LOGINある日突然異世界に召喚されたごく普通の高校生。期待していたスキルはほとんど0?!そんな彼が出会ったのは天真爛漫、人助けが大好きな白翼の継承者の少女だった。彼女との距離が近づくにつれ、彼女の凄惨な過去が明らかに。「普通の女の子になりたい」彼女のささやかな願いを叶えるため、少年は何度傷ついても、何度でも立ち上がり、剣を振い、闇を切り裂く。これは、ごく普通の高校生が、大切な少女のために、そして世界を救うために、異世界で最強の勇者を目指す俺TUEEE成長譚
View Moreヴィネラの口元から笑みが消えた。踏み荒らされた落ち葉を靴底が噛み、二本の短剣が薄暗い森の光を拾う。片方は姉ちゃんの喉元へ、もう片方はその脇を抜けて俺たちへ届く角度だった。 俺はミユウの背を引き寄せた。腕の中の身体は力なく重く、四枚の白い翼が遅れて揺れる。地面に触れそうな羽根の下へ手を差し入れ、根を踏んで立とうとした瞬間、肩の傷が引きつった。「ぶぅー!ぷぷぅー!!」 甲高い声が張り詰めた空気を裂いた。葵の腕の中で、白い生き物が泣いている。葵は落とさないよう抱き締め直し、その様子と姉ちゃんを見比べた。「この子が、『魔法を使っておばさんをやっつけて!』って言ってるみたい」 ヴィネラの眉が跳ね上がる。言い返す代わりに、その身体が前へ沈んだ。「姉ちゃん、左の刃も来る!」 俺が叫ぶのと、美咲の手元に光が集まるのは同時だった。指の間から伸びた輝きが一本の杖を形作る。姉ちゃんは目を見開いたが、迫る短剣から顔を背けなかった。滑りかけた柄を両手で握り直し、斜めに構える。 守護の杖を包んだ光へ、最初の刃が叩きつけられた。 耳の奥まで響く衝突音。足元の落ち葉が円を描いて吹き飛び、姉ちゃんの髪が大きく翻る。けれど、その靴は土の上に踏みとどまっていた。逆にヴィネラの右腕が弾かれ、肩が後ろへ開く。 続いて脇腹を狙った左の短剣も、杖に沿って張り出した光に止められた。衝撃が柄を伝ったのか、姉ちゃんの肘がわずかに曲がる。それでも両手を離さず押し返すと、ヴィネラの踵が地面を削った。「本当に……使えるの?」 姉ちゃんの声には驚きが残っていた。その間にも杖の先は敵を追い、俺たちの前から外れない。「この子娘が!」 ヴィネラは短剣を低く引き、左右から続けざまに打ち込んだ。甲高い音が重なり、刃が跳ねるたびに光の欠片が散る。姉ちゃんは杖を胸の近くに保ち、斬り込まれる側へ身体ごと向き直った。 俺はその足元と敵の刃を見ながら、ミユウを抱えて幹の陰へずれた。葵にも顎で合図する。「俺の横へ。根をまたげ」 葵が移った直後、弾かれた短剣がさっきまでいた場所をかすめた。俺はミユウの頭を胸に庇い、ヴィネラの肩の動きを追った。 次の打ち込みは、二本同時だった。姉ちゃんの杖を押さえ込むように刃が交差する。だが、ヴィネラが体重を乗せるほど光が強まり、押し込んだ両腕が震え始めた。「この子たちから、離
青い炎が裂け、その奥から二本の刃が迫った。 ヴィネラの髪も肩も炎の向こうで揺れている。それなのに、俺を捉えた目だけはぶれなかった。頬を打つ熱風に目を細めた、そのわずかな間にも距離が縮まる。落ち葉を蹴り散らす足が見えたときには、右の短剣が首筋へ届くところまで来ていた。 俺は左足を引き、肩ごと身体をひねった。切っ先が顎の下を抜ける。冷たい刃の近さに喉が縮んだが、後ろへは退けない。背後にはミユウたちがいる。「木の陰へ! 俺から離れろ!」 声を投げると同時に、左へ走った。木々の間を斜めに横切れば、あいつの背を三人へ向けさせられる。土から浮いた根をまたぎ、追ってくる足音を聞きながら振り返った。 ヴィネラはすでに腕を引いていた。 今度は左。腹へ向かう刃を腰をひねってかわすと、右の短剣が逃げた先へ振り下ろされる。俺は膝を折り、頭を下げた。金髪の先をかすめた刃が、背後の細い枝を断つ。落ちてきた葉が肩に当たるより早く、俺は掌を突き出した。 なお渦巻く青い炎が二人の間で膨れ上がり、ヴィネラの輪郭を覆う。 これで離せるか。 低く踏み込んだ靴先が炎の下から現れた。短剣の切っ先も続く。俺は突き出した腕を引き、肘のすぐ下を走る刃から逃れた。炎の向こうに消えた相手を見失えば、その一瞬で懐へ入られる。「どこを見ているの?」 