竜剣聖伝 ─死の魔王と赤の聖女─

竜剣聖伝 ─死の魔王と赤の聖女─

last updateLast Updated : 2026-09-12
By:  ユウユウCompleted
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竜と魔王による大戦から1000年。 平和な辺境の村で暮らす少年マークは、「世界一の剣士」を志し、幼馴染と共に冒険者として旅立つ。 しかしその旅は、思わぬ運命へと繋がっていく。 魔王復活の鍵を握る存在。 幼馴染の少女レイナこそが、その「聖女」だった。 彼女の運命を救うため、マークは過酷な戦いへと身を投じていく。 少年の成長、そして仲間たちと共に紡ぐ、絆の物語。

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Chapter 1

序章 「門出」

 かつて、竜と魔王による大いなる戦いがあった。

 2人の邪悪なる魔王が、世界をその手中に収めるべく、眷属を放った。

 4体の竜がそれに対抗し、人間たちと共に戦った。

 大地が引き裂かれ、空が割れるほどの大戦。

 果たして、魔王は封印され、竜は深い眠りについた。

 しかし、竜たちは知っていた。いつか再び、魔王が目覚めることを。

 魔を断つ力──「聖剣」。

 魔を封じる力──「聖女」。

 来たる時のため、竜はその2つの力を残した。

 それから、1000年の時が流れた──。

「きゃっ」

 朝の柔らかな日差しの中、黄金色の髪がふわりと揺れた。

「っと...大丈夫か?」

 黒髪の少年が、道に躓《つまず》いた少女の手を取る。少女は少しはにかんだ様子で笑顔を作った。

「ありがとう、マーク」

 マークと呼ばれた少年は、その笑顔に心を打たれる。昔からよく知っているその表情は、いつも眩しかった。

 王国の辺境に位置する、名も無き村。深い森に囲まれ、人の往来こそほとんどないが、豊かな自然と、平穏に溢れている。

 今その村から、4人の少年少女が旅立とうとしていた。

 冒険者として、未知の世界への期待に胸をふくらませた旅...というわけではない。

「マーくんったら、顔が赤いよ?」

「そ、そんなわけないだろ! 朝日のせいだよ!」

「モタモタしてないで、早く行こうぜ」

 ニヤニヤという表現がよく合う笑顔で、ピンクの髪をした少女が茶化す。マークがそれに対し、さらに顔を赤らめて反論。そして赤髪の少年が、やれやれといった風情で促す。

 その様子を、真っ赤なローブを着た黄金色の髪の少女──レイナが穏やかな表情で見ていた。

 同じ村で育った、4人の幼馴染。

 マークとレイナ、そしてピンクの髪のルビアと、赤髪のセイザン。

 村の入口に来た彼らは、見送りに来た村人たちに手を振る。

「頑張って来いよ!」

「ルビアちゃん、身体には気をつけてね」

 そんな励ましの声が聞こえてきた。

 4人は西にある大きな街へと向けて出発した。片道数日、長くとも往復で1週間ほどのごく短い道のり。

 それは街にある神殿に、ルビアを送り届けるための旅だ。

 彼女は知識の神の信徒で、その神官になる修行のため、神殿に赴くことになった。

 本来は彼女の両親が送り出す予定だったが、村の外に出る良い機会と思ったマークたちが、その役目を代わることにしたのだ。

 道中、危険はほとんどないが、深い森を抜ける必要があり、ごくごく稀に森の魔獣《モンスター》に出くわす可能性はあった。

 マークとセイザンは、同じ師に剣を習っていて、魔獣《モンスター》の相手程度なら朝飯前だ。

 レイナも祖母が魔術師であり、彼女自身も魔術の高い才能を持っている。護衛としては十分だった。

「西の街って、どんなところだろうな...楽しみだぜ」

「人が大勢いるんだよね...ちょっとドキドキしてきた」

 村を出て、マークは期待に胸を踊らせる。一方のレイナは、期待と不安が入り交じった顔を浮かべた。

「とりあえず無事に着くことを考えようか」

「そうよ、私の護衛、よろしく頼むわね」

 気が逸る2人にため息をつくセイザン。そしてルビアは、マークの背中をピシャリと叩いた。

 木漏れ日の差す森の中に、4人の明るい声が響き渡っていた。

「マーク、右だ!」

「おうよっ!」

 彼らの旅路は、かなりの不運だと言えた。

 村を出たその日の夜、野営場所を決めた矢先に、狼のような魔獣《モンスター》の襲撃を受けたのだ。

 滅多に遭遇することのない脅威に、しかしマークたちは冷静に対処した。

 マークは両手に持つ、大小2本の剣を振り払う。両利きである彼は、二刀流の使い手だ。

 セイザンは手にした長剣に、炎の魔力を宿していた。よく見れば、彼の瞳は鮮やかな緑色で、耳はわずかに尖っている。先祖にエルフがいたらしく、その血が先祖返りで発現した証だ。そのため、彼は精霊の力を借りた魔術を使いこなすことができる。

 レイナとルビアは共に、前衛2人の戦いを見守っている。しかしそこに恐怖の色はない。2人の実力は誰より知っているから。

「行かせるかよっ!」

 マークの剣が閃き、魔獣《モンスター》の一体を仕留める。同時にセイザンもまた、別な一体を炎を纏った剣で倒していた。

「ふぅ...いきなりでビビったぜ」

 額に浮かぶ汗を拭い、セイザンは息をついた。マークも剣を収め、女性陣のもとへ駆け寄った。

「レイナ、ルビア、無事か?」

「うん、大丈夫だよ」

「カッコ良かったわよ、マーくん♪」

 ルビアがわざとらしくマークの腕に抱きつく。豊かな膨らみが、二の腕を柔らかく包む感触。

「だーっ!離せ離せ!」

 慌ててマークは飛び退く。いつものやり取りに、セイザンは苦笑いを浮かべた。

「村からこんなに近い場所に魔獣《モンスター》が出るなんて...」

 レイナが、物言わぬ肉塊となった魔獣《モンスター》に哀れみの視線を向けながら呟く。人に害をなす存在とはいえ、同じ世界に生きるものとして、命を奪ってしまったことに心を痛めていた。

 あまりに優しすぎる少女。その姿を、マークは穏やかな表情で見つめていた。

 それからの道のりは、特に大きな危険もなく順調で、村を出て3日後の昼、マークたちは西の街へとたどり着いた。

「はぁ...これが街か...」

 人の多さに目を奪われ、マークは口をぽっかりと開け、間の抜けた声を上げた。

「おい、田舎者丸出しだぞ」

 セイザンに言われ、慌てて口元を締める。両親が商人で、たびたび街を訪れていた彼は、慣れた雰囲気で落ち着いていた。  

「でも本当、人がたくさん...」

「あたしも一度来たことがあるけど、まだ慣れないわね」

 キョロキョロと周囲を見るレイナと、少し落ち着かない様子のルビア。4人の若者の姿は、大勢の人が行き交う通りの中にあって、少し浮いていた。

「ええと、神殿ってのはどこにあるんだ?」

「この先よ」

 通り沿いの商店に並ぶ品々に目を奪われながら、4人は知識の神殿の前まで歩く。その足取りは無意識に遅く、神殿が近づくほどに、口数も減っていた。

 神官の修行は、短くとも1年。長ければ5年はかかると言われている。小さな頃からずっと一緒だった存在と、もうすぐ別れることになる。その事実が、4人の空気を重いものにしていた。

 しかし、時は止まってくれない。気がつけば、神殿はもう目の前にあった。

「...じゃあ、ここでお別れだね」

 いつもの調子とは違う。ルビアは寂しそうな表情を浮かべて、他の3人を見た。

「レイナ、元気でね」

「...うん」

 レイナの目には涙が浮かんでいた。性格は正反対だが、2人は親友として、村でも特に仲が良かった。

「セイザン、マーくんのこと、よろしくね」

「俺を世話係にするな」

 いつもの軽口に、セイザンは苦笑いで返す。しかし、お互い少し無理をしていることは明白だった。

「そして、マーくん」

「な、なんだよ...?」

 ルビアはマークの前でわざとらしく上目遣いをすると、耳元にそっと口を近づける。

「毎晩あたしのこと、思い出していいからね♪」

「バッ!おまっ...何言ってんだ!?」

 耳まで真っ赤になりながら、マークは数歩後ずさる。一瞬だけでも、ルビアが大人しくしてると思ったのが馬鹿馬鹿しくなった。

「フフッ...じゃあ、行ってくるね!」

 ピンクのポニーテールが揺れる。その姿が神殿の中に完全に消えていくまで、3人はずっと見つめていた。

 それから数日後、マークたち3人の姿は再び村の入口にあった。

 街から戻り、その疲れを癒す間もなく、マークが声を挙げた。

「オレたち、冒険者にならないか?」

 初めて村の外の世界を見た彼は、その興奮を抑えきれずにいた。街には屈強そうな戦士や、極彩色のローブを纏った魔術師の姿があった。それらは古代の遺跡を探索したり、郊外に出没する魔獣《モンスター》の駆除を生業《なりわい》とする冒険者だった。

 マークの夢は、世界一の剣士になること。いつかは村を出て、見知らぬ世界を旅し、見聞を広め、心身ともに強くなりたい。常々そう思っていた。

 そして今が、まさにその時だと思ったのだ。

「遺跡の探索...金銀財宝...夢しかないな!」

 金目のものに目がないセイザンは、すぐにその誘いに乗った。

「私も、興味ある...かも」

 控えめながら、レイナも未知の世界に対する好奇心が抑えられない様子だった。

「よし、じゃあ行こうぜ!」

 こんな時、マークの決断は早い。村に帰ったその翌日には、再度の出発を決めてしまった。

 マークとセイザンの両親は、思いのほかあっさりと旅立ちを認めた。前途のある若者を、この辺境の村に留めておくのも良くないと思ったのかもしれない。

 レイナの祖母である魔術師のアルテだけが、ギリギリまで反対していた。無理もない、たった1人の肉親である孫娘が、わざわざ危険に飛び込もうとしているのだから。

 しかし、こういう時のレイナは意外と頑固だ。とうとう、アルテは彼女の熱意に根負けしてしまった。

 1週間ほど前と、よく似た光景。

 旅立つ若者たちを、村人が総出で見送ってくれる。1つだけ違うのは、少し騒がしい、ピンクのポニーテールが見えないこと。

「師匠、行ってきます」

 マークの視線の先には、長いボサボサの銀髪をした剣の師匠が微笑んでいた。セイザンも、師に向けて手を振った。

「おばあちゃん、心配しないでね」

「...レイナ、これだけは覚えておいで」

 祖母アルテに別れを告げるレイナ。アルテは孫娘の手を握り、諭すように語りかける。

「旅の中で、いつかお前は大きな苦難に直面すると思うわ。でも、絶対に諦めてはいけないからね...」

「うん...ありがとう」

 そして3人は、生まれ故郷の村から再び旅立つ。

 その先に、大いなる運命が待ち受けていることを、この時の彼らは予想できるはずもなかった──。

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第一章 前編 「出会」
「おらぁっ!」 叫びと共に、強烈な蹴りが炸裂した。 顔面を蹴り飛ばされた人影が、木枠の窓を突き破って外へと投げ出される。醜悪な顔をした緑色の肌を持つ人影──ゴブリンだ。 魔獣《モンスター》と並び、人々の生活を脅かす害獣の如き存在。暴力と略奪しか知らない、知性の欠けらも無い邪悪な者たちである。「マーク、目を閉じろ!」 親友の言葉と同時に、マークはその目を伏せる。戦いの最中に目を背けるなど、本来は自殺行為に等しい。しかし、次の瞬間、眩い閃光が放たれる。「ナイスだセイザン!」 強烈な光に目を焼かれ、ゴブリンたちが悶絶する。夜目が効く分、目眩しの効果は絶大だ。 セイザンの放った精霊魔術の「閃光《フラッシュ》」は、光の力を凝縮して一気に解放し、周囲に強い光を放つ、彼の十八番《おはこ》である。 身動きが取れないゴブリンたちを、マークが両手に持った大小2本の長剣で斬り伏せていく。「マーク、後ろ!」 3体のゴブリンを倒したところで、レイナの鋭い声が届く。目眩しから回復した1体が、マークの背後に回りこみ、手にした棍棒を振りかざしていた。「障壁《プロテクション》!」 しかし、その棍棒は青白い光の壁によって遮られる。レイナの魔術によって作られた、意志力の障壁だ。 魔力とも称される意志の力を、特殊な言語──呪文に乗せることで現実を改変する。それが言語魔術である。「ありがとよ、レイナ!」「ついでに、おまけっ!」 マークの長剣がゴブリンを袈裟斬りにし、さらに追い討ちとばかりにセイザンも背中から剣を振り下ろす。 街の郊外にある廃墟に住み着いたゴブリンの駆除。マークたちが冒険者として依頼された仕事は、これにて完了となった。 その日の夜。 新米冒険者3人の姿は、宿の1階に併設された酒場兼食堂にあった。「やっぱり3人だけじゃ少し厳しいかもしれないぞ」 手にした豚肉の串焼きをクルクルと回しながら、セイザンが話し始めた。「今回みたいな害獣駆除って話ならともかく、例えば洞窟内の探索ってことになると、特にな」 今回の依頼は、廃墟に居座るゴブリンの駆除という、至極シンプルなものだった。10年以上前に起きた戦争の影響で、街の郊外には放棄された空き家が多い。そこを住処にしてしまうゴブリンは後を絶たず、街の住人にしてみれば脅威だ。しかし、冒険者にとっては比較的楽に日銭
last updateLast Updated : 2026-06-26
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第一章 中編 「探索」
 街道を外れ、険しい森を数日間かけて抜けた先。斜面の死角になる場所に、人工的な石造りの入口が確かにあった。「ここが...遺跡の入口」 マークは目の前にぽっかりと空いた洞窟を見て、激しく鼓動が高鳴るのを感じていた。物語でしか読んだことのない、未知への冒険が目前にある。その事実に、心を弾ませない者はいないだろう。「おっと、それ以上はストップな」 ゆっくりと入口に足を進めていたマークを、大柄な体格が遮る。険しい顔をした斥候《スカウト》の青年がそこにいた。数日前に緩い顔を浮かべていた男と同一人物とは思えないほど、真に迫った表情だ。 慣れた雰囲気で、ケーベストは入口の周囲を観察し、実際に手を触れて確認してみる。「あれ、何やってるの?」「多分、何か仕掛けがないかを探ってる...のか?」 アスリィの疑問に、セイザンが曖昧に答えた。何となくの知識では知っているが、実際に斥候《スカウト》の仕事を目にするのは初めてだ、無理もない。「...おい、ケーベスト、まだかかるのか?」「もう少し待っててくれ...っと、よし、OKだ」 遺跡の入口まで来てお預けをくらい、さすがに焦れたマークが急かすと、そこでケーベストが両手を叩いた。「なぁ、マークよ、ちょっとそこに立ってみてくれ」「え、こ、ここか...?」 いつもの軽い表情に戻ったケーベストに促され、マークは指された場所に立ってみた。遺跡の入口の真ん前。先ほどマークが近寄ろうとしていた場所だ。 ガシュッ!「はっ!?」 何か機械的な音が響き、マークは咄嗟に両手で防ぐ動作をしながら屈む。しかし、音が響いただけでそれ以上は何も起きなかった。「ふむふむ、なるほど、やっぱりなぁ」 1人だけ何かを納得した様子のケーベスト。 マークは冷や汗をかいたまま固い表情を作り、他の3人も軽く青ざめている。「な、なんだよ、何があったんだ?」「そこに何かの仕掛け罠があるのはすぐに分かったんだよ」 マークがケーベストの指す場所──つまり自分の足元に目を落とすが、そこは何の変哲もない地面にしか見えない。「でも、1000年前の遺跡なわけだし、仮に発動しても劣化してて、何も起きないと思ったんだよ」 腰に両手を置き、自信満々といった様子のケーベスト。マークの顔がみるみる赤くなっていく。「案の定だったな! どうだ、ビックリしたか?」「
last updateLast Updated : 2026-06-26
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第一章 後編 「魔族」
「な、何だこいつ...!?」 ケーベストが短剣を構えながら退く。現れた怪物からは、肌に刺さるくらいの殺気を感じた。とても近くにはいられない。「レイナ...? レイナ、どうしたの!?」 アスリィが叫ぶ。彼女の横に立つ黄金色の髪を持つ少女は、血の気の失せた青い顔を浮かべ、その唇は微かに震えていた。「お、おい、レイナ...?」「みんな...逃げて...!」 マークが背後に向け声をかけた直後、レイナが悲痛なまでの声を絞り出した。「あれは...魔族...」「ま、魔族...だと...?」 セイザンの顔が強ばる。その言葉が真実だとすれば、目の前の存在は恐ろしく強大な敵である。 魔族。それは1000年前、竜と大いなる戦いを繰り広げた魔王に付き従った眷族たちのこと。大きな角と、絶大な身体能力、そして魔力を持つ怪物。かつての大戦では、人間とエルフ族、ドワーフ族などが力を合わせ、これと戦ったとされる。 今ではおとぎ話の中の存在だとされていたが、実際に目の前に立つソレは、確かに魔族だと言っても不思議ではないほどの威圧感を持っていた。「マジかよ...これはさすがに、逃げた方が良くないか?」 ゆっくりと足を進める魔族。それに合わせて、5人は少しずつ後ろに退く。背中を向けて逃げたい衝動に駆られるが、それは自殺行為だと、本能が告げていた。「...ダメだ、ここで倒す...!」 しかし、黒髪の剣士だけは、下がる足を止め、正面から怪物の前に立った。「こいつを、野放しにしておけない...!」 魔族は人の天敵。この場から上手く逃げることができたとして、この怪物は恐らく、人里を探し暴れ回るだろう。そんなことは許せない。 何より、世界一の剣士を目指すマークにとって、敵から逃げるという選択肢は初めからなかった。「...ったく、しょうがない奴だ...」 隣に、赤毛の親友が立つ。一度決めたら簡単には曲げない。マークの性格は昔からよく知っている。「援護と回復、任せてね」 背後でアスリィが弓に矢を番《つが》える。「撹乱...が、効けばいいけどな」 ケーベストも何かを諦めた様子で、低い姿勢を取り構えた。「みんな...」 最後尾に立つレイナは、仲間たちの覚悟を決めた表情を見て、徐々に顔色を回復させていく。大きく息を吐き、心を落ち着かせる。杖を握る手に力を込め、ついに
last updateLast Updated : 2026-06-29
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第二章 前編 「騎士」
「塔」と呼ばれる地がある。文字通り、天に向けて昇る、巨大な石の塔を中心とした都市だ。 魔術師の総本山にして、世界的な研究機関。そこに従事する者はまさに魔術の最先端を行く者で、多くの言語魔術師たちにとって羨望の対象である。 その巨大な石塔の中。まるで貴族の屋敷にある応接間のような部屋に、2人の男性の姿があった。「お前に、「聖女」の捜索を命じる」 顔は40代といったところか。白いものが混じった黒髪をオールバックにして、1つにまとめあげている壮年の男性。しかし、首から下は鍛え抜かれた筋肉に包まれていて、そこに刻まれた無数の傷跡が、男性の屈強さを物語っていた。「歳の頃は16、7ほど...金の瞳を持ち、おそらく髪も同じ色だろう」 低い声で話す男性──アルベルトは、目の前に立つ青年の様子を窺っていた。青い髪の、重厚なプレートアーマーを着た男。その腰には、竜の装飾が施された長剣が下げられている。「場所は王国の東部。発見してもなるべく接触は避けろ。しばらく様子を見る」「......」 男は何も語らず、ただ静かに頷く。その青い目には、光というものが感じられない。感情の読めない相手の様子に、アルベルトは露骨にため息をつく。「...お前のことは信頼している。だが...その、なんだ...もう少し愛想とかはないのか?」 厳格そうな顔が、悩ましげに歪む。対照的に、青髪の男の表情は動かない。 ただ、ほんのわずか。目の前でも気づかない程度に、彼は鼻で笑った。「...必要ない」 それだけ言い残し、重い甲冑の足音が部屋を後にした。1人残されたアルベルトは、バツが悪そうに頭を掻きむしる。「全く...あんな無愛想な奴が「聖剣」の主とはな...」 世の中分からないものだとボヤき、彼も部屋から出ていった。「さて、ここでみんなに重大な知らせがある」 王国東部にある一際大きな街。大勢の客で賑わう真昼の食堂にて、赤毛の少年──セイザンが神妙な面持ちで話し始めた。仲間たち4人は、何事かと聞き耳を立てている。「一言で言うと...金がない」「はぁっ!?」 その報告にいち早く反応したのは、緑の瞳と長い耳を持つエルフの少女──アスリィである。目を大きく開き、その尖った耳もピンと上を向いていた。エルフは感情によって耳が動くことを、仲間たちは最近知った。「え、どういうことだ? この前
last updateLast Updated : 2026-06-29
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第二章 中編 「激闘」
 廃村までの道のりは約半日。 道中、しばしば雑談を挟みながらも、冒険者各位は警戒した様子で行軍した。 いかに相手が弱小なゴブリンといえど、その数が200もいるとなれば話は別だ。こちらはその10分の1程度の人数しかいない。いつもの気軽な害獣駆除とは訳が違った。「よし、ここで野営しよう。明朝、作戦開始とする」 やや開けた場所に来た時、装飾のある金属鎧を着た若い男性が言った。冒険者たちのお目付役として同行した、ラングナー卿配下の騎士だ。マークは記憶を辿り、確か名前はオットーだったと思い出した。「ゴブリンは夜行性だから、朝日が昇る頃合いに寝る...そこを急襲するって感じだったか」「まぁ、やり方自体はいつもの駆除と変わらないな」 隣を歩いていたセイザンに、作戦の内容を確認する。以前も小規模なゴブリンの群れを駆除したことがあるが、その時も朝方を狙った。「マーク、お前さん朝に弱いんだから、早めに寝ておけよ」「う、うるせぇ...」 ケーベストに指摘され、マークは言い返す言葉も見つからずに悪態をつくばかりだった。昔から早起きは苦手なのである。「ねぇ、レイナ、あの人まだあなたを見てるよ」「えっ...」 アスリィから耳打ちをされ、レイナは少し驚いた様子で振り返る。 少し離れたところに、あの青髪の騎士が立っている。まるで感情というものが感じられない眼差しを、移動中もずっとレイナに向けていた。「顔は良いんだけどさぁ、あそこまでじっと見てくるとさすがに怖いよね...」「そう...だね...」 渋い顔をして言うと、エルフの少女は青髪の騎士に向けて舌を見せて煽った。やはりというか、彼女のことは全く眼中にないようで、何の反応も返ってこなかったが。 レイナはしかし、向けられる眼差しをそこまで不快には思っていなかった。下心のある視線とは、どうしても思えなかったからだ。感情こそ感じないが、何かを探るような意図が見え隠れしていた。 虫たちの声、そして焚き火の
last updateLast Updated : 2026-07-03
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第二章 後編 「巨人」
「こ、こいつは...ゴーレム...なのか...?」 雰囲気だけだが、1ヶ月前の遺跡調査の際に遭遇したゴーレムに似ていると、マークはふと零した。色こそ異なるが、魔力の光を放つ目などはそっくりだ。しかし、その威容は比べ物にならない。「ハハハァッ!古代ノ対魔族用ゴーレムダッ!」 巨人の足元に、あのシャーマンがいるのが見えた。勝ち誇ったような笑みを浮かべ、汚い歯を剥き出しにしている。「...厄介なものを...」 小さく呟き、青髪の騎士がゴーレムの前に立つ。そして手にする剣を大きく振りかざした。 次の瞬間、竜が象られた剣は、その形を変えていた。「なっ...?」 マークだけでなく、5人全員がその目を疑う。片手半剣《バスタードソード》と呼ばれるサイズだったはずのそれは、瞬きをする間に二回りは大きい大剣《グレートソード》へと変わっていた。 伝説に聞く竜が象られた剣。ただの虚仮威《こけおど》しではないだろうとは思っていたが、形が変化するなど誰が予想したか。「無駄ダ無駄ダ! ヤレェッ!」 シャーマンが手を掲げ命令を下す。見ればその手に、赤く輝く宝玉のようなものを持っている。それでゴーレムを操っているのか。 考える間もなく、ゴーレムはゆっくりと動き出す。一歩ずつ、その巨大な足が地面を踏みしめ、大きな足跡を刻む。次いで、胸部に描かれた紋様のようなものが赤く輝き始めた。「な、なんか分からないが、一旦離れろ!」 セイザンの叫びと共に、マークらはゴーレムから一斉に距離を取った。しかし、青髪の騎士はその場から動かない。「ダメ、逃げてっ!」 レイナが叫んだ。 そして、ゴーレムの胸部から真っ赤な閃光が迸《ほとばし》る。「ギャアァァァッ!」 わけも分からずその場に留まっていたオーガが、悲痛な声を挙げながら燃え上がる。ゴーレムから放たれた光。それは凄まじい熱量を持つ、熱線とも言うべきものだった。 青髪の騎士も、その赤い奔流に巻き込まれる。
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第三章 前編 「王都」
「封印が弱まってきている」 月明かりが照らす夜。 切り立った崖の上に立つ古城。高くそびえ立つその主塔のバルコニーに、1つの人影が立っていた。 黄金の錫杖を手にした、白髪の男性。しかし外見は若い。せいぜい30代といったところか。「魔族たちはさらに活性化するだろう」 白髪の男性は眼下に広がる海原を見ている。波がうねりを上げ、岩盤を激しく叩き削っていく。 長い長い年月をかけ、ほんの少しずつ侵食されていく岩肌。それはまるで、竜たちによって施された封印が、徐々に弱まっていく様子を表しているようだった。「封印を解く鍵...「聖女」を探せ」 その声は男性から発せられたものではない。そして近くに、他の人物の姿もなかった。 何処からか囁くその声に、男性はじっと耳を傾けている。「全てはお前の「望み」を叶えるため...」「私の、願い...」 小さく、男性が呟く。表情のなかったその目に、少しずつ感情の光が灯る。 ただしそれは、深い憎悪に満ちた、黒い光とも言うべきものだ。『人間を、抹殺する...!』 男性の声と、謎の声。2つが重なり、同じ言葉を放つ。『探せ、捕らえるのだ...「聖女」を...!』 その声に応えるように、1匹の蝙蝠《こうもり》が月夜の空を舞っていった。 あのゴブリン掃討作戦から、半年の月日が流れていた。 マークたち一行は、「巨人討伐者《ジャイアントバスター》」としてそれなりに名が知られるようになり、様々な依頼をこなしていった。 ある時は、森に住み着いた凶悪な魔獣《モンスター》を討伐。 またある時は、夜の街を騒がせる連続殺人犯《シリアルキラー》を捕縛。 さらにある時は、古代文明の遺跡にて、物珍しい品を多数発見。 それらを通して、マークたちは自らの成長を確かに感じていた。新たな装備を購入・入手したのもあるが、より肉体や精神が研ぎ澄まされていった自覚があった。 セイ
last updateLast Updated : 2026-07-17
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第三章 中編 「半魔」
 深夜。虫たちの声だけが小さく響く。 マークたち一行の姿は、王都の郊外、イズナー卿の弟──サイレスの屋敷を望む丘の上にあった。 イズナー卿からの依頼を受けてから2日後。準備を整えた5人は、ついに屋敷への潜入を開始することにした。「なんでも、サイレスってやつは凄腕の用心棒を雇ってるらしいぞ」 セイザンの言葉に、マークは少し心を踊らせていた。 街で聞いた話では、サイレスは兄であるイズナー卿とはあまり仲も良くなく、屋敷の自室にこもっていることが多い、内向的な人物らしい。 他人に対する興味も薄いため、使用人も最低限しか雇わず、私兵と呼べるものもいない。それ故に、自衛のために用心棒を1人、雇っているということだった。「凄腕か...こんな時じゃなければ、ぜひ剣を交えてみたいもんだぜ」「残念、剣じゃなくて格闘技を使う用心棒って話だったな」 腰の剣に手を置き、ワクワクした様子の親友。セイザンはそれに軽口で返す。「さて、じゃあ、手筈《てはず》通り、3手に別れて行動開始だな」 潜入任務なら当然、斥候《スカウト》であるケーベストの専売である。各人のスキルを考慮し、彼は手分けしての屋敷潜入作戦を考案していた。「まずは...音を消すぞ」 セイザンが新たに習得した、風の精霊魔術である「静音《サイレンス》」を発動させる。空気の流れを操作し、音を外部に漏らさないようにする術だ。「次は私...透明《インビジブル》...!」 続いてレイナが、姿を見えなくする言語魔術を発動する。 5人の音を消え、姿も見えなくなった。これでよほどのことがなければ、潜入がバレることはない。 とはいえ、それぞれの魔術は一定時間で効果が切れる。素早く潜入して、短時間で調査を終え、迅速に脱出。まさにスピード勝負。 それ故に、イズナー卿から事前に受け取っていた、サイレス邸の間取り図をもとに、3箇所を同時に調べるという作戦を立てた。 内訳はマークとレイナ、セイザンとアスリィ、そしてケーベスト単独。 それ
last updateLast Updated : 2026-07-24
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第三章 後編 「露見」
 再び、時間を少し遡る。 セイザンとアスリィの2人は、サイレスの私室の扉をゆっくりと開けた。 今は深夜である。サイレスはおそらく貴族らしく、大きな寝具に体を横たえて寝ている。そう思っていた。「な…に…?」 セイザンが目を見開く。 そこには、ソファの上で踏ん反り変えりながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべた人物がいたから。 イズナー卿から聞いていた通りの、やや肥満体質の30絡みの男性──サイレスに間違いなかった。 さらに、そのそばには涼しげな顔をして立つ、やけに色白な青年の姿があった。「よう、お出ましかい」「ど、どういうこと…?」 ゆっくり立ち上がるサイレス。まるで自分たちが来ることを知っていたかのような物言いに、アスリィは恐怖にも似た感覚を覚える。 彼女を庇うように、セイザンは剣を構えて前に立った。「あんた、サイレス卿…だよな? 俺たちが来るのを知ってたのか?」「あぁ、知っていたとも」 サイレスは傍に立つ謎の青年の隣に立つ。 そして、唐突にその身体から力が抜けたように倒れた。「えっ…?」 セイザンも、そしてアスリィも、目の前の状況が分からない。 サイレスは意識を失ったように、横たわったまま動かない。呼吸はしているようだったから、生きてはいるらしい。「もう、彼は用済みなので、眠ってもらいました」 穏やかな声。 色白の青年は、その真紅の瞳で足元に倒れる男性を見下ろす。 長い黒髪と、同じく黒の装束に身を包んだ、20代と思われる風貌。しかし、その異様なまでに白い肌と、そこにうっすら浮かぶ青い血管のような筋。 それらに、セイザンもアスリィも見覚えがあった。「ま、まさか…あんた、魔族か…?」「…あぁ、そうですよ」 セイザンの質問にあっさりと答えると、青年はその目の色を変える。赤黒く変化した眼球が、ゆっくりと揺らめく炎のように変化した。それは、あの遺跡で見た魔族と同じもの。 さ
last updateLast Updated : 2026-07-31
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