私、須藤花音(すどう かのん)、誕生日はエイプリルフール。なのに、付き合って五年になる彼氏・松本律希(まつもと りつき)は、毎年一日早くお祝いしてくれる。だって、エイプリルフール当日に、幼なじみの中林莉々(なかばやし りり)と過ごす時間を、無駄にしたくないからだ。今年は「埋め合わせする」と言って、ようやく二人きりで誕生日を祝ってくれることになった。周りからは「あの日、プロポーズされるよ」と囁かれていた。エイプリルフール当日。私はばっちりメイクをして、新調したワンピースを着て、待ち合わせの場所へ向かった。花びらが舞い散る中、律希が私の前に片膝をついた。私が言葉を発しようとしたその瞬間――指輪ケースから、どばっとインクが噴き出した。「ハッピーバースデー!真っ黒さん」「結婚に焦ってる女、怖いね。エイプリルフールのプロポーズを本気にするなんて」莉々がスマホを掲げて、夢中で連写している。律希は彼女を止めるどころか、一緒になって笑い出した。「泣きたきゃ我慢しろよ。莉々と『お前は泣かない』って賭けてる。負けさせるなよ」私は無表情のまま、顔のインクを拭った。心は完全に冷え切っていた。律希が立ち上がった。ウェットティッシュを一枚取り出すと、私の顔を適当に拭った。「はいはい、ただの冗談だって。そんなにカリカリすんなよ。今日はエイプリルフールだぞ。こんな日にプロポーズを本気にする方がおかしいだろ。莉々の言う通りだ。お前が結婚に焦ってるから、簡単に引っかかったんだよ」周りがさらに笑い声をあげた。「莉々、それヤバくね?マジで笑える」「見ろよ、あの顔。まさか本当に泣く気かよ」結婚に焦ってる。私はそう呟いた。胸の奥が締め付けられるようだった。莉々がワイングラスを手に、優雅に近づいてきた。「花音さん、怒らないでよ……ごめんなさい。律希とこんな賭けをするのではなかった」言い終わらないうちに、彼女はグラスの中のワインを私の顔めがけて勢いよくぶちまけた。そして大げさに叫んだ。「あっ!滑っちゃった」胸元に広がるべたべたしたワインの染みを見下ろし、とうとう我慢の限界が来た。テーブルの上のシャンパンボトルを掴み、迷わず彼女の頭から浴びせた。泡が彼女の丹念に整えられた巻き髪を伝
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