All Chapters of 竜剣聖伝 ─死の魔王と赤の聖女─: Chapter 11 - Chapter 20

29 Chapters

第四章 前編 「予兆」

 崖の上にそびえ立つ古城。 その主塔にある一室にて、白髪の男性が立っている。 白を基調とした室内には、同じく白く輝く調度品が多数飾られている。申し訳程度に、金銀の装飾も施されているが、ほぼ白に支配されたその部屋は、やや質素とも思えた。「何用だ?」 そんな部屋に、全く似つかわしくない声。「来たか...ジャカン」 バルコニーに立ち、星空を見上げていた白髪の男が、太い声に反応して振り返る。 重い足音が、一歩、また一歩と響く。 月明かりに照らされた先。 そこには、やはり部屋の雰囲気には全く合わない、筋肉の塊のような男が立っていた。 歳の頃はおそらく5、60歳。顔に刻まれた皺から、老齢なのは間違いない。しかし、その首から下は、顔からは想像もできないほどに鍛え上げられている。 黒い武道着から覗く胸元は、いかなる剣さえ通さないように分厚く、強固に見えた。 破れた袖から伸びる腕も、大木のような太さを持ち、脚もまた同様だった。 ただ、その身長は極端に低い。浅黒い肌と大きな耳から察するに、大地の種族ドワーフだと思えた。「お前に、「聖女」の身柄確保を頼みたい」「「聖女」…だと?」 ジャカンと呼ばれた男が、その太い眉の片方を大きく上げる。 明らかに不服そうな様子だ。「そんな些事《さじ》のために、ワシを呼んだのか?」「些事とはご挨拶だな」 対する白髪の男性は、極めて穏やかな声で話す。 見た目も雰囲気も全くの正反対の2人だが、そこには奇妙な親しみのようなものがあった。「我らの悲願のために、「聖女」は必要不可欠であろう?」「然《しか》り…されど、たかが小娘1人…如何様《いかよう》にもなろう」「そうとも言えないのだよ」 白髪の男性は、小さくため息をつき、ジャカンと呼ばれた男の前に立つ。 長身故に、2人が並ぶとその身長差は大きく、まるで親子ほどもある。「「聖女」と共にいるのは、「巨人討伐者《ジャイアン
last updateLast Updated : 2026-08-07
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第四章 中編 「鬼神」

「ここか…!」 マークが感嘆の声を上げた。 巻物に書かれていた鉱山跡は、思い他あっさりと見つかった。道なき道を進んだ先に、廃墟と化した採掘遺構が唐突に現れたのだ。とはいえ、地図がなければその発見は困難だったかもしれない。 かつては大勢の人々がここで採掘に勤しんでいたのだろう。半ば崩れた家屋がいくつも並んでいる。 微妙な生活感を残した遺構は、どこか物悲しさを感じさせた。「あれが入口だな」 太い角材で補強された、大きな穴がぽっかりと、岩肌に口を開けていた。 鉄格子が嵌められ、施錠もされているようだったが、そんなものは熟練の斥候《スカウト》にかかればお手のもの。ものの数秒で封印は解かれてしまった。「ただの鉱山跡地だから、罠の類はないと思うが…念の為、慎重にな」 ケーベストの言葉に、全員が無言で頷く。普段はだらしないが、こういう時の彼には従うのがベストだと、もう分かりきっていた。 隊列はケーベストを先頭に、次いでマークとセイザンが並び、その後ろにレイナとアスリィ、そして殿《しんがり》をアルバが担当した。 古びた鉱山の内部。ところどころが木枠で補強されてはいるが、崩れている箇所も少なくない。 レイナの杖の先に灯った魔力による光と、ケーベストが持つランタンの灯り。2つの光源が、延々と続く岩肌の壁を照らし出していた。「こういう洞窟探索も久しぶりだな」「罠もなさそうだし、魔獣《モンスター》もいないんでしょ? 楽勝ね」「あんまり気を抜いちゃダメだと思うけど…」 セイザン、アスリィ、そしてレイナ。それぞれが思い思いに言葉を紡ぐ。 張り合いがない、というと語弊があるが、障害らしい障害のない鉱山内部の探索で、一行はいつもより緩い雰囲気になっていた。「…穴に落ちるぞ」「え?」 不意に、最後尾のアルバが口を開いた。寡黙で、普段はほとんど何も話さない彼の言葉に、アスリィは振り返りながら目を丸くした。 瞬間、彼女の足元が崩れた。「きゃあっ
last updateLast Updated : 2026-08-14
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第四章 後編 「慟哭」