耳に近い声とともに、もう一本が脇腹を狙った。 身体を反らす。衣装が引き裂かれ、皮膚を熱いものが走った。浅い、と確かめる暇さえなく、次の刃が胸へ戻ってくる。右、左と避けるうちに足幅が狭まり、踵が太い根に触れた。 このまま下がれば転ぶ。 俺は逆に踏み込んだ。左の短剣を持つ手首を外側から押さえ、肩をぶつける。掌に骨の硬さが食い込んだ。息が触れるほど近くなったヴィネラの顔から、笑みが消える。 今なら押し返せる。あいつの右腕が戻る前に、もう一歩。 踏ん張った足の下で落ち葉が滑った。 押す力がわずかに抜け、その隙に手首を振りほどかれる。右の刃が斜めに走った。顔を引いた俺の左腕をかすめ、鋭い痛みが肘まで広がる。腕が下がったところへ、ヴィネラの膝が入り込んだ。 蹴り抜かれた瞬間、腹の奥から息を奪われた。 足が土を離れる。青く照らされた幹が視界を流れ、背中に硬いものがぶつかった。衝撃が胸まで突き抜け、開いた口からは声も出ない。身体が幹を滑り落ち、肩から地面
「おーっほほほ! やっと見つけたわ! 勇者!」 女の笑い声が、湿った木々の間に響き渡った。枝の揺れる音を聞きながら、俺は足裏で根の位置を確かめる。右へ半歩ずれれば、後ろの三人を体で隠せる。腰を落とすと、覚醒した体を包む戦闘衣の裾が草を撫でた。 六歩ほど先で、女が顎を反らしている。笑っているのに、その視線は俺の胸から離れない。木陰の冷気が襟元へ入り、肌に薄く汗が浮いた。「こんにちは。アストリアに住んでる人ですか?」 葵の声に、俺は右腕を広げた。脇から顔を出しかけた妹が、足を止める。腕の中では白い生き物が耳を立てていた。「そこにいろ。俺より前へ出るな」「お話するだけだよ。こっちで初めてのお友達になれるかもしれないし」 葵は俺の腕越しに笑いかけた。女が返事をしないと、聞こえなかったと思ったのか首を傾ける。その無防備な仕草を、今は背中の陰へしまっておきたかった。「おばさん、なかなか迫力あるじゃない。魔法少女の映画なら、私にも出番をちょうだいよ」 左後ろから美咲姉ちゃんが覗いた。笑みを浮かべ、相手の出方を待っている。いつもなら俺も呆れて返せただろう。けれど女の指がゆっくり開くのを見て、視線を外せなかった。「あたしはヴィネラ。魔王様に最も近しい者」 名乗る声には、褒め言葉を待つような間があった。姉ちゃんの笑みが止まる。俺の袖に触れた指が、そのまま布をつまんだ。「魔王様って本当にいるの?」「いる。だから、少し下がってくれ」 姉ちゃんは俺を見た。冗談を返さない顔を確かめるように見つめ、それから袖を放した。それでも足はすぐには動かず、ヴィネラとの間を測るように、その横顔が向き直る。「葵ちゃん、私のそばにいて」 ミユウの声がした。振り向くと、銀白色の髪の向こうで白い翼が狭く畳まれている。葵へ寄ろうとした一歩が小さい。傷をかばって止まった体を支えるように、そばの幹へ手を添えていた。 俺は葵に後ろを示した。妹がようやく一歩引くのを見届けたところで、ヴィネラの声が低くなる。「勇者、あんたの体になぜアストラル・オースが宿ったか知ってるの?」 呼吸に混じっていた森の匂いが、急に遠くなった。 体の内にある力へ意識が向く。エクシードへ覚醒した今も、手足を動かす意思に応えてくれる、確かなもの。だが、なぜ俺に宿ったのかと問われれば、答えは出てこなかった。「どうい
梢の高いところで、笛の音に似た鳥の声がした。 先を歩く葵が、ぴたりと足を止める。葉の重なりを仰いだ拍子に肩の荷物が傾いたが、直す気配はない。木漏れ日の斑が頬を滑り、その目が枝から枝へ忙しく動いた。「今の、どんな鳥だろう。もう一回鳴かないかな」 湿った土の匂いがする道には、太い根が幾筋も横たわっていた。葵の靴先は、その一本に触れそうになっている。俺には声の主より、次の一歩のほうが気がかりだった。「あまり一人で遠くに行くんじゃない!」 葵が振り向いた。返事の代わりに持ち上げかけた足を見て、俺は根を指さす。そこでようやく足元へ目を落とし、彼女は大きくまたぎ越した。「分かってるって。ちゃんと見えるところにいるでしょ」 そう言って荷物を背負い直す姿に、ため息が出る。見える距離と、何かあったときに手が届く距離は違う。