運命の輪~愛してる~

運命の輪~愛してる~

last updateLast Updated : 2026-02-20
By:  煉彩Updated just now
Language: Japanese
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東条 美桜(とうじょう みお)は、大学デビューを果たすも過去のトラウマから男性恐怖症を抱え、彼氏どころか恋愛をしたことがなかった。 ある日、通学途中で容姿端麗の会社員、黒崎 蓮(くろさき れん)と出会い、資料を落としてしまい困っているところを助けられる。男性のことを意識したはずがないのに、美桜は蓮のことが気になる毎日だった。 彼の名前や連絡先もわからず、もう二度と会うことすらできないと諦めかけていた時、偶然にも彼と再会し、運命の歯車が動き出すーー。 ※この作品はフィクションです。 ※イラスト提供は、ひゃどぅみ様です。イラストの無断転用・転載は禁止です。

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Chapter 1

初恋 1

 首都圏の初夏。

 夏は始まったばかりだと言うのに、まだまだ気温が上がりそうな予感がする。

 出勤ラッシュ、人々が行き交う中、私もまた通学のため歩いていた。

 私の名前は|東条 美桜《とうじょう みお》、二十一歳。どこにでもいる普通の女子大学生だ。

 あぁ、今日は昨日よりも暑い気がする。お化粧、崩れてないかな。

 大学生になって自分を変えたいと思い、容姿やファッションを気にするようになった。 

 中学、高校と周りの女の子は「可愛い」を求めて、努力をしているのに私はなにもしてこなかった。  

 友達は恋愛をして、相手の反応に浮き沈みする中、私はただ話を聞いているだけ。

 私の家庭環境が影響しているからか、恋愛とはどんな気持ちになるのか、異性を「カッコ良い」と思うことはあるけれど「好き」の感情がわからない。

 だけど、みんなが綺麗になっていくのを見て、私もキラキラしたい、輝きたいと思うようになった。

 

 友達には「大学デビューだね」なんてよく言われる。

 今はまだ彼氏はいないし、好きな人もいない。

 いつかマンガみたいな、ドキドキできる相手に出逢いたいと夢見ている状態だ。

 そんな素敵な人に出逢って、自分を底から変えたいって思ってる。

 ふと時計を見ると、八時を数分すぎていた。

 今日はいつもより早い電車に乗れた。

 大学に着いても、講義が始まるまで時間に余裕がありそう。

 んっ?あれ、二限目はどんな講義だっけ?

 課題とか、なにもなかったよね。

 講義以外はアルバイトをする毎日だから、提出しなければならない課題を忘れていないか、なぜか急に不安になった。

 人混みを避け、スマートフォンで講義内容を確認する。

 あぁ、やばい!こんな時に充電がなくなりそう。

 昨日寝る前にきちんと充電できていなかったみたい。

 大学に着くまで、スマホを見るのを控えよう。

 そうだ、印刷された紙の講義割がカバンの中に入っていたはず。

 取り出そうとするも、クリアファイルがカバンのチャックに引っ掛かって取れない。

 今朝までこんなことなかったのに……!

 力任せに思いっきり引っ張る。

 すると——。

 ああっ!!

