私、秋元莉葉(あきもと りは)と長谷悠河(はせ ゆうが)は学生時代から付き合っている、お互いにとって初恋の相手だ。二人で必死に支え合い、苦楽を共にしながら、どん底の地下アパートからペントハウスへと這い上がってきた。しかし会社が上場を果たしたその日、彼は自分の若いアシスタントを傍らに引き寄せてみせた。「これまで数々の困難を共に乗り越えてきてくれたのは萌彩だ。だから今日、会社の株式の半分を彼女に譲渡しようと思う」森下萌彩(もりした もあ)も一切躊躇うことなく振り返り、集まった大勢のメディアの目の前で悠河と熱いキスを交わした。その場にいた誰もが、この若き「夫婦」の姿に感動し、涙を流していた。私はヒステリックに問い詰めることもなく、首から下げていた社員番号「01」のIDカードを静かに外し、そのまま背を向けて立ち去った。この十三年という歳月が、私に「諦める」ことを教えてくれたのだ。……画面に映る悠河と萌彩の親密なツーショット写真を見つめながら、私はふと、上場申請が通った日のことを思い出していた。その日は、私の三十二歳の誕生日でもあった。あの日、私は一人きりで深夜二時までリビングのソファで彼を待っていた。何度もスマートフォンを手に取って確認したが、何の通知も来ていない。午後六時に悠河から「チームの飲み会がある」と言われてからその時まで、丸八時間。たった一通のメッセージすら届かなかった。SNSを開くと、萌彩が新しい投稿をしていた。写真の真ん中にはグラスを掲げ、目を三日月のように細めて笑う悠河が写っている。キャプションには、【申請通過のお祝い。社長のごちそう!】とあった。画像を拡大すると、彼の首筋に口紅の跡がくっきりと付いているのが見えた。夜の十一時、私は一度だけメッセージを送っていた。【今日は早く帰ってきてね。待ってるから】既読はついたものの、返信はなかった。午前三時、玄関の鍵が開く音がした。ソファに座ったまま、足元をふらつかせながら靴を脱ぐ彼を見つめる。三メートル離れていても分かるほどの、強烈な酒臭さが部屋に漂ってきた。「まだ起きてたの?チームの飲み会だって言っただろ、別に待つ必要なんてなかったんだよ」悠河はこちらをちらりと見たが、その口調に申し訳なさは微塵も感じられない。「今日は私の誕生日だよ」
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