中野菫(なかの すみれ)と俺は大学の同級生だった。就職活動で別れるカップルが多い中、二人三脚で支え合い、ついに結婚までたどり着いた。彼女はいつも、「1億円貯めて、二人で世界一周旅行に行こうね」という夢を語っていた。俺は彼女が描くその美しい夢を信じ込み、自分の給料を全額彼女に預けて管理させていた。俺の手元に残る小遣いは、月にたったの5000円。生活が一番苦しかった頃は、帰り道に買うような安価なおやつさえ、我慢していた。毎日の食卓に並ぶのは、もやしや特売の野菜ばかり。彼女自身がそれを苦とも思っていないため、俺に辛い思いをさせているという自覚は全くないようだった。そうして数年が経ち、それなりに数百万円の貯金もできていた。7桁に届いた預金残高を見て、俺はこの数年間の我慢も無駄じゃなかったのだと自分に言い聞かせていた。人生、波に乗っている時は、思わぬ幸運も舞い込んでくるものだ。今の会社への転職に成功し、給料が一気に跳ね上がった。ここぞとばかりにお祝いの外食を提案すると、彼女は「外食なんて高くて無駄よ」と難色を示した。「せっかくの節目なんだから、たまには外で食べよう。二人でせいぜい5000円もあれば足りるから」菫はイライラした様子で言った。「5000円もあったら、スーパーで立派なお肉が何キロも買えるでしょ?外食の5000円なんて、ほんのちょっとしか食べられないじゃない!」結局、俺の人生初の転職祝いは、彼女の猛反対であっけなくお流れになった。がっかりしている俺を見て、彼女は、「スーパーで牛肉をたっぷり買ってきて、私が手料理を振る舞ってあげる」と言い出した。妥協するしかなく、俺は渋々頷いた。出かけようとすると、菫が口を開いた。「ちょっと、5000円送金して……」俺は言葉に詰まった。彼女はこう説明した。「私の給料は全部貯金に回してるから、今の手持ちはないの。それに、お肉を買ってと頼んだのはあなたでしょう。だったらお金を出すのも当たり前じゃない?」そんな言葉をかけられ、頭の中が真っ白になった。なんとなく納得がいかない気持ちのまま、スマホで5000円を送金した。入金を確認すると、彼女は上機嫌でスーパーへ駆け出し、特売の牛肉を買い込み、鍋いっぱいにすき焼き風の煮込みを作った。ただ、味の方は正直い
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