 カバンから取り出したクリアファイルの中身がアスファルトに広がる。

 時間割をはじめ、自分がメモをした資料なども散乱し、思った以上に広範囲へ渡り道に散らばってしまった。

 人混みを避けていたとはいえ、今は通勤ラッシュの時間帯。駅から近い場所、迷惑そうに人々は避けていく。

「すみません……」

 スマホに視点がいっているため、落ちている紙に気づかず踏みつけていく人もいる。

 ああ、恥ずかしい……。

 顔がぽっと熱くなる。

 通り過ぎる人は多いのに、皆急いでいるためか誰一人として拾ってはくれない。

 自業自得だ、邪魔になっていて申し訳ない。

 早く拾わないと。

 しかし、急ぎ通り過ぎる人たちの間をぬって拾うのには時間がかかった。

 ふと前を見ると、スーツに身を包んだ若い男性が手伝ってくれている。

「ありがとうございます」

 良い人もいるんだ。若そうに見えるけど、会社員かな。

 お互いにしゃがみながら、集めて行く。

 最後の一枚は彼が拾ってくれた。

 恥ずかしくて、彼の顔を見ることができない。

 だけど最後のお礼くらいはちゃんと伝えなきゃ。視線を合わせようと顔を上げ、声をかけた。

「すみません。ありがとうございました。助かりました」

 彼と目が合う。

 私の赤くなっている顔がさらに赤みを増す。

「どういたしまして」

 身長は180センチいかないくらいだろうか。

 男性にしては少し長い髪、まつ毛は長く、髭は生えていない。白い肌。二十代前半に見える。細身なのに、貧弱さを感じさせない体型。強くはない香水の爽やかな香り。

 かっこ良くて、綺麗な人……。

 見惚れてしまいそうになるも、我に返り

「あの、本当にありがとうございました!」

 思いっきり頭を下げてしまった。

 心臓が脈打っているのが自分でもわかる。

 そんな私を見て、彼は少しほほ笑み

「いえ、困っている時はお互いさまですから」

 そう答えてくれた彼は、私の大学とは逆方向に歩いて行く。

 私は通行する人の妨げにならないよう道の端により、しばらく動けなかった。

 ドクンドクン。まだ心臓の音が聞こえる。

 これって、きっと……。恋愛をしたことがない私にはなかったはじめての感覚に戸惑う。

 一目惚れって、こんな感覚のことを言うのかな。

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初恋 1
 首都圏の初夏。  夏は始まったばかりだと言うのに、まだまだ気温が上がりそうな予感がする。  出勤ラッシュ、人々が行き交う中、私もまた通学のため歩いていた。 私の名前は|東条 美桜《とうじょう みお》、二十一歳。どこにでもいる普通の女子大学生だ。 あぁ、今日は昨日よりも暑い気がする。お化粧、崩れてないかな。    大学生になって自分を変えたいと思い、容姿やファッションを気にするようになった。  中学、高校と周りの女の子は「可愛い」を求めて、努力をしているのに私はなにもしてこなかった。   友達は恋愛をして、相手の反応に浮き沈みする中、私はただ話を聞いているだけ。  私の家庭環境が影響しているからか、恋愛とはどんな気持ちになるのか、異性を「カッコ良い」と思うことはあるけれど「好き」の感情がわからない。  だけど、みんなが綺麗になっていくのを見て、私もキラキラしたい、輝きたいと思うようになった。   友達には「大学デビューだね」なんてよく言われる。  今はまだ彼氏はいないし、好きな人もいない。  いつかマンガみたいな、ドキドキできる相手に出逢いたいと夢見ている状態だ。  そんな素敵な人に出逢って、自分を底から変えたいって思ってる。 ふと時計を見ると、八時を数分すぎていた。  今日はいつもより早い電車に乗れた。 大学に着いても、講義が始まるまで時間に余裕がありそう。 んっ?あれ、二限目はどんな講義だっけ?  課題とか、なにもなかったよね。  講義以外はアルバイトをする毎日だから、提出しなければならない課題を忘れていないか、なぜか急に不安になった。 人混みを避け、スマートフォンで講義内容を確認する。  あぁ、やばい!こんな時に充電がなくなりそう。  昨日寝る前にきちんと充電できていなかったみたい。  大学に着くまで、スマホを見るのを控えよう。 そうだ、印刷された紙の講義割がカバンの中に入っていたはず。  取り出そうとするも、クリアファイルがカバンのチャックに引っ掛かって取れない。  今朝までこんなことなかったのに……!    力任せに思いっきり引っ張る。  すると——。 ああっ!! カバンから取り出したクリアファイルの中身がアスファルトに広がる。  時間割をはじめ、自分がメモをした資料なども散乱し、思った
