五十嵐拓海(いからし たくみ)は、周囲から見れば、完璧な夫だった。毎日決まった時間に帰宅し、出張先からは必ずビデオ通話で無事を知らせてくる。飲み会に女性が同席すると分かれば、必ず事前に電話で私の了承を得る。生理のたびに、彼は決まって温かい飲み物を用意してくれた。しかし、彼の優しさが深ければ深いほど、私・音羽望央(おとは みお)はまるで刑期を過ごしている囚人のような気分になった。五年前、結婚式当日。彼の秘書が、臨月のように膨らんだ腹を抱えて私の前にひれ伏し、二人の仲を認めてほしいと懇願した。拓海は彼女を引きずり出し、戻ってきた時には全身が血だらけで、私の前で震えていた。「みお、俺が悪かった。もう縁を切った。あいつは二度と姿を見せない」それから五年。彼は確かに、浮気まがいの行為は一度もしていなかった。むしろ欠点が見つからないほど完璧な夫で、そろそろ彼を許してもいいのだろうか。そう自分に言い聞かせていた。今日、一緒に食事に行こうと、彼の会社へ向かった。ドアの向こうから、子どもの声が聞こえた。「パパ、今日はママの誕生日だよ。帰ってお祝いしようよ」「うん、そうしよう」次の瞬間、手元のスマホが振動し、画面が明るくなった。【みお、今夜は残業だ。遅くなる】ドアの隙間から、そっくりな顔をした夫と男の子を見つめた。ふと、五年前のことを思い出した。あの女がひれ伏した時、その腹は今にも生まれそうなほど大きかった。強く握りしめていた妊娠検査薬が床に落ちた。臆病者の私は、飛び込んで問い詰める勇気など、微塵もなかった。震える指で床の妊娠検査薬を拾い上げ、踵を返してその場を離れた。会社ビルを出て、ようやく一息つくことができた。花壇のそばにしゃがみ込み、えずきそうになったが、何も出てこなかった。手のひらは汗でびっしょりで、検査薬をカバンの奥へ押し込んだ。抜け殻のように街をさまよい、気がつけば夜になっていた。いつの間にか家に帰り着いていた。邸宅はがらんとして、拓海はまだ戻っていなかった。靴を脱ぎながら、なぜか無意識のうちに、もう書斎の前に立っていた。普段、彼は私に書斎への立ち入りを固く禁じていた。私も本当に五年間、一度も入ったことがなかった。鍵はかかっていないまま、私
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