 マークたちは、信じられないものを見たように、その場から動けなかった。 あのアルバが、ほとんど一方的に打ちのめされたのだ。「嘘…だろ…」 セイザンが絞り出すように呟く。 この一週間余りの間に、彼の強さはよく知っていた。身体能力に優れる半魔族であることを差し引いても、その技は洗練されている。 マークとほぼ互角か、ともすればそれ以上の実力者のはずだった。「何者なの…?」 すぐにアルバに「治癒《ヒール》」をかけたかったが、アスリィも足が動かない。 圧倒的強者の圧力というものを、戦士ではない彼女も感じていた。「アルバ…」「ケーベスト…?」 悲痛な面持ちのケーベストの様子に、レイナは違和感を覚える。 長身の斥候《スカウト》は、この状況は自らが招いたものだと、激しく後悔していた。 もっと早く、2人組が監視していたことを仲間に伝えるべきだったのではないか…。 もっと早く、背後から忍び寄る異変の正体を探るべきだったのではないか…。 それで状況が今より好転したかは分からない。しかし、このような事態にもならなかったかもしれない。 その思いを噛み締めるように、ケーベストは奥歯にぐっと力を込めていた。「そこの娘!」 5人が全員、身体をビクッと震わせた。 唐突に、赤髪のドワーフから大地を揺るがすような大きな声が轟いたからだ。「ワシと共に来い」「な、なんだって…?」 明らかに、相手が指しているのは黄金色の髪の少女だった。 当の本人は青ざめた顔をしている。マークはその様子見て、自らに課した使命を思い出す。「よく分からないが…レイナは渡さない!」 そして2本の剣を抜き、「鬼神」へと突撃していった──。 レイナ本人にも、状況はまるで分からなかった。 相手が魔族であれば、自分を狙う理由はなんとなく察することができた。 自分の中の謎の力。あれが魔
last updateLast Updated : 2026-08-21
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第五章 前編 「教団」

 手を伸ばす。 どこまでも、その手を伸ばす。 しかし、その手は何もない空間を掴むばかり。 すぐそこに、助けを求める者がいるのに。 手を伸ばす。 どこまでも、その手を伸ばす。 しかし、その手が間に合うことはない。 仲間の左胸を、黒い影が貫く。 そして聞こえる、鬼神の声。「主《ぬし》に、何かを守るなど…できぬ!」 砕かれる、剣と心。「はっ!」 瞬間、マークは目覚めた。 目に映るのは、白い天井。 呼吸が荒い。心臓の鼓動も早く、けたたましく耳に響いていた。「こ…ここは…?」 一体何がどうなっているのか、いまだ混乱する彼は、周囲の状況を把握することもままならない。「やっと起きたか」 不意に、聞き慣れた声が耳に入る。 視線を巡らせると、柔らかな日差しが差し込む窓際に、見知った赤毛の少年が腕を組んで立っていた。 しかし、その顔には痛々しく、包帯が巻かれているのが見える。「セイ…ザン…」「これか? 鼻が折れてるんだってよ…まったく」 まだ呆けた様子の親友に、セイザンは自らの顔を指して少しだけおどけてみせた。 しかし、その口調とは裏腹に、表情は苦々しい。 それは、傷に対しての感情から出たものではなかった。 再び、マークの鼓動が一際大きく脈打つ。 意識を失う前の記憶が、現実を容赦なく突きつけるように蘇ってくる。「そう…か…」 自らの左胸を掴む。力いっぱい掴んだ。 痛い。心が痛い。「夢じゃ…なかったんだな…」 黄金色の髪の少女は連れ去られ、 バンダナを巻いた斥候《スカウト》の青年は、もうこの世にいなかった──。 そこは、王都の中にある、とある集合住宅だった。 時刻は朝。昨日から半日以上、マークは眠っていたらしい。
last updateLast Updated : 2026-08-28
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第五章 中編 「賢者」

