All Chapters of 王太子に転生しましたが、なぜか悪役令嬢に土下座する羽目になりました: Chapter 1 - Chapter 7

7 Chapters

第1話 悪役令嬢は土下座を知らない

 俺は、人生で初めて土下座をした。  そして、その謝罪は思うようには進まなかった。(段取りも、時間も、言葉も)  現実は上手くいかなかった。「いや、違うな。完璧だった”つもり”なだけだ」 だからこそ、だろう。  とある”成功例”を、俺は知っていた。  だがそれは、物語の中の話だった。  それをあの日、痛感することになった。  馬車がとある屋敷の前で停まった。  俺はゆっくりと馬車から降りて、玄関へと向かっていく。  従者はいない。  ペトリコールの匂いが鼻に入ってくる。  雨が降らなければいいが。  扉の前に着いたら、扉を叩いて開くのを待った。「どちら様でしょうか」 この家の使用人が出てきた。  ただ俺の顔を見ても、見当がついていないようだった。  まあ、当然だろうな。「レオポルドだ」「え?」 突然言ったからか、気づいていないようだった。「シュナイエ王国、王太子だ」「お、王太子殿下……大変失礼いたしました」 俺がそう言ったら、謝罪の後に一瞬だけ静寂が訪れる。  謝罪の後、使用人は驚きながら俺を見ていた。「ほ、本日は、その……?」 静寂が破れたのは使用人の緊張しながらの問いかけだった。「ユリアナ嬢に会わせてほしい」 彼女は公爵令嬢で、この屋敷に住んでいる。  俺の目的は彼女だった。「分かりました、中へ」 俺は使用人に案内されて、客間へ。「王太子がお越しになられたって!?」「紅茶をすぐに用意しなさい!」 侍女がバタバタと慌てている。  すぐにカップに淹れられた紅茶が出される。  湯気が立っていて、香りが鼻に入ってくる。  だが飲んでいる余裕はない。  椅子に座りながらユリアナ嬢がやってくるのを待っていた。(ここで失敗するわけにはいかない) 時計の針が動く音だけが耳に入ってくる。  後は俺の深呼吸の音だけ。(完璧にしないとな) タイミングを間違えたら失敗する。(俺は”正しいこと”をしに来た)「お待たせしましたわ」 しばらくして、やってきたのは、ユリアナ・フォン・ルイッツホーフ。  前に見たときと変わらない姿をしている。  ドレスを着ていて麗しい。「ユリアナ嬢」「殿下、本日はどういった……」 俺は彼女の言葉を言い終わらないうちに、床に両手と膝をつけて、頭も床につくくらい身
last updateLast Updated : 2026-01-24
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第2話 正しいより楽

 時間は数週間前に戻る。  いつものように公務が忙しかった。「この部分だが、君はどう思う?」 俺は王都にあるシュナイエ王国の王宮において、青髪の子爵令嬢《ししゃくれいじょう》のクレア・ユングホルツ嬢に意見を求めた。  資料の確認をするためだ。「私は、殿下のご判断が最善だと思います」「そうか」 クレア嬢は決断をしなかった。  俺の判断が正しいと言ってくれた。  その途端に、肩の力が抜ける。「君の意見で確信が持てた。ありがとう」「いえ、殿下の考えは正しいですから。あなたは王太子ですので」「王太子、か。確かにな」 俺はちょっとクレア嬢に笑みを見せる。  すると彼女も微笑み返した。「ふふ、そういったところ、魅力的です」「そう言ってくれると嬉しい」 クレア嬢は肯定的に捉えてくれる。  それが俺の心を惹きつけた。  婚約者がいるのにな。  クレア嬢は、迷うことそのものを否定しなかった。  それが、俺にはありがたかった。「そうだよな」 俺は彼女に対して、そう呟いた。  だからこそ、意見を訊くんだよな。(俺だって迷うよな)「クレア嬢、ちょっと良いだろうか?」 何日かして、彼女に意見を求めた。  ちょっと遠慮がちに。「迷われていますのね」「ああ」 彼女は俺の様子を察して、優しく微笑んでいた。  少々安心する。「俺だってただの人間だからな」 先日クレア嬢に言ってくれた事を返した。「勿論ですよ。迷われるのは、真剣だからだと思います」 クレア嬢は頷きながら俺の事を肯定してくれる。「私としてはーー」 そして意見を言ってくれた。  俺は楽になった気持ちになる。「ありがとう。つっかえていたものが取れた気分だよ」「ふふ、そんな所が私はお好きですよ」 笑顔を見せてくれるクレア嬢。  水が流れるように、俺は楽な方向へ心が向いていく。「君は縛らないな」「そんな。私はただ、殿下を尊敬しているだけです」 彼女がそう言ってくれる事に心が温かくなる。「あのレオポルド殿下、お疲れではありませんか?」 少し経って、業務が終わったタイミング。  そこでクレア嬢は話しかけてきた。「疲れか。そう見えるのか?」「はい」 俺では気づかなかったが。  彼女は気がつくのか。  確かに自分の事を気づきにくいってよく言われるが
last updateLast Updated : 2026-01-25
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第3話 婚約破棄

