炎が見える。 涙はもう出なかった。 目の前で繰り広げられた光景は、少年――レインを絶望させるのに充分なものだった。 声ももう枯れた。 誰か俺を殺してくれと、そう思った。 妹は自ら舌を噛み切って、死んだ。 「つまらんな」 悪魔のようなその男は、笑ってそのまま行ってしまった。 何の希望も見えなかった。 このまま炎にまかれ、死ぬだけだ。 死ねばこの苦しみから開放される。 やがで炎が、何もかも浄化してくれるだろう。 レインは意識を手放した。 ****** ブチブチと何かが千切れるような音がして、レインは消えかけていた意識を取り戻した。 柄にダイヤモンドがはめ込まれた短剣を手にした少女が傍らに立っていて、レインを拘束していた縄を解いていた。 銀色の髪を後ろで軽くまとめた少女は、これまでの人生で見たことがないくらい整った顔立ちをしていた。 美しいと心のどこかで思ったが、絶望に彩られたレインの心には響かない。 獣人族は容姿が優れた者が多いと聞いたことがあった。身体能力も高いらしい。 少女はこの村の住人ではないし、獣人族の一味に違いないと思った。 レインは力なく言った。 このまま死なせてくれ、もう心が死んだのだ、と。 「辛くても、生きて」 少女は無慈悲にもそんなことを言った。 (なぜ?) レインは薄く笑って、生気のない瞳を少女へ向けた。 少女は動かないレインをしばし見つめたあと、何を思ったのか、妹の亡骸を抱き上げて家の外へ出て行ってしまった。 「待て……!」 レインは解放されてから初めて足を動かした。 ――妹をどこに連れて行くつもりだ ――死んでしまっても尚奪うのか ――お前たちは俺から何もかも奪って行くのか ――許さない ――あの女は獣人だ、敵だ ――殺してやる殺してやる殺してやる レインは痛めつけられた身体を必死に動かして、うめきながら少女の後を追った。 外に出て振り返れば、父と妹と暮らした家が燃えていた。 父は獣人の襲来を知り、レインと妹に家から出るなと言い置いて、銃を持って行ってしまった。 それきり、帰ってこない。 周囲を見れば、他の家にも火の手が上がっていたり、滅茶苦茶に破壊されたりしていた。 誰の声も聞こえない。
Last Updated : 2026-02-26 Read more