冬の東京は、肌を刺すような冷気さえも贅沢に感じるほど、空気が澄み渡っていた。 午後の陽射しがビルの谷間を縫うようにしてアスファルトへ降り注ぎ、街路樹の銀杏並木が、まるで金色の雪を降らせるように葉を散らしている。彩葉は上質なカシミヤコートの襟を立て、石畳にハイヒールの軽やかな音を響かせながら、都心の洗練されたオフィス街を歩いていた。 今日は彗が経営するグループ企業が主催する、大規模なレセプションパーティの日だった。 夕方の開演まではまだ十分な時間があったが、彩葉は高鳴る胸を抑えきれず、少し早めに会場近くへと足を運んでいた。 ふと、ガラス張りのビルの壁面に、歩を進める自分の姿が映り込んだ。 一年前、底の擦り減ったぺたんこの革靴を履き、色褪せた紺色のカットソーで隆史の会社へと向かっていた、あの影の薄い女の面影はどこにもない。鏡の中の女性は、背筋を凛と伸ばし、自らの人生をその足でしっかりと踏みしめている。まるで別人のような変貌に、彩葉は密かに唇を綻ばせた。 彗の自社ビルが目と鼻の先に迫った角に、一軒のコンビニエンスストアがあった。 パーティまでの僅かな時間潰しにと、彩葉は何気なく自動ドアをくぐった。暖房の効いた店内に一歩足を踏み入れると、レジの方向から、店員たちの投げやりな雑談が微かに耳に届く。 飲料コーナーへと向かおうとした彩葉の足が、雑誌コーナーの前で止まった。 そこに、見覚えのある後姿があった。 艶やかな黒髪をきっちりと後ろで一つに結び、知的な紺色のタイトスーツに身を包んでいる。以前の、場違いなほど派手な巻き髪や、あからさまに胸元を強調した扇情的な装いは影を潜めていた。鷲尾による徹底した「再教育」が隅々まで行き届いた、清潔感と機能性を兼ね備えた秘書の佇まい。肩には控えめなブランドバッグをかけ、胸元には彗の会社の社員証が、誇らしげにストラップで揺れている。 ゆかりだった。 あの日、社長室の床に額を擦り付け、惨めに泣き叫んでいた女が、今はすっかり有能な秘書としての品格を身につけている。彼女は本棚から一冊の経済誌を手に取り、その表紙を見つめて、勝ち誇ったような、けれどどこか温かい微笑みを浮かべていた。 彩葉の視線が、ゆかりの持つ雑誌へと吸い寄せられる。 それは、先月に旅館の庭園で撮影されたものだった。 燃えるような紅葉を背景に、彗と彩葉が寄り
最後更新 : 2026-04-09 閱讀更多