last updateLast Updated : 2026-01-04
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初恋 2
 大学に着き、講義を受ける教室に入る。 私の友人、伊藤 優菜《いとう ゆうな》は先に来ていて、隣の席を空けてくれていた。「おはよう。席、ありがとう!」 声をかけると音楽を聴いていたのか、耳からイヤホンを取り「おはよう、もちろんだよ。前の席とか嫌だもん。美桜に連絡したのに、返事くれなかった」「ごめん。スマホの充電なくて、見てないんだ」「朝から充電ないとか、キツイじゃん。この教室近くに充電口ないし、モバイルバッテリーかしてあげようか?」「えっ!いいの、助かる。ありがとう」 優菜とは大学で知り合った。 入学式の席が隣で、偶然にもゼミ(クラス)も一緒になった。 話も合うため、約三年間で親友と呼べるほどの仲になり、学内ではほとんど一緒に過ごしている。 優菜は実家から通学しているが、私は田舎から上京してきたため、一人暮らし。 狭いアパートだが、予定が合えば泊りに来てくれる。「優奈に聞いてほしいことがあるんだけど」 講義が始まる前に今朝の出来事を優菜に話した。「えっ。マジ?その人、神じゃん!しかもイケメンだったんでしょ?」 優菜は興味津々というような顔で、私の話を聞いてくれた。「これって、一目惚れってやつかな?優菜は知っていると思うけど、恋愛したことがなくて」 ハハっと誤魔化しながら、優菜に助言を求めた。「たぶん、一目惚れっていう感情で合っていると思うよ。いいな!私もイケメン見たかったぁ」「優菜は彼氏がいるじゃん」 大学は違うが、高校生の時から付き合っている彼氏が優菜にはいる。 会ったことがあるけれど、爽やかな同じ歳のスポーツ男子だ。「大学入ってもさ、バスケバスケって言って全然会ってくれないんだよね」 優菜の彼氏は、バスケットボールのサークルに所属をしている。 中学の時からバスケ部、高校の時には全国大会にも出場するほどで、名の知られているプレーヤーらしい。「もう別れようかな」 最近の優奈の口癖だ。 別れなよとも言えないし、頑張りなよとも伝えられない。「私の話はおいといて、美桜が男の人をかっこいいとか私に言ってきたの、初めてじゃない?」「そう言われてみるとそうかも」 私は昔から男性に興味がなかった。 クラスの女子が騒ぎ立てるような恋愛話も、誰々くんがかっこいいとかそういった話題も、私はいつも話を合わせるかのように聞い
last updateLast Updated : 2026-01-05
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初恋 3
 大学の講義が終わり、バイト先へ向かう。  バイト帰りに今日あの人と出会った駅前を通ったけれど、もちろん会うことはなかった。 自宅へ帰り、ベッドの上に横になる。 「はぁ……。疲れた」  誰もいない部屋で一人、声を出す。「明日、また会えないかな」    どこに住んでいるのかも勤めている会社も名前すらわからないのに。無理に決まってる。人生でまた会えたらラッキーくらいの気持ちでいなきゃいけないのに。  実際に声を出すことで願いが叶うような気がした。 その日はシャワーを浴び、疲れていたのか深く考えることなく眠りについた。 次の日ーー。  昨日と同じ時間、駅前で彼を探す。  講義が間に合うギリギリまで、その場にいて通り過ぎる人々を見ていた。  私は何をしているんだろう。だけど手がかりもないし、彼に会う方法が他に思いつかない。  一歩間違えれば、ストーカーになっちゃう?  もし彼に再び会うことができたら、もう一度先日のお礼を伝え、この気持ちを諦めようと決めた。 数日間は、いつもと変らない日々だった。  朝は少し早めに家を出て、彼に会えた場所周辺で時間を潰し、大学へ向かう。 親友の優菜はそんな私を見て 「会えるといいね。会えたら教えて!」  応援してくれる。  私が男性を意識することなんてなかったから、恋愛に対して前向きになってほしいと言ってくれた。 彼に会いたい。  けれど、そんなに上手くいくわけない。 朝早く起きて、彼と会っても恥ずかしくないように自分なりにオシャレをする。  服装も毎日悩むようになり、メイクも以前より気を遣った。 そのためか 「最近、美桜、なんだか可愛くなったんじゃない?あの人のおかげだね」  優菜にそう言われた。  恋をすると、こういう風に女性として変わることができるのかな。  やっぱり好きな人には、可愛いと思ってほしい。 そんな日々を繰り返していた日、もう無理なんじゃないかと諦めていた時一一。    いつもと同じように彼と出会った場所で時間を潰していた。  今日も会えなかった、そう思い大学へ向かおうとしていた時、出会った日と同じように、スーツに身を包んだ彼が向こうから歩いて来るのが見えた。    まだ遠くにいるけれど、すぐにわかる。  私は近づくどころか身体が硬くなって、動けない
