竜剣聖伝 ─死の魔王と赤の聖女─

竜剣聖伝 ─死の魔王と赤の聖女─

last update最終更新日 : 2026-08-14
作家:  ユウユウたった今更新されました
言語: Japanese
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概要

冒険

異世界ファンタジー

三人称

ヒーロー

戦士

幼なじみ

片思い

逆転

敵対

竜と魔王による大戦から1000年。 平和な辺境の村で暮らす少年マークは、「世界一の剣士」を志し、幼馴染と共に冒険者として旅立つ。 しかしその旅は、思わぬ運命へと繋がっていく。 魔王復活の鍵を握る存在。 幼馴染の少女レイナこそが、その「聖女」だった。 彼女の運命を救うため、マークは過酷な戦いへと身を投じていく。 少年の成長、そして仲間たちと共に紡ぐ、絆の物語。

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12 チャプター
第一章 前編 「出会」
「おらぁっ!」 叫びと共に、強烈な蹴りが炸裂した。 顔面を蹴り飛ばされた人影が、木枠の窓を突き破って外へと投げ出される。醜悪な顔をした緑色の肌を持つ人影──ゴブリンだ。 魔獣《モンスター》と並び、人々の生活を脅かす害獣の如き存在。暴力と略奪しか知らない、知性の欠けらも無い邪悪な者たちである。「マーク、目を閉じろ!」 親友の言葉と同時に、マークはその目を伏せる。戦いの最中に目を背けるなど、本来は自殺行為に等しい。しかし、次の瞬間、眩い閃光が放たれる。「ナイスだセイザン!」 強烈な光に目を焼かれ、ゴブリンたちが悶絶する。夜目が効く分、目眩しの効果は絶大だ。 セイザンの放った精霊魔術の「閃光《フラッシュ》」は、光の力を凝縮して一気に解放し、周囲に強い光を放つ、彼の十八番《おはこ》である。 身動きが取れないゴブリンたちを、マークが両手に持った大小2本の長剣で斬り伏せていく。「マーク、後ろ!」 3体のゴブリンを倒したところで、レイナの鋭い声が届く。目眩しから回復した1体が、マークの背後に回りこみ、手にした棍棒を振りかざしていた。「障壁《プロテクション》!」 しかし、その棍棒は青白い光の壁によって遮られる。レイナの魔術によって作られた、意志力の障壁だ。 魔力とも称される意志の力を、特殊な言語──呪文に乗せることで現実を改変する。それが言語魔術である。「ありがとよ、レイナ!」「ついでに、おまけっ!」 マークの長剣がゴブリンを袈裟斬りにし、さらに追い討ちとばかりにセイザンも背中から剣を振り下ろす。 街の郊外にある廃墟に住み着いたゴブリンの駆除。マークたちが冒険者として依頼された仕事は、これにて完了となった。 その日の夜。 新米冒険者3人の姿は、宿の1階に併設された酒場兼食堂にあった。「やっぱり3人だけじゃ少し厳しいかもしれないぞ」 手にした豚肉の串焼きをクルクルと回しながら、セイザンが話し始めた。「今回みたいな害獣駆除って話ならともかく、例えば洞窟内の探索ってことになると、特にな」 今回の依頼は、廃墟に居座るゴブリンの駆除という、至極シンプルなものだった。10年以上前に起きた戦争の影響で、街の郊外には放棄された空き家が多い。そこを住処にしてしまうゴブリンは後を絶たず、街の住人にしてみれば脅威だ。しかし、冒険者にとっては比較的楽に日銭
last update最終更新日 : 2026-06-26
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第一章 中編 「探索」
 街道を外れ、険しい森を数日間かけて抜けた先。斜面の死角になる場所に、人工的な石造りの入口が確かにあった。「ここが...遺跡の入口」 マークは目の前にぽっかりと空いた洞窟を見て、激しく鼓動が高鳴るのを感じていた。物語でしか読んだことのない、未知への冒険が目前にある。その事実に、心を弾ませない者はいないだろう。「おっと、それ以上はストップな」 ゆっくりと入口に足を進めていたマークを、大柄な体格が遮る。険しい顔をした斥候《スカウト》の青年がそこにいた。数日前に緩い顔を浮かべていた男と同一人物とは思えないほど、真に迫った表情だ。 慣れた雰囲気で、ケーベストは入口の周囲を観察し、実際に手を触れて確認してみる。「あれ、何やってるの?」