 数日後、王宮にある応接室。  そこで俺は立ってある人物を待っていた。  侍女を通じて、やってくるように伝えている。「失礼いたしますわ」 やってきたのはユリアナ嬢。  礼をしながら応接室に入ってくる。  いつもと変わらない表情をしていて、何も不安に思っていない。「来てくれてありがとう。時間は取らせない」「殿下、どういった用件でしょうか?」 一呼吸置いて、伝えることにする。「君との婚約を、ここで解消したい」「……っ!」 ユリアナ嬢は驚いた表情をしていた。  確かにそうなるよな。  でも取り乱すこともなく、ただ考えているようだった。「理由を、お聞きしても?」 次に彼女が口にした事は理由を訊ねるもの。  彼女には心当たりが無いようだ。  俺は彼女に視線を合わせず、書類を差し出す。  それは、婚約を解消する旨を書いたもの。  これによって、完全に俺とユリアナ嬢は婚約を解消することになる。「理由か。これは、君のためだ」「わたくしのため?」 きょとんとしている。「君は、正しい王妃になる人だ」 それは間違っていないと思う。  ユリアナ嬢と結婚すれば、彼女は正しい王妃になれるだろう。「だが、俺にはそれを受け止めきれなかった。それ以上の説明は、出来ない」 俺は謝罪をせず、ただ理由を伝えていく。  それを感情もぶつけずにユリアナ嬢は聞いていた。  言葉を遮らず、ただ淡々と。  俺の言葉が終わると、ユリアナ嬢が口を開く。「わたくしが、殿下のお役に立てなかったのでしょうか?」「いや。何も」 その問いかけに対して、俺は間を置かずに答えていく。  即答と言ってもいいくらいに。  確かに彼女は悪くない。  役に立っている。立てなかったことはない。「これまでの尽力に、感謝している」 俺はユリアナ嬢に一礼をして出ていこうとする。  彼女は俺に縋るわけでもなく、ただ俺を見ていた。「必要な手続きは、後日こちらで行う」「分かりましたわ、殿下」 彼女は泣くことはなく、怒るわけでもなく、俺に対して一礼を返した。  姿勢は正しく、王太子の婚約者としては相応しいように思える。  だが、少なくとも今の俺には受け入れられなかった。  俺は応接室を出ていく。 この時点で、俺とユリアナ嬢の婚約関係は終わったのだった。「何故なん
last updateLast Updated : 2026-01-26
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第4話 二度目の謝罪

