目が覚めたとき、空はもう夜だった。 やけに静かで、音がない。風も、車の走る音も、人の気配も。世界から少しだけ何かが抜け落ちてしまったみたいに、夜だけが澄みきっていた。 寝起きのぼんやりした頭で体を起こし、空を見上げる。星が、やけに綺麗だった。見慣れているはずの住宅街の上に、こんな空があっただろうかと思うくらい、暗い青の奥まで細かな光が滲んでいる。 この時間になると、自然と足がここへ向かう。 理由は考えない。考えなくても、そうなる。 今日も、あの場所へ行く。 ……来るはずだ。 あの人は、そういう人だ。 胸の奥に、わずかな違和感が残る。それが何なのかは、まだわからない。けれど、たとえ短くても、ちゃんと届けば、それでいいと思った。 立ち上がって、歩き出す。 星の下へ。 * ――その夜、俺は眠れなかった。 エアコンの風が天井を撫でている。六月の終わりにしては蒸し暑く、けれど窓の外には妙な静けさがあった。夏の夜特有の、遠くでバイクが走る音も、近所の犬が吠える声も聞こえない。代わりに、壁掛け時計の秒針だけがやけに大きく耳につく。 ベッドに仰向けのまま、スマホの画面をつけては消す。通知はない。あるはずもない。最近の俺に連絡をよこすような相手は、ほとんどいなくなっていた。 画面上部の時刻は二十二時四十一分を示している。まだそんなものか、と思った直後、いや、もうそんな時間か、とも思う。時間の感覚だけが妙に鈍い。高三の夏なんて、本来なら進路だの模試だの文化祭準備だのに追われて、もっと一日が速く過ぎていくものなんだろう。少なくとも、去年まではそうだった。 去年の今ごろは――と考えかけて、そこで思考を止める。 止めようとして、結局止められない。 ベッドの脇に置いた勉強机へ視線をやる。無造作に置かれた参考書、開きっぱなしの英単語帳、その上に載る白い封筒。今日の夕方、学校から帰ってきたとき、ポストに入っていたものだ。 差出人の名前はなかった。切手も消印もない。ただ、きれいすぎるくらい真っ白な封筒が一通だけ、他のチラシに混じって入っていた。 最初は近所の子どもの悪戯かと思った。あるいは母さんがどこかでもらってきた何かを、間違って俺のところに置いたのかと。けれど封を切って中を見ると、便箋にはたった一行しか書かれていなかった。『今夜、あなたは生まれ
Last Updated : 2026-03-31 Read more