last updateLast Updated : 2026-01-05
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初恋 4
 彼から連絡先を聞かれるなんて思ってもみなかった。「はい!私で良かったら」 あまりの緊張で声が大きくなってしまう。 震える手でスマホを取り出し、画面を開く。 普段はアプリを開き、QRコードを読み取るといった簡単な作業なのに、あまりの緊張で操作方法がわからなくなる。 頭の中は真っ白だ。 そんな私に彼は優しく「俺が読み取っていいですか?」 声をかけてくれる。「はい」 私は自分の画面を黒崎さんに見せる。「今、美桜ちゃんにメッセージを送りました。見てください」 黒崎さんは私にメッセージを送ってくれたらしい。 アプリを開くと、黒崎という名前が表示された。 メッセージ画面を開く。<これからよろしくお願いします> これからよろしくって、義理かもしれないのに、嬉し過ぎて涙が出そう。 ずっと好きだった推しに会えたって感動に近いのかな。 ドクンドクンと大きな鼓動が止まらない。 黒崎さんが送ってくれた言葉に期待を抱いちゃう。「仕事で返信が遅くなるかもしれませんが、何かあったら連絡してください」 黒崎さんはそう私に伝え、去って行った。 彼がこの場にいなくなったあとも、しばらく動けなかった。 これって夢じゃないよね? 何度も思っちゃう。心臓のドキドキが治らない。  大学で、優菜に彼と会えたこと、お礼を伝えたこと、彼から連絡先を交換しようと言われたこと、全て話をした。名前が黒崎さんっていうことも。「えっ、そんなことある!?良かったじゃん!!」 優菜も驚きを隠せないようで、良かったねと何度も繰り返し、ハグしてくれた。「夢じゃないかと思ってる」 まだ信じられない。「夢じゃないよ」 優菜は私の顔を思いっきり引っ張った。 お約束の方法に「痛いよ!」 苦痛に顔を歪ませる。 痛いから、夢じゃない。優奈ともちゃんと会話ができてる。「いいなぁ。で、美桜は返事を送ったの?」 そうだ。 連絡先を交換できたことに満足しちゃって、私、何も送ってない。「まだしてない。でも、なんて送ったらいいかな」  黒崎さんから送られてきた一文を見て、悩む。 メッセージを送る上でこんなに返事で悩んだことはない。「普通に送ったらいいんじゃないの?今度ご飯に行きましょう?とか」 「ええっ!ご飯に誘うの!?いきなりそんなこと言えない」 優菜のアド
last updateLast Updated : 2026-01-07
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初恋 5
 そうだ。 黒崎さんから返事、来ているかな。 スマホを見るが、何も通知は来ていない。 やっぱり。 返事なんて、期待しない方がいいよね。 黒崎さんが私みたいな普通の女子大生を気にかけてくれることなんてないだろう。 帰宅をし、今日はシャワーで済ますのではなく、湯舟に浸かった。 お風呂の中でいろいろと考える。 連絡先を教えてくれたけど、これからどうすればいいのかな。 心の奥では、自分が傷つくのがこわいから「諦めた方が良い」という答えと「黒崎さんのことを知りたい」という気持ちで揺れている。 ベッドに横になり、スマホを見る。 一件の通知が来ていた。  優菜かな? アプリを開いてみると、黒崎さんからだった。 返事が来たぁ! ベッドから飛び起きる。 緊張しながら、内容を読むと<お疲れ様です。残業で返信が遅くなりました。急に連絡先を聞いてしまいすみません。でも、嫌じゃないなら良かった。今度、時間が合えば食事にでも行きませんか?>「えっ、うそうそうそ、きゃあー!!」  嬉しさの余り、悲鳴をあげながらベッドを叩く。 ご近所迷惑だと思い、落ち着こうと深呼吸をする。「食事に行きませんか?」は気を遣って言ってくれたのかな。 男性経験がないから、マイナスに考えちゃう。 