夫の中村健吾(なかむら けんご)は、病的なほど疑い深かく、心配性だった。しかし、その脆さが、たまらなく美しく魅力的だった。プライドも何もかも捨て、私はなりふり構わず健吾にアプローチをして、彼と一緒になることができた。結婚するときは、健吾に安心してほしくて、私の方から婚前契約書にサインし、さらには離婚の際の財産分与もいらないと明記した。ただ証明したかったのだ。私が健吾と一緒にいるのは、お金のためではないということを。しかし、私が妊娠すると、健吾はまた何かに不安を抱き始めたようだった。私のお腹を見つめては、何かを言いたそうにしているのだが、結局は口を閉ざしてしまう。「瞳(ひとみ)……羊水検査、受けてくれないかな?別に、何かあるってわけじゃなくて、ただ確認したいだけなんだ……」胸がずきりと痛んだ。まだ、私のことを信じてくれていないのだろうか?私の愛情を証明するために、様々なことをしたのに。それでもまだ足りないらしい。そんなある日、インスタを見ていたら、健吾が秘書の斉藤理恵(さいとう りえ)と目隠しダーツで遊んでいる動画が流れてきた。目隠しをされた理恵は、怖いのかダーツを握ったまま、なかなか投げられずにいる。そんな理恵に、健吾が優しく声をかけた。「理恵、思い切って投げてごらん。もし、当たっても、君が投げたのなら本望さ」……動画の中では、健吾の友達が皆、理恵を健吾の彼女として扱っていた。二人が知り合って、まだ1か月も経っていないなんて、誰も知らないのだろう。結局、理恵は最後までダーツを投げられなかった。目隠しを外した理恵は、涙をぽろぽろとこぼしながら、子猫みたいに健吾の胸に飛び込む。「よしよし、もう大丈夫だから」健吾は囁くように理恵を宥める。その様子は、まるで宝物を抱きしめているかのようだった。私は冷たい氷の穴に突き落とされた感覚がした。こんな健吾を、どんなに愛し合っているときでさえ、私は見たことがなかったから。私の手には、無意識に力が込められていた。持っていた羊水検査報告書が、手の中でくしゃくしゃに歪んでいる。私は、ふっと乾いた笑いを漏らした。手の中の検査報告書には、はっきりとこう書かれている。【胎児と被検者本人の血縁関係有り】健吾が「不安だ」と言うから、私は
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