公正契約大神殿の大聖堂は、どう見ても巨大な契約書だ。 柱にも天井にも条文が刻まれ、その真ん中で私だけが、生身のまま立っている。(やばい、立ったまま寝る……) 昨夜から祈願と相談と書類確認を詰め込まれ、仮眠もろくに取れていない。 そこへ「どうしても今日でないと困るんです」という有力貴族の結婚式がねじ込まれて、私の稼働ログは朝から真っ赤だった。「聖女リディア様、準備を」 補助神官の声。少し後ろでは、若手書記官ティオが紙束を握りしめて震えている。「し、聖女様……式のあとに『予定外祈願』が3件……」「聞かなかったことにしようか。今は目の前の式だけ」「す、すみません……!」 祭壇の前には新郎新婦、客席にはぎっしりと上流階級。 その視線を感じながら、私は深呼吸をした。《本日の稼働時間、すでに推奨上限の1.5倍ですねえ》 頭の奥で、軽い声が笑う。 公正契約の女神。私の庇護神であり、この世界で一番ログにうるさい存在だ。(女神様、実況は後にしてください)《いえいえ、ログは積み重ねてなんぼですから》 儀式はクライマックスへ進む。「では、公正契約の女神の祝福を——」 大神官長アグナスの声に合わせ、私は両手を掲げた。 契約書レイアウトの魔法陣が光を増し、新郎新婦の足元から淡い金色の光が立ち上がる。(ここでコケたら、式が台無し……) 焦りと眠気で視界が揺れた、その瞬間。《はい、そこまで》 女神の声が、いつもより低く落ちた。《これ以上ログを積んだら、あなたも世界契約もまとめて過労死コースなので、止めます》(世界契約まで過労死は嫌ですね……)《ですよね。では、強制停止》 祝福の光が「ブツッ」
Last Updated : 2026-02-24 Read more