「う~ん」 俺は悩みながら、王宮の廊下を歩いていた。  あれ、何か新鮮だな、この廊下を歩くのも。理由は分からないが。「それにしても」 ずっと歩いているのが新鮮に感じてしまう事、に関してはどっちでもいい。  今の状態としては、別の事で悩み中だ。「ユリアナ嬢、許してくれるかな」 二度目の土下座をしたいが、いつにするかを決めかねていた。  すぐにユリアナ嬢の屋敷へ向かっては、呆れられるだけだろう。  だから、多少は時間を置いて謝罪をしたほうがいい。  でも、どのタイミングで?  それが一番の悩みだ。  顎に手を当てながら考えていた。「殿下、何か悩まれているのでしょうか?」「すまない。変なところを見られてしまって」 クレア嬢が俺の様子を見て、微笑みながら優しく話しかけてきた。  しまったな。  彼女は当事者じゃないのに。  俺とユリアナ嬢の問題だからな。「もしかして、ユリアナ様の事でしょうか?」 分かるのか。  確かに先日、婚約破棄したことを伝えている。  だから察しがつくだろうな。「ああ。婚約破棄してから、冷静になってみたんだ。そうしたら、間違いだって思うようになってな」 そのため、俺は表面上であるがクレア嬢にユリアナ嬢への気持ちを伝える。「ま、間違いですか」 そう口にしながら、クレア嬢は一瞬だけ視線を落とした。  まるで、答えが分かっていたのに、聞いてしまったかのように。「謝罪をしたんだが、受け入れてもらえなかった」「せ、先日のってそれですか……」「ああ、そうだ」「ゆ、ユリアナ様と……」 クレア嬢の目が一瞬、悲しげに揺れた。彼女も、何かを知っているような……?  それに言葉が震えまくっている。  何が起きているんだ。「大丈夫か?」「は、はい」 落ち着かないな。  さっきまでは平常だったのに。  悪いことでも言ってしまったのか?「もしも再び謝罪をするなら、いつが良いだろうか?」「そうですね。すぐでもいけませんし、時間が空きすぎてもいけませんので、数日後がいいかと」 数日後か。  確かにそれが良いかもしれない。  やがてクレア嬢の様子は、完全ではないものの徐々に落ち着いていって、普通に話していた。「ありがとう」「……殿下の謝罪が上手くいくといいですね」 ぎこちない微笑みを見せながら
last updateLast Updated : 2026-01-27
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第5話 王太子は推しを切ったのか?

【ユリアナ視点】「……殿下」 |あの時《婚約破棄の日》、殿下が出ていって、扉が閉まった。  静かだったけれども、今までよりも冷たかった。  足音は遠ざかっていく。  わたくしは追いかけることもせずに、応接室で立ったまま。  遠ざかっていくと、応接室には静寂が訪れる。  聞こえるとすれば廊下を歩く侍女の足音くらいだろう。「本当なのね」 机の上に置かれた婚約破棄の書類を見てみる。  はっきりと、レオポルド殿下とわたくし”ユリアナ・フォン・ルイッツホーフ”が婚約を解消する旨を書かれている。  殿下の署名もあるし、王家の印もあってこれが正式書類だって分かる。  偽造なんてありえないくらいに。「本当に、終わったのね」 わたくしは殿下との婚約を破棄された。  その事実は、時間が経つにつれてはっきりとわたくしにのしかかる。  殿下の、『君のため』という言葉が、胸に刺さる。わたくしのため? それなら、なぜ理由を言わないの? わたくしは……ただ、選ばれたかっただけなのに。「どうしてなの?」 何が原因だったのかしら。  思い出そうとしても、心当たりがない。  いつから殿下は、わたくしとの婚約を破棄しようとしたのか。  そのきっかけって何だったの。  わたくしはその際に、何をしてしまったのか。  思考を巡らせながらその心当たりを探っていく。  でも、見当たらない。  何がいけなかったのだろうか。  気づかないうちにわたくしは殿下へ、粗相をしていたのか。  わたくしすらも知らない癖的な言動が、殿下を失望させてしまったのか。  もしかしたら、その時にわたくしが謝って態度を変えれば、婚約破棄にならなかったのだろうか。  考えれば考えるほど、問いだけが増えていく。  けれど、答えに繋がるものは一つも見つからなかった。「分かりませんわ」 思い出してみるけれども、失言はしていないはず。   言動には気をつけていたはず。癖で出ていたであろうものも含めて。  婚約者として、殿下を支えていたはず。職務的なのも積極的に行っていた。  なのに、どうして。  ”王太子なのに”とか、”王太子失格ですわ”といった事を言って、殿下を否定した覚えがない。「……何も思い当たらない」 だから、さっき殿下が言っていた事を思い出す。  『君のためだ』
last updateLast Updated : 2026-02-05
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第6話 殿下は再び床に頭をこすりつけた