ううん!返信をしてくれただけで、第一歩だと考えなきゃ。 黒崎さんに返事をした。<こんな時間までお仕事お疲れ様です。私で良かったらぜひご飯に行きたいです!> 送信ボタンをタップする。  ドキドキしながら返事を待っていたが、その日、返信が来ることはなかった。 大学に行き、優菜に黒崎さんとのやり取りについて報告すると「良かったじゃん!ご飯、行ってきなよ!」 優奈は自分のことのように喜んでくれた。「一通だけで返事がないんだ。忙しいのかな」 食事に誘ってくれたけれど、正直本当に行けるのか自信がない。「向こうから誘ってきたんでしょ?嫌だと思っている女《ひと》にそんなこと送らないって。焦らないで、ちょっと待ってみたら。相手は社会人だから、私たちみたいに勉強だけすれば良いってわけじゃないと思うよ」  優菜からの言葉は、私の考え方をプラスにしてくれる。そうだよね、相手は社会人なんだから。「うん、ありがとう。待ってみる」  彼からの返信を待とう。 良い返事が来れば
last updateLast Updated : 2026-01-07
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初恋 6
「ええっ!やったぁぁぁ!!」 私は喜びの余り、一人叫ぶ。 黒崎さんからの一通にこんなにドキドキしたり、嬉しくなる。恋愛ってみんなこんな気持ちになるのかな。 スマホをタップし、返事を打ち込む。<はい、大丈夫です。よろしくお願いします> 今回はすぐ黒崎さんから返信が届いた。<良かったです。詳細はまた連絡しますね> 黒崎さんとご飯に行ける、嬉しすぎて夕食のことをすっかり忘れてしまい、焼いていたハンバーグを焦がしてしまった。 黒崎さんを優先に考えちゃったけれど、土曜日はバイトが入っていたことを思い出す。 一人代わってくれると言ってくれた子がいて、これで正々堂々とご飯に行ける。  次の土曜日が待ち遠しい。 木曜日を迎えた。 明後日は、ついに黒崎さんとご飯に行ける日だ。 そう考えると、何気ない日常生活が明るくなる。 黒崎さんからの連絡はあまり来ないけれど、土曜日の十一時に駅前で待ち合わせをしている。 食事場所は黒崎さんが考えてくれると返信してくれた。「いいな。ついに明後日デートじゃん」 表情が明るい私を見て、優菜がツッコんできた。「そうなんだ。すごく緊張する。男の人と二人でご飯行くの、初めてなんだ」「いいじゃん、いいじゃん。楽しんできなよ。どんな人なんだろうね!あ、でも簡単に身体は許しちゃダメだよ」「そ、それはわかってる!」 優奈は彼氏がいるから、経験済みなんだろうな。 そんなことを言われても実感が湧かないよ。  優菜と別れ、バイト先に向かう。「お疲れ様です」 そう声をかけながら、従業員専用口からカフェの中に入った。「東条ちゃん。今日、あのお客さん来てるから、近くに行かなくていいからね。何か言われても、違うスタッフが伺うって断って」  店長が、川口さんが来ていると教えてくれた。 先日渡されたメモの内容には、お客さんの名前であろう川口という苗字、電話番号、メールアドレスが記入されていて、さすがに店長にも相談している。 今日、来てるんだ。 嫌な予感がしたけれど、店長をはじめスタッフの仲間が気を遣ってくれ、川口さんと接触することはなかった。 しかし今日に限って、川口さん《おきゃくさん》は、帰らなかった。  混雑時は時間制限を設けるチェーン店とは違い、うちは時間制限のないお店だ。 長時間に渡り過ごしていくお客様
last updateLast Updated : 2026-01-08
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初恋 7
 ニコニコと笑って話す、川口さん。 恐怖からか吐きそうになる。 この人はもう異常だ。「どこの公園に行くんですか?」  恐る恐る聞いてみる。 この会話を聞いて、誰か助けに来てほしい。「木洩れ日公園だよ、僕たちの思い出の場所だろ?」  話が全く理解できない。 私は川口さんとその公園には行ったことがない。 公園までは歩いて五分くらいかかる。  その間に逃げ出せる隙を見つけなくちゃ。「もし途中で逃げだそうとしたら、わかってるよね!?僕を裏切ったって判断するから、何をするかわからないよ」 立ち上がった私のリュックを思いっきり掴み、人に見えない位置でナイフらしきものを突きつけられる。 私は逃げ出せる隙を考えながら、川口さんの指示に従い、一緒に歩き出した。 川口さんと一緒に歩く。 