All Chapters of 異世界転生してもスキルはなかったけど、白い羽をもつ彼女を守るため最強の勇者目指します: Chapter 1 - Chapter 2

2 Chapters

第一話 異世界に召喚された青年

 教室の床が光った瞬間、俺の指先からスマホが滑り落ちた。 画面の中では勇者が剣を振り上げたまま止まり、机の脚も、上履きの先も、椅子の影も白く焼けていく。誰かのシャーペンが床に転がる音だけが、耳の奥でやけに大きく響いた。 次に膝へ触れたのは、教室の床ではなかった。 手のひらに食い込む、ざらついた石の冷たさ。肺に入った空気は、チョークではなく、古い香炉と雨上がりの石畳みたいな匂いがした。 俺は瀬野龍夜。漫画やゲームの世界に逃げ込み、異世界で無双する妄想ばかりしている、ごく普通の高校生だ。 ……なのに。 足元には白い線で描かれた巨大な円があった。文字、羽のような模様、薄く脈を打つ光。その中心で、俺の影だけが小刻みに震えている。「……なんだ、これ」 見上げると、天井は体育館よりも高かった。細い柱が何本も伸び、壁の上では色ガラスが赤、青、金の光を石床に落としている。 その外側に、人がいた。 白や灰色のローブを着た大人たちが、魔法陣を囲んでいる。誰も近づいてこない。ただ俺を見ていた。割れ物がまだ砕けていないか確かめるような目で。「……学校は」 自分の声が、神殿の中へ転がった。 返事の代わりに、人垣が割れた。 白いローブの男が一歩前へ出る。胸元には金の刺繍、肩から下がる布には翼を広げた鳥の紋章。男は俺の前で膝をつき、額が床につきそうなほど頭を下げた。「ようこそお越しくださいました、救世主様。我ら天界アストリアの民は、この時を待ち続けておりました」 救世主。 耳に入った言葉が、頭の中でうまく形にならなかった。 俺の袖口には、昼休みにこぼしたパンの粉がついている。ポケットには充電が半分もないスマホ。足元には上履き。剣も杖もない。昨日の英単語テストだって、最後の一問は勘で埋めた。「ちょっと待て! 救世主ってなんだよ! 漫画の中の話だろ。それに名前で呼べよ!」「あなた様は神がお選びになった救世主様でございます。名前で呼ぶなどおがましいばかりです」 男は申し訳なさそうに頭を下げる。 何だよ、それ。意味分かんねえよ。「下界での記憶を保ったまま顕現された。やはり、神託の通りです」 周囲のローブたちが一斉に息を呑んだ。「神託の……」「測定前から、この光量……」「間違いない」 囁きが石壁に跳ね返る。知らない単語ばかりなのに、その一つ一つが重
last updateLast Updated : 2026-06-16
Read more

第2話 選ばれなかった数値

 白い扉の前で、俺は足を止めた。 測定の間。そこへ向かうまで、ミユウは俺の手首を掴んだまま、迷いなく歩いてきた。「龍夜くん、こっちだよ」「……これ、本当に必要なのか」 ミユウはきょとんと振り返った。白い羽が揺れ、銀色の髪が肩で跳ねる。「必要だよ。龍夜くんが、どんな力を持ってるか見るの」「持ってなかったら?」 自分でも嫌な聞き方だと思った。 けれどミユウは怒らない。俺の手首を離し、両手で俺の手を包んだ。「持ってなくても、龍夜くんは龍夜くんだよ」「それ、答えになってない」「うん。答えじゃないよ。でも、先に言いたかったの。水晶が見せるものが、ぜんぶじゃないって」 小さな掌は温かかった。その言葉が慰めなのか、何かを知っているからなのか、俺には分からない。 扉が開く。 部屋の中央には、俺の身長より大きな水晶が立っていた。床の円形模様から光の線が伸び、水晶へ脈のように集まっている。周囲には白い法衣の長老たちが並び、歓迎の声はひとつもない。「救世主様。御身の資質を測定いたします」 正面の長老が告げた。 救世主様。 昨日まで教室にいたただの高校生に、そんな名前を被せられても、息の仕方が分からなくなるだけだった。「水晶へ手を」 促され、俺は水晶に近づいた。表面に映る自分の顔は、情けないほど硬い。 指先を触れさせた瞬間、冷気が腕を這い上がる。白い光が身体をなぞるように上下した。 やがて、水晶の奥に文字が浮かんだ。 攻撃力 0 魔力 0 耐久力 0 適性 0 部屋の空気が止まった。 四つ並んだゼロは、やけに綺麗だった。綺麗すぎて、胸の奥をまっすぐ殴られたみたいだった。 誰も何も言わない。長老たちは水晶を見て、それから俺を見て、互いに視線を交わした。大きな失望の声なんてない。ただ、その沈黙だけで十分だった。 異世界に来ても、俺は何も変わらなかった。 剣を掲げる勇者にも、魔法を放つ英雄にもなれない。場所だけが変わって、俺は俺のまま。掌の中には何もない。「……もう一度、測ることは」 若い神官が言いかける。「水晶は、同じ魂を二度誤らぬ」 長老の声が静かに落ちた。 魂までゼロだと言われたようで、俺は唇を噛んだ。その時、隣でミユウが一歩近づく。「龍夜くん」 名前を呼ぶ声は小さかった。でも、逃げていなかった。 ミユウは水晶
last updateLast Updated : 2026-06-16
Read more
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status