『お願い、早く、来て』 ーーきみは、誰だ。 夢の中で、誰かが俺を呼んでいる。眩い光に包まれ、顔はよく見えない。だが、その涙に歪んだ声で、本当に俺を必要としているのはわかった。 「待て!せめて名前を! 」 叫んだ瞬間、アラームの乾いた音が部屋中に鳴り響き、現実に戻される。 「また、あの夢か……」 俺は身体を起こし、乱れた髪を適当に直してから、居間に降りた。 「兄ちゃん、遅ーい!」 「龍!あんたまた昨夜遅くまでゲームしてたでしょ!」 妹と姉さんの声から逃げるように俺は鞄を手に学校へ向かった。学校と言っても、俺がやることは、教科書に隠れて話題のスマホの異世界漫画に逃げ込み、先生に叱られるだけだ。これからもこんなどうしようもなくてくだらない日常が続いていく。そう思っていたのに。 漫画の中では、勇者が叫びながら魔王に突っ込んで行く。思わず立ち上がった瞬間 教室の床が光った瞬間、俺の指先からスマホが滑り落ちた。 画面の中では勇者が剣を振り上げたまま止まり、机の脚も、上履きの先も、椅子の影も白く焼けていく。誰かのシャーペンが床に転がる音だけが、耳の奥でやけに大きく響いた。 次に膝へ触れたのは、教室の床ではなかった。 手のひらに食い込む、ざらついた石の冷たさ。肺に入った空気は、チョークではなく、古い香炉と雨上がりの石畳みたいな匂いがした。 俺は瀬野龍夜。漫画やゲームの世界に逃げ込み、異世界で無双する妄想ばかりしている、ごく普通の高校生だ。 ……なのに。 足元には白い線で描かれた巨大な円があった。文字、羽のような模様、薄く脈を打つ光。その中心で、俺の影だけが小刻みに震えている。 「……なんだ、これ」 見上げると、天井は体育館よりも高かった。細い柱が何本も伸び、壁の上では色ガラスが赤、青、金の光を石床に落としている。 その外側に、人がいた。 白や灰色のローブを着た大人たちが、魔法陣を囲んでいる。誰も近づいてこない。ただ俺を見ていた。割れ物がまだ砕けていないか確かめるような目で。 「……学校は」 自分の声が、神殿の中へ転がった。 返事の代わりに、人垣が割れた。 白いローブの男が一歩前へ出る。胸元には金の刺繍、肩から下がる布には翼を広げた鳥の紋章。男は俺の前で膝をつき、額が床につきそうなほど頭を下げた。 「ようこそお越し
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