こんな時に限って、人通りが少ない。 川口さんが言っていた目的地の公園に着いた。 昼間は人で賑わっているはずの公園も、夜は静かだ。 ほとんど誰もいない。 時折、電気をつけながらランニングをしている人がいるくらい。 公園の端、さらに外灯がなく、人が来ないようなところへ連れて行かれる。 ベンチに座らされた。「東条ちゃんは、僕のことをどう思っている?」 どうもこうも、お客さんとしか思っていない。 それをどう伝えようか悩む。「大切なお客様だと思っています」 逆上しないようにあえて大切をつけてみたけど。「もう、恥ずかしがらずに言っていいんだよ。僕のことが好きなんだって」 はぁ。どんな勘違いをしているの?「なぜ、そう思うんですか?」「だって僕がコーヒーをこぼした時、あんなに親身になってくれたでしょ?ズボンだって嫌がらず拭いてくれたし、火傷はしてないかって腕も見てくれた。あんなに優しくしてくれるのって、僕のことを好きだからだよね」 それは従業員として当たり前のことをしたまでだ。店長からの指示で対応したところもある。 しかし反論をして、逆上をしたらと考えると何も言えない。「あと東条ちゃん、僕だけに距離が近いよね。触って欲しいのかと思って、たまに触ってたんだよ。他の人に見られたらって考えるとゾクゾクしてすごく興奮したよ」 気持ち悪い。 やっぱり故意に触れられてたんだ。 距離を近くした覚えはない。川口さんの妄想の世界になっている。「僕さ、一回離
last updateLast Updated : 2026-01-09
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初恋 8
「チッ!」 そう言って、川口さんは逃げようとした。「今逃げても証拠は全て撮ってあるので。覚悟していてください」  黒崎さんの言葉が聞こえたのかわからないが、川口さんは走ってその場から逃げ去ってしまった。「大丈夫ですか!?」 黒崎さんは無理に川口さんを追うことはせず、私を抱き起してくれた。 なんとか起き上がれたが、怖くて涙が出てくる。 言葉で説明できないほど放心状態の私に「もう大丈夫ですよ」 優しく黒崎さんは声をかけてくれた。  スカートは捲れており、上衣は破かれて下着が見えている。 こんな姿、好きな人に見せたくない。腕で胸を隠すと彼は自分のスーツを私に羽織られてくれた。私の下着を隠してくれるほどの大きさだ。 彼は、私の目を見て「ケガをしているところはありますか?痛いところはありますか?」 慌てているが、優しく聞いてくれる。 やっと安心できる、そう頭が理解したのか「転んだところが痛いです……。怖かったです……」 私は、子どもに戻ったかのように大泣きをしてしまい、自然と黒崎さんに抱きついてしまった。「俺のことは怖いですか?」「ぐすっ……。怖くないです」「良かった。もう大丈夫ですから。怖かったですよね」 そう言って抱きしめ返してくれたが「黒崎さんのワイシャツが汚れちゃいました。すみません……」 抱きついてしまって、私の涙で濡れてしまったし、メイクもついてしまった。今の私はいろんな意味で最高に汚い。 黒崎さんは驚いた顔をして「そんなの気にしなくていいんですよ」 優しく抱きしめてくれた。「うわぁぁぁ……」 泣き止みたくても泣き止めない。 私が落ち着くまで、ずっと抱きしめていてくれた。「ありがとう……ございます」 あれっ? 声が……出せない。 泣きすぎもあるかもしれないが、精神的ショックからか、声が出にくい。「少し落ち着きましたか?」 私の言葉を代弁してくれた。 コクンと私は頷く。「ケガをしていないか心配です。病院へ行きましょうか?」  私は首を横に振った。 転んだだけで、大きなケガはしていない。「警察に相談をしましょうか?さっきあの人に言った警察を呼んだっていうのは嘘なんです。詳しい状況がわからなくて、警察には説明が難しかったので。脅しになるかと思い、そう伝えました」 いやだ。そんなこと
last updateLast Updated : 2026-01-10
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初恋 9