それをどう伝えれば、せっかくの機嫌を損ねずに済むのだろう。「にいちゃんから離れるんじゃないわよ」 後ろから美咲姉ちゃんの声がして、俺は少しほっとした。姉が同じことを言ってくれるなら、葵も聞くだろう。ところが、追いついてきた姉の口元は楽しげに緩んでいた。「こんな森で別行動なんて、事件が起きる場面そのものじゃない。私たちも、そろそろ魔法少女になる見せ場がありそうね」「……映画じゃないんだから」「分かってるわよ。でも、この木漏れ日、すごくきれい。歩いてるだけで絵になるわね」 俺は額に手を当てた。曲がり角の向こうへ葵が消えないように見ながら、姉まで呼び戻すことになるのか。道はこれからも続く。その先の一本一本の木が、二人を隠してしまう場所に思えて、早くも頭が痛くなった。 隣で、ミユウが小さく笑った。銀白色の髪に落ちた葉の影が、歩くたびに揺れる。「お兄さん、姉妹がいるの、いいなあ」「そんなにいいものじゃないぞ。今の見てただろ」「うん。でも、みんなで話しながら歩くの、楽しそう」 白い小さな翼がふわりと浮いた。その顔を見ていると、続けるつもりだった愚痴が引っ込んだ。姉や妹の声が聞こえることを、俺は当たり前に受け止めすぎているのかもしれない。 ミユウが根を越える際、歩幅を狭めた。俺も足を緩める。胸の奥に残る痛みを刺激しないよう息を整え、低い枝を持ち上げて彼女を通した。「歩きにくかったら言えよ。葵も、俺たちに合わせてくれ」「はーい。魔王を倒し
「やった……」 倒れたスライムが、青白い光になって芝生の上へ消えていく。 俺は剣を下ろした瞬間、その場に膝をつきそうになった。 息が荒い。 腕が痛い。 指先はまだ震えている。 それでも、俺は立っていた。 勝った。 たった一匹のスライムだ。 この世界では、子どもでも倒せるような魔物なのかもしれない。勇者を目指すなんて言っている人間が、ここで喜んでいいのかもわからない。 それでも。 俺にとっては、初めて自分の足で踏み出した一歩だった。「龍夜くん!」 ミユウが走ってきた。 次の瞬間、俺の両手をぎゅっと握る。「すごい! 本当にすごいよ! 龍夜くん、最後まで逃げなかった!
「来いよ」 俺は剣を構えた。 怖くないわけじゃない。 足は重く、腕もまだ痺れている。 それでも、もう一度地面に転がされるために、ここへ立ったわけじゃない。 アストリアの神殿の裏庭。 白い石柱に囲まれた芝生の中央で、俺はルゥの召喚したスライムと向き合っていた。 青白く透き通った小さな魔物。 見た目だけなら、子どもでも倒せそうに見える。 だが、昨日の俺はこいつに振り回された。 剣は当たらない。 足は取られる。 動きは読めない。 この世界で魔力のない俺が、どれだけ無力なのか。 思い知らされるには十分すぎる相手だった。 けれど、俺は剣を下げなかった。 少し離れた場所で
「いやあぁっ!」 ミユウの悲鳴で、俺は目を覚ました。 胸に寄りかかっていた小さな身体が、びくんと跳ねる。白い翼がばさりと乱れ、俺の腕から逃げようとするみたいに暴れた。 一瞬、何が起きたのかわからなかった。 ここはアストリアの神殿にある、ミユウの部屋だ。 昨日、ルゥに連れていかれた裏庭で、俺はスライム相手に情けないほど転がされた。何度も倒れて、立ち上がって、最後は気合だけでどうにか前に出た。 そのあと、膝が笑ってまともに歩けなくなった俺を、ミユウがこの部屋まで連れてきた。「龍夜くん、少しだけ休んでいって」 そう言って、俺の手を離さなかった。 本当はすぐ自分の部屋に戻るつもりだ
「雑魚だろ。そんなひょろくて能力もないやつが救世主なんて信じられん」 ルゥの声が、神殿の裏庭に冷たく落ちた。 白い石畳の上で、俺は拳を握ったまま動けなかった。言い返したいのに、喉の奥が焼けつくばかりで、うまく声にならない。 天界アストリアに召喚されてから、俺は何度も自分の弱さを見せつけられている。 戦闘力はない。魔力もない。剣を握っても、手のひらに残るのは頼りない重さだけ。 それでも、ミユウを守るためにここへ来たのだと、俺は思いたかった。「ルゥ、そんな言い方しないで」 俺の隣で、ミユウがむっと頬をふくらませた。 背中の白い羽が、朝の光を受けてやわらかく揺れる。神殿の庭に咲いた





