LOGIN東条 美桜(とうじょう みお)は、大学デビューを果たすも過去のトラウマから男性恐怖症を抱え、彼氏どころか恋愛をしたことがなかった。 ある日、通学途中で容姿端麗の会社員、黒崎 蓮(くろさき れん)と出会い、資料を落としてしまい困っているところを助けられる。男性のことを意識したはずがないのに、美桜は蓮のことが気になる毎日だった。 彼の名前や連絡先もわからず、もう二度と会うことすらできないと諦めかけていた時、偶然にも彼と再会し、運命の歯車が動き出すーー。 ※この作品はフィクションです。 ※イラスト提供は、ひゃどぅみ様です。イラストの無断転用・転載は禁止です。
View More首都圏の初夏。
夏は始まったばかりだと言うのに、まだまだ気温が上がりそうな予感がする。 出勤ラッシュ、人々が行き交う中、私もまた通学のため歩いていた。私の名前は|東条 美桜《とうじょう みお》、二十一歳。どこにでもいる普通の女子大学生だ。
あぁ、今日は昨日よりも暑い気がする。お化粧、崩れてないかな。
大学生になって自分を変えたいと思い、容姿やファッションを気にするようになった。中学、高校と周りの女の子は「可愛い」を求めて、努力をしているのに私はなにもしてこなかった。
友達は恋愛をして、相手の反応に浮き沈みする中、私はただ話を聞いているだけ。
私の家庭環境が影響しているからか、恋愛とはどんな気持ちになるのか、異性を「カッコ良い」と思うことはあるけれど「好き」の感情がわからない。 だけど、みんなが綺麗になっていくのを見て、私もキラキラしたい、輝きたいと思うようになった。友達には「大学デビューだね」なんてよく言われる。
今はまだ彼氏はいないし、好きな人もいない。 いつかマンガみたいな、ドキドキできる相手に出逢いたいと夢見ている状態だ。 そんな素敵な人に出逢って、自分を底から変えたいって思ってる。ふと時計を見ると、八時を数分すぎていた。
今日はいつもより早い電車に乗れた。大学に着いても、講義が始まるまで時間に余裕がありそう。
んっ?あれ、二限目はどんな講義だっけ?
課題とか、なにもなかったよね。 講義以外はアルバイトをする毎日だから、提出しなければならない課題を忘れていないか、なぜか急に不安になった。人混みを避け、スマートフォンで講義内容を確認する。
あぁ、やばい!こんな時に充電がなくなりそう。 昨日寝る前にきちんと充電できていなかったみたい。 大学に着くまで、スマホを見るのを控えよう。そうだ、印刷された紙の講義割がカバンの中に入っていたはず。
取り出そうとするも、クリアファイルがカバンのチャックに引っ掛かって取れない。 今朝までこんなことなかったのに……! 力任せに思いっきり引っ張る。 すると——。ああっ!!
カバンから取り出したクリアファイルの中身がアスファルトに広がる。
時間割をはじめ、自分がメモをした資料なども散乱し、思った以上に広範囲へ渡り道に散らばってしまった。人混みを避けていたとはいえ、今は通勤ラッシュの時間帯。駅から近い場所、迷惑そうに人々は避けていく。
「すみません……」
スマホに視点がいっているため、落ちている紙に気づかず踏みつけていく人もいる。
ああ、恥ずかしい……。
顔がぽっと熱くなる。
通り過ぎる人は多いのに、皆急いでいるためか誰一人として拾ってはくれない。 自業自得だ、邪魔になっていて申し訳ない。 早く拾わないと。 しかし、急ぎ通り過ぎる人たちの間をぬって拾うのには時間がかかった。ふと前を見ると、スーツに身を包んだ若い男性が手伝ってくれている。
「ありがとうございます」 良い人もいるんだ。若そうに見えるけど、会社員かな。 お互いにしゃがみながら、集めて行く。最後の一枚は彼が拾ってくれた。
恥ずかしくて、彼の顔を見ることができない。
だけど最後のお礼くらいはちゃんと伝えなきゃ。視線を合わせようと顔を上げ、声をかけた。 「すみません。ありがとうございました。助かりました」 彼と目が合う。 私の赤くなっている顔がさらに赤みを増す。「どういたしまして」
身長は180センチいかないくらいだろうか。
男性にしては少し長い髪、まつ毛は長く、髭は生えていない。白い肌。二十代前半に見える。細身なのに、貧弱さを感じさせない体型。強くはない香水の爽やかな香り。かっこ良くて、綺麗な人……。