【ユリアナ視点】 この日、夜明け後にわたくしへ使用人のサルチャクから報告があった。  まだベッドで起きてすぐに。「殿下がお見えです」 朝早くから?  そして報告したサルチャクは、諦めているような目をして疲労を見せていた。  ただ、わたくしにとっては驚きもしなかった。(やはり来ましたのね) それだけの感情。  もう一度来るって事は予想できた。  先日の謝罪、殿下は頭を床につけて謝罪の言葉だけを伝えた。  跪いて、わたくしに許しを請《こ》うて。  明らかにおかしな状況。  しかも、何に対して謝罪をしようとしているのかを、何も言わず。  だからわたくしは、謝罪を受け入れられなかった。  婚約破棄に関する事かもしれない。  でも、それならば言ってほしかった。  理由も訊きたかったから。  謝罪だとすれば、今日は言ってくれるのだろうか。「通しなさい。でも客間とは違う場所に」 わたくしはそうサルチャクに伝えた。「かしこまりました」 寝間着から着替えて、殿下が通されたであろう部屋に行ってみる。  殿下が通されたのは小さいながらも庭がよく見える部屋で、わたくしにとってはお気に入りだったりする。  彼はどんな言葉をわたくしに言うのだろうか。  そう思いながら部屋に。  部屋に入ってみると、そこには既に先日を同じような体勢を取った殿下が。「殿下」 わたくしは元婚約者でありながらも、冷たく淡々と言葉を話していく。  そして近くにある椅子に座って、話を聞くことにした。「また謝罪ですのね」「俺は君のために婚約破棄をした。だが、それが正しかったのか分からなくなった」 やはり謝罪は、婚約破棄に関することですのね。  分からなくなったって。迷っているじゃないの。  だからこそ謝っているのだろうけれど、なら婚約破棄する前に、気づかなかったのかしら。  私は何も言わずに聞いていく。  すると、殿下は前世に関することを話していた。  前世ーー伝承等《でんしょうとう》で見聞きしたことがある。  別世界の人物が転生することがあると。  本当にあるのね。  しかも、殿下がその人物だなんて。  わたくしはそれでも驚きを見せず、ただ聞くだけ。  ”推し”って分からないけれど、前世ではわたくしを好いていたのね。  確かにわたくしも
last updateLast Updated : 2026-02-21
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第7話【土下座は前世を知っているものだけが使う】

「お嬢様は戻りました」 そう言われるまで、俺は土下座をしたまま。 既に謝罪をする相手は、居なくなっている。 だから頭を上げてゆっくりと立ち上がる。「出口までご案内いたします」 使用人に案内されて、屋敷の外へ。 屋敷の雰囲気が冷たく感じた。 丁寧だが、最初に来たときよりも距離があった。 出ると、扉は静かに閉じられる。 だが音が重かった。(終わった、のか?) 屋敷を出たタイミングでも、その実感がまだ起こらなかった。 拒絶された実感すらない。 それは、『帰りなさい』や『お引き取りを』って言われず、使用人にも物理的な行動をされず、追い返されなかったのもあるが。 扉から門へと向かっていく庭の間にある道。 太陽は完全に昇っていて、空は水色に染まっている。橙色は少ない。(謝罪、受け取ってもらえなかった) ユリアナ嬢の言葉が、ゆっくりと頭の中で反響する。 『殿下は、わたくしに謝りに来たのではありませんわ』 『”安心したい”だけですわ』 『殿下、わたくしは”二度と捨てられない未来”を約束できない方とは、関われません』 はっきりと、俺に突きつけた言葉。 正論であるが、ある意味断罪するような、冷たいもの。 でもそれだけ婚約破棄によって、ユリアナ嬢を傷つけた事になる。 明らかに俺が間違っていた。 時が戻れるなら、婚約破棄直前で俺を殴りたい。(俺は、許される前提で来ていた) 土下座をして、前世の事だけじゃなくて、全部を話した。 それで許されて、戻れると思っていた。 ゲームと同じような世界だから。 パワーの強い行動をすれば、ゴリ押せると。 でも結果は違っていた。 俺がしていたのは、謝罪ではなく、回復魔法。 壊れてしまった関係すらも戻せるような、ありもしない回復魔法唱えていた。 だからこそ、『謝ったから戻る
last updateLast Updated : 2026-03-01
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