五年後。澄み渡る青空を切り裂くように、一機の旅客機が真っ白な飛行機雲を引いていく。冷徹なオーラを全身から放つ碧斗は、ロビーを疾風のごとく突き進んでいた。秘書がスーツケースを押し、必死の形相でその後を追う。だが、その歩調に翻弄されているのは、なにも秘書だけではなかった。「碧斗、待ってよ!」焦燥に駆られた女の声が、空港の到着ロビーに虚しく響き渡る。しかし、前を行く男は立ち止まる気配など微塵も見せず、むしろ彩葉を突き放すようにより足早に去っていく。彩葉とて、碧斗の拒絶に気づかないわけではなかった。それでも、一度は手中に収めかけた「栄華」という名の果実を、そう簡単に手放すわけにはいかなかったのだ。五年前、あと一歩で挙式というところまでこぎ着け、彼の妻となるはずだった。それなのに、今でも自分は「婚約者」という空虚な肩書きに縋りつき、惨めに彼の背中を追いかけることしかできない。いつか彼が立ち止まってくれるのを待ちながら、その実、大半の時間はこうして必死に追随する日々を余儀なくされていた。ここ数年、高橋グループは国内での覇権を揺るぎないものにしていたが、対照的に白鳥家は徐々にその勢いを失いつつあった。両家の婚約こそが、白鳥家にとって唯一にして最後の再起の切り札なのだ。高橋グループの助力さえあれば、再び旭日の勢いを取り戻せる。だからこそ、碧斗がどれほど冷ややかな態度を取ろうとも、白鳥家の人間がこの縁談を取り下げようと考えることは一度もなかった。行き交う人々で溢れかえる空港。彩葉の叫び声は喧騒に紛れて消えていった。だが、その不意な叫びは、反対側のゲートから降り立った一人の女性の耳に、何の遮りもなく届いた。彼女はふと足を止め、無意識に声のする方へと視線を向ける。しかし、人波に紛れて遠ざかる後ろ姿が見えるだけで、それが誰であるかまでは判別できなかった。その女性こそ、花音だった。花音はスーツケースを手に、窓ガラス越しに広がる、懐かしくもどこか見知らぬ空を眺めた。一瞬、現実に足がついていないような感覚に陥る。時を隔てること五年。一文無しの孤児だった彼女は、今や洗練された自信を纏う、一人の自立した女性へと生まれ変わっていた。思えば、それは高橋家と碧斗の「慈悲」のおかげでもあった。高橋家から受け取った30億円という大金がなけ
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