 黒崎さんのマンションに着き、タクシーを降りる。 タワーマンションと言うのだろうか、三十階以上はあるように見えた。 田舎から出てきた私にとっては、一度は住んでみたいと憧れを抱くような高層マンションだ。 こんなところに住める黒崎さんって、すごい人なのかな。 彼のうしろを歩き、マンションの中に入る。 暗証番号のようなものを彼が入力すると、エントランスのドアが開いた。 エントランスには管理室のようなところがあり、中は見えなかったが電気がついていた。 エレベーターに乗り、彼は二十五階のボタンを押す。 エレベーターを降りるとホテルのようなタイル張りの長い廊下が続いていた。  彼が「ここです」 そう言って、部屋の鍵を開ける。 スマートキーかな、スマホをかざしたら部屋の鍵が開いた気がする。「お邪魔します……」   頭をペコッと下げて、一歩部屋に入る。 私たちが部屋に入ると、電気も自然とついた。 とても綺麗な玄関。 こんな綺麗なお部屋に私が入ってもいいのかな。 茂みに押し付けられてたから、草とか土が洋服とかについてるかも。「暗くてよく見えませんでしたが、転んだところから血が出ていますね。早く消毒をしましょうか?」 黒崎さんに言われて、あらためて自分の姿を見る。 自分の姿を見ると、草はついているし、膝に砂はついているし、血は付いているしで最悪な姿をしていた。 こんなカッコで家に入ったら汚しちゃうよ。「よごし……」 汚しちゃいそうですと言いたいが、声がかすれる。「そんなこと気にしなくていいですから」  私が何を言いたいのか、黒崎さんはわかってくれたみたい。  優しく彼に手をひかれて、部屋の中に入る。 物が少なく、清潔感のある部屋。 あまりにも整いすぎていて、生活感があまり感じられなかった。 黒と白、落ち着いた色でインテリアが揃っている。 物が多く、ごちゃごちゃしている私の部屋と大違いだ。「ソファに座ってください」  リビングにある四人掛けくらいの大きなソファに案内をされる。 汚してしまうかもしれないと思いながら、彼の指示通りに座った。「ちょっと見せてください」  黒崎さんは心配して声をかけてくれたんだろうけど、羽織っている彼のスーツを脱いでしまうと服が破られてしまっているため、下着が見えてしまう。
last updateLast Updated : 2026-01-11
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初恋 10
 私が落ち着くまで、黒崎さんは何も言わず抱きしめてくれた。 心が麻痺していなければ、好きな人に抱きしめられているということはすごく嬉しいことだと思う。 せっかく黒崎さんが抱きしめてくれたのに、ドキドキするという感覚がなかった。 でも、抱きしめられて落ち着くことができたのは間違いではない。 リビングに戻り、消毒をしてもらう。「い……!」 消毒は、想像以上に沁みた。  私が苦痛に歪む顔を見て「すみません。もうちょっと我慢してくださいね」 そう言いながら彼は、消毒と軟膏、ガーゼ、包帯などの処置を施す。 黒崎さんってどんな仕事してるんだろう。会社員っぽいけれど、医療職なのかな。お医者さんか看護師さんくらい手際が良い気がする。彼の対応の早さに感心しちゃった。「はい。終わりました」 大袈裟ではないかと少し思うくらい、身体の至るところに包帯が巻かれた。 これから一人できちんと巻けるかな。自信がない。「ありがとうございました」 短い言葉なら、話せるようになってきたかも。「どういたしまして」 彼はほほ笑んでくれた。「今、温かい飲み物を淹れますね」  黒崎さんに言われた通り、ソファで待っていると紅茶を淹れてくれた。「おいしい……」 店員さんじゃない男の人にお茶なんて淹れてもらったのはじめて。 「それは良かった」 黒崎さんも、自分用に珈琲を淹れたみたい。「美桜ちゃんは美味しい珈琲屋さんで働いているから、たまには紅茶がいいかなと思ったんですが、珈琲の方が好きでしたか?」 私が黒崎さんの珈琲を見ていたからか、こっちの方が良かったですか?と聞いてくれた。 首を横に振る。 珈琲専門店のカフェでアルバイトをしているが、どちらかと言うと紅茶の方が好きだ。 どうして黒崎さんは私がカフェで働いていることを知っているんだろう。メッセージでやり取りした記憶はないのに。 あとできちんと会話ができるようになったら聞いてみよう。 本当なら、黒崎さんとゆっくり話がしたい。 しかし、今の私にはできない。  今日の経験はずっと心の中に残ってしまうだろう。それを抱えながら生きていかなければならない。  時間が経てば少しは忘れられるのかな。 本当に黒崎さんが来てくれ、助けてくれて良かった。 黒崎さんが駆けつけてくれたのは、私が優菜じゃなくて、
last updateLast Updated : 2026-01-11
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