煌びやかな部屋の中に、少女の姿はあった。 天蓋のついた大きなベッド。全身が映るほどに大きな鏡台。優しく包み込みそうなほどに柔らかく大きなソファ。 いずれも、最上級の品ではないかと思えるほどに、見事な装飾が施されていた。 そのベッドの縁に座る少女もまた、金の刺繍が入れられた純白のドレスに身を包んでいる。肩が露出し、胸元が大きく開いているが、そこに下品な印象はない。清楚なイメージを崩さない、見事な作りのドレスである。 しかし、それを纏《まと》う少女の表情は、その純白さに反して暗かった。 「みんな…」 何かを祈るように手を組み、その顔を上げる少女。 黄金色の髪が揺れる。 同じく、黄金色をした瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。 「…無事でいて…」 仲間たちの無事。 少女はただ、それだけを願っていた。 「「聖女様」…お食事をお持ちしました」 外界に通じる、ただ1つの扉が開き、色白な女性が入ってくる。その手に、料理の乗った大きなトレーを持って。 「…あり…がとう」 一応の礼を行って、少女はテーブルに置かれた料理を見る。肉料理に野菜料理、柔らかそうなパン。どれも、かつて貴族の館で見たどの料理よりも上等なものに見えた。 しかし、彼女はそれを見ても一切、食欲が湧かなかった。 「では、失礼します、「聖女様」」 女性が静かに部屋を出ていく。 再び独りになった少女は、自分自身の両肩を抱き、その場に座り込んでしまう。 「「聖女」…私は…「聖女」…」 その意味を、先刻説明された。 魔王の封印を司る存在。そこに待ち受ける運命に、少女は震えが止まらなかった。
last updateLast Updated : 2026-08-29
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第五章 後編 「再起」

ロアは、マークからの決闘の申し出を承諾した。 ファミルナスからの用件が終わり次第、街の修練場にて落ち合う…ということになった。 「あのロアって奴も、教団の一員だったのか…」 青髪の騎士がファルミナスの部屋に入っていくのを見送り、セイザンがぽつりと呟いた。 思えば確かに、半年前に会った彼の行動には不可解な点があった。 「もしかして、あの時から俺たち…いや、レイナを監視していたんですか?」 「そうね…アルベルトが彼に頼んでいたみたい…」 結果、レイナこそが「聖女」だと確信したアルベルトだったが、そのことをファルミナスには報告しなかった。 理由は、妻であるハーティには何となく想像がついていた。 「…ここだけの話として聞いて欲しいのだけど」 最上階から戻る道中、ハーティが改まった様子で口を開く。 「17年前、アルテミス様が「聖女」を連れ去った件…私もアルベルトも、罪だなんて思っていないわ…」 「え…」 それまで黙っていたマークが、予想外の言葉を受けてエルフの女性を見た。 「ファルミナス様は、世界を魔族の脅威から守ることを第一に考えている。それはもちろん、正しいと思う…」 例の動く小部屋の中、ハーティは言葉を続ける。 「でも、だからこそ、あの方にとっての「聖女」は、目的のための道具でしかないの…」 「道具…だって…?」 ハーティは辛そうな表情をしていた。だから、道具などという表現を聞いても、マークは声を荒げることはできなかった。 「「聖女」を保護し、然るべき時まで幽閉し、そして魔王の再封印をさせる…そうやって、世界を救おうと考えていたのよ、あの方は…」 「…全を救い、個を捨てる…か」 壁に背を預け立
last updateLast Updated : 2026-08-30
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第六章 前編 「強襲」