見惚れてしまいそうになるも、我に返り
「あの、本当にありがとうございました!」 思いっきり頭を下げてしまった。 心臓が脈打っているのが自分でもわかる。そんな私を見て、彼は少しほほ笑み
「いえ、困っている時はお互いさまですから」 そう答えてくれた彼は、私の大学とは逆方向に歩いて行く。私は通行する人の妨げにならないよう道の端により、しばらく動けなかった。
ドクンドクン。まだ心臓の音が聞こえる。 これって、きっと……。恋愛をしたことがない私にはなかったはじめての感覚に戸惑う。一目惚れって、こんな感覚のことを言うのかな。
「まぁ、これは内密にとは言われていないから伝えるけど、なんかその社長の子どもが黒崎を直接指名してきたんだ。だからてっきりお前と知り合いなんじゃないかと思ってた。けど、違うんだな。島田さん関係のことだと勘違いをしていたよ」 島田さんは、俺をアメリカへ連れてきた人だ。今はOBとして関わりがある。 プライベートではたまに食事に行ったり、買い物に付き合ったりしているけれど、そんな話、島田さんからは聞いていない。あの人なら、何かあれば素直に相談してくれるはずなのに。 黙って上司を話を聞き、俺が指名をされて理由を考えていると「あー。もしかしたらの話なんだけど。そんな理由でって思うかもしれないが、黒崎の容姿に関係しているかもしれない」 ばつが悪そうに先輩は髪の毛を掻いている。「俺の容姿……ですか?」「なんか、会長とその子が話しているのを聞いた社員がいて。黒崎のこと、かっこ良いとか、あの人がいいとか、お前を偶然に見て、そんなことを言ってたって話を聞いたんだ。何のことか最初はさっぱりわからなかったけど、まさかこんな子どもみたいな理由で、会長も支持を出してくるなんて思わないだろ?これはまさかの可能性なんだが」 会長は孫を溺愛しているって話はよく聞く。 だが、私情を挟んでくるなんて。失望した。「それが本当だとしたら、すごくくだらない理由ですね。頭にきます」 上司の前ではあるが、ふぅと息を吐いてしまった。「俺たちも同じ気持ちだよ。上は何を考えてんだか。とりあえず、黒崎がいてくれなきゃ回らないところもあるのは事実だから。一応、パートナーってことで新人担当で組んでもらうけれど、外回りとか、ご贔屓にしてくれている取引先には黒崎が今まで通り対応してもらって。黒崎がいない時は、こっちで担当表組んで考える」「理不尽で納得できないかもしれないけど、怒るなよ。普通に接しろ。女性には興味がないことは知っているけど、新人は新人だから。しかも社長の娘。それを少し頭に入れて対応を頼むよ。マニュアルとか、こっちで作ってもらうよう頼んでおくからさ」 俺は女性に興味がない、それは以前のことだ。 社内の誰にも言う必要はないと思っているけど、大切な彼女が今はいる。 仕事上の相手だ。美桜に言う必要はないな。 彼女のことだ、もし話したら心配するに決まっている。だけど美桜だけに言えることは、彼
「おじいちゃん。あの人、うちの会社の人!?」「そうだよ。あの子は俺の友人の孫みたいな存在なんだ。生い立ちが可哀想だから、思わず海外から日本へ連れ帰ったんだ。仕事もできる子みたいだし、将来うちの会社を支えてくれる上層部になりそうだ」 外資系の大手企業のエントランスの中、そんな会話がなされている。 今日はたまたま入社するはずの企業の下見に来ていた。 一般の入社ではない。いわゆる「親の力」を使ってのコネ入社と言われるものだ。 彼女、大竹亜香里(おおたけあかり)24歳の祖父は会長、父は社長というポジションについている。 彼女はこの仕事に興味があって入社するわけではない。絶対的な安定の下で成り立っている会社で、親の関わりをうまく使いながらゆっくりと仕事ができれば良いと考えている。<あの人>と呼ばれたのは、社内でも有名な「黒崎連(くろさきれん)」だ。 彼は普通に出社のためエントランスを歩いていただけだが、その容姿からかなり有名だった。 アメリカからの帰国子女、アメリカでの生活がかなり長かったというのに、きれいな日本語で礼儀正しい。ただ、どこか冷たい雰囲気もあり、必要以上に他人とコミュニケーションをとらない。