結婚式の前夜。瀬戸景一(せと けいいち)から、余命宣告を受けた幼馴染の最期の願いを叶えるため、世界一周旅行に同行したいと言い出した。私、浅井梨花(あさい りか)に一ヶ月だけ待ってくれ、と。同じ頃、母の浅井悦子(あさい えつこ)に深刻な心不全が見つかった。母の唯一の願いは、自ら夜なべして縫い上げたウェディングドレスを着た私の花嫁姿を、この目で見届けることだった。私は景一に、せめて式だけは挙げてから発ってほしいと、泣いて縋った。彼は承諾した。しかし、式の中途で望月舞奈(もちづき まいな)と共に逃げ出した。二人が空港で人目も憚らず抱き合い、口づけを交わす写真がSNSで瞬く間に拡散され、トレンドを埋め尽くした。それを目にした母は、あまりのショックにその場で事切れた。一方、彼らはA国の都市へと飛び立とうとしていた。舞奈のSNSが更新される。【大好きな人と、一番大胆なことをしたわ。私たちを祝福してね】私は空虚な心地で母の遺骨が入った骨壺を抱き、震える指でコメントを打ち込んだ。【末永くお幸せに】……「梨花!さっきから何を嫌味ばっかり言ってるんだ。式を一週間延期するだけだろ。やめると言ったわけじゃない!舞奈は病人なんだぞ。少しは思いやりを持てないのか?」涙が無意識に零れ落ちる。私は無理やり言葉を絞り出した。「延期なんてしなくていいわ。婚約は解消するから」景一が憤慨したように声を荒らげる。「梨花、いい加減にしろ!感情に任せて言うもんじゃない。お前はもう子供じゃないんだぞ!今日、俺が式に出られなかった。ただそれだけの理由で、婚約破棄だなんて本気で言っているのか?」「ええ」私は淡々と、静かに答えた。「そうよ」景一は鼻で笑った。「梨花、遊びに行ってるわけじゃないんだ。舞奈にはもう、残された時間がないんだよ。彼女がA国に行きたいと言うから、俺は付き添っているだけだ。それなのに、どうしてそう執念深く責めるんだ。こんな些細なことで癇癪を起こして……いい大人なんだから、もっと物分かりよくできないのか!悦子さんも、お前がこんなにわがままだとは知らないだろうな」彼と口論する気力さえ、もう残っていない。私は掠れた声で問い返した。「景一……今日は私たちの結婚式だったのよ。出席するって、あれほど約束したじ
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