 崖の上に建つ古城。 その広大なホールの中に、1つの人影があった。「時は近い…」 魔王復活を目論む、魔族たちの組織。 その「総帥」と呼ばれる男──ジークハルトは、ホールの中央に立ち、手にした錫杖で何度も床を突いている。 その度に、錫杖からは赤黒い光が飛び散り、それがホールの床に広がり、1つの形を成そうとしていた。「儀式は、もうすぐ完成する…」 白髪の男性は、本来なら端正であるはずの顔を、醜く歪ませている。もし、他者が彼の姿を見たら、きっとこう表現するであろう。 化け物、と。 その表情を表すかの如く、月明かりに浮かび上がるジークハルトの影は、明らかに人の形をしていなかった。「我が悲願…人類の抹殺…」 一際強く、錫杖が床を叩いた。『我らが悲願…人類の抹殺…』 ジークハルトのものと、そうでないものの声が重なる。 影は、ますますその形を歪めていった。 そんな異常とも言える城の主の様子を、物陰から覗く人影が1つ。 赤い頭髪を逆立てた、筋骨隆々のドワーフの鬼神──ジャカン。 彼は古き友の姿に何を思うのか。その表情に色はない。 ジークハルトは、名家であるアーレス家の嫡男として生を受けた。 若くして頭脳明晰、そして容姿端麗であった彼は、名家を継ぐに相応しい才を持っていた。 だが、その優秀さ故に、彼は幼くして両親を含む一族、ひいては人間という存在の負の部分を理解できてしまった。 嘘で塗り固められた人間関係。 政略と謀略が渦巻く社交界。 その裏で行われる、人道を逸脱した行為の数々。 些細なことで父の怒りを買い、処刑された使用人を何人も見てきた。 その時も、彼は「笑っていろ」と命じる父に逆らうことができなかった。 なぜ、人は清廉潔白のまま生きていくことができないのか。 子供としての純真さから湧き上がるその疑問を、しかし彼は自らの聡明さ故に踏み躙ってし
last updateLast Updated : 2026-08-31
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第六章 中編 「焦燥」

「儀式が完成した…」 崖上の古城。 魔族たちの組織を束ねる「総帥」ジークハルトは、床に広がる赤黒い光を放つ魔方陣を見下ろし、そう呟いた。「おぉ、素晴らしい…!」 その傍《かたわら》に立つ、長い黒髪を持つ男性が、恍惚とした表情で称賛する。 白を基調とした落ち着いた服装の総帥とは対照的な、赤や黄色、そして緑といった派手な色彩のローブを纏《まと》った、異様な外見をしている。痩せぎすな顔は、細いフレームの丸眼鏡と相まって、神経質な印象があった。「では、残るは…?」「…後は「聖女」だけだ」 ニヤついた笑みを浮かべながら、極彩色のローブを着た男性が尋ねる。それに答えたわけではなかったが、ジークハルトの言葉は問いへの回答になっていた。「…ガーベル」「はい、閣下」 ようやく、ジークハルトは男性の存在を認識したように顔を向けた。ガーベルと呼ばれた男は、大げさなほどに仰々しい態度で畏まる。「「聖女」をここへ連れて来るのだ」「喜んで…私《わたくし》めにお任せください」 2人は見た目だけでなく、喋り方まで対照的だ。 落ち着いた様子で淡々と話すジークハルトに対し、ガーベルは単語のひとつひとつが全て、湿度の高いネットリとした物言い。初めて聞いた者は間違いなく、不快感を覚えるだろう。「それと、閣下…儀式が完了した後の、「聖女」の処遇についてですが…」 首《こうべ》を垂れた姿勢のまま、ガーベルが尋ねる。「…お前の好きにするがいい」「それはありがたきお言葉…!」 総帥の答えを聞き、ガーベルの声が一段階上ずる。歓喜に満ちた表情を浮かべ、その頬には朱が差していた。「このガーベル…身命を賭して「聖女」をここへ連れて参りましょう!」 ローブを翻し、またしても大げさな動作で一礼すると、ガーベルは古城のホールから姿を消した。 品性のない大きな笑い声が遠ざかっていくのを、ジークハルトの耳が捉えていた──。
last updateLast Updated : 2026-09-01
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第六章 後編 「脱出」