「多分、何か仕掛けがないかを探ってる...のか?」 アスリィの疑問に、セイザンが曖昧に答えた。何となくの知識では知っているが、実際に斥候《スカウト》の仕事を目にするのは初めてだ、無理もない。「...おい、ケーベスト、まだかかるのか?」「もう少し待っててくれ...っと、よし、OKだ」 遺跡の入口まで来てお預けをくらい、さすがに焦れたマークが急かすと、そこでケーベストが両手を叩いた。「なぁ、マークよ、ちょっとそこに立ってみてくれ」「え、こ、ここか...?」 いつもの軽い表情に戻ったケーベストに促され、マークは指された場所に立ってみた。遺跡の入口の真ん前。先ほどマークが近寄ろうとしていた場所だ。 ガシュッ!「はっ!?」 何か機械的な音が響き、マークは咄嗟に両手で防ぐ動作をしながら屈む。しかし、音が響いただけでそれ以上は何も起きなかった。「ふむふむ、なるほど、やっぱりなぁ」 1人だけ何かを納得した様子のケーベスト。 マークは冷や汗をかいたまま固い表情を作り、他の3人も軽く青ざめている。「な、なんだよ、何があったんだ?」「そこに何かの仕掛け罠があるのはすぐに分かったんだよ」 マークがケーベストの指す場所──つまり自分の足元に目を落とすが、そこは何の変哲もない地面にしか見えない。「でも、1000年前の遺跡なわけだし、仮に発動しても劣化してて、何も起きないと思ったんだよ」 腰に両手を置き、自信満々といった様子のケーベスト。マークの顔がみるみる赤くなっていく。「案の定だったな! どうだ、ビックリしたか?」「
last update最終更新日 : 2026-06-26
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第一章 後編 「魔族」
「な、何だこいつ...!?」 ケーベストが短剣を構えながら退く。現れた怪物からは、肌に刺さるくらいの殺気を感じた。とても近くにはいられない。「レイナ...? レイナ、どうしたの!?」 アスリィが叫ぶ。彼女の横に立つ黄金色の髪を持つ少女は、血の気の失せた青い顔を浮かべ、その唇は微かに震えていた。「お、おい、レイナ...?」「みんな...逃げて...!」 マークが背後に向け声をかけた直後、レイナが悲痛なまでの声を絞り出した。「あれは...魔族...」「ま、魔族...だと...?」 セイザンの顔が強ばる。その言葉が真実だとすれば、目の前の存在は恐ろしく強大な敵である。 魔族。それは1000年前、竜と大いなる戦いを繰り広げた魔王に付き従った眷族たちのこと。大きな角と、絶大な身体能力、そして魔力を持つ怪物。かつての大戦では、人間とエルフ族、ドワーフ族などが力を合わせ、これと戦ったとされる。 今ではおとぎ話の中の存在だとされていたが、実際に目の前に立つソレは、確かに魔族だと言っても不思議ではないほどの威圧感を持っていた。「マジかよ...これはさすがに、逃げた方が良くないか?」 ゆっくりと足を進める魔族。それに合わせて、5人は少しずつ後ろに退く。背中を向けて逃げたい衝動に駆られるが、それは自殺行為だと、本能が告げていた。「...ダメだ、ここで倒す...!」 しかし、黒髪の剣士だけは、下がる足を止め、正面から怪物の前に立った。「こいつを、野放しにしておけない...!」 魔族は人の天敵。この場から上手く逃げることができたとして、この怪物は恐らく、人里を探し暴れ回るだろう。そんなことは許せない。 何より、世界一の剣士を目指すマークにとって、敵から逃げるという選択肢は初めからなかった。「...ったく、しょうがない奴だ...」 隣に、赤毛の親友が立つ。一度決めたら簡単には曲げない。マークの性格は昔からよく知っている。「援護と回復、任せてね」 背後でアスリィが弓に矢を番《つが》える。「撹乱...が、効けばいいけどな」 ケーベストも何かを諦めた様子で、低い姿勢を取り構えた。「みんな...」 最後尾に立つレイナは、仲間たちの覚悟を決めた表情を見て、徐々に顔色を回復させていく。大きく息を吐き、心を落ち着かせる。杖を握る手に力を込め、ついに
last update最終更新日 : 2026-06-29
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第二章 前編 「騎士」
「塔」と呼ばれる地がある。文字通り、天に向けて昇る、巨大な石の塔を中心とした都市だ。 魔術師の総本山にして、世界的な研究機関。そこに従事する者はまさに魔術の最先端を行く者で、多くの言語魔術師たちにとって羨望の対象である。 その巨大な石塔の中。まるで貴族の屋敷にある応接間のような部屋に、2人の男性の姿があった。「お前に、「聖女」の捜索を命じる」 顔は40代といったところか。白いものが混じった黒髪をオールバックにして、1つにまとめあげている壮年の男性。しかし、首から下は鍛え抜かれた筋肉に包まれていて、そこに刻まれた無数の傷跡が、男性の屈強さを物語っていた。「歳の頃は16、7ほど...金の瞳を持ち、おそらく髪も同じ色だろう」 低い声で話す男性──アルベルトは、目の前に立つ青年の様子を窺っていた。青い髪の、重厚なプレートアーマーを着た男。その腰には、竜の装飾が施された長剣が下げられている。「場所は王国の東部。発見してもなるべく接触は避けろ。しばらく様子を見る」「......」 男は何も語らず、ただ静かに頷く。その青い目には、光というものが感じられない。感情の読めない相手の様子に、アルベルトは露骨にため息をつく。「...お前のことは信頼している。だが...その、なんだ...もう少し愛想とかはないのか?」 厳格そうな顔が、悩ましげに歪む。対照的に、青髪の男の表情は動かない。 ただ、ほんのわずか。目の前でも気づかない程度に、彼は鼻で笑った。「...必要ない」 それだけ言い残し、重い甲冑の足音が部屋を後にした。1人残されたアルベルトは、バツが悪そうに頭を掻きむしる。「全く...あんな無愛想な奴が「聖剣」の主とはな...」 世の中分からないものだとボヤき、彼も部屋から出ていった。「さて、ここでみんなに重大な知らせがある」 王国東部にある一際大きな街。大勢の客で賑わう真昼の食堂にて、赤毛の少年──セイザンが神妙な面持ちで話し始めた。仲間たち4人は、何事かと聞き耳を立てている。「一言で言うと...金がない」「はぁっ!?」 その報告にいち早く反応したのは、緑の瞳と長い耳を持つエルフの少女──アスリィである。目を大きく開き、その尖った耳もピンと上を向いていた。エルフは感情によって耳が動くことを、仲間たちは最近知った。「え、どういうことだ? この前
last update最終更新日 : 2026-06-29
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第二章 中編 「激闘」
 廃村までの道のりは約半日。 道中、しばしば雑談を挟みながらも、冒険者各位は警戒した様子で行軍した。 いかに相手が弱小なゴブリンといえど、その数が200もいるとなれば話は別だ。こちらはその10分の1程度の人数しかいない。いつもの気軽な害獣駆除とは訳が違った。「よし、ここで野営しよう。明朝、作戦開始とする」 やや開けた場所に来た時、装飾のある金属鎧を着た若い男性が言った。冒険者たちのお目付役として同行した、ラングナー卿配下の騎士だ。マークは記憶を辿り、確か名前はオットーだったと思い出した。「ゴブリンは夜行性だから、朝日が昇る頃合いに寝る...そこを急襲するって感じだったか」「まぁ、やり方自体はいつもの駆除と変わらないな」 隣を歩いていたセイザンに、作戦の内容を確認する。以前も小規模なゴブリンの群れを駆除したことがあるが、その時も朝方を狙った。「マーク、お前さん朝に弱いんだから、早めに寝ておけよ」「う、うるせぇ...」 ケーベストに指摘され、マークは言い返す言葉も見つからずに悪態をつくばかりだった。昔から早起きは苦手なのである。「ねぇ、レイナ、あの人まだあなたを見てるよ」「えっ...」 アスリィから耳打ちをされ、レイナは少し驚いた様子で振り返る。 少し離れたところに、あの青髪の騎士が立っている。まるで感情というものが感じられない眼差しを、移動中もずっとレイナに向けていた。「顔は良いんだけどさぁ、あそこまでじっと見てくるとさすがに怖いよね...」「そう...だね...」 渋い顔をして言うと、エルフの少女は青髪の騎士に向けて舌を見せて煽った。やはりというか、彼女のことは全く眼中にないようで、何の反応も返ってこなかったが。 レイナはしかし、向けられる眼差しをそこまで不快には思っていなかった。下心のある視線とは、どうしても思えなかったからだ。感情こそ感じないが、何かを探るような意図が見え隠れしていた。 虫たちの声、そして焚き火の
last update最終更新日 : 2026-07-03
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第二章 後編 「巨人」
「こ、こいつは...ゴーレム...なのか...?」 雰囲気だけだが、1ヶ月前の遺跡調査の際に遭遇したゴーレムに似ていると、マークはふと零した。色こそ異なるが、魔力の光を放つ目などはそっくりだ。しかし、その威容は比べ物にならない。「ハハハァッ!古代ノ対魔族用ゴーレムダッ!」 巨人の足元に、あのシャーマンがいるのが見えた。勝ち誇ったような笑みを浮かべ、汚い歯を剥き出しにしている。「...厄介なものを...」 小さく呟き、青髪の騎士がゴーレムの前に立つ。そして手にする剣を大きく振りかざした。 次の瞬間、竜が象られた剣は、その形を変えていた。「なっ...?」 マークだけでなく、5人全員がその目を疑う。片手半剣《バスタードソード》と呼ばれるサイズだったはずのそれは、瞬きをする間に二回りは大きい大剣《グレートソード》へと変わっていた。 伝説に聞く竜が象られた剣。ただの虚仮威《こけおど》しではないだろうとは思っていたが、形が変化するなど誰が予想したか。「無駄ダ無駄ダ! ヤレェッ!」 シャーマンが手を掲げ命令を下す。見ればその手に、赤く輝く宝玉のようなものを持っている。それでゴーレムを操っているのか。 考える間もなく、ゴーレムはゆっくりと動き出す。一歩ずつ、その巨大な足が地面を踏みしめ、大きな足跡を刻む。次いで、胸部に描かれた紋様のようなものが赤く輝き始めた。「な、なんか分からないが、一旦離れろ!」 セイザンの叫びと共に、マークらはゴーレムから一斉に距離を取った。しかし、青髪の騎士はその場から動かない。「ダメ、逃げてっ!」 レイナが叫んだ。 そして、ゴーレムの胸部から真っ赤な閃光が迸《ほとばし》る。「ギャアァァァッ!」 わけも分からずその場に留まっていたオーガが、悲痛な声を挙げながら燃え上がる。ゴーレムから放たれた光。それは凄まじい熱量を持つ、熱線とも言うべきものだった。 青髪の騎士も、その赤い奔流に巻き込まれる。
last update最終更新日 : 2026-07-10
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第三章 前編 「王都」
「封印が弱まってきている」 月明かりが照らす夜。 切り立った崖の上に立つ古城。高くそびえ立つその主塔のバルコニーに、1つの人影が立っていた。 黄金の錫杖を手にした、白髪の男性。しかし外見は若い。せいぜい30代といったところか。「魔族たちはさらに活性化するだろう」 白髪の男性は眼下に広がる海原を見ている。波がうねりを上げ、岩盤を激しく叩き削っていく。 長い長い年月をかけ、ほんの少しずつ侵食されていく岩肌。それはまるで、竜たちによって施された封印が、徐々に弱まっていく様子を表しているようだった。「封印を解く鍵...「聖女」を探せ」 その声は男性から発せられたものではない。そして近くに、他の人物の姿もなかった。 何処からか囁くその声に、男性はじっと耳を傾けている。「全てはお前の「望み」を叶えるため...」「私の、願い...」 小さく、男性が呟く。表情のなかったその目に、少しずつ感情の光が灯る。 ただしそれは、深い憎悪に満ちた、黒い光とも言うべきものだ。『人間を、抹殺する...!』 男性の声と、謎の声。2つが重なり、同じ言葉を放つ。『探せ、捕らえるのだ...「聖女」を...!』 その声に応えるように、1匹の蝙蝠《こうもり》が月夜の空を舞っていった。 あのゴブリン掃討作戦から、半年の月日が流れていた。 マークたち一行は、「巨人討伐者《ジャイアントバスター》」としてそれなりに名が知られるようになり、様々な依頼をこなしていった。 ある時は、森に住み着いた凶悪な魔獣《モンスター》を討伐。 またある時は、夜の街を騒がせる連続殺人犯《シリアルキラー》を捕縛。 さらにある時は、古代文明の遺跡にて、物珍しい品を多数発見。 それらを通して、マークたちは自らの成長を確かに感じていた。新たな装備を購入・入手したのもあるが、より肉体や精神が研ぎ澄まされていった自覚があった。 セイ
last update最終更新日 : 2026-07-17
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第三章 中編 「半魔」
 深夜。虫たちの声だけが小さく響く。 マークたち一行の姿は、王都の郊外、イズナー卿の弟──サイレスの屋敷を望む丘の上にあった。 イズナー卿からの依頼を受けてから2日後。準備を整えた5人は、ついに屋敷への潜入を開始することにした。「なんでも、サイレスってやつは凄腕の用心棒を雇ってるらしいぞ」 セイザンの言葉に、マークは少し心を踊らせていた。 街で聞いた話では、サイレスは兄であるイズナー卿とはあまり仲も良くなく、屋敷の自室にこもっていることが多い、内向的な人物らしい。 他人に対する興味も薄いため、使用人も最低限しか雇わず、私兵と呼べるものもいない。それ故に、自衛のために用心棒を1人、雇っているということだった。「凄腕か...こんな時じゃなければ、ぜひ剣を交えてみたいもんだぜ」「残念、剣じゃなくて格闘技を使う用心棒って話だったな」 腰の剣に手を置き、ワクワクした様子の親友。セイザンはそれに軽口で返す。「さて、じゃあ、手筈《てはず》通り、3手に別れて行動開始だな」 潜入任務なら当然、斥候《スカウト》であるケーベストの専売である。各人のスキルを考慮し、彼は手分けしての屋敷潜入作戦を考案していた。「まずは...音を消すぞ」 セイザンが新たに習得した、風の精霊魔術である「静音《サイレンス》」を発動させる。空気の流れを操作し、音を外部に漏らさないようにする術だ。「次は私...透明《インビジブル》...!」 続いてレイナが、姿を見えなくする言語魔術を発動する。 5人の音を消え、姿も見えなくなった。これでよほどのことがなければ、潜入がバレることはない。 とはいえ、それぞれの魔術は一定時間で効果が切れる。素早く潜入して、短時間で調査を終え、迅速に脱出。まさにスピード勝負。 それ故に、イズナー卿から事前に受け取っていた、サイレス邸の間取り図をもとに、3箇所を同時に調べるという作戦を立てた。 内訳はマークとレイナ、セイザンとアスリィ、そしてケーベスト単独。 それ
last update最終更新日 : 2026-07-24
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第三章 後編 「露見」
 再び、時間を少し遡る。 セイザンとアスリィの2人は、サイレスの私室の扉をゆっくりと開けた。 今は深夜である。サイレスはおそらく貴族らしく、大きな寝具に体を横たえて寝ている。そう思っていた。「な…に…?」 セイザンが目を見開く。 そこには、ソファの上で踏ん反り変えりながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべた人物がいたから。 イズナー卿から聞いていた通りの、やや肥満体質の30絡みの男性──サイレスに間違いなかった。 さらに、そのそばには涼しげな顔をして立つ、やけに色白な青年の姿があった。「よう、お出ましかい」「ど、どういうこと…?」 ゆっくり立ち上がるサイレス。まるで自分たちが来ることを知っていたかのような物言いに、アスリィは恐怖にも似た感覚を覚える。 彼女を庇うように、セイザンは剣を構えて前に立った。「あんた、サイレス卿…だよな? 俺たちが来るのを知ってたのか?」「あぁ、知っていたとも」 サイレスは傍に立つ謎の青年の隣に立つ。 そして、唐突にその身体から力が抜けたように倒れた。「えっ…?」 セイザンも、そしてアスリィも、目の前の状況が分からない。 サイレスは意識を失ったように、横たわったまま動かない。呼吸はしているようだったから、生きてはいるらしい。「もう、彼は用済みなので、眠ってもらいました」 穏やかな声。 色白の青年は、その真紅の瞳で足元に倒れる男性を見下ろす。 長い黒髪と、同じく黒の装束に身を包んだ、20代と思われる風貌。しかし、その異様なまでに白い肌と、そこにうっすら浮かぶ青い血管のような筋。 それらに、セイザンもアスリィも見覚えがあった。「ま、まさか…あんた、魔族か…?」「…あぁ、そうですよ」 セイザンの質問にあっさりと答えると、青年はその目の色を変える。赤黒く変化した眼球が、ゆっくりと揺らめく炎のように変化した。それは、あの遺跡で見た魔族と同じもの。 さ
last update最終更新日 : 2026-07-31
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