仕事はそつなくこなし、成績も良いから上層部でも彼の名前があがる。彼を日本へとスカウトした島田という人物はすでに定年を迎え、今では大きな力はなくOBとして時折経営会議などに出席するくらいだ。「ええ。亜香里のタイプなんだけど。おじいちゃん。あの人に私の新人研修をお願いしてくれない?」「それはな、一応会社の決まりってものがあるから。黒崎くんは会社の前衛で商談しているクラスの人だから。ちょっと難しいかもしれないな」 可愛い孫の頼みでも、難しいことはある。 やんわりと言い聞かせれば、亜香里も理解できるだろうと思っていた。「えー。お願い!あの人がいい!じゃないと、おじいちゃんが秘密で会社のお金使っていること、公表しちゃうからね!」「なっ!?」 そんなことをしていないと反論をすれば良かったか。いや、事実だ。 まだ亜香里が小さかった頃に軽く話してしまったことがある。「おじいちゃんは偉い人だから、会社のお金を自由に使えるんだよ」と。 それを亜香里は覚えているのか。実際に、会社の金で亜香里にプレゼントをしたこともある。お小遣いだと言って、現金を渡したことも
「どうしていいのかわからなくなった時、美桜に辛かったら別れた方がいいなんて言ってしまいましたが、本心じゃありませんでした。本当は別れたくない。打開策が見つからなくて、あんなことを言ってしまってすみませんでした」「私も蓮さんがそんな大きなことを抱えていることを知らずに、自分のことばかり考えてました。謝るのは私の方です。蓮さんを信じるって言ったのに。辛さに負けて、さよならなんて……。本当はしたくなかったのに」「理由もわからないのに、あんな態度をとられたら誰だってそう思いますよ?美桜は全然悪くない。俺、美桜が残してくれた手紙を読んで、はっきりわかったんです。俺は、美桜がいないとダメだって」 蓮さんの家に荷物を取りに行った時、残してきた手紙をちゃんと読んでくれたんだ。「だから、戦うことにしました。まずアメリカに行き、祖母に事情を話しました。そしたらそんな馬鹿な会社、こっちから契約を切ってやるわって言ってくれて。ここ数年、事業の方は上手くいっているらしくて、もし俺の会社との取引を止めればもちろん収益は下がるみたいでしたが、倒産とかそこまでにはならないようでした。俺が日本にいる間、祖母もいろいろ頑張ってくれていたらしく……。祖母の方はなんとかなりそうでした」「ここで会社を辞めればいいと簡単に考えてしまいましたが、逆恨みをされて、美桜に危害があっても嫌でしたので、会社のブラック的な部分を調べ、こちらが優位に立てるよう内部を調べました。そしたら、簡単にとある政治家に不法な献金をしていることがわかりました。世の中にこれが出回れば、もちろん会社も大ダメージを受け、社長は辞職しなければならないでしょう。証拠を揃えて、公表してほしくなかったら、今後もう二度と関わらないように約束をしてもらいました。もちろん、俺が狙われる可能性もあったので、証拠のUSBは俺じゃない違う人が持っています。そして、会社を辞めてきました」 なんというか、すごいという言葉しか浮かばなかった。 私よりそんなに歳が離れているわけでもないのに、ここまでできるだろうか。「ただ、どんな事情があったにしても、美桜には謝ることしかできないです」 もし、美桜が別れたと思っているのであれば、もう一度俺と付き合ってください」 ドキンと心臓の鼓動が速くなる。「都合が良い……。と思われてしまうかもしれませんが、俺は美
「美桜は、家に帰らなきゃいけませんよね?」「帰らなくても大丈夫です」 母は病院だ。私の帰りを心配する人は誰もいない。「きちんと説明したいんです。どうしてこうなったのかを……。もし良かったら、俺が泊るホテルに来てくれませんか?」「はい」 話せるようになったのだろうか、連絡が取れなくなった理由、女の人といた理由を。「歩けますか?抱っこしましょうか?」 蓮さんは変わらず以前のように手を優しく引いてくれた。「ホテルに行く前に、コンビニに寄ってもいいですか?美桜の足から出血してます。消毒しないと……」 ああ、いつもの蓮さんだ。 あの女の人にも……。こんなに優しかったのかな。 キスしていたところを思い出し、複雑な気持ちになる。 コンビニにより、蓮さんは消毒液と飲み物を買ってくれた。 蓮さんが泊るという駅前のホテルに着く。 チェックインはしており、一応、二人部屋で予約をしてあるから入っても大丈夫だと言う。 ビジネスホテルのため、そんなに部屋は広くはなかった。 窓際の椅子に座らせてもらう。「ちょっと沁みますよ?」 出会った頃のように、変わらずテキパキと消毒をしてくれる。 嬉しい……と感じてしまうのは、私の感情がおかしいのだろうか。「ありがとうございました」「温かいお茶、飲みますか?」 そう言って、ホテルにあるポットを使ってお湯を沸かし、紅茶を淹れてくれる。私が紅茶が好きだって覚えていてくれたんだ。 蓮さんが淹れてくれた紅茶を一口飲む。そんな私の様子に彼は安堵しているようだった。 彼と机を挟み、対面になる。 何を話していいのか、言葉が出てこない。「辛い思いをさせてすみませんでした。どうしてこうなったのか、やっと話せる時が来たので、会いにきました。許してもらえるとは思っていません。いきなりあんなことになってしまって。美桜には謝ることしかできません」 蓮さんは目を下に落としながら、ふぅと深く息を吐いた。「美桜に連絡をしようと思ったら繋がらなくなっていて……。アパートも転居しているようだったので、アルバイト先にも何度か行ったんですが、働いていないようで……。大学にも行きましたが、会えませんでした」 蓮さん、私のことそんなに探してくれたんだ。「唯一、残された手がかりとして、優菜さんがいました。優菜さんももちろん俺の
「はあ?」 思わず優菜が声を上げたが「大丈夫。行こう?」 私たちはその場から離れる。「ああ、ムカつく!なにあれ?」 空いている教室で優菜と話す。「どうするんだろうね。どうやって黒崎さんと会うつもりなんだろう。連絡先だって知らないのに」「わからない。だけど、私は負けない」 頭を抱えそうになるけれど、蓮さんは私のことが好きだと言ってくれている。それに人を簡単に傷つける彼女は、きっと蓮さんは嫌いなタイプの子だ。可愛いからってすぐに好きになるような男の人ではない。蓮だってしばらく恋愛はしていなかったって言っていたし、社内からモテるってこの前言われてた。真帆ちゃんに騙されるわけがな
話しかけてきたのは、同じ学年の藤原 真帆《ふじわら まほ》だった。 うしろには二人の女の子もいる。 真帆ちゃんとは、大学の入学時に一緒のゼミになった。知らない人たちばかりでドキドキしていた私に最初に気さくに声をかけてくれたのが真帆ちゃんだ。 「美桜ちゃん、次の講義、一緒に行こうよ」なんて声をかけてくれていたのに。 ある日をきっかけに、話しかけてくれない、ううん、無視をされるようになった。 大学一年生の時、真帆ちゃんと教室に入ろうとすると、男子学生の声が聞こえてきた。「藤原さんと東条さんって、二人でよく一緒にいるよな?仲良いのかな」「授業一緒に受けているし、仲良いんじゃない
二人でベンチに座り、ジュースを飲みながら海を見る。「楽しかったですか?」「はい、楽しかったです。また来たいです」「初めてのデートでしたけど、どこか不満はありますか?」 不満なんてとんでもない。「そんなことっ!」 あっ、一つだけお願いしたいことがあった。「黒崎さん。これから私のこと、呼び捨てで呼んでほしいです。美桜って」 彼は優しい顔をしながら「わかりました」 返事をしてくれた。 「じゃあ、俺のことも名前で呼んでください」「えっ?」「俺も名前で呼んでほしいです」 黒崎さんを名前で呼ぶ。 自分で言い出したことなのに、急に恥ずかしくなっちゃった。「名前で呼んで?
「暗い話になってしまい、すみません。自分のことは不幸だと思ったことはないので。気にしないでくださいね」 気にしないでくださいねと言う彼。「私、黒崎さんの支えになりたいです!今は頼りないかもしれないけど。もっと強くなって大人の女性になれるよう頑張ります」 もっともっと強くなりたい。 彼が頼ってくれるような人になりたい。 いつまでも守られているようじゃダメだ。「もう十分支えられています。俺が愛ちゃんを守らないといけませんね」「ダメです!たまには守られててください」 私の言葉を聞いて彼は笑う。「わかりました。期待しています。でも……」 車が信号で止まった。 彼は私が先ほど口に