 魔術師ガーベルの心は昂揚していた。 魔王復活の儀式の準備が整い、あとはその「鍵」となる「聖女」を連れてくるだけ。「それが終われば、「聖女」は私が自由に使って良いと、あの方はおっしゃった…」 聞くところによれば、「聖女」は黄金色の髪を持つ、17歳ほどの少女だとか。 まだ成熟しきっていない、若い少女の肢体を想像するだけで、ガーベルの口角は自然と持ち上がった。「どのように料理するのが良いでしょうか…フフ…フフフ…」 彼はもともと、「塔」に所属する優秀な魔術師であった。魔術の技量もさることながら、特にその研究意欲を買われ、「塔」に招聘された人物だ。 四聖賢《しせいけん》の1人である魔術博士サンジェルマンにも一目置かれるほど、ガーベルの探究心は深く、そして根強かった。 だが、行き過ぎた好奇心は猫をも殺す。彼はなんの罪もない人間たちを拉致しては、自らの実験のために使い捨てていた。 結果、彼は捕縛され、極刑に処されることとなった。 しかし、そのようなことでガーベルの心は止まらない。 脱走した彼は、魔族たちの組織の存在を知り、自ら進んでその傘下へ加わる。 魔王が復活し、魔族が闊歩する世になれば、人間など彼らの殺戮の玩具に成り果てる。「玩具」であるなら、それで実験をすることに、何の問題もなくなるだろう。「実に楽しみですねぇ…フフフ…ヒヒヒ…!」 まして、その「玩具」の第1号があの「聖女」になるかもしれないのである。 ガーベルはもはや性的な興奮を覚えていた。「無論、殺してはいけませんし、綺麗な身体のままでいてもらわないといけませんね…」 あくまで「聖女」は「聖女」のままでいてもらわなければならない。下手なことをすれば、新たな「聖女」が生まれてしまう。それは良くない。「であれば、まずは心をどうにかしなければ…虚ろな表情を浮かべる少女…クフフフ…」 漆黒の馬車内に、醜悪な笑いが響き渡る。 同乗していた組織の構成員2人は、さすがに嫌悪感を露わに
last updateLast Updated : 2026-09-02
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第七章 前編 「救出」

「みんな、急ぐぞ!」 2本の剣を腰に下げ、黒髪と赤いマントの少年──マークは険しい表情を浮かべた。 それに続き、彼の仲間たち4人もまた、各々の装備を身につける。 先刻、王都の宿にて休もうとしていたマークたちのもとに、「塔」で待機しているアルベルトからの連絡が入った。 離れた場所にいても声を伝えることのできる耳飾り。テーブルに置かれたそれから聞こえるアルベルトの声は、緊迫した様子だった。 「敵組織の幹部を乗せた馬車が、ある場所に急行しているという情報が入った」 魔術師の名はガーベル。元は「塔」に所属していた者で、危険な人体実験を繰り返していたというマッドサイエンティスト。 組織の中でも特に力を持つ人物だとされていて、そんな彼がわざわざ馬車で急行するほどの事態だとすれば… 「もしかしたら、向かう先に「聖女」がいるのかもしれん」 いよいよもって、魔王復活の儀式が完了した、もしくはそれが近いため、「聖女」本人が必要となった可能性がある。 「だいたいの目的地は割り出している。君たちはそこに行ってくれ。俺も急ぎ向かう」 こうして、マークらは目的地と思われる場所に向け出発した。 馬を飛ばせば、明け方には着くほどの距離。 「レイナ…オレが…いや、オレたちが必ず助けに行くからな…!」 月明かりが照らす街道。その先に見える山々を見据え、マークはその闘志を静かに燃え上がらせていた──。 月明かりが木々の間から差し込む山中。竜の「聖剣」を持つ青髪の青年は、その切先を目の前の狂魔術師へと向けた。 「その剣…なるほど、貴方が噂の聖騎士ロア…ですね?」 脂汗を浮かべつつも、魔術師ガーベルは笑顔を作り、右腕を押さえながら後退。 ついで、素早く魔術を発動させた。
last updateLast Updated : 2026-09-03
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