真夜中に破水した私は、慌てて夫に救急車を呼んでほしいとお願いした。それなのに夫の松井慶(まつい けい)は、あるアプリを開きログインの足跡をつけていた。そして、画面には「連続ログイン399日目」と表示され、アニメーションの花火が打ち上げられる。それを確認した慶は安心したようにほっと息をつくと、ようやく119番に連絡し始めた。その時の私にもう迷いはなかった。お腹の痛みに耐えながら、弁護士である一人の友人に離婚準備をお願いするメッセージを送る。……救急車に乗っていた時、救急隊員が「深呼吸して下さい。リラックスしましょうね」と、私を落ち着かせようとしてくれていた。その時、隣に座っていた慶が、うっかりボイスメッセージを再生してしまったようで、彼の携帯からは甘ったるい女性の声が聞こえてきた。「またこんなギリギリに連続記録更新のこと思い出すんだったら、もう知りませんからね!」すると、慶はすぐさま携帯の画面を消し、焦ったように私の様子を伺ってきた。私が陣痛の波に襲われ、冷や汗でびっしょりになりながら苦しんでいるのを見て、私が気づいていないとでも思ったのか、慶はどこかほっとした様子だった。彼は、続けて携帯を触り、返信をする。【菜々子、ごめん。今日は忙しくて、つい忘れてた。でも、12時前に間に合っただろ?次は絶対ちゃんとするからさ。そんな怒るなって】そのとき、時計の針はちょうど12時を指していた。私は慶に背を向けて、ストレッチャーの取っ手を爪が食い込むほど強く握った。そして、残りの力で携帯を手に取る。弁護士の友人からの返信が届いていた。【とりあえず今は赤ちゃんを産むことに集中してね。赤ちゃんの親権は、絶対に取ってみせるから!】そのメッセージのおかげで、少しだけ不安が和らぐ。すると、電話の相手をなだめ終わったのか、慶が私の傍にぴたりと寄り添ってきた。私の手を自分の手のひらで包み込み、額へとキスを落とす。「凛(りん)。お前が痛がってるのを見てると、俺もつらいよ」それから、私のお腹に顔を寄せて、痛みを和らげようとしてくれているのか、やさしく撫でてきた。「いい子だから、ママを困らせるんじゃないぞ。早く出ておいで。パパが遊んであげるからな」そして、温かいタオルで私の冷や汗を拭いてくれるなど、気遣いまで見せる。まるで、いい夫で
Baca selengkapnya