おはようございます。今日は、雰囲気が違って可愛いです」「えっ?」  こんな時、どんな返事をしたら良いのだろう。 黒崎さんが恥ずかし気もなくそう言ってくれる。「い
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初デート 2

 思いきって私が飲んでいた方のレモンティーのキャップを開けて渡す。「ありがとうございます。キャップとってくれたんですね」 彼は普通にレモンティーを飲んでくれた。 ふぅと深呼吸をしたくなった。 こんなことでいちいち動揺をしていたら、身が持たないよ。「あの、黒崎さんはシェアとか嫌いじゃないですか?私、恋愛経験がないので、はじめてなことばかりで」「美桜ちゃんとだったら嫌じゃないです。そうですね。普段はシェアなんてしません。美桜ちゃんだから嫌じゃないというか。共有したいって思うんでしょうね」 答えになってますか?と彼は逆に聞いてくれた。  そうだな。私も黒崎さんだからいいのかも。優菜ともできる。心を許している人なら、私も大丈夫なんだ。 それにしても黒崎さんは、運転も上手だ。 性格も優しいし、気を遣えるし、容姿もカッコいい。 仕事もできるからあんな高そうなマンションにも住めるんだろうし、完璧すぎる。 私みたいな彼女でいいのかな。 一般庶民の女性大学生なんかじゃなく、将来有望などこかの令嬢さんの方がお似合いなのでは?  そんなことを考えていると「何か考え事ですか?」 私が難しい顔をしていたためか、彼は気を遣ってくれた。「いや。あの、私みたいな子が彼女でいいのかなって思って」「どういう意味ですか?」「黒崎さんって完璧すぎて」「どこがです?」「優しいし、カッコいいし……。完璧だなって」「そんな風に思ってくれるんですね。優しいのは基本的には美桜ちゃんだけです。興味がない人には無関心なので、会社の同僚とかには冷たいって言われますよ」 私、黒崎さんが冷たいというイメージがない。 会社では、どんな人なんだろう。 私は、彼のことを何も知らない。「黒崎さんのこと、もっとよく知りたいです。いろんなこと。家族のこととか。仕事とか」「そうですね……。話したこと、なかったですね」「まず、家族についてですが。俺、家族はいないんです」「えっ?」 予想していななかった初めの一言に言葉を失う。失礼なこと、聞いちゃったかも。知らなかった。「両親は日本人でした。兄弟はいません。三歳くらいまでは日本で育ったと聞いています。両親の記憶はほとんどありません。性格の不一致で離婚をして、俺は母に引き取られたらしいんですが。ネグレクトにあって。アメリカに住ん
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初デート 3

「暗い話になってしまい、すみません。自分のことは不幸だと思ったことはないので。気にしないでくださいね」 気にしないでくださいねと言う彼。「私、黒崎さんの支えになりたいです!今は頼りないかもしれないけど。もっと強くなって大人の女性になれるよう頑張ります」 もっともっと強くなりたい。 彼が頼ってくれるような人になりたい。 いつまでも守られているようじゃダメだ。「もう十分支えられています。俺が愛ちゃんを守らないといけませんね」「ダメです!たまには守られててください」 私の言葉を聞いて彼は笑う。「わかりました。期待しています。でも……」 車が信号で止まった。 彼は私が先ほど口にしたレモンティーを自分で取り、飲んだ。それを見て私の顔が赤くなる。「これくらいで顔を赤くしているようじゃ、まだまだですね」「……!」 やっぱり、彼には全てお見通しみたい。「うわぁ!海だ!」 車の窓から景色を見る。 もともと住んでいた田舎に海はない。 海水浴も学校行事で遠方に行く時以外、ほとんどしたことがなかった。 天気が良かったため、水面に映る光が綺麗だ。 東京湾とは違う。 いつの間にかこんなに遠いところまで来ていたんだ。「着きました」 海岸沿いにあるレストランに入る。 広く、オシャレな内装。 季節は夏。 土曜日ともあって観光客やカップルでほぼ満席の状態だったが、ざわざわとした印象はなく、落ち着いて食事ができそうな雰囲気だった。 黒崎さんが名前を伝えると、待つことなく席に通された。 海が見える席だ。予約をしてくれていたらしい。「いらっしゃいませ」 四十歳くらいだろうか、ウエイターさんがお水を持って来てくれた。「お久しぶりです」 黒崎さんが声をかける。「久しぶり。元気にしてるか?」 あれ、お二人は知り合いなのかな。「はい、元気です。緑川さんもお元気ですか?」「ああ、なんとかやっているよ。そちらの女の子は?」 緑川さんの視線が私に向けられる。「あの……」 挨拶をしようと思った。「俺の彼女の東条さんです」 黒崎さんが紹介をしてくれた。「初めまして。東条と申します」 それを聞いた緑川さんは驚いた顔をしていた。「同じ会社で勤めていた時も、黒崎に彼女がいるとかそんな話、全然聞いたことなかったからな。びっくりしてるよ。まあ、一
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初デート 4

「いただきます」 一口食べてみると「おいしい」 思わず笑みになる。「良かった」 私の顔を見て、黒崎さんも笑ってくれた。 食べ終わり「お腹いっぱいです」 料理がおいしくて、恥ずかしいと感じながらも自分の分は全て完食をしてしまった。「無理させちゃいました?結構量が多かったので」「いや、無理なんて全然してないです。おいしくて全部食べちゃいました!女の子らしくなくてごめんなさい」 すでに食べてしまっているので遅いが「お腹いっぱいになってしまったので、食べるのを手伝ってほしい」って言った方が良かったのかな。 よく大学でそんな光景を見る気がする。「俺は、おいしそうに遠慮なく食べてくれる子の方が好きです。美桜ちゃんが美味しそうに食べてくれているのを見て安心しました。可愛かったです」 褒めてくれていると思っていいのかな。 でも、良かった。 お会計は、黒崎さんが払ってくれた。 こういう時はどうするのだろうと思っていたが、彼曰く「俺は働いているんで。美桜ちゃんは学生でしょ?こういう時のお金とかは心配しなくていいですから」 そう言ってくれた。 あれ、誰かの彼氏は社会人だけど、割り勘って言っていた気がする。 カップルによって、いろんな考え方とか付き合い方があるんだな。 毎回毎回出してもらうのは、申し訳ない気がすると考えていたら「俺の家に来た時とかに、たまに料理を作ってくれると嬉しいです。美桜ちゃんのご飯、おいしいし」 どうして彼は私の考えていることがわかってしまうんだろう。「はい、わかりました。じゃあ、甘えさせてもらいます」  黒崎さんの気持ちに甘えることにした。 私のできることをして、彼が喜んでくれるように頑張らなければ。 緑川さんに挨拶をして、レストランから出た。  海岸が目の前だ。「海、寄って行きますか?」「えっ、いいんですか?」「もちろんです」 近くの駐車場が運よく空いていたため、車を停めて海へ向かう。 砂浜を歩くのは久しぶりだ。「海、触ってもいいですか?」  久しぶりの海に気持ちが高まる。 こうやって遠方に来たこともあまりなかったので、楽しい。「もちろん。タオルとか持ってきてるんで、服とか心配なかったら足とか入っても大丈夫ですよ?」「ありがとうございます」 靴を脱ぎ、一歩一歩ゆっくり進んで行く
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初デート 5

 二人でベンチに座り、ジュースを飲みながら海を見る。「楽しかったですか?」「はい、楽しかったです。また来たいです」「初めてのデートでしたけど、どこか不満はありますか?」 不満なんてとんでもない。「そんなことっ!」 あっ、一つだけお願いしたいことがあった。「黒崎さん。これから私のこと、呼び捨てで呼んでほしいです。美桜って」 彼は優しい顔をしながら「わかりました」 返事をしてくれた。 「じゃあ、俺のことも名前で呼んでください」「えっ?」「俺も名前で呼んでほしいです」 黒崎さんを名前で呼ぶ。 自分で言い出したことなのに、急に恥ずかしくなっちゃった。「名前で呼んで?美桜」「……!」 名前を言われ、ドキッとする。名前、呼び捨てで呼ばれただけなのに、こんなにドキドキするんだ。好きな人だから。高校の時とか大学でもたまに下の名前で呼んでくる男子とかいたけれど、なんとも感じなかったのに。 黒崎さんを見ると、真剣な顔をしている。「れ……ん……さん」 その一言を聞き、彼はクスっと笑ってくれた。「可愛い。照れてますか?でも<さん>はつけなくてもいいんですよ?」「ダメです。年上ですから!」  蓮さんと呼ぶだけでも、今は精一杯なのに。「わかりました。可愛かったから、もう一回呼んでくれませんか?」「蓮さん……」 彼はふっと口角を上げ「よく言えました」 私の頭を撫ででくれた。 蓮さんに触れられ、嬉しい。 わんちゃんやねこちゃんの頭を撫でてあげると、気持ち良さそうな顔をする時があるけれど、私って今はそんな状態なんだろうな。 だけど、なんだか悔しい、私だって蓮さんをドキドキさせるようなことをしたい。 どんなことをしたら良いんだろう。 「そろそろ帰りましょうか?」 二人で車に乗ろうとした。「蓮さん」 運転席に乗ろうとした彼を呼び止める。「どうしました?」 名前を呼ぶと、蓮さんは立ち止まってくれた。「あの、うしろの席に来てください」 私が後部座席のドアを開けた。「はい」 少し首を傾げたけれど、彼は特にそれ以上何も言わず、私のお願いを聞いてくれた。「うしろを向いてください」「うしろですか?」 蓮さんは私の言う通り、背中を向けてくれた。「美桜……!?」「私にはこれくらいのことしかできないから